第93話 勇者、討伐
ーー超新星・
その手に宿る真紅の恒星は要項とは真逆の破滅の光を放つ
極限まで集め出力されたあの少女の炎熱系魔力が恐ろしい力で一点に集約、それを本来無ければならないサイズからあってはならない大きさにまで凝縮させ威力を別次元に引き上げた状態
あとは一手間……さらなる超圧縮を加えてこの美しい星のような魔法の球体を内部へ無理矢理崩壊させてしまえば集約された魔力は抑え込まれたエネルギーを破壊の力に転化してしまえば…大闘技場周辺を含むブロックは何もかもこの世界から消え失せる
そんな破滅の力を片手に、カナタは考えていた
(うわぁ……めっちゃビビってんじゃん。うんうん、まぁこういうのが見たかったのはあるけどな。でもま……これだけ溜めが必要な魔法を止めにすら来ないとは。ゼネルガ…お前、魔物ばっかり相手してて対人戦はそこまでだろ?)
勿論戦闘の点において高レベルではあったが、カナタからすればあまりにも…人と戦う際の隙が大きい
カナタが星の名を冠させた魔法のシリーズは現在4つ
己の魔力のみを使った基本となった魔法…夜より深い闇の星……『
そこにシオンの魔力によって炎熱の輝きと力を湛えた魔法が恒星の如き光を宿す星……『超新星・
残る2つは当然、マウラの魔力によって駆け回る稲妻
を漲らせる魔法…深海の如き光を宿す星……『天彗星』
ペトラの魔力により荒れ狂う暴風を抱じる魔法……オーロラの如し煌めく新緑を宿す星……『魔鏖星』
その中でも最も破壊力の範囲が広いのが『超新星』だ
とは言え本当に撃つ気もなし…念の為、カナタはこの魔法の出力を限界ギリギリまで弱め魔法が成立するか否かの際まで弱体化させた状態で使用していた
ラウラが見ただけで加減してると分かったのも無理はない
本気で放つならばこの魔法は……極限まで圧縮した状態ですら手の平サイズなどという甘えた大きさの物ではないのだから
そしてゼネルガへの違和感を感じ取る
確かに戦闘法、威力、体裁きは一級の力を垣間見た
アーティファクトありきとは言え、素のカナタを押し込み追いつけないほどの速度で走るのだ。金剛級は伊達ではないのがよく分かる
しかし…悪く言えば戦闘が単純なのだ
相手の動きを読もうとしない
『人』という高度な知能を持つ相手と戦い相手の先を読み自分の動きを『置く』…という対人戦による闘いの基本と言える行為が未熟なのだ
だから、カナタの攻撃が当たると動揺する
自分が被弾することなど考慮していない…自分が一方的で上手く行ってる時のことしか頭にないのだ。だから攻撃を受けて動揺し、テンパり、激昂する
そして、今だ
この種の魔法は通常、溜めが要る
特にカナタが構築している魔法は非常に高難易度かつ、術式を編み上げ魔力を流し、形にするまでに何秒もの時間を要する大技中の大技
生身に魔道具のリングを使用した程度ではカナタですらも発動に持ち込むには溜める時間が必要だった
つまり……コンマ数秒で敵の攻撃が何発も命中する高度な対人戦においてあまりにも隙が大きすぎる
ここを狙わない手はない
飛び道具、立ち上がれているなら飛び込み攻撃を一振り…それたけで大技の発動は阻害できる可能性が高く、むしろ相手への有効だとなり得るだろうが今のゼネルガにそんな事は毛頭考えられていない
見たこともない魔法、感じたこともない魔力…そしてすぐそこに来ている…死
必死に壁まで下がり、距離を離そうと背中を壁に押し付け、それでも下がろうと顔を真横に向けてべったりと張り付きながら視線だけはこちらに向ける姿はあまりにも弱々しい
「さようなら。…………『超新星・
「バカな…ッ!そ、その魔法を止めろ!どうなるか分かっていないのか!?そんな規模の魔法を……よせよせッ!ひっ……!」
今にも発動せんと輝きを増す魔法に焦るゼネルガの声が捲し立てるが取り合わないカナタに遂には悲鳴にも似た声を漏らし始める
なまじ強者と呼ばれる実力があるからこそ分かる…自分への絶命の一撃
何を喰らえば死ぬのか、はっきりと分かるのだ
それが炸裂しては………
ごちんっ
「あいたっ」
カナタの額が少し後に弾かれた
気の抜けた声が出たのはマスク越しの額に何かがぶつかったからだ
見てみれば、30cmほどしかない黄金の輝きを持つ半透明の菱形をした立体がカナタの眼の前で首を横に振るかのようにブンブンと先端を左右に振っている
どうやらこの立体がカナタの額目掛けてぶつかってきたようだ
そう、ラウラが
(おっとと……そろそろやり過ぎか。なんつーか……めちゃくちゃ俺の事分かってるみたいでなんか恥ずいな…)
自分の悪戯心というか…悪巧みまですっかりお見通しのような気がしてカナタはちょっぴり恥ずかしさを感じて頭の後ろを撫でる
視線をその方向へ向ければ黄金にも見える金髪を揺らしながら黒銀の錫杖の頭を柔らかく撫でる彼女の姿が見えた
その口元が少し笑っているのは何を思ってのことなのか…
「き、金の……結界…っ!それは…ッ!」
「ん?…あぁ、一応止めに来てくれたらしいな」
「は、はははっ!み、見たかい!?俺の為にかの大聖女ラウラが身を案じて護りを遣わしたんだよ!俺が勇者である証拠だともッ!どうだい!?」
「え、どうだいも何も…お前のお馬鹿な弟だって護ってたろ。それにこれはお前の身を案じたというか、ただ俺を止めに来ただけだ」
「あぁ!?そ、それのどこが違うとでも…」
「『勇者ゼネルガ君が怯え竦んであまりにも可哀想だから、虐めるのはやめてあげないとダメだぞ?』っていうメッセージだな。…良かったなぁ、勇者君」
そのあんまりな言い様にゼネルガが言葉を失い、その意味理解した上で口を震えさせながら顔を真赤にして言葉にならないうめき声を上げた
怒りと、そしてカナタの言う通りにあの大聖女ラウラ・クリューセルから憐れまれたのか、と思えばこれ以上ない恥なのだ
(可哀想…俺が怯え竦んで…ぇぇッ!?ふ、ふざけやがって……こんなカス如き、勇者として踏み潰してシオンとペトラとマウラをパーティとして侍らせ…っ…優勝の手土産に俺のパーティに大聖女を迎えられる筈の俺が…ッッ!)
自分の順風満帆なプランが、眼の前の男によって全て脆くも崩れさる音が聞こえてくる
そして…眼の前の男が「あ、これもう要らないか」と道端で拾った枝かのような事を言って…掌に乗せた真紅の星を親指で弾くようにして空高くへと撃ち出した
空に向かって紅い光点が駆け昇っていくのが、全員の視界に入っていた
高く高く、空高く…鳥が空を舞う高さよりも上空へと撃ち上げられたその魔法は大闘技場の真上に飛翔し……
直後、第二の太陽が現れた
…そう見間違える程の巨大な閃光を放ちながら紅蓮の巨球へと膨れ上がったそれは鼓膜を揺るがす爆音を遅れて響かせながら観客席に座る者達が思わず竦む衝撃波を地上まで届けたのだ
周囲に散る雲は消し飛び、地上は真紅の光で染め上げられた景色はこの世の終末すらも連想させるのに十分な破壊力……この魔法が如何に非常識な威力を誇るのかを、この街の全員が空を見上げて思い知ったのだ
…それを見上げながら、カナタは魔法の炸裂する爆音に紛れて「おぉ…たーまやー」とぼやいておりこの場でただ一人呑気な事を言っていたりする
その魔法を、真下から見上げていたゼネルガは…膝から地面に座り込んだ
あの魔法によって殺されなかった安堵と……あまりの魔法技能を見せ付けられ自分では正面からこの男に勝つことは不可能と思い知らされた屈辱と、己の悦楽と満足の為の計画は全て崩れ去った音が聞こえる虚無感が…
今までほぼ全てのことが自分の都合に合わせて進んできたのに……ここにきて何故、ここまで上手くいかなくなったのか
(化け物め……!巫山戯るなッ…!何としてでも、俺は勇者として名を馳せる…!この世界で初めての、この世界の勇者…唯一無二の英雄!それは俺にこそ相応しい筈だ…!その為の勇者を彩るパーティだった…!美しい色を着飾らなければ英雄ではない!それなのに…こんな訳の分からないカスのような男に俺が…ッ!折角レオルドを降ろしたというのに…!このままでは俺の勇者としての初陣まで…!)
上手くいかない…その子供のような不満が虚無感に苛まれる自分の中で膨らみ苛立ちと怒りへと変わって理不尽な考えへと変換される
……それはただの英雄願望、と言えるのかもしれない
どこにでもある格好つけたい男の願望…子供がヒーローに憧れるように。冒険者が活躍を夢見るように、兵士が活躍を志すように
ゼネルガは勇者に羨望した
英雄の頂点、尊敬と注目の中心、伝説の存在……それに彼は熱望を抱いた。彼の虚栄心は金剛級冒険者という、冒険者のランクで頂点を指す程度では満たされなかったのだ
もっと己に相応しい…もっと己は高みにいる…他とは隔絶した存在に違いない、と
……
備えていたからこそ…手が届く範囲が見えてしまっていた。だからこそ…手を伸ばしてしまった
自分に相応しい居場所を、自分が成りたい立場を…ぐしゃぐしゃに混ぜ込んで
自分と伝説を…重ねてしまった
人生初の、そして自分の華々しい未来の終焉が不気味なマスクを付けた人の形をとって近付いてくる
それを膝を付いて見ることしか出来ないゼネルガに…その声は届いた
「見付けたーッ!お前かよゼネルガッ!面倒くせー真似しやがって…ッ!」
観客席の結界を手にした黄金の戦斧、グレイゼルで叩き割り大闘技場内に飛び込んできた…ライリー・ラペンテスの怒りの声によって
ー
ずざざざーっ、とスライディングしながら着地を果たして大闘技場内に乱入してきたライリーにどよめきと驚きの声が上がる中でカナタはマスクの下で目を細めた
まさかの試合中の乱入…ルール違反所ではない、大会運営から罰則も当然の蛮行とさえ言える突飛な行動はあまりにも不自然だ
しかし、ライリーは破天荒な少女だが……こんな型破りのマナー違反を理由もなしにする子ではないのは分かっている
「どした、ライリー。穏やかじゃなさそうだけ」
「あ、シオンの男マスク!」
「よ、呼び方もうちょい何とかならない?」
「ンだよなら話はえーな!そいつさっさとブチのめしてやんねーと面倒くせー事になんだよ!今師匠が止めに行ってっけど、
「…あー、あれか…。レオルドが居るならどうにでもなるんじゃないの?」
「俺もそう思ったんだけどな…今回の奴らどんだけ削っても見向きもしねーんだ。一直線にカラナックを目指してやがんだよ!それで師匠がーー」
ライリーの睨みつけるような視線と、彼女が片手に携えていた水晶玉の中に浮かぶコンパスの針のような魔道具の、その針の先端がゼネルガを真っ直ぐと指し示した
「ーー『誰かにこの
二人の視線がゼネルガを貫くように向けられる
彼女が持つ魔道具はどう見ても…他の魔道具を探知する魔道具の類だ。それがゼネルガに向いている以上は…ライリーが乱入してきた理由にカナタも納得する
状況だけを見てもレオルドの予測は正しかったのだろう
焼け焦げ、ヒビが走る豪奢な鎧をかなぐり捨てるように地面に落としせばその衝撃だけで鎧は音を立てて砕けバラバラになってしまう…ゼネルガが顔を引き攣らせて睨み返してくるが…否定の言葉は、無い
軽くそれを考えて、カナタは納得がいったように「…成る程ねぇ」と呟いた
「俺に勝てても優勝出来なきゃ意味ないもんな。俺に勝てる前提で考えてたなら一番消えて欲しかったのは…」
ーーレオルド・ヴィットーリオ唯一人な訳だ
そこまで言ったカナタの言葉に、さしものライリーも「…マジかよこいつ」と不快さを隠しもせずに口にする
「ゼネルガじゃ最強の冒険者と呼ばれるレオルドにはどうやっても勝てない…自覚はあったんだな。戦って分かったよ、お前じゃレオルドの足元にも及ばない。だから大会に出場されたら困る訳だ。ならどうするか……大会より優先の仕事を捩じ込む、これに尽きるよなぁ。冒険者ギルドを何度が覗いたけど、レオルドとゼネルガに次いで強いのは多分この街ではライリーだ。その下は金級冒険者しか居ない…金級に
「
「となるとカラナックを守れるのはレオルドかゼネルガの二択になる。そしてゼネルガが
最早ゼネルガは顔を怒りに赤くしながら震えてその声を聞くしか無い。役に立たなくなった鎧の下は戦闘用の戦服に首から下げたアクセサリーのみの姿だが戦う気があるとも思えない
「でもほっとけばカラナックはぐしゃぐしゃだぞ。コイツの我儘1つでこの街が更地になんだ、何考えてやがんだマジで…」
「それも計算通りだろ?…優勝して晴れて勇者を名乗り、俺から彼女達を奪ってパーティメンバーに加えて…優勝祝にラウラを自分のパーティに加えた夢の勇者パーティ。そこに襲い掛かる街の危機……街にはなんと偶然にも、新たな勇者がパーティを組んだばかり……成る程、華々しい勇者デビューも飾れる一石二鳥な訳だ」
「はぁ!?そんなキッショい事考えてんのかよ!?」
「まぁこれは俺の想像だけどね。でも……あながち間違いでもないだろ?」
からかうようなカナタの言葉に、その通りと返すように睨み返すゼネルガ
ライリーの登場でどよめいた会場の観客達はたった今齎された情報に困惑を隠せない…災厄とされる
当然……
「にっ、逃げろぉ!」「ここに来るのかよ!?」「どこに逃げんだよ!?」「知るか!ここから少しでも離れないと…!」「
蜂の巣を殴りつけたような大パニックへと陥る
我先にと出口を求めて駆け出す観客達の喧騒を聞きながらライリーが「やっべ…それ考えてなかった」とあからさまに焦るがもう遅い
火をつけたような状態となった観客は我先にと大闘技場の中から逃げ出そうと混迷を極めようとしていた
まだまだ若い……状況に焦って周囲への影響を考えていなかったライリーの落ち度ではあったが、この状況にカナタは少し…誰にも気付かれないくらいほんの少しだけほくそ笑んだ
彼にとってはこの状況は得ずして都合のよい状況と言える
「それで?勇者様、魔物を引き寄せてる魔道具…アーティファクトか?…はどれだ?効果が出てるなら魔法袋の中じゃないだろ?」
カナタがそう言ってゼネルガに歩き出す
魔法袋の中では食材等も入れた時からその状態が停止する。温かいものは温かく、冷たいものは冷たいまま…魔法袋という魔法の収納空間内部では収納物の時が停止するのだ
魔道具やアーティファクトもその例外ではなく、収納してしまった時点であらゆる機能が一時停止されたままとなる
つまり…魔物を誘引するアーティファクトを使用している状態ならば、ゼネルガはそれを身に着けている状態と言うことだ
手早くそれを破壊して面倒事に片を付けてしまえば、後はレオルドがどうにかするだろう。カナタの予想でも…
真正面から普通に戦えばその他群がる雑魚を薙ぎ倒して討伐は可能の筈だ
最強の冒険者は伊達ではないのだから
「クソックソックソォォァァッ…!何故上手くいかないんだ!?お前のせいだ…!お前が現れてから俺の全てが台無しになったんだ!」
「知るか。勝手に台無しになってろ。…俺はお前が現れてからストレスの連続なんだ。はぁ…この一件が終わったら少し休暇だな…」
「何故邪魔をする!?勇者だ!英雄なんだ!誰もが俺を讃え、それに相応しい伝説を俺は飾り立てられる!俺の邪魔をする事は即ち、その妨げになるに他ならない!先のことを考えるなら分かるはずだ、この勇者ゼネルガに女の2人や3人は献上するのが当然だと!」
「拗らせ過ぎだバカ。…勇者も英雄も、そんなに良いもんじゃないだろ。お前の中の勇者と英雄は子供向けの絵本みたいな中身で終わってんだよ。現実見ろよ…もっと血塗れで汚いもんだ、勇者ってのは」
「知ったような口を利くなよ…!お前如きが勇者を語るなんて烏滸がましい…ッ!」
「っはは!………奇遇だなぁ、俺も少し前までそう思ってたよ」
己の夢と理想を理不尽と我儘な理屈に整えて話すゼネルガに対し、カナタが相手をする事はない。それは全てただの我儘…自分の考えた「最強の都合がいい夢の展開」が上手くいかなくて駄々を捏ねる大きな子供の姿だ
それを聞いて……カナタが呟いた最後の一言は誰にも聞こえなかっただろう
(俺如きが勇者を語るな、ね…。ちょい前の俺なら言い返せない事を言うじゃないか。でも、ま…今なら言える、完全に否定してやれる。ゼネルガ、どう頑張ってもそれは勇者じゃないだろ…)
当然だった
この我儘と自己中の化身的なゼネルガを、誰が「勇者」と認め讃えるのか。どんなに美しい女を侍らせて、何匹の魔物を駆逐し、どんな強大な怪物を打ち倒そうとも…それは勇者の証明たり得ない
カナタはそれを逆の意味から理解していた。だから自分が勇者であることを認めたく無かった…
ゼネルガは
カナタは
ゼネルガは自分が勇者であることを理由に
カナタはあらゆる手を尽くして
その自覚があるからこそ、最早何を言っても止まらないカナタに歯をギシギシと力ませ噛み合わせながら怒りと鬱憤に見たこともない顔になるゼネルガ
それを見るライリーの視線のなんと冷たいことだろうか
自らの教えをしてくれているレオルドと仮にも同じ等級の冒険者…レオルドの半分程度の年齢ながらに金剛級の高みに登っている筈のゼネルガの実態に軽蔑を覚えるのは当然だろう
その目線は、ゼネルガを酷く焚きつける
「なんだ…ッ…なんだその目はァ!ライリー・ラペンテスゥゥァァァッ!」
格下である白金級冒険者のライリーから向けられるゴミを見るような視線に憤慨し、取り乱したように服の中…背中のホルダーに差し込んでいたと思われるそれを取り出したゼネルガ
…なんて事はない、古ぼけた年季の入っている小さな剣
包丁より少し長い程度の、護身用にしても心許ないその剣をライリーに向って八つ当たり気味に投げつける
もはや人を見る目ではないほどの視線を向けるライリーに怒り狂ったようにして、その小剣を大振りに投げつけるものの…速度も威力も大したことがない。もはやカナタに数撃入れられたゼネルガには、ライリーに有効打を放てる程の力は残っていなかった
「はぁ?…何だよ急に。俺に当たり散らすなよなー…」
その証拠というべきか、ドン引きを隠さないライリーがひょい、と摘むように…投げつけられた剣を受け止める。強化した体で受け止めても問題は無さそうだが、ゼネルガはアーティファクトを使い倒す戦法を取るのだ。当たらないに越したことは無い
万全ならばまだしも、この程度の投擲ではライリーの隙をついてもテレフォンパス。投げ付けられたそれをまじまじと見ながら「きったねー…」と汚そうに指先で摘むように持ち上げているのは見た目ではなくゼネルガの持ち物だからである
開け透けな嫌悪と嫌味はとても彼女らしい…まるでゴミでも捨てるようにポイッと地面に投げ捨ててしまうあたりも含めて
そんな最後の癇癪とも取れる行動に目を細めるカナタ
(取り敢えず外の騒ぎを鎮めたほうがいいか。身に付けてるアーティファクトをぶっ壊せば魔物の群れはレオルドに食い付くだろ…そうなれば後はレオルドが片っ端から駆除して終わり、と。優勝云々は興味無かったし、俺としては観客が掃けて目立たず万々歳だなぁ、ライリーに感謝しないと…)
そんな事を考えるカナタだが、流石に口には出せない
観客を含め外は街の存亡に関わる大パニックなのだ。口が避けても「都合がいい」なんて言えないのである…例えカナタにとって解決が容易い問題だとしても、だ
「じゃ、そろそろいいな」
あっさりと、ゼネルガにとどめの一撃を加えるべく手刀に瑠璃色の雷撃を纏わせて振り上げる
意識を落としてしまえばアーティファクトの場所など教えてもらうまでもなく探せるのだ。カナタからすればゼネルガとの会話は殆どナルシズムで成立しない為話し合う価値も無かった
ライリーも「俺は師匠んトコ行くなー」と興味もなさそうに手を振りながら大闘技場の出口に歩いていく…ゼネルガがどうなろうと興味はないと言わなくても見えるだろう
「殺す…ッ…絶対にお前は殺してやるマスクのゴミめ…!その時に俺に命乞いをしても赦してあげないさ。息絶える直前のお前の前で俺のモノになったあの3人と睦まじく奉仕させる姿を見せてあげよう…!」
「はいはい…。耳腐りそうだな、早く黙らせるか…」
膝をついたまま口角を吊り上げながら口にするゼネルガに溜息すら漏らしたカナタがなんの躊躇いもなく、ゼネルガの脳天に向けて雷撃の手刀を振り下ろした
頭への一撃と全身への雷撃により意識を失い、体は痙攣しながら崩れ落ち麻痺して動けなくなり
耳障りな悲鳴を上げながら白目を剥き、一瞬にして地面に倒れ死にかけのカエルのように四肢を痙攣させる事となる
ドスッ、ン…
「ッ……ごほ…っ……!?ま、じか……ッッ!?」
カナタの胸から、剣と思われる物の刃が突き出てこなければ、そうなるはずだった
口から吐き出される血が地面を汚し、胸を貫く刃はカナタの血で赤く染まっている…どう見ても心臓付近…重要な臓器を一直線に貫いていた
カナタの脳に、肉体に、本当に危険信号がビリビリと走り出す…それ即ち…正真正銘、命の危機である、と
胸を刺し貫く灼熱感と激痛、呼吸すらも痛みでまともに叶わない中で…首を僅かに横に向け、視線を真後ろに向けて自らを刺し貫いたその相手に、目を見開く
まったく警戒の範囲外だったその顔に、驚愕を露にする…それまでの姿態度や対人関係を見ていたからこそ、カナタは彼女を一切警戒していなかったのだ
そこには…
ぼろぼろに風化したような小剣を手にして己の背中から容赦なく根本まで突き通し、尚も奥へと押し込もうと力を込める……
ライリーの姿があったのだから
ーーー
「カナタぁぁぁぁっっ!!?」
「何を…っ、何をしてるんですかライリーッ!?」
「っ………行くよ、二人共っ……!」
ライリーが何を思ったのか戦闘時と同じ速度で出口付近から反転…地面に投げ捨てていたゼネルガに投げ付けられた小剣を拾い上げて躊躇いなくカナタを背中から貫いたのを見れば、思わず席を蹴り飛ばす勢いで立ち上がるシオンとペトラが悲鳴にも似た声を響かせる
ここでマウラは考えるよりも先に、瞬時に自らの両拳を打ち合わせるようにして…決戦装備『
それを見て一拍遅れてシオンとペトラは自らの身に同じく決戦装備『
その間にマウラは躊躇うことなく客席の結界へと飛び込み…焦る気持ちを力に変えて、振りかざしたガントレットの一撃により結界の一部を粉々に粉砕して大闘技場内に侵入を果たした
いくら城壁用の結界とは言え…この装備を纏い潜在能力のほぼ全てを開放されたマウラの一撃は耐えられるはずもなく薄いガラスを突き破るように容易く砕け散る結界にシオンとペトラも続いて飛び込んだ
いくら常識外れとすら思える強さのカナタとは言え…自分達ですら攻撃をすれば傷付けられ、その体に無数の生傷が幾つも残るような…身一つの男なのだ
それが…目の前で背中から胸の中心付近を貫くように小剣を追加されて鮮血を弾けさせる姿を見れば…冷静でなど居られない
彼は不死身ではないのだ
あとから続いた2人と合流し、3人揃ってカナタの側まで駆け寄ると即座にライリーに向けてプロメテウスを突き付けるシオンが彼女を排除しようとその正面に回り込み…思わず目を見開いた
彼女の目は…信じられないと言わんばかりに自分がカナタを貫いている小剣を握る手を見つめており、口をパクパクと動かそうとしながらも…言葉は一切出せていないような…そんな状態だったのだ
「ライリー!何のつもりかは知りませんがその手を今すぐに離して下さい!…っいくら貴女でも排除します!」
いくら矛を交えたライリーとは言えこの状況ならば…シオンはライリーの始末すらも行うつもりだ。問答する時間は存在しない
しかし好敵手であったシオンの最終勧告といえる言葉にすら、視線も動かさず言葉も返さないライリー。その様子に刺されているカナタも「…ま、て……っ……げほっ……シオ…っ…」となにか言いたげにするが、吐血がその言葉を遮る
その光景に焦るシオンを嘲笑うように、ゼネルガが高笑いを上げた
「ハハッ!ハハハハハッ!だから言ったのさァ!殺してやるってねぇッ!カスの分際で俺の邪魔をしやがってクソマスクが!死ね!そのまま死ねぇッ!」
「黙りなさい!貴方を殺すのは後です!今は…!」
「もう手遅れさ!その小剣はアーティファクト『《キルスティン》』!この世で最も重たい異常……「治癒不能」の力を持ったアーティファクトだからねぇ!」
「なっ…ぁ……っっ!?」
世に存在する傷と病を癒せる治癒魔法に対抗される呪いであり、これが掛けられた武器に付けられた傷は文字通り…一切治癒することは出来ない
如何なる治癒魔法も例外ではなく、そして肉体に備わる自然治癒機能すらも封じる…一つの傷を永遠に治らないままにしてしまう最悪の呪いである
世に禁呪として知られ使うだけで各国家からの指名手配、冒険者からの討伐依頼を出され、この呪いを付与できる者は世界から根絶される…『隷属』の呪いに並ぶ禁忌の魔法効果
隷属との違いは…この魔法に対抗出来る魔法は現状存在していない事だ
つまり、この小剣による傷は………決して治癒する事が無い
僅かな傷すら流血は止まらず、細菌の感染に苦しみ、後に肉が壊死して死に至るのだ
「どうだいシオン・エーデライトッ!?このマスクのゴミより俺のほうが優れてるのは分かるよねぇ!?そろそろ俺のモノになる決断でもしてくれに来たのかな!?」
「そんな訳が……っっ……!!!」
ゼネルガが機嫌よく、堪えられない大声とともにカナタを嘲笑しながらシオンへと語り掛ける
冷静ではないシオンの怒りに火を付ける形だ…もはや彼女はこの場でゼネルガを殺してしまいかねない程に
もはや一刻の猶予もなく、臓器まで容易く貫かれたカナタには完全に致命傷…死ぬ前に聖女達からの治癒を施さなければ本当に手遅れになってしまうのに…ゼネルガの言うことが本当なら…
治癒不能の呪いの小剣で胸を貫かれたカナタは、助からない
貫かれた胸は、何をしても治療も回復も…魔法で癒やすことも不可能という事なのだ
……嘲笑うゼネルガを…赦すはずもない
(カナタが前に使った復活の時の魔道具は……っ…傷が治っていました…駄目です…っ!いえ、きっと…っラウラさんが来てくれれば大丈夫の筈ですっ!あの人の聖属性魔法なら…
頭の中が心配と憤怒の激情によって渦巻き、早く事態を変えなければとシオンの心情を圧迫していた
カナタはかつて2度、シオンの前で重症から復活を果たしている。その時、受けたダメージはへし折れた腕すら見事に回復していたのだ。つまり………『
嫌な考えばかりが頭を埋め尽くす中でも僅かな希望…ラウラが持つ反則レベルの治癒があれば如何に心臓付近を貫通していてもどうにかなるはずだ…ならなければシオンは自分がどうなってしまうか分からない
混ぜ込まれた感情と憤怒のままに、カナタの致死に届く一撃を笑うゼネルガへ…「そんな訳がない」、と胸いっぱいに吸い込んだ空気で怒鳴り返そうと声を荒げる
その怒りに燃えたシオンへ……
「っ…待て!返事をするなシオンっ!」
その口が言葉を紡ぐ直前に、ペトラが慌てて手を押し当てて口と言葉を無理矢理塞いだのであった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【後書き】
どうも、未知広かなんです
実は先日驚くべき事が起きました
いつの間にやら、といった感じですが
100万pvを達成していました
びっくりを通り過ぎ出て一度素通りしましたね。これもひとえに読んでくれた皆さんの通ってきた証ということで猛烈に嬉しく感じております
…え、いつの間にそんな読まれてたん?と思いましたよ、正直
まさか自分が趣味でつらつら書いてた小説のタイトルに、まさか自分の手で「100万pv感謝」とか書くことになるとか思わないじゃないですか
自分の書きたい事を書いて、自分が表現したい世界を表現して、自分の見ている物語を文字にしてるつもりでしたが……本当に失礼ならすみません
この小説、そんなに面白いのかな?、と毎度自分を疑っております
…大丈夫?皆、未○広か○ん、とかいう奴に騙されてない?
いやでもエ○好きな大人の読者さんなら着いてきてくれるのも納得です
へへっ……悪いね、汚い大人で…好きなんだ、こういう小説書くの
という訳で、かなり大きな地点に到達できた気分を感じながらも、まぁ変わらず物語を紡ぎます。どうぞお付き合いくださいませ
ーーという事でね、実は…先月からブ○アカ始めちゃった
「おおぅ…何が「という訳で」なのか知らんけど…やっぱソシャゲとかすんのな」
ーーそりゃあもう…fg○、に○んこ大戦争、シ○ドマス、プ○コネ、シ○ドバにマスターデ○エルとラインナップは様々さ
「多いなぁ」
ーー人生初のソシャゲはに○んこ大戦争だったね。あれで沼にハマったものさ…
「…因みに課金とかは?」
ーー
「碌な大人じゃねぇ!?もしかして「生活費までならタダ」とか言い出すタイプの輩か!?お前の生活が止まると俺達の物語も止まるんだからな!?」
ーーふふっ、任せておきなよカナタ君。世の中にはこういう言葉があるのさ……「致命傷だ、問題ない」
「大アリだわ!盛大にハズしてる奴のセリフだろそれ!」
ーーあ、致命傷といえばカナタ君。本編で君、死にかけてるねぇ。ほら、背中から胸まで貫通とか若かりし日の五○悟でしか体験できないよ?いやぁ、流石100万pvの記念回だ
「煩いね!?なんにも目出度くねぇ!しかも俺は「最強」じゃないんだから臓器の位置なんてズラせないんだけど!?」
ーーあ、因みに記述されてる「呪い」というのは付与された魔法効果の事を悪く指す言葉ですね。良いものは「エンチャント」とか形容が変わりますが忌むべき効果は一概に「呪い」と呼ぶようになっております
「えっ…じゃあこれどうやって治すのよ?」
ーーわ、わらかないっピ…
「うそんっ!?俺ここで退場なの!?まだ色々やりたいこととか残したことあるのに!?というか嘘だろお前!作者が知らない訳ねぇっての!」
ーーふふ……ほら、こうやってぼーっと見てると気の所為か…カナタ君の頭の上に光の輪っかが見えたり見えなかったり…ラジバンダリ…
「こっち見んな!くそ…!こんなとこに居られん!さっさと本編の方に戻らせてもらう!」
ーーカナタ君…おまえ、消えるのか…?
「死亡フラグじゃねぇって!?なんで記念すべき回なのにこんな不穏なんだよ本編!え、俺本当に死なないよな?流石になっ?もしかしてここにいる俺は本編の俺が死んで魂だけ来てるとかそういうオチだったりーー」
ーーえー、今後ともどうぞよろしくお願いします。それではまた次話にて…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます