第92話 憤怒の守護者


「シァァァァッッ!」


「おっと、気合十分。はしゃぐなよ勇者様、逃げやしねぇって」



猛追に次ぐ猛追がカナタに襲い掛かる


蛇のように変則的な起動を描くゼネルガの拳撃による猛烈なラッシュがカナタに向けて続けざまに放たれていき、その威力は一振りで衝撃により地面が罅割れる程


人体に当てればどう見ても無事では済まない破壊力の一撃が嵐のように連続で放たれる様はこれまでの参加者との格の違いを見せ付けた


技術的、体術、なによりも破壊力の規模が段違いでありその他参加者が戦えば一撃でケリがつくのも頷ける強さ


事実、ゼネルガはこの戦いに至るまでの2戦を容易く片付けており世界有数の最高位冒険者である金剛級の強さを遺憾なく見せ付けた


観客の賭けの対象となる勝敗もゼネルガに大きく片寄っているのを見ればその強さの認識は間違っていないだろう。何せ相手は無名かつ顔も隠した謎の男…普通に考えれば冒険者の頂点である金剛級のゼネルガが負けるはずもないのだから


しかし……その拳を難なく受け止めて返しの反撃まで入れる正体不明の男の存在が大闘技場のボルテージを引き上げていた


見て分かる程の技術的と威力を見せ付けるゼネルガの連撃を素手で防御し、目にも止まらない速度のラッシュを最低限の動きで避け、その強化による防御力を抜ける程の反撃まで繰り出すのだ



今、真下からマスクの顎を撃ち抜くアッパーを入れようとしたゼネルガの拳を掌を真下に向けた状態で受け止めたその男が返しの肘打ちを繰り出しゼネルガの喉に打ち込みにかかり、これを体ごと真横に動かして回避したゼネルガが更に胴体への攻撃に繋げにかかる


それをあえて、右の拳撃を真正面から合わせればゼネルガの篭手と素手の拳がぶつかり合う形になり…「チッ」と舌打ちしたゼネルガがカナタの拳の威力に逆らわず後に飛び退る



「…なんだその馬鹿力は。それがお前の魔法かい?」


「正確には俺の魔法じゃないんだけどな。ま、似たようなもんか。しかしまぁ……」



事も無げに返すカナタではあったが内心ではかなり驚きを持っていた


思ってもいなかった…ゼネルガの強さにだ



(まさか本当に強いとは…。厄介だな金剛級冒険者、速度も強化も一級品でアーティファクトによる自己強化を重ね掛け。お互い道具無しならまだしも、アーティファクト使われてるとこれリング無しだったら普通に押し負ける可能性だってあったな…)



それに加えて、脳味噌が性欲に支配されてそうな割には合理的な戦法の選択


弟に使わせていたような搦手の魔道具を一切用いていないゼネルガは現在、カナタが確認してる限り強化、防御を大幅に増強する魔道具を使用している。恐らく装備しているアーマーにも種がありそうだ


しかし、だからこそ強い


妙な戦法を取らず己の強みだけを極端に強化する使い方…真正面から敵を粉砕する戦法は理に適っている


実際に自由を奪ったり魔法の無効化等の防御重視や無力化のアーティファクトならばカナタは全て無効化出来てしまうのだから、一番殴り合える選択をしてきていると言えるだろう


衝撃を生み出す魔法も強化魔法と併用して高いレベルで使用している。一般的な通常魔法ではあるが、威力はかなり高いだろう、これにより中距離までの射程もカバーしていると来ればゼネルガの強さは間違いなく本物だ



(世間知らずはあいつらだけじゃなくて俺もか。でも…それを考えてもレオルドの方が強い、圧倒的に。こうして他と闘ってよく分かる…あの化け物じみたフィジカルの強さに。勇者パーティはその時代のドリームチーム…なんてよく言ったもんだな)



それでも尚、カナタの脳裏に過る戦士の姿


その姿と眼の前の金剛級冒険者の姿は…全く持って重ならない


あの圧倒的と言える近距離の戦い様にはどうやっても眼の前の男は追い付けていない


最強の冒険者…その異名がどれ程的を得ているのかを思い知る


とは言え、だ



(はぁ……俺、リベリオン着てないと大して強くないしなぁ。そんなゼネルガに対してまともに打ち合わざるを得ないってのがまた悲しい…)



カナタの才能はあくまで物創り


確かに隔絶した肉体性能と使い続けて鍛え上げた強化魔法は一線を変えた強さを誇るが…この世界での上澄みの強さを誇る者達の前ではあと一つ足りないのだ


この力もあくまで身に着けたリングによって操るシオンの魔力と強化を重ね掛けした状態であり、それを使って戦っているのだ


つくづく、己の才能の偏り方を思い知る



考えるカナタの前からゼネルガの姿が消えた


今までの真正面からの突撃と異なる…それが高速で動いたことによる消失であることは目が捉えていた


速い、先程よりも明らかにレベルの違う速度はどう見ても戦法を変えてきているのが見て取れた


直後、カナタの真後ろから迫る殺気に瞬時に振り返り腕を縦にして…猛速による勢いを付けたゼネルガの振りかぶった拳の一撃を受け止めた


ビリッ、と腕に伝わる振動と痺れにその威力が語られる


僅かに押されながら反撃の構えを取る前に、カナタの真横を抜ける形でゼネルガの姿が通り過ぎていったのを見れば…打ち合いをやめてヒットアンドアウェイによる一撃離脱が目に見えた



「ハハハッ!反撃できなかったねぇ!ただ殴るだけだと思ったのかな!?お前の考えは浅いよ!俺はアーティファクトによって攻防そして速さまで自在に強められるのさ!自慢の馬鹿力が果たして当てられるかな!?」



まるでエコーするように周囲から何処となくゼネルガの喜色に塗れた声が聞こえてくる


猛烈な速度で動き回っているのかゼネルガの声がそこら中から聞こえてくるようで気象が悪い…と肩を落とすカナタが瞬時に肩を透かすように回避をすれば、その場所をゼネルガの拳撃が凄まじい速度で通り過ぎていく


肩口の服が嫌な音を立てて引き千切られた


避ける反応が、間に合っていなかった…体には当たらずとも回避しきれず衣服には当たったのだ


これにはカナタも目を瞬かせて「お、まじか」と呟く



「お前みたいな馬鹿力だけの間抜けには分からないだろうね!良い物を使い熟せての強者なのさ!装備の差は残酷だねぇ、俺とお前とでは身に着けた物で何世紀分もの差がある!これがアーティファクトだ!」



高笑いとともに悠々と告げるゼネルガはまるで獲物を弄ぶようにカナタの側を通っては言葉を残していく


その言葉に、カナタは静かに頷いた



「…良い物を使い熟せてこその強者、ね。成る程、確かにその通り。装備の差はズルでも反則でもなくれっきとした力の一部、いかに先史遺産の宝物であるアーティファクトを使い倒そうともだ。初めて正しい事を言ったな…お前は間違っていない」



まるで諦めたかのようにも見える程、静かにその言葉を肯定するカナタ


その背後から…一撃を加えこもうと振りかぶるゼネルガが急速に距離を詰める


無防備ともとれるカナタの立ち尽くした背中ど真ん中に向けて、篭手を握り締めた拳を勢い良く叩きつけんと体の勢いのままに突進さながらの速度で打ち込み…





「だから俺には勝てないんだ、ゼネルガ・クラシアス」



「な、ン…ッ…!?」




猛烈な速度で突進するゼネルガのから聞こえたその声は、彼にぞわり、と悪寒を走らせるのに十分すぎる威力があった


今、自分がどれほどの速度で動いているのか…それを理解しているからこそ、カナタの声に、ゼネルガは戦慄した


その不穏を加速させるように、バチッ、バチッ、と不吉な稲妻の音が響き渡る


ゼネルガが急いで後ろを振り向こうとしたその顔面に、瑠璃色の稲妻を纏った掌がぴたり、と押し当てられていた



「…雷迅掌」


「がっべぁッ!!?」



カナタの掌から稲妻が爆ぜ、ゼネルガの顔で弾ける


自身の速度も相まって凄まじい勢いで吹き飛んだゼネルガは今度は立て直せる事無く地面に幾度とバウンドしながら転がり落ちた


加速を止めたカナタは…



「あぁぁぁぁ!!!クソがぁぁァァァ!この俺に2度もッ…2度も当てたなァッ!?なんだその速さはァ!?何故魔力光を2つも持ってるッ!?それにその色は…ッ!」



先程の真紅の魔力と全く異なる瑠璃色の魔力…あり得るはずのない2色目の光がゼネルガの理解を超えていた


魔力光は1人1色、人の血が赤いように、魔力光もあって1つ。そもそも無い者が殆ど、というレア物なのにそれが2つも見えていたのだから無理もない



「お前が言ってたんじゃないか。「装備の差」だよ。俺はこういうの創るのが得意でな…今の俺は見ての通り、あの子達の魔力を操作できる。今の速さはマウラの得意技でね」 


「な…んだそれは…ッ!あり得ない!聞いたこともないそんな魔道具はッ!『人の魔力を扱える魔道具』だと…ッ?そんなイカれた物はアーティファクトでも存在しない筈だ!」


「だろうな…。シオンのように力強く、マウラのように俊敏で、ペトラのように受け強く……そしてそれをーー」



ーー同時に扱える



はっ、とゼネルガが気づいた時には既に…カナタは目の前に居た


瑠璃色の稲妻と…真紅の焔のような魔力を、その構えた拳を回るように新緑の風が螺旋を描いて纏わるのが、ゼネルガが攻撃を受ける前の最後の景色だった



「『デルタ・ドライブ』…3つの魔力を調整すんのに時間かかったんだ、味わってくれ。…嵐旋撃らせんげきッ!」


「ぐべっ!?」



その豪奢な鎧に突き刺さるようにして、螺旋を纏うカナタの拳撃が叩き付けられた


新緑の嵐を螺旋に纏った一撃は「ギャリギャリギャリッ」と耳障りな金属を削り取る音を立てながら弾けるような打撃音を響かせゼネルガの体を大闘技場の壁に叩きつける


普通の相手ならば、間違いなく壁の染みと化しているであろう一撃はゼネルガが叩き付けられた衝撃で大闘技場の壁全体が揺らぎ、客席にまで振動が届く程に凄まじいものだった


ゼネルガの鎧は螺旋形に深く削り取られた跡が刻み込まれ、その中心はカナタの拳が叩き付けられた跡が、砕け散る跡でよく分かる



デルタ・ドライブとカナタが名付けた、3つの魔力の同時運用並びに同時強化状態


本来ならば1つですらあり得ない他人の魔力を3つも同時に身に宿し、操る異端かつ異質の妙技はカナタが学院で初めて使った時から今までの長い時間をかけて調整に次ぐ調整を仕込んで完成した魔道具によって実現していた


腕輪という簡単なデバイスに仕込める魔法は多くない。そこに加え「5個ずつしか魔法を記録出来ない」という厳しい制約を課すことで、余ったスペックを全て3つの魔力による同時運用への同調に注ぎ込んだ


現在のカナタは文字通り…シオン、マウラ、ペトラの3人の力を宿した状態となっていた



「まさか、まだ自分は無事にこの大闘技場を出れると、…俺に勝利して思うままに事が進められるとでも本、気で思ってるのか?……あり得ないだろ、ゼネルガ。人の女に手出して、気色の悪い言い寄り方の挙げ句洗脳まで施そうとした…殺してやるって?俺のことを?おいおい…そりゃお前、普通は逆ってもんだろ?」





ーー俺は今、お前を殺したい程怒ってるんだぜ?





直後、異常かつ超常的な魔力の暴圧がカナタから爆発的に広がった


身が弾けそうな憤怒の感情が乗せられた、暴威の如き魔力の本流が大闘技場を内側から飲み込んだのだ





その瞬間…魔力に乗せられた怒りによるあまりの恐怖と強すぎる威圧に…観客の半分以上は糸が切れたようにして意識を手放した





ーー






時は少しだけ遡り…



「始まったな。カナタのやつ、鎧はなるべく着ないと言っておったが…」


「必要ない…ということでしょうか?もともとレオルドさんと戦う時に必要と言ってましたから…アレには使わなくても勝てる、と」


「……どうかな…。…他の試合も見たけど……、アレ…」



先程から「アレ」と指し示すゼネルガと相対したカナタを客席から見下ろしながら3人は試合の予想を組み立てる


カナタが勝つことに疑いを持たない3人ではあったが、それにしてもゼネルガの戦闘能力は決して楽観視して良いものではない、と判断していた


まだ底は見えていないが、どう見ても素人や少し力自慢程度の相手ではない…腐っても金剛級冒険者というのは、やはり侮ってはいけない相手なのだろう


事実として、カナタとの戦いが始まってからゼネルガの猛攻を見れば威力速度共に十分な高レベルと言える物があった


観客席の結界を嵐の日の窓ガラスのようにビシビシの揺らす衝撃が一撃ごとに撒き散らされる様を見れば、あの男が夜の魔物を相手取って生還できるのも頷ける


その威力の証拠として…



「っ……受けましたね、カナタが」


「受け方からしてさして強烈という訳でも無さそうだが…カナタの強化を抜ける威力はある、という事か」


「むっ………見た目によらない…それに結構速い……」



カナタが、ゼネルガの一撃を避けて防いでいる


掌をパンッ、と当てて弾き受け止め身体を反らして回避する…


今まで幾度となくカナタと戦ってきた3人だからこそ分かる。カナタは自分に対してダメージが無い攻撃は一切避けずに前進してくるのだ、それをしないということは…素のカナタが自身に強化を施しても、まともに当たればダメージがある、という証拠


それだけでも驚愕に値した


だと言うのに…ラッシュを重ねていくゼネルガの攻撃に防御したカナタの体が押されたのを見れば目を瞬かせるのも無理はなかった


それはつまり、特異魔法の魔力を操れるようになった自分達と同じレベルの威力が込められていることに他ならない


しかもカナタが防御をした上で、あの威力ならば恐らく…現在の強化で言えばマウラとペトラよりもパワーはゼネルガの方が上だろう



だがそれも…



「使いましたね。…私の魔力」



カナタの体に真紅の魔力が漲るまでの事


受け止めた拳ごとゼネルガの顔面を殴りつけたカナタに大闘技場内も声が上がるのは無理もない、金剛級の冒険者とまともに殴り合って押し返せる物などどんな男なのか、正体不明のマスクの男に喧騒が起こるのを心地よく3人が聞く



(くくっ、驚け驚け。カナタの強さに慄け民衆どもめ)


(…ペトラ、悪い顔してる…)


(改めて分かってる状態で見てみると……とても良いですね。カナタが私の色を纏っているのを見ると、こう……ぞくぞくします)


(…シオンも悪い顔してる……違う意味で…)



片やちょっとサディスティックに、片やちょっぴり被虐チックに違う種類の表情を浮かべる親友二人にじっとりした視線が向くマウラはきっと間違っていない


とは言えは、マウラもこのざわめきはとても居心地が良い


もっと驚愕し、もっと声を上げて、自分の男が如何に強いのかを見れば良いのだ


だが…それでもゼネルガは体を器用に動かし、転げ倒れるような姿は見せなかった。それだけダメージを抑えられている証拠だろう



そして、その後の光景に…軽く驚愕した



「速い…!あの男、それ程まで速度が出せるのか。しかし妙な魔力の流れだが……まさか魔道具…いやアーティファクトか」


「でしょうね。弟にあんなアーティファクトを譲っているんですから、自分の物はしっかり持っていて当然です。…さっき、ラッシュ威力が上がっていったのもアーティファクトの可能性が高そうですね」



ゼネルガが一瞬その姿がブレて消える程の速度で動き出したのだ


相当に速い…シオンとペトラですら動き出しが見えたから目で追えたものの、動き回るその姿を精確に捉えられてはいないような速度でカナタの周囲を翻弄するように動き、すれ違いざまの一撃を入れ続けている


カナタの衣服が掠めた攻撃で破けた……現在のカナタでは完全に避けきれなかったという事


だが、それを見ても尚3人に不安は浮かばない


何故なら



「んっ…!…やっちゃえカナタっ……!」



彼女の魔力も操れるのだから、彼が速度で負ける訳が無い


マウラがその目でゼネルガを捉えられている時点で、カナタはゼネルガよりも遥かに素早く動くことが出来るのだから


その期待はゼネルガが猛烈な速度で動き回る最中…その背後にぴたり、と現れたカナタの姿によって応えられた


掌を静かに顔面に突き付けたまま、彼女の魔法が放たれる



ほぼゼロ距離でしか放て無い代わりに高威力の雷撃を破壊力と共に叩き付ける『雷迅掌』は、その射程の短さを高機動によってカバーし瞬時に近づけるのが前提の魔法


完全に受けきれない一撃はゼネルガをピンボールのように吹き飛ばし、湖面に投げた石が水切りをするように幾度もバウンドを繰り返して転がり倒れ、発狂するように巻き起こる理不尽に叫びを上げた


この世の摂理を超えた力…1人に1つの色と力を幾つも、手足のように操る異常現象を目の当たりにしたのは金剛級と言えども初めてのことだったのだろう


だが…その驚愕を待つほど、カナタは優しくなかった


脚を一歩踏み出した次の瞬間にはカナタの姿がゼネルガの目の前まで移動を果たしていた


ぎゅっ、と握り締めたその手に新緑の暴風を螺旋の如く渦巻かせ、噴火を思わせる真紅の魔力を噴き出しながらその肉体に瑠璃色の稲妻をバチバチと纏う姿はまさに…シオン、マウラ、ペトラがその力を合わせた集合体に他ならない



「潰してしまえ、カナタ」



口角を上げて呟くペトラの声に、ぴたり合わせたようにして…嵐の刃をドリルのように纏った拳撃、『嵐旋撃らせんげき』が分厚い鎧を正面から撃ち抜き、頑丈で防御系の魔法効果がある筈のそれを段ボールを切り裂くように容易く螺旋状に切り裂き…弾丸のように吹き飛んだゼネルガは短い悲鳴と共に大闘技場の壁へと叩き付けられた



あまりにも一方的



ゼネルガは立ち上がらない、意識がありそうなのは恐らく身に着けていた防御系のアーティファクトが優秀だったからだろう。魔法、物理ともに大幅に軽減した結果が…ギリギリ意識を残す程度のダメージだったのだ


ただの一撃で金剛級冒険者を捻り潰そうとするその姿は観衆の目にあまりにも衝撃的だった


焦ること無く、いとも容易く…どう見ても無名の1選手のはずがない



だからこそ、その余裕と悠然たる姿勢から一転し……怒りの激情を孕ませた嵐のような魔力が大闘技場を支配した時、それを見ていた者の半分以上は意識を失い白目を剥いた


意識を保つ者達は身動きも取れずに滂沱の汗を流して押し潰されそうな魔力のプレッシャーに驚きを隠さない


シオン、マウラ、ペトラの3人ですらあまりの強い感情を乗せた魔力に目を丸くした


まさかここまで……彼が怒りをゼネルガに対して湛えていたとは思わなかったのだ


今まで普通にしていた、不愉快を表すことは多くともここまで強く怒りを露わにはしなかったカナタがその実……大闘技場を震わせる観客席の結界が嵐の夜の窓ガラスのようにガタガタと鳴る程の憤怒を今、見せ付けた



「何だお前はッ!?普通じゃないおかしいぞ!?どういうトリックだその魔力ゥッ!俺よりも、この俺よりも強いなんてそんな筈はないィィッ!」



ヒステリーでも起こしたように壁から這い出てきたゼネルガが叫ぶ姿が見えた


だが、そんなゼネルガを見ながらカナタが2本の指先をゆっくりと空に向けた


人差し指と中指の先に瑠璃色の魔力を灯らせて、その指先が頭上を超えて空に向けられた時……眩く閃光を放つ稲妻の柱がカナタの空に向けられた手から現れる


柱というより、それはまるで10mはあろうかという…瑠璃色の雷撃で作り込まれた巨大な刀身



「っ…あんな魔法……私持ってない…っ!」


「まさか……これがカナタが組んだと言う魔法か。シオンの溶撃剣メルトブレードと似ているが…」


「…わ、私の魔法と射程が段違いですが…」



それは本来その魔力を持つはずのマウラですら使ったことがない魔法…どういう理屈なのか、カナタは彼女の魔力を用いてオリジナルに近い魔法を生み出したことになる




その稲妻の巨剣を躊躇うことなく…カナタはゼネルガに振り下ろした



「焼き払え、『雷極剣プラズマザンバー』」



「ぎ、ィアァァァァァッッ!?やべ、やべろォォ、ぇ、ぁ、ぁ、ぁ、ッ、ッ!?」



人の胴体ほどもある太さの雷で編まれた巨剣が、そのままゼネルガの胴体へと突き刺さるように直撃するが…彼の体が切り裂かれることは無かった


その代わり…光線状に固められた膨大な雷撃が破壊の稲妻を常にゼネルガへと叩き込み、悲鳴ですらバグったように震えて意味不明な言葉の羅列と化す


それはさながら、射程がぴたりと決まった稲妻のビーム砲を剣の形にして振り回しているようにも見える


のたうち回るゼネルガに対し、カナタはこの魔法で焼き炙ることを止めない



ゼネルガが着ている鎧は素材もさることながら魔法耐性、魔法現象を触れた端から相殺する効果を持ったアーティファクトだ


流石は先史遺産の遺物と言うべきか、その性能は他の鎧を過去の物にする段違いの性能を誇り、弟に貸し与えていた宝玉型のアーティファクトなど比にならない程の防御能力を誇るものだが…


これは今、ゼネルガにとって不幸なことにマイナスにしかならなかった


圧倒的な魔法への耐性を持ってしまったが故に…極限の威力による雷撃を絶え間なく叩き付けられ続けても意識を味わえない


己の体を瑠璃色の稲妻が焼き走るダメージだけが常に流れ続けて、自分に決定打となる威力が減衰してしまい楽になれないのだ



「もう止めるか?お前の口から聞かせろ…『二度と、俺達には関わらない』、それが言えたら負けさせてやる」


「だ、れ、が、ぁ、ぁ、ぁ、ァ、ァ、ァ、ッ!お、お、れは負け、負けてな、ないぃぃィ!」


「残念…なら別のを試そう」



バチンッ、と手から放っていた雷剣を消せばゼネルガは息をするのもやっと、という状態で地面に転がり怨嗟を込めた眼差しでカナタを睨みつけているかま…それもカナタからすればどこ吹く風


どう見ても勝負はついている


ゼネルガのダメージは深刻だ。ここから万全のカナタを相手に逆転を狙うのは誰が見ても不可能に近い…身に着けたアーティファクトの装備は嵐螺撃と雷極剣の二撃によって大半が破壊されいるのだ


ふらふらと立ち上がるゼネルガに対し、右掌を上に左掌を下に向け…その間に太陽の如き真紅の球体を発現させる


小さい、まるで野球ボール程度の大きさの球体…それがバグンッ、バグンッ、と大きくなろうとしては元の大きさに戻りを繰り返していく


巨大化しようとするエネルギーを抑え込んて圧縮していくように…莫大な力を無理やりその大きさに押し込めているのが見て分かる


まるで太陽のような輝きを放つ真紅のエネルギー球からは、見た目の美しさとは想像もつかない魔力をビリビリを放ち続け…



「……縮小、劣化、減衰、軽減、出力調整4%…空の果てより落ちろ禍星まがぼし、地に降り炎渦で世界を照らせ……ーー」



魔を紡ぐ言葉が、カナタの口から唱えられる


ただ眼の前の相手を…確実に潰し去る為に






「ーー『超新星…』」






星の名を関するその魔法は



「本当に私の魔力で編んだ魔法ですかあれ…っ!?どんな魔力込めてもあんな凝縮体の魔力なんて作れません…っ」



その魔力の持ち主ですら驚愕のあまり席を立つ程の、力技の絶技


一転に集められた破壊の魔力は見た目の大きさに反して命の危機をビシビシと伝えてくるのは本来あるべきサイズの物があまりのパワーで押し込められた事によって漏れ出た力の波動


その名が示すように、星の光が如く大闘技場を照らし出す光景は身に感じるプレッシャーに反してあまりにも幻想的だった



「これが今俺にできるの出力だ。…この子のパワーは暴れん坊でね、加減が難しいんだ。確か…『結果として死んでしまったなら仕方ない』…だったな?」


「ッ…それは……ッ!」


「良かったよ。……これで殺してしまっても無問題もうまんたい…そういう訳だ」


「あり得ないッ!あって良い訳がないッ!勇者になった俺を…ッ、話を聞け!俺は世界を救える英雄なんだ!シオンにペトラ、そしてマウラも英雄には必要な側仕えであって…」


「黙れ。その口であの子達の名前を一文字でも出すな」



カナタの手の間に輝く真紅の光球…炎属性測定不能級魔法がギュオッ、と一回り膨れ上がるのを見ればゼネルガの口も塞がる…それが意味する彼の怒りが魔力に乗って伝わってくるのだから


カナタが「おっと…」と呟いて光球を元の大きさにゆっくりと戻しながら、もはや聞くことは無い、と光球を空に掲げる


ゼネルガの表情が紛うことなき恐怖に染まった

  




「さようなら。…………『超新星ーー」





真紅の光が、世界を紅蓮に染め上げその魔法は完成する


振り下ろされれば滅びを齎す破滅の天体が彼の手の中で脈動し




ーー紅 ノ 覇 星スカーレット・ドレッドノート




そこに第二の太陽が顕現した






ーーー






「ラウラ様!あれは止めなくてよろしいのですか!?その…か、勘違いでなければあの魔法は…こんな大闘技場程度はのではないでしょうか!?」


「ふふっ、大闘技場が跡形もなくだなんてそんな…」


「あ、大丈夫なん…」


「この区画一帯、の間違いですわよ?」


「駄目じゃないですかっ!?」


「冷静で自重できてるように見えて…その実怒りで頭の中から足の先まで煮え滾ってた、ということですのね。…情熱的なところも素敵ですわ」


「あれ!?ラウラ様あんな感じの殿方が好みだったり…」



来賓席にて「あらあら」と笑うラウに悲鳴のような声を上げた1級聖女タランサは、眼の前で起ころうとしている惨劇を予感しておろおろと慌てふためいていた


原因は当然、今大闘技場の中で光を放つ謎のマスクが発動中の魔法に他ならない


1級聖女と呼ばれたからには魔力の運用は一線級の実力がある。彼女が操る聖属性魔法は中小国の王族が頭を下げて懇願する程のものだ


戦闘向きではないが冒険者のランクで測るならば白金級に相当する魔法の使い手であるが…そんな彼女ですら、今発動されようとしている魔法は見たこともない規模の魔法だった


…というか、何故隣の特級聖女様はこんな非常識な魔法を目の前にしてのほほんとしているのだろうか?とタランサは真面目に考える


なんかちょっと見つめる目がうっとりしているような気が…



「こほん…まぁ流石に止めないと駄目ですわね。というより……節がありますわね、あれは」


「待ってる…ですか?ラウラ様が止めるの…?」


「えぇ。これも対戦相手を根底から否定するための素材…ふふっ、しょうがありませんわね、ノッてあげますわ。とは言え……もう少し怖がってもらわないも私も気がすまないですわねぇ」


「こ、怖っ……。それよりラウラ様はあの魔法を見てもあまり驚かないですね?私、恥ずかしながらあそこまでの魔法は見たことがなく…」


「それはそうですわよ。だって……旅の最中に嫌と言うほど、あれの基礎となる魔法は見てきましたから」



どこか懐かしむ眼差しのラウラに首を傾げるタランサ


ラウラはこの魔法と似たものを幾度と目撃したことがあった。とは言え…ここまで常識外れの破壊力ではなかったのだが





ーー『星核アトム




莫大な魔力と魔力を最小エネルギーである魔法素粒子から衝撃と破壊力へと変換し、超圧縮。極限まで集め押し込め臨界状態へと及んだそれを強制爆縮させ生み出したエネルギーにより周囲に対し無尽蔵の破壊現象を発生させる狂気の魔法


通常の魔法発動プロセスでは実現できないこの魔法は後にかの大魔女サンサラ・メールウィが調べた所……複数の工程をわざと単独魔法にて構成して作り上げたものだと判明する


例えるなら、魔法は火の玉を撃つ為に1つの術式に「炎を出す」「固める」「発射する」機能を持ち、そこに魔力を巡らせて発動すれば火の玉が出る…言わば「火の玉を発射する為の術式」 




だが星核アトムは違った


「莫大な魔力を超圧縮する」「集めた魔力を何倍にも異常強化する」「集めた魔力を破壊力に変換する」「起爆タイミングで凝縮魔力を強制爆縮させる点火用」などなど……


1つの魔法の為に複数の魔法を単身で同時に発動させ、異なる魔法達で1つの魔法を組み立てる意味不明な程の絶技の極致


大規模魔法を生み出す儀式魔法ですら複数人で一つの魔法を組み上げているのに………ただ一人でバラバラの魔法を複数起動し1つの魔法を構成するなど正気の沙汰ではないが…その破壊力は別次元のものだった


分かりやすく言うならば、最初から完成した出汁を使うのか、わざわざ違う鍋で何種類もの出汁をとって絶妙な加減に組み合わせるのかの違い


その見た目は威力に見合わず美しい星のようにも見えるからなのか…魔法名の前に星の名を関しているのが特徴だった


見ただけで分かるその難点は…攻撃に指向性を持たせるのが難しいこと


発動、発射までは出来るがその破壊を全方位にばら撒く性質上、友軍のそばで発動することは出来ない



(…そんな魔法を更にシオンさんの魔力を使って、3年間の成長も相まって馬鹿げた威力に進化した…。あの魔法の前では客席を遮る結界なんて紙屑以下ですわね。本気で撃つ気はないと思いますが……成る程、カナタさんは懐に入れた女性には相当情熱的なんですのね。これは私も…期待してしまいますわ)



かつては漆黒で飲み込まれそうな深いダークパープルの光球が、まるで夜空を思わせる美しい魔法だったが今目の前にあるのはその逆…空から地上を照らす太陽のように見える


まず間違いなく、こんな場所では放てない魔法だ。撃つ気がないのは目に見えているラウラだがカナタの真意がゼネルガのメンタルを完膚無きまでに捻り潰す事だと分かっているラウラは思わず含み笑いを隠せない


こんなに感情を包み隠さず、相手の為にまざまざと見せ付けるあの勇者ジンドーが…今はとにかく嬉しいのだ


彼は感情無き人間兵器などではない…彼の心は死んでいなかった事を改めて認識できたことが、ラウラにとっては心躍る事



「さて、そろそろ止めて差し上げましょうか。…彼が怒りのままにうっかり発動させてしまっては困りますものね」



可笑しそうに笑うラウラは、手にした黒銀の錫杖を一振り


流石に分かっていても、止めに入らなければと己の魔法を発動させるのであった


何せ…試合終了の大銅鑼を叩く者達は彼の魔力の波動を受けて、とっくの前に気を失っているのだから








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【後書き】



ーーエイ○アン、スター○ップ・トゥルーパーズ、ミ○ト、ザ・グ○ード…この辺は素晴らしかった


「あ、前の話のやつ?あれ読者さんから色々コメント貰ってたけど…やっぱあんたの異常性癖なんじゃ…」


ーーなんでや!?ええやろ異種系!…私は様々なエロスに寛容さを持ち合わせる紳士だからね。特にほら…ザ・グ○ードで冒頭からトイレに駆け込んだ美女がトイレに座ったらトイレの中から触手が出てきてそのまま…ってシーンとか


「なんだその映画…見たことねぇよ」


ーー豪華客船が謎の牙付き触手モンスターに襲われるお話。悪役の死に方とか途中の陽気キャラが助かる場面が見ててとても楽しいぞ。皆も豪華客船で困ったら洗濯用のダストシュートみたいなのに身を投げよう!


「その知識が生かされる場面に出くわしたくなさ過ぎる…。え、因みに王道のゴブリンとかオークみたいなのは?」


ーー漫画とアニメのゴブリン○レイヤーで冒頭の冒険者達が壊滅するシーンはとても名シーンだね。あのダーク感とエロスを混ぜ込んだ感じはとても私好みだ


「…その趣味はこの作品で発揮されないことを祈ってるわ。この世界も例に漏れずゴブリンとオークは素敵な生態してっからなぁ」


ーー言ったでしょう?私は王道を外さない男なのさ。それ抜きにしたなら私はゴブリンもオークも登場すらさせなかったね


「え、因みにこの世界の亜人系魔物ってみんなそうなの?」


ーーゴブリン、オーク、サハギンはバチバチの異○姦モンスターだね。一般人が出会ったら即ダッシュで逃げないと女性の場合は素敵なエロ同人展開まっしぐらの


「うっへぇ…たくさん殺しておいて良かったぁ。確かにラウラとかサンサラとか、ナスターシャを見る目がすんげぇ「ニタァ」って感じの笑い方だったな」


ーー因みに私の中で、ゴブリン○レイヤー程ボコボコにされるというより、繁殖に支障が無いよう丁寧に扱われるけどに関しては囲まれてすんごい勢いでされるっていうのがツボで…


「あ、その話こっちでしないでもらっていい?」


ーーそんな…!?私のエロス漫談を披露する場がこの世界には存在しないというのか……!!


「ツイッター(X)でもすればいいんじゃないの?性癖吐き出しbotと化すのは否めなさそうだけど…」


ーーいやいや、本当に自分の性癖とエロスへの愛を垂れ流すだけのツイッター(X)とか存在して良いのか自分でも疑問を浮かべるね。…果たして私の業の深さに着いてこれる者は居るかな?


「なんつー無駄な強キャラ感…!」


ーーそして私はヒロインがそういう目に合いそうになったり危険な目に合うタイプのスリリングも大好物さ。ふふっ……アニメ化した骸○騎士の姫メイドレ○プ未遂シーンは思わず両手を握ったね


「寄りにもよってキッツイとこ持ってくるよなぁ。…………え、この作品でその癖は発揮しないよな?」


ーー………


「なんとか言えって!?俺そんなの見たら精神崩壊すんぞ!?」


ーー私はね、カナタ君…


王道とエロスが大好きなんだ


「録でもねぇ!?この先の展開が心配でならない!?」



ーーあ、良ければ皆さんの「そういう気分になった作品」あれば教えて下さいね。ふふっ…私はエロスの求道者、履修出来るものはしっかりと履修しておかなければ…













「えっと……これ、私達もしかしてピンチなのではありませんか?」


「…脱衣ぐらいは……覚悟…っ!」


「う……そういう展開もあり得るのか…我、ヌルヌルしたのは苦手なんだが…」

 

「あら、3人とも…例えどこを触られようとも、最後の砦だけは護るのが淑女の嗜みでしてよ?」


「…っ!?…ら、ラウラさんが……遠い目をしてる…!?」


「ま、まぁ勇者の旅に同行してましたから…との交戦経験は山程ありますよね」


「そう言えば…学院襲撃時もちょっと体触られておったなぁ。そう考えるとラウラさん…メンタル鬼強なのでは?」


「向けられるオークの発情した視線…あからさまに盛り上がる体の一部…殺すより手で動けなくしようとしてくるゴブリン…近づかれると体のいろいろな場所を触りながら連れ去ろうとする…真っ先に服を破こうしてきて…触手系は体に絡み…胸元やお尻を締めるように…何故か服だけ溶かそうとしてきたり…が脚の間に迫ってきて……。ふふっ…色々ありましたわねぇ………色々………」


「「「うわぁ……ほんとに護りきったんだ……」」」

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