第85話 斧槍相搏つ


強化魔法とは魔力によるドーピング


肉体に筋力や頑丈さ…言わば骨子の強度や皮膚の耐久性などを上昇させる魔法を術式を通さずに魔力のまま肉体に充填し、内部からその効果を発現させる


魔力の強さによって強度は様々であり、少し力持ちになる程度から魔物を素手で殴り倒すまで使い手によって強さは大きく差が出る物だ


熟練の使い手にかかればその皮膚には刃すら通らず鋼鉄のように弾き返し、馬車が衝突しても馬車の方が壊れ、魔法の雨の中を多少被弾しようとも平気で進むことすら可能となる


何よりも、そのメリットの高さは大きい


通常の魔法とは習得難易度の方向性が別な為に、通常魔法と強化魔法を併せて使用可能な者は非常に少なく、言わば両刀使いと言えるそれを実現出来るのは高度な技術が試される


両方を極めないならば、片方を極めた方が強いとすら言われており中途半端にどちらにも手を出すと逆に戦い方がどっちつかずになるとも言われていた


しかし、両方が高いレベルで纏まって実現していたなら?


あるいは極まった片方に、もう片方を半分程度でも使えたなら?



それを現実とする者が、今…ライリー・ラペンテスの目の前に現れた



自分ですら諦めた両刀使い…その夢を叶えたような存在が自分と相対しいる



(お前なら……シオンならぶつけても大丈夫だろ?俺の全力、俺の全て…!だってこんなにつえーんだ…!殺す気で行かなきゃやられちまう!)



『バスタード・マキシマ』はかの最強の冒険者、レオルド・ヴィットーリオが十八番とする強化魔法の派生技


魔力が生み出されるとされている心臓に術式を展開し、それを通して強化魔法の魔力を全身に行き渡らせる…体内で完結させる半通常魔法にして強化魔法という稀有な魔法


その難易度は非常に高く、通常魔法の知識が無ければ実現は出来ない


しかし…その強さは凄まじく、強化魔法によって強度を上げた肉体が底上げされた力によって自壊しかねない程の爆発的な増強を可能とする



オレンジ色のスパークを全身に迸らせたライリーが迷うこと無く突撃を開始した


シオンは瞬時に指先2本をライリーに向けて熱線による魔法、罪禍の炎熱ディザスター・ヒートを発射…赤熱の光線がライリーへと迫るも片手で前に突き出した愛斧グレイゼルでそれを受け、そのまま速度を変えること無くシオンへと前進してきたのだ


これに驚いたのはシオンの方であった


初撃で放った時は体を押し込めていた筈の熱線が、まるで水鉄砲でも受け止めるかのように片手で構えた斧に受けながら猛烈な勢いで突進してくるのだ



「っ……!!…強化魔法…!?…聞いたことのない魔法ですね…っ!」



熱線が効かないとなればこの速度で迫るライリーは魔法では間に合わない…再びの近接戦にて迎撃を計るシオンが赤鉄を振り上げようとした時…言いようのない危機感が脳内に警鐘を鳴らした


自分の今の姿勢では…何か良くないことになる、そんなぼんやりとしたそれでいて無視できない焦りを感じたのだ


この迎撃という択に強烈な嫌な予感を覚えたシオンは本能が導くままに赤鉄を両手で構えて正面に…ライリーとの間に割り込ませて迎撃ではなく防御の姿勢をとった


理性では疑問が浮かぶ


何故?


極限臨界エクスター・オーバーロードを使用中ならば力技で勝負に出るのが正解の筈なのに、こんな受け身でいいのか?


その答えは…骨身を揺るがす衝撃によって明かされた



「ぐっ…あッ!?…なにっ…!?」



ただの突進…斧を前に構えての体当たり


それを受けたシオンの体はまるでキューに弾かれたビリヤードのように吹き飛ばされたのだ


あまりにも非常識な威力に呻きながらも疑問の声が漏れる…それも致し方無い事だろう


第一臨界オーバーロード・ファーストは最初の強化段階とは言え、ただの強化魔法とは次元の違う倍率が掛かっている


本来ならば片手で受け止めても問題ないくらいパワーに差があって不思議はないのに…その自分が…



(力負けした!?今の状態の私が……っ!?それどころか…っ…地面から足を離されるなんて…!!なんですかあの魔法は…!?特異魔法…っでは無いハズです!)


「オラオラッ!考え事かシオンッ!?集中してなきゃ痛い目見るぜッ!!」


「っ……!」



飛ばされたシオンに追い付く勢いのライリーが両手で握りしめたバトルアックスを振りかざし、真横から一閃…シオンの脇へと振り抜かれればこれを再びの防御に回るシオン


しかし、体勢が整っていない状態での彼女の一撃はあまりにも重たかった


グレイゼルの刃を受け止めるべく構えた赤鉄を構えればその一撃を受け止めることには成功するも…空中に浮いた状態では踏ん張るも何も無い



「ぐぅぅっ!!…この威力は……ッ……ちぃっっ……!!」



先程の比ではない勢いで水平に吹き飛ぶシオンは大きく舌打ちを鳴らしながら空中で姿勢を無理矢理下に戻すと赤鉄の刃を思い切り地面に突き立てる


刃が全部埋まるほど深く突き刺して無理矢理に勢いを殺していき壁に叩きつけられる前に減速してからの着地を成功させるものの、その心中は穏やかではない



「どんな馬鹿力ですか!?この展開は流石に考えていませんでした…っ!」


「力自慢は自分だけだと思ったかッ!?俺もそうだぜッ!この状態で2発殴って普通に立ってるなんてよー…っ…自信が薄れちまうな!」


「私も今自信が欠けそうですっ…!」



猛追するライリーの次撃、袈裟に振り下ろされたグレイゼルの一撃を今度こそ脚を踏ん張り、魔力の出力を爆発的に引き上げて受け止めるシオン


赤鉄とぶつかる音は広大な大闘技場内の全域に響き渡る程


負けじと力を入れて踏ん張るものの…ライリーのパワーはシオンの予想を大幅に超えていた


第一臨界オーバーロード・ファーストで出せる最大の出力で魔力を回し力を底上げしているのに叩き付けられたライリーのグレイゼルはビクとも動かない


逆にジリジリとシオンの脚が地面を引き摺って後ろへと下がって行く


それ程までにライリーのパワーは桁違いに上昇していた


力負け…自分のアドバンテージを大きく取られた形のシオンはそのまま片足を上げると足の裏に紅蓮の魔力を集中させ始めれば強大な魔力の塊を作り出す




得意技の力で押し負ける……ならばどうするか




「ならば…こっちで勝つしかありませんね…ッ!爆ぜろっ、赤天衝レッドフィールドっ!」


「うおッ!!?くそッ…めんどくせーなそれッ…!!」



もう1つの得意技を押し付けるのみ


紅蓮の魔力が収束した脚を地面に震脚のように叩き付ければ集まったエネルギーはドーム状に灼熱の衝撃は使って爆散する


これには流石のライリーも表情を引き攣らせた


ゼロ距離からの全方位攻撃、熱と衝撃によるダメージは流石に無傷とはいかない


肌を焼き身を貫く衝撃と熱に悪態を打ちながら衝撃波に押されるがまま真後ろに飛び退り、吹き飛ばされるダメージを軽減しにかかるが、この灼熱はかなり厄介だ


この状態のライリーですら、あの距離で放たれ、両腕を少し火傷気味にひりつかせている…範囲攻撃であの威力ということならば、単体攻撃なら自分の強化を容易く貫けるのは考えるまでもない


そして何よりもあの魔法の厄介なところは、ライリーがいかに張り付こうとも脚が動くならばいつでも放てると予想できるところだ


またも距離を離されたライリーはひりひりと熱を待つ腕にふーふー、と息を吹きかけながらシオンに改めて視線を向ける



(ありゃ厄介だ……近づいても俺の攻撃に耐えれるフィジカル、離れりゃ一撃で勝負を決める火力の魔法…デタラメにも程があんぞシオン…!)



ライリーはその実、かなり攻め方を選ばされている状況だった


強化魔法バスタード・マキシマを、ライリーは100%使いこなせている訳では無い…師であるレオルド・ヴィットーリオからも「まだ甘い」と称される熟練度なのは否めないが、まさかこの魔法を使った自分が近接戦で仕留め損なうとは思わなかったのだ


近付いぶっとばして決着…このプランは変わらないが、シオンの魔法はこの必勝プランを大きく妨げる壁となる


彼女の魔法が当たれば終わり…この状況をどう掻い潜るのかーー




(厄介です…!第一臨界オーバーロード・ファーストが受け手にしか回れないなんて…。第二セカンドを使えば私自身、操りきれずに身を焼く可能性がある…。完全に制御できるのは精々2分…後の魔力はすっからかんです、ライリーを削る前に使えば後がありません…!)



シオンも、相当に戦い方が限定させられていた


元より第一臨界オーバーロード・ファーストで仕留める予定であり、初撃で力により押し勝った事から順調と思いきや…まさかこの魔法を使いながら防御に回るとは思っていなかった


パワー勝負は得意技…それを上回られた以上はもはや近接戦を拒否する他はない


更に一つ上の魔法、第二臨界オーバーロード・セカンドを使えば恐らく力で勝る事が出来るだろう…しかし、シオンもまた第二セカンドは未熟が目立つところがあった


今のシオンでは第二臨界はオーバーロード・セカンド莫大な魔力によってどうにか制御して…もっても2分が限界


その後は魔力切れにより戦わずとも意識を失いかねない


それを考えれば、今のところ勝利のプランは魔法による圧殺…これ1つに限定される



「そうと決まれば…ッッ……押し切りますッ!炎熱弾フレイムバレットーー」



ブワッ…とシオンの周囲に凄まじい数の炎の弾丸が浮かび上がり展開される


大型の魔法陣に小型の魔法陣が幾つも嵌め込まれた形の幾何学模様が幾つも展開されてシオンの周囲を浮かんで囲み、それは全てライリーに向けられた



「おいおい、炎の初級魔法か…甜められたもんーー」


「ーー臨界オーバーロードッ!!」







「…………ハァァァッ!?」






ドムンッ、と手のひらと同じ大きさだった初歩魔法『炎熱弾フレイムバレット』が全て巨大化を遂げる


まるで木の幹をまるごと弾丸にしたかのような意味不明なサイズの『炎熱弾フレイムバレット』がシオンの周囲を浮かんでいるのだ


ライリーの素っ頓狂な声も無理はない…どうみても初級魔法の見た目してるのに大きさが全然初級魔法ではないのだ。炎熱弾フレイムバレットはこんなに大きくするのは不可能の筈なのに…



「…ッ…そうかシオン!お前の特異魔法はまさかっ…パワーアップじゃなくて強化出来んのか!」


発射ファイアッ!」



驚きの声を上げたライリーに対し「その通り」と返さんばかりに次の瞬間、シオンは待機させた全ての魔法をぶっ放した


宙に浮いていた巨大な炎熱弾フレイムバレットは一斉に直進を開始し、幾つもの魔法が円形に連なった大型魔法陣は回転を開始…ガトリング砲のようにそこから巨大な炎熱弾フレイムバレットを乱れ打ちし始めたのだ


その大きさの魔法が同時に迫る姿は弾幕を越えてまさに壁のような状態…これにはライリーも本気で思考を回転させる


まず考えなければならなのは回避…これだけの規模の魔法では今のライリーですら叩き落とすのに苦労する…数発は良いがあそこまでバカスカ撃たれてはその後隙に後続の魔法が叩き込まれるのは明白


しかし、この圧に負けて後ろに下がるのは最悪手だ



(下がる…論外だぜそりゃ…!あんなもんが爆発しまくる着弾地点に居るのはそもそもの間違い…!俺が行くべき方向は……!)



ーー前方ただ1つ!



駆け出したライリーは放たれる魔法の嵐の中を突っ切る選択をした


バスタード・マキシマによって強度を跳ね上げたこの肉体が、巨大な炎弾と擦れ違うだけで肌を焼かれそうな熱を感じる…当たればまず無事では済まない


それを分かっていながらも、この弾幕の壁を通り抜ける選択をした


紙一重で飛び交う魔法のへと飛び込み躱す


グレイゼルの腹を使って軌道を逸らし、身を伏せてれば真上を炎弾が通り過ぎ、手を地面についてそのまま側転に繋げれば地面を抉る角度で体のあった場所を炎弾が掠める



「っ…マジで加減無しだなシオン…!当たりゃ一発だぜ…!しゃーね…こっちもトバしてくぞッ!」



ライリーの体がさらなる魔力の輝きを帯びて加速する


オレンジ色の軌跡を残す程の速さで動き続け、横へ上へ下へ…猛烈な直角機動が紅蓮の嵐を飛び回る


僅かに掠った炎弾によって袖が燃え落ち腕が真っ赤に焼け爛れようとも気にせずに



「っ……そこまで速く…!マウラを相手にしてるみたいですね…!ならばッ!」



これに冷や汗を流したのはシオンの方であり、自分の攻撃の隙間を猛烈な速度で掻い潜る姿は猫耳の親友に瓜二つであった


直撃が望めないことが分かった今、やるべきことは狙撃ではなく爆撃…最初の攻防で交わした赤熱球レッドスフィアと同じ理論


直撃ではなく着弾による爆発と衝撃で広範囲を粉々にすれば良い


その威力は赤熱球レッドスフィアの比ではない


数発はライリーを狙いながらも他の炎弾はライリー付近の地面へと片っ端から叩き付けられていき、爆風と衝撃が地面を埋め尽くした


赤い炎と煙と巻き上げられる砂埃が視界を覆い尽くし、地面は抉り返され爆発に次ぐ爆発によりシオンの視界に写る全てが破壊されてゆく


その中で…



は凄まじい速度でシオンに向けて飛んできた





「なん…ッ……!?」




目を見開いた


己の胴体めがけて回転しながら飛来する…



金色のバトルアックスに



(まさか…投げたっ!?そんな思い切った事をするなんてっ……!!いえ、寧ろこれは好機です…武器ありと無しではいくら力で勝ろうともやりようはあります…!)



爆炎と煙を掻き分けて回転しながら迫ってたのはライリーの愛器、グレイゼル


思いもよらない大胆な攻撃方法に体を仰け反らせてそれを躱すシオンだが、まさか自分の武器を投げ捨ててまで攻撃してくるのは計算外であり…しかし同時に、これを拾わせなければこちらが圧倒的優位をとれる


少し体を反らせてその場で回避したシオンは追撃に出て来るだろうライリーを迎え撃つべく姿勢を整え始める


僅か数瞬…


ライリーの姿はまだ見えない


赤鉄を構えて次撃で素手の彼女に一撃を入れるーー









「ぐっ、あッ……ッッ!!?」






シオンの肺から空気が絞り出された


衝撃に内蔵が揺れ、体内でダメージがピンボールのように暴れ回り苦悶の声が走った


シオンの視界にライリーは居ない


しかし…



自分の横腹に、の柄が思い切りめり込んでいるのが見えた



体が数mも飛び、なんとか地に膝をつかないよう踏ん張るものの突然のダメージによって展開していた魔法陣は空に溶けるようにして消えてしまう



(な、にが…っ!?ライリーは来てないはずです…!なぜ斧が…っ透明化!?いや、それだけなら近寄れる訳が無い…っ。ならどうやって……いったぁ…!)



シオンはライリーの接近を感知していなかった


グレイゼルがひとりでに動いたようにしか見えないのだ


だが…浮遊させて動かせる、なんて高等魔法がこんな特殊なバトルアックスに付与できるなんて考えられない…


その疑問の答えが、シオンの目に写った


グレイゼルの石突に開けられた横穴から…太い蜘蛛糸のような光を反射する線が煙の向こうから繋がっているのだ


ピンと張ったその線が瞬時にたわみ、まるでゴムでも引っ張るかのようにしなるとグレイゼルもそれに惹かれて煙の中へと飛び戻っていくのを見れば…この手品のネタも分かる



「っ紐…それも魔力で出来た……!斧に付与された魔法はこれですか!」


「その通りッ!マトモに食らったなシオン!たかが紐だが、それで十分だ!届く距離まで行くのに苦労したぜ、ったく…!」



煙の中から現れたライリーは…見た目で言えばかなりのダメージがありそうだった


服は所々が燃え千切れ、肌は黒く煤がつき、赤く火傷となった箇所も見える


今の爆撃とも言える範囲攻撃いなし切るのはライリーですら難しかったと言うことだ。しかし…戦闘に支障の出る被弾や負傷は全て回避しているのを見るに彼女の即応性の高さが垣間見える


ライリーの手首に繋がった魔力の紐はグレイゼルの石突に繋がっており、それを引き戻して操っていたのだろう…あの紐でグレイゼルを遠くから振り抜いたのだ


刃の部分が腹に食い込まなかったのだけは幸運だった


もしも斧の刃であれば容易に腹を切り裂かれていただろう


だが…シオンのダメージは少なく無かった


奇しくも予選でライリーから食らった拳撃と同じ場所に叩き込まれたグレイゼルの柄は、あの時には及ばずともしっかりと脚に来るダメージがある



「なんてことぁ無い効果だけどな。伸縮と硬直が出来る魔力の紐が出る効果と、グレイゼルの重量が3倍になるだけの魔道具の力なんだぜ?」



けほっ、けほっ、と煙にむせ返りながら自分の手にしたグレイゼルを掲げて見せる


その魔法効果はどちらも魔道具としては大したことのない効果だ


魔力の紐を武器から伸ばして自分に結びつける能力はまだしも、武器の重量が3倍になる能力などニッチも良いところであるが…この重量倍増の力がシオンの横腹に今一度ズクズクと熱を訴えるダメージを感じさせていた


それだけの重さが追加されただけでも…ライリーの力で振り回されたなら下手な魔物は簡単に真っ二つになること間違い無しだ


シオンは見誤った…ライリーの中距離を潰す手段があの投擲武器しか無いと判断してしまった


次期金剛級冒険者と名高いライリー・ラペンテスが、この程度の弱点をカバーしてない訳が無い



(…判断ミス、ですね…。思い込みは良くないと、分かっていたのに…。幸い…体はまだ動きます。ですがこの距離は…っ)


「いいねいいね…お互い温まって来てんなー…!俺達相性バッチリだ!早いとこケリ着けてさっさとベッドインだな…俺の使ってる宿は防音ばっちりだからな、安心しろよ」


「っ、なおさら負けられませんね。私の優勝祝いはもう決まっていますから…!それはもう、素敵なモノを沢山貰う予定ですので…っ!」


「へぇ……いいじゃん。なーんかアヤしいニュアンスだけどよー、それ……男か?」


「その通りですっ」


「妬かせんなよッ!必死になっちまう…!」



軽口を叩きながらもシオンは考える…自分の勝利へとプランを、しかしここから彼女に勝つならば取れる手段はたった1つしかない


ライリーはどう見ても軽く火傷を負っただけにしか見えない…こちらも致命打とは言えないが動きに引っかかりは感じるのだ


もはや…魔法による圧倒は二度とも失敗に終わっているのだ


残された手段は…



「ライリー」


「あん?」



改まって、呼びかけたシオンがライリーに向けて指を2本立てた



「2分です。この戦い…あと2分以内に決着を着けます」


「おいおい…ずいぶん大きく出たな?2分ぽっちで俺のこと倒せるってのか?」


「そのつもりですが…2分でライリーを倒せなかった場合、私は魔力切れで意識を失います。だから…勝っても負けても2分です」


「へぇ……まだなんかあんのか。いいぜ、ノッてやるよ」



ライリーが不敵に笑って促した


シオンにまだ隠し玉があるのを知って…それすらも楽しそうに


シオンは決断した…己の使える最大の力を、不殺のルールに押し留めてフルパワーで使う事を


体に纏う紅蓮の魔力が輝きを増し、そして落ち着いていく…一見、僅かに光が強まったようにし見えない些細な変化


ライリーはそれを見て……走り出した


何かしたなら警戒すべきは魔法攻撃


あの規模の攻撃を遠距離から乱発されるわけには行かない…故に、ここからは張り付いて近接により圧倒する


手のひらにパキパキと音を立てて結晶化する魔力を刃の形に変えて、クナイのように目にも止まらぬ速さでシオンに投げつければその後を追うように疾走する


迎撃させることで大振りな防御をさせない先手の投擲


魔力の紐を用いた中距離攻撃は確かに奇襲性は高いが、腹という無防備な箇所に命中したのにシオンの戦闘力は落ちてるように見えない…決定打を与えるにはやはり自分の手で直接叩くに限る


ライリーはプラン通りに肉薄した


グレイゼルを握り、強化魔法バスタード・マキシマの輝きを増していき次撃に込める威力をそれだけで物語せる


シオンが動いた


投げつけた凝魔器マテリアル・ギアの刃を手にした槍の一振りで叩き落としていき、それに負けじと連続で刃を投げ続け彼女の動きのリソースを削り取る


ライリーとて、あそこまで淡々と「2分以内に決める」と言われては擽られるものがある



ーーこういう時は小細工無しで、得意を押し付け叩き潰す!



あと踏み込み1つの場所でグレイゼルを両手で握りの締め、上段から体を回転させるような捻り切った一撃を振り下ろす


相手が相手なら防御の上から真っ二つに出来る


水晶級の魔物ですらほぼ即死するような一撃


それをシオンは…





「ッ……っ!?マジか……!!」




迎撃、赤鉄の一振りでグレイゼルを跳ね上げ、ライリーの体ごと宙に浮かせた


冷や汗を流して驚愕するライリーに向け、流れるような体の回転を利用した回し蹴りがそのままライリーの胴体めがけて振り抜かれるが、彼女はこれを空中で体を丸めて回避


浮いた体が落ちる重力を利用して再びの斧撃を真上から叩き込む


これを赤鉄の真ん中で受け止めたシオンの足元の地面がぐしゃり、と凹んだ


真上からのライリーが放つ一撃の威力を表しており、シオンの身体にどれだけの力と衝撃が受け止められたのか想像に固くない


なのに……明らかにシオンはびくともしていない



(まだパワーアップすんのか!!イカれてんなおい…!!)



ライリーは感じ取っていた


そのパワーは、今の自分すら超えている事を


自分の一撃を受け止めた赤鉄を蹴って即座に距離を離す…魔法の嵐は面倒だが、力で及ばなくなった以上は正面に立ち続けるのも悪手


彼女は戦法をヒットアンドアウェイに切り替える



だが…押し勝てるようになったシオンには焦りがあった



(第二臨界オーバーロード・セカンドの限界時間は2分…!その間にライリーを沈めなければ私の負けっ…!それにしても勘が良すぎですライリー、あの2撃で私の力がどれだけ増したか悟りましたか!)



そう、今のシオンの状態…さらなる強化中である第二臨界オーバーロード・セカンドはさらに1次元、自分の力を引き上げるのだ。先程の比ではないパワーを実現するものの…シオンはこれを使いこなせていない


魔力を効率よく使えず、まるで燃費の劣悪な車のように己の魔力をドバドバと消費する…挙げ句、力の加減が難しい



(この状態は賭けです…今の私では魔法なんて使えません。攻撃魔法なんて使えばまずもってライリーは死ぬ威力…いえ、この闘技場は無事では済まない…!威力の加減なんて出来ません…ここは……物理で仕留めますっ!)



力が出すぎるのだ


これをコントロールする事こそが目標なのだが…それを可能とするには今のシオンでは焔纏ほむらまといと戦槍プロメテウスが必須だ


つまり、肉弾戦による短期決戦…勝ち目はこれしか残っていない


決勝戦が始まってから初めて、シオンか、ライリーへと突撃を開始する


地面が爆ぜる勢いの踏み込みから爆発的な加速で彼女へと詰め寄り赤鉄の刃を横薙ぎに振り回せばライリーもグレイゼルがこれを受け止めるものの…ライリーはこれを殺し切れず、ずざっ、と脚を摺りながらノックバック…


だが、彼女の手から放たれる魔力の刃がシオンの肩と脚に即座に放たれ追撃を阻止…赤鉄を振り払って刃を落としたシオンの胸元に突如として、振り子のように真下からグレイゼルが振り上げられた



「っ……!!」



息を呑んで仰け反るように回避する…ライリーは打ち合った時点で2手、先手を取った


魔力の紐に結ばれたグレイゼルを、シオンの攻撃を受け止めた勢いに乗せて振り回し、鎖鎌のようにして離れた場所ながら真下からの奇襲に繋げる


投擲の対処に回ったシオンの回避がワンテンポ遅れた…グレイゼルがシオンの臍から首元まで一直線に、バスンッ、と切り抜かれ…紙一重で肌への接触は回避するも戦闘服の正面中央は大胆にも縦一線にばっさり切り開かれてシオンの臍から胸の谷間までが覗く形となった


健康的な柔肌が縦に一直線に切り裂かれた服から覗き、特に特徴的なしっかりと実った胸の深い谷間も…見られてアウトな部分は隠れているものの臍の上から胸の中央まで体の中心の肌がまるごと見えてしまっており、そのあわやな艶姿に会場から…特に男性陣から「おおっ!」と興奮気味な声が漏れる


…が


シオンはここで顔を赤くして蹲るような女で無かった


グレイゼルがそこから魔力の紐を振り回して嵐のようにシオンへと変則的に襲い掛かり、両手で赤鉄を猛烈な速度で振り回しながら弾き返しながらライリーへと走り始めた


先程とは真逆…ライリーが中近距離を保ちながら魔力紐の射程とパワーによる振り回しでグレイゼルをシオンの赤鉄による攻撃範囲の外から一方的に攻撃し続ける格好となった



「ッその姿もセクシーだなシオン!ますます欲しくなった!」


「ライリーが破いたんですッ…大事な戦闘服なのに…!あと私の肌はタダではありませんよ!」


「こえー…!でもよ、はちと刺激が強すぎだろ!誰でも目が行っちまう!」


「私の愛した人の印ですからッ!見られて困るものではありません、よッ!」


「くッ……!俺が防戦なんざ柄じゃねーってのに…!」



連続で鳴り響く激しい金属音は二人の攻防の激しさをそのまま表しており、ライリーが思わず目を向ける先にはシオンの切り裂かれた服から見えるボリュームたっぷりな胸の谷間…から垣間見える光を帯びた紋様があった


そのジンクスは知っている


ライリーだって、師の紋様が腕に刻んであるのだから…しかし、胸のど真ん中に刻まれてるのは話が違う


どれだけ熱烈な関係なら、そんな場所に相手の印を刻ませられるのか…



(あんのヘンテコ仮面め…!こんなイイ女の胸に自分の形刻みやがって…!羨ましいぜちくしょー…!なんだよシオンは魂の底まで自分のモノです、ってか!?見せつけてくれんなーくっそ…!)



ライリーの脳裏に気の抜ける造形で目と口がピカピカ光る間抜けたマスクの男が思い浮かぶ


あんなに変な男に自分が負けてると思うとどうにも嫉妬が隠しきれない!


振り回されるシオンの槍先がついにライリーの肩を捉えた


ズバン、と一閃に切り上げられ彼女の血がほとばしり地面に赤い跡を残すも、ライリーは己の傷に目もくれない


更に肉薄した瞬間に…ライリーは魔力紐を思い切り真横にぶん回した


至近距離…槍先が届くような間合いで魔力紐を振り回したならばシオンにとっての安全地帯は…



(…っ…ライリーの真ん前…っ!紐で射程が伸びた分、中には入れば私には当たりません…!このままっ!)



そう、至近距離を超えた超至近距離


腕を伸ばさなくても相手に届くその距離に詰め寄ったシオンは槍の旋回を停止させ、距離を潰した勢いのままに…師匠譲りの頭突きを上半身の勢いを加えてライリーの額に叩きつけた

 


「うがっ!?…あ、たま…ぁっ!?石頭かよ…!!」


「私も師匠によくやられましたっ!これ痛いんですよね…っ!」



頭をシェイクするようなシオンの頭突きはいかに実践で打たれ強くなっているライリーと言えども平然としていられるものではなかった


目眩がし、一瞬視界がフラッシュでも焚かれたように明滅するも目の前で燃焼するように輝く紅蓮の魔力に危機感を刺激されて無理矢理にでも意識を戻す


そう…シオンの握り締められた拳はその魔力を滾らせた状態で引き絞られ…後は放つだけの状態にされている


それを喰らえば終わり…はっきりとライリーには分かった



「終わりですライリーッ!これで……っ」



強烈な頭突きにより体制を崩した彼女にこれは避けられず、防げない…躊躇わずに振られたその拳はライリーの顔面をしっかりと捉え、決勝戦を見事終わらせる事となる









……事はなかった








「あがっ…は…っ!?…おっぇ……っっっっ!!!??」



シオンの、苦しそうな今にも吐きそうな程の声が響いた


ライリーの顔面の目の前で拳を停止させ、眼を見開きながら口を開いたシオンの腹…切り裂かれてちょうど露出している鳩尾に、明らかに肌の上から臓器まで食い込んで直撃してるのが分かる程に深々と…





魔力紐でシオンの後ろへと振られたはずのライリーの愛器、グレイゼルの石突が無情にも、突き刺さる勢いでめり込んでいた






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【後書き】



ーーごめんなさい、戦闘めっちゃ長くなっちゃいました


いや、こんなに長引かせるか迷ったんですけどつい…


あと戦闘書くの難しいです、過去一悩みました


正直戦闘描写自信ありません…変だったらごめんなさい


でも書くの楽しい…この矛盾こそが、私を小説家たらしめる…


「ま、ちゃんとシオンの肌を露出させといたしノルマは達成といったところかのぅ」


「えっ、なんですかそのノルマ…私、知らないのですが…」


「ん……ペトラは頭担当……私は猫耳担当……シオンは体担当……」


「初耳ですがっ!?というかなんですか「猫耳担当」って!?私達、部位毎に分野違うんですか!?」


「ほら、我は頭脳担当だろう?色々考えること多いし」


「……私は…カナタに撫でてもらう担当……。…これは獣人の特権……えっへんっ…。……で、シオンは豊満なスタイルを生かした「体担当」……」


「私だけ酷すぎませんか!?いやいや、もっと何かあったと思いますがっ!?なんで私だけ体目当ての担当なんですか!」


「でもほれ、カナタにはぶっ刺さっているぞ?」


「服破れる系とかお色気系の戦闘システム……いいよなっ!」


「カナタ!?」


「クイーンズ◯レイドにクリミナル◯ールズ……俺はこの辺が大好きなんだ…!と、いうわけでシオンさん…」


「な、なんですかカナタ?」


「こちらに「大破服」という物をご用意しました…。本編の物よりダメージマシマシ…手で抑えないと見えちゃいそうな感じのやつでございます」


「………カナタ、つまるところなんですか?」


「着てくださいッ!!!」


「正直者ですっ!?」


「あー…カナタこういうのに弱いからのぅ」


「ん……意外と王道のお色気が好き……」


「もうっ!こんな所で着られませんっ!もっとも…静かで二人きりになれる、長時間いても問題無くて休憩できる場所でなら、着てあげなくも無いですが…」


「「シオン!?」」


「っ…そ、それはつまりシオンさんっ」


「…今なら、大破服に合わせた「敗北時のセリフ」フルコースで言ってあげますよ…?」


「シオンさんっ!」


「…そして、今ならセリフに合わせた敗北シチュでのが好きなだけ味わえますが…」


「じゃあシオン様っ!」


「ふふっ、カナタはえっちですねっ。……沢山、負かせちゃってくださいね…っ?」


「「やられたっ!?と言うかカナタは盗られるのは嫌なのに組み敷くシチュはイけるんだ!?」」


「特別に…王道の「くっ殺せ…!」から「敵の子なんて◯みたくありませんっ!」とかまでバリエーションも様々です。私の読書知識に隙はありませんので…」


「まさか…我の頭脳担当が取られた!?」


「そして…その後のイチャイチャ仲良しックスまでセットです。どうですか、カナタ…?」


「冬の間ずっとしてようか」


「あっ、そんな担いでまで…えへへ…ほんとにえっちなんですから…」


「っ…ここにも策士が……!……しかも…敗北シチュで自分のドM願望を満たしつつその後のラブラブ展開までプランニングされてる……っ」


「あやつ我より頭良かったりする!?」


「…むしろ、カナタが絡むとペトラは……ちょっと残念……?」


「ファンタジー世界だからこそファンタジー特有のシチュとは……盲点だった…!」


「……やっぱり残念……」


※ついでに言うとカナタ曰く…めっちゃ燃えたらしい





ーーこんなのですが今後とも、どうぞお付き合いお願い致します


ちなみに、作者は年末年始お仕事ゲボキショ忙しいです


トウコウ、デキルカナ……

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