第83話 翠嵐の裁き

赤の光は日の光…正の力を表している


黄の光は月の光…静の力を表している


青の光は海の光…浄の力を表している


緑の光は命の光…然の力を表している


古くからそう伝えられることもある、縁起の良い色の1つとされており、葉や草華、木と言った大地の命を示す色とも言われている


この4色はアルスガルドの中でも特に良いものとされる事が殆どで、国章やお守り、アクセサリーや宝石等も自然とこの4つの色の物が多くなる程だ


古くからの物語では『世界に最初にあったのはこの4つの色だけであった。それが形を帯びていき…赤は太陽、黄色は月、青は海、緑は自然へと姿を変えて世界は作られた』と伝承が残る


それだけ、良い意味が込められた優しい色なのだ
















視界の全てが、緑溢れる破滅の光に満たされた


大闘技場の中心から放たれるその光は、優しさや縁起の良さとは無縁の滅びを運ぶ殲滅の一撃


己の下に聳える有象無象を擦り潰す風の帝王が放つ怒りそのもの


その威力はあまりにも強く…半径200mはあろう大闘技場内とその客席を遮断する結界を紙屑のように破壊してもなお、留まるところを知らず…結果として数千名の収容を可能とする巨大な大闘技場は内から弾け飛ぶようにして木っ端微塵に粉砕される



筈だった



目を焼くような魔力の光と地鳴りのような振動が続き…皆が目を開けたその先には先程までとなんら変わりない大闘技場がそこにあったのだ


一体何が起きたのか…客席どころか結界に傷も罅も入っていない


周囲の観客も辺りを見回して何が起きたのかを確かめようとしているが…大闘技場の内部だけは違っていた


大地が


敷き詰められた土の地面が基礎となる部分まで掘り抜かれ…いや、土が吹き飛んで消えていた


異常な光景だ…かつて、ここまで闘技場内部が荒らされたことはそう無いだろう


コンクリートのような基礎が剥き出しになったその上に…5体の暴風に編まれた大蛇を従えた少女が悠然と佇んでいるのが見えた


そして、その視線の先には…無傷の対戦相手、ラジャン・クラシアスが頭を抱えてうずくまった状態で無事な姿を見せていたのだ


一体どうやって無事にやり過ごしたのか…彼の持つ魔道具があの破壊の嵐から装備者を守り抜いたというのだろうか、と…皆が疑問に思うことすら無かった


無事で当然だ


自分達も…無傷なのは当たり前だろう


この…





眩い黄金の障壁が、パズルのように客席の結界を覆い尽くしているのを見れば、自分達の安全を疑う者は居なかった


情けなくもうずくまるラジャンの体にも、黄金の障壁が箱のように彼を閉じ込めて破壊の一撃から彼を守りきったのだ


これが誰の魔法なのか…知らぬ者など居はしない



ペトラが、はっ、と特別来賓室の方向に目を向け…彼女の存在に気が付いた



「っ…ラウラ、さん…っ…」



あわやこの闘技場ごと吹き飛ばしかねない威力だったことに、その金色の障壁を見て気がついたペトラだが…自分の今放てる渾身の一撃が、こうも容易く止められた事に驚きを隠せなかった


純粋な破壊力だけの魔法ながらに、シンプルな高威力に直結している


それが…こんな広範囲をカバーしながら地面以外の全てに傷一つ付けることも赦さない圧倒的な魔法


感情が爆発して威力をミスしたその自覚に居心地の悪さを感じながらも…それでも煮えるこの怒りの感情をどこに向けたらいいのか分からない


視界の端で、大銅鑼を鳴らそうと木縋を数人がかりで振り上げるのが見えた…恐らく、これ以上の戦闘は命の危険に繋がりかねないと判断されたのだろう


試合の決着…という扱いでの強制終了だ



ペトラの舌打ちが小さく鳴る



このいけ好かない男を無事に帰す事への憤りと、自分の感情を押し留められなかった不甲斐なさ…淀む気持ちが胸を濁らせる


木縋が勢い良く大銅鑼へと振り付けられるのを視界の端で捉えながら、肩を落とすペトラはーー




ゴヂンッ




………



なんか変な音が聞こえた


大銅鑼じゃなくて、なんか別の硬いものに何かぶつけたみたいな鈍い音だ


「えっ」とペトラがその方向を見やれば…黄金の障壁がガッチガチに防御を固めているのが見えた。隙間なくガッチリと箱状に囲い込み、一寸の間も開けずにペトラの一撃を防ぎきった防御の立方体が綺麗に守っている




…………大銅鑼を




ーーなんで?



ペトラは思わず呟いた…!


なんかさも「自分の宝」と言わんばかりに試合の開始と終了を告げる筈の巨大な銅鑼が、ラウラの特異魔法、慈母抱擁アマティエルの魔法障壁でみっちり守りきられている…



ーーなんで大銅鑼守ってんの?もしかして、レア物だったりする?



そう思わずにはいられなかった…!



しかし…脳の内側に聞こえてくるようなその声に、ペトラは目を見開いた。一体何故…どうやって自分へ彼女が声を届けているのか…



『聞こえます、ペトラさん?』


「ラウラさんっ!?な、何故我と通信が出来て……っ!?」



通信魔法は互いの発信する魔力を互いの通信魔法の術式に登録させなければ通信出来ない


そうでなければ関係ない者でも通信魔法を開けば他人の会話が丸聞こえになってしまうからだ


当然、ラウラとそんな事はしてないし、なんなら通信魔法もまだ未習得…彼女とこうして会話できるはずがないのだ



『ふふっ、色々と愛杖の機能を試していましたのよ?恐らくこれがジンドーの付与した魔法の1つ……聞き覚えはありません?ーー勇装通信、という言葉は?』


「勇装通信………っ、そうか…っ」


『ふふっ、心当たりはあるみたいですわね?それと……それはカナタさんが勇者である事をお認めになってるのと同じですわよ?』


「…っ……聞いてはおったが、やはり知っていたのだな…」



ペトラの記憶が、遡る…その言葉に聞き覚えがあったからだ


一体どこで聞いたのか…それを忘れられないような大切な思い出と共に、その言葉はあった


そう…カナタと結ばれたあの日、この指輪を彼が贈ってくれる時に使用した魔法を…神鉄錬成ゼノ・エクスマキナを目撃した時に、魔法の詠唱の一部に「勇装通信」という言葉があったのだ


その言葉が示す通りの効果ならば……


遠目に来賓室のラウラを見れば、大切そうに黒銀の錫杖を撫でているのが見えた



ーー勇者ジンドーが創った道具同士で通信できる



彼女の持つカナタが創った錫杖…シャングリラとこの指輪がラウラと自分を繋げているのだ


思えば、自分にアマテラスの声が聞こえること自体不思議だったのだ。あの声も、この指輪を通して聞こえていたのだろう



「…ラウラさん。その…勇者云々に関してはきっとカナタが何かすると思うのだ。だからその…す、少し待ってあげてくれぬか……」


『ふふっ、慌てなくてもよろしいですわ。今、お伝えしようと思ったのはその事ではありませんのよ?』



カナタの正体を知る身としては、ラウラからこの話題を切り出されると非常に気不味い…最初に出会った時、あんなに勇者ジンドーへの想いやらを聞かされていたのにその実、先に正体知ったり結ばれたりしてたと思うと、それはとっても気まずい…!


だが…ラウラはそれを置いておき、一言だけ…ペトラに伝えた



『ーー殺さない程度におやりなさい。まだ……試合終了の銅鑼は鳴っていませんわよ?』


「っ!!ラウラさっ…」



ヴン、と通信が切れるのを感じ取る


その言葉が…ペトラの中で吹き荒れていた感情の嵐を止めた


あの魔法が…自分の放った亡風卿砲レヴィオロスがラジャンを殺しうる破壊力だった事が見抜かれていた…その上で、戦いを続けて良いとラウラが言ったのだ


…もう一度、やってごらん…そう言っているのだ、彼女は



「すまん、ラウラさん…。情けない所を見せたな、カナタ、シオン、マウラ……」



ぎゅっ、と左手の薬指に輝く指輪を右手で愛おしそうに包み込み、唇を押し当てる


ここに1人で立っていても…この指輪が、胸に刻まれたこの紋様が…自分は一人ではないと掬い上げてくれている


その事実に、鼓動が強く、早く、胸の奥でとくっとくっ、と心地よく脈打つのを感じるのだ



ラジャンを覆っていた黄金の障壁が空気に解けるようにして解除された


何がおきたか分からなそうなラジャンへと向かうペトラが…己の背後に従えていた暴風の大蛇を解除すると、風が吹き崩れるようにしてその形が崩れて空気に溶けた


もう、こいつにこの魔法は…必要ない


ゆっくりと歩き近づくペトラにラジャンも気が付き、後ずさる



「なっ、なんなんだよお前ぇっ!来るなっ、来るなって言ってんだよぉっ!くそっ、こんな筈じゃ…っ、お、お前は俺のモンになってた筈なのにぃっ!」


「喚くな、わっぱ…。特別に気を入れ替えて、とても痛いだけで赦してやろうと言うのだ。…そなたの『洗脳、隷属系の使用』というルール違反も見逃してやろうと言うのだから…優しいと思わんか?」


「黙れっ!くそっ、もう一度だ…!こっちに来るな、ペルトゥラス・クラリウス!」



ラジャンがよろよろと立ち上がって、先程と同じ…赤石が飾られた一見地味なアミュレットを見せつけながらその名前を呼び掛ける


わざわざフルネームで呼ぶ…そこに違和感を感じたぺはすぐにその仕様に勘付いた



「ほぅ……成る程、フルネームか…。確かに、相手の真名まなを呼び掛け応答した相手の魂を支配下に置く、か。流石アマテラスさん…」


「なっ…!?」


「なら特別に返事をしてやろう…。、ラジャン・クラシアス」



近付くな…それに対して、否、とをしたペトラは悠然とラジャンへ近づいて行けば、彼もその光景を信じられないと言わんばかりに口を開き、アミュレットとペトラを慌てて交互に視線を向ける


なぜ、発動してないのか?


いや、発動はしている


このアミュレットに…アーティファクトに自分の魔力が吸い取られるのを感じた、ということは自分の魔力を使用して効果を発揮した証拠である


なのに…


どう見ても、効いてない


一体どういう事なのか


先程はしっかりと効いた兆候があったのに…


今回は最初から微塵も効果が出ていない




ーーーペトラが推測した通り…遺跡から現れたアーティファクト、『魅魂の赤石レッド・ハイチャーム』は対象の魂に干渉し、意識へと到達する前の段階から使用者への隷属を強制する…世に回れば数億の値が付くような高位のアーティファクト


その条件は…『対象の20m以内で使用』し『対象に赤石を目視』させる、そして使用者は対象の魂の名称…即ち『正式な名前を呼び掛ける』こと


対象がこの名前へと応答し、どのような形でも反応を示した瞬間に…対象の魂を強制的に使用者の下位関係へと縛り、使用者が言うことは魂という根底から従わされる事となる…その結果、対象は自分が洗脳されている事や異常を覚える事すらも気が付かない


危険…という言葉では足りないアーティファクトであり、どの国家でも禁制の違法品とされた最悪の魔道具『隷属の首輪』すらも可愛く思える程の品物だ


アーティファクトは栄えた過去の魔法文明の遺品とされており、遺跡やダンジョンの中から稀に回収される事がある希少品であり、その全てが…現代のアルスガルドでは再現不可能な超性能の遺物ばかりである


故に、最低でも億単位で取引されるものが殆どなのだ


国庫に収まればほぼ無条件で『国宝』と呼ばれるような正しくお宝であるのだが…これを見つけられるのは強力な魔物や魔獣の住処となる遺跡やダンジョンの中で、中には侵入者を消し去るトラップが犇めく中からこれらを回収して生きて帰れた者だけなのだ


つまり、アーティファクトとは…を除いて魔道具の上位互換を示す単語である


世の魔道具の実に半分は、実際回収されたアーティファクトの効果を再現しようとして生まれた劣化模倣品なのだ


つまり、この魅魂の赤石レッド・ハイチャームを防げるのは同等の精神防御、魂魄防御を施せるアーティファクトや、膨大という言葉では足りない魔力や操作が可能な特別級の魔法使いにが魔力によって抵抗しなければ不可能ということだ


だが…上述の前者はその入手難易度からして持つものはほぼ居ない。後者に至っては余程魔力操作、運用に神がかった能力を持ちながら魔力も潤沢に持つ者でなければ話にならない


魔力による抵抗に限らず、聖属性や光属性魔法の中には精神支配に抵抗できる防衛魔法や解除する為の解呪魔法も存在するが、アーティファクトレベルの効果に対抗出来るものは極一部だろう


事実……ゼネルガ・クラシアスはこの大闘技場に観戦しに来ているラウラ・クリューセルを幾度か近くで見れる距離まで来ていたが、この魅魂の赤石レッド・ハイチャームを使用していない


是非とも手に入れたい極上の美女であり、大聖女という至高の存在であるラウラに何故さっさと使わないのか…それこそが、この理由である


まず間違い無く……大聖女ラウラ・クリューセルとまで来ればこんな洗脳アーティファクトといえども魔力抵抗だけで無効化されるからだ。そこに加えて彼女は最強の聖属性魔法の使い手……この程度の洗脳効果が通用する道理は一切無い


つまり…逆に言うならばペトラは手に入れる事ができて当然の筈だったのだ


命令通り、この場で愛しい相手のように口付けをさせ、夜にはその肢体を余すこと無く味わえている…筈だったのだ


が無ければ、その未来は訪れていただろう



この世界に存在する…アーティファクトを越えた性能の魔道具を作れる、例外的な魔法を相手にしなければ



このアーティファクトが見つかればどうなるか……これの下位性能である隷属の首輪ですらも、国際的に禁止された程なのに、こんな物を所持、使用していたと分かれば良くて没収され破壊…最悪の場合は法的機関により刑にかけられる可能性すらある


それだけの悪魔的な効果を持つアーティファクトが、この魅魂の赤石レッド・ハイチャーム


これを遺跡から回収して生還した金剛級冒険者、ゼネルガ・クラシアスがそのリスクを賭けてでも弟にこれを持たせて使用させたことを考えれば…彼ら二人がどれ程ペトラ、シオン、マウラの3人に執着していたのかが伺えるだろう





「それで……終わりか?ならばこの場で、我の魂と肉体…そして愛を弄ぼうとした罪を償ってもらおうか」


「ひっ…!ま、まてっ!やめろペルトゥラス・クラリウス!聞こえてないのか!?やめろと言ってるんだよぉっ!返事をしろ!この石を見て返事をしろぉっ!」


「だから、してるではないか。…やめる訳なかろう?ほれ、返事はしたぞ。もう無駄だ…良く分かった。我の最愛の施した護りを微塵も揺るがせられん事が、これ以上無いほど理解出来た」



無様にも、幾度と赤石のアミュレットを突き出してはペトラの名前を連呼して何とか効果の発動を図ろうとするラジャンに失笑しながら近づいていくペトラ


背中が闘技場の壁にべったりと張り付くように追い詰められたラジャンは引き攣った笑みを浮かべながら慌てて言葉を投げかける



「へ、へへっ…む、無駄だバーカッ!前の鎧と魔道具のつもりなら勘違いもいいとこだ!この鎧の力を知らないんだろ?この『セテスの全鎧』は、触れた魔法を問答無用で霧散させられるんだ!み、見ろ!お前が殴った場所も…っ…ま、まだ壊れてない!無駄なことはやめるんだなっ!」


「ほぅ…『触れた』魔法を、か。普通の魔法ならばよく無効化できる、という事か…だが、残念ながら我でも分かる弱点が幾つかあるようだ。例えば…」



ペトラが緑鉄で殴り付けた箇所は砕け凹み、そこから放射状に罅が大きく広がっておりどう見てもつぎ同じ勢いで攻撃されれば鎧が砕けそうなもの


しかし、そこに込められた魔道具としての効果は生きているらしい


自慢気なラジャンのその言葉に口角を釣り上げ…手にした緑鉄を真横に構えると2本の指先が緑鉄の中心にある3つの宝玉をあやすようになぞる


ペトラの手が、緑鉄を優しく撫でれば………言葉もなく問答無用で発動された魔法、烈風刃ゲイルエッジによる風の刃が猛烈な速度でラジャンの着る鎧に向けて連射され始めた


その連射速度は凄まじく、まるでチェーンソーで木材を切り刻むかのような速度で魔風の刃が鎧に向けて放たれている…


風の刃は、鎧に当たった瞬間に解けるようにして霧散するのを見れば本当にこのセテスの全鎧は魔法を霧散させる効果があるのだろう


予選の時に使用していた赤い宝玉…術式を乱すだけの効果ではなく完全に魔法を打ち消している


ラジャンは安堵した


この鎧なら大丈夫だ


先程の打撃も、この魔法も無効化出来ているではないか


この少女は自分を傷つけられないのだ、と



その考えは…



ギャリンッ、という耳障りな金属を削り取る音によって消し飛んだ



「はぁっっ!?な、なんっ…なんでっ!?せ、セテスの全鎧はっ!?ま、魔法は完全に打ち消せてただろっ!?」



風の刃が、セテスの全鎧に横一線の斬跡を刻んだのだ


それだけではない…それを皮切りに、連射される風の刃が数秒に一発は鎧に命中し始めており、次第にセテスの全鎧は深々とした斬撃痕にまみれていったのだ


打ち消せていない…いや、その殆どは打ち消せているのに命中している魔法が混ざっているのだ



「その鎧、1つの魔法を霧散させられるが…連続で霧散させられる数と速度に限界があるのぅ。こうして、兎に角素早く魔法を放ち続ければ…貴様はいずれバラバラになる訳だ。それに…鎧を機能させている貴様の魔力が尽きれば、その豪華な鎧もただの死装束よな…?」


「ひっい…っ!!」



簡単そうに言ってのけるペトラではあるが当然…そんな速さで魔法を連射できるような魔法使いはそう居ない


これ以上後退り出来ないのに、ラジャンはペトラから距離を取ろうと後ろへ後ろへと体を動かそうとする…その姿はもはや戦う気力も目の前の美しい少女を組み伏せようという欲望も消え失せていた


手を出してはならない者に、自分は手を出してしまったのだ…そう思わずにはいられなかった


殺される…


そう思ってしまう程に、ペトラの怒りと魔法の練度が身に沁みて実感となって襲いかかってくる


ペトラが魔法の連射を止めると、その指先をつん、と鎧に守られたラジャンの肩へと軽く触れさせる


それだけでも、嫌な予感が止まらないラジャンに…


ペトラは強く、そしてその守りを嘲笑うように挑戦的な笑みを浮かべた



「そして、もう1つ…この鎧が役に立たない点を教えてやろう。触れた魔法を霧散させる鎧、と言ったが…残念だが我の魔法は…



ーー空撃ディバイド



'' ギュバッ "



「あっぎゃあぁぁぁぁぁぁっっ!!?いだ、いだいいだいぃぃぃっっ!?!?なんでなんでなんでぇっ!!?まほっ、魔法なんか効かないはずだろっ…ひっい…ち、血がっ、お、俺の肩からちっ、血がぁっ!!」



ペトラが触れた指先……


触れていた鎧とラジャンの肩の肉が、球状に一部に抉りぬかれて消滅した


まるでスプーンか何かで砂をくり貫いたように、綺麗に丸く鎧の肩部分の一部がぽっかりと消え失せ、その下にあったラジャンの肩の皮膚と肉までまるごとどこかへ消失したのだ


まるで最初からそのようなデザインだったかのような鎧に開けられた肩の穴から血が噴き出し、ペトラの手が汚そうに引っ込められる…


ラジャンは痛みと衝撃でパニックに陥り鎧に空いた穴を必死に抑えるようにして、自分の体から流れ出る血液に顔色を真っ青に変えた



「触れる前に対処する、魔力により抵抗する…この2つならば守れたろうが、な。「鎧に触れて」から「魔法を霧散させる」だけでは、触れた瞬間に発動するこの魔法は防げん」



もしかすると、ラジャンは防御の魔道具を数多持つ戦い方故に大して怪我をしたことが無かったのだろう…自分の肩が削り取られたことに対するあまりのパニックにもはや他の魔道具を操る気概は残っていない


震える脚を立たせてのろのろと走り出しペトラから逃げるように遠ざかろうとしていけば、さしものペトラも思わず溜め息が漏れ出る



「聞いてはおらんか。どれ、まさかこの程度で許す訳も無かろう?」



左手に緑鉄を握り直したペトラの右手が、デコピンの横向きにしたような形で突き出される


拳銃の銃口を、目標に狙い定めるようにして…



「どこへ行くんだ?ーー魔弾ミクシム」


中指、薬指、小指を揃えて伸ばし、その指先で狙いを定めるように視線の先に合わせてゆっくりと…ラジャンの脚の腱に焦点をあわせ…パチン、とデコピンを放つ


放たれたデコピンから放たれた極上の魔法…ビー玉程の大きさしか無い消滅の魔弾が銃弾のよう放たれ…一寸の狂いもなく、走って逃れようとするラジャンの右脚の腱を、バギュッ、と異音と共に撃ち抜き右足の踵上の肉を削り取った



「いぎっ…あぁぁぁっっ!!あしっ、お、俺のあしっがぁ!?いでぇぇぇっ!しぬっ、しぬ!おい試合止めろよぉぉ!殺される!ルール違反だぁっ!」


「その程度で死ぬものか、たわけ。先の我が放った亡風卿砲レヴィオロスで怯えただけの男が…生と死の境界も分からん訳か」



喚きながら走る勢いのままに地面へと転がり崩れるラジャンが半球状に消滅した脚の腱部分を抑え込んで悲鳴を上げる


鎧が持つ魔法への耐性など、もはや少しも機能していなかった


あまりにも相性が悪い



魔法の無効効果には4種類がある


『対抗』『中和』『相殺』『迎撃』


1つ、ガランドーサがマウラの稲妻を打ち消す為に行った、魔力を直接ぶつけて威力を消し去るものが『相殺』に当たる


2つ、魔法が直撃する前に別の魔法で撃ち落とす、レイシアスがカナタの「魔砲オブシディア」を浮遊させた岩石で迎え撃ったのが『迎撃』


3つ、向けられた魔法と反対の性質を持つ魔法でその効果を無力化する、聖属性魔法による洗脳解除がこの『対抗』と呼ばれる


4つ、特に難しいとされるのが、当たった魔法の効果に対して自身の魔力を流し込み、自分にその効果が発現するのを防ぐ『中和』


洗脳や状態異常系の魔法は、専用の防御魔法が無い限りは発動されればこの『中和』でしか防御することが出来ず、これが洗脳、精神支配系魔法や魔道具を取り締まっている最たる理由だ


そして…ペトラの刻真空撃エストレア・ディバイダーは攻撃魔法ながらにして『中和』と『迎撃』でしか防ぐことは出来ない


『対抗』する魔法は存在せず、『相殺』しようにも付近で爆ぜれば効果範囲のものは問答無用で消滅させられるのだ


防ぐならば、別の魔法で直撃前に離れた場所で撃ち落とすか、消滅の反応に対して魔力を反発して流し込み効果を中和するしか無い


セテスの全鎧は触れた魔法を『相殺』する機能を持っていた、魔法耐性の高い合金が直撃に耐えて相殺機能で無力化する…しかし、いくら相殺しようとも当たった瞬間に鎧も、魔法効果も何もかも消滅しては意味がない


故に、強大な魔力を持っていたり、精密な魔力運用が出来なければペトラの魔法はなのだ



「ルール違反は互い様だろう?それで言うならば先に仕掛けてきたのは貴様の方だしのぅ」



ゆっくりと歩いて追いついたペトラが虫のように這いつくばるラジャンを見下ろしながら嘆息した


その見下される状況にすら、ラジャンの小さなプライドの火は再燃してしまうのだ


ーー見下されている、自分が


この美しい少女に、手に入れる予定の女にゴミを見るように…


その鬱憤が、次なる魔道具へと手を伸ばさせる



「くそ…っ…くそっくそっくそっ…!な、ならこれでどうだ…!?お前に効かないなら客席に居るお前のお友達からだ…!この邪痺の魔眼パラズ・アイでまずあの二人から…!」



蛇のような目の紋様が刻まれた宝玉を突き出すラジャンはそれをペトラではなく客席へと向けた


邪痺の魔眼パラズ・アイはこの魔道具の目の紋様と目が合ってしまった者の肉体の自由を奪い去る


使用者が魔力を魔道具に流し続ける限り対象の肉体は麻痺したまま動かすことができなくなるのだ


ここは負けても良い…早く試合を終えたなら動けなくなった2人の少女を先に確保してしまえば、この生意気でいけ好かない少女は嫌でも付いてくるだろう


仮面の男はそのまま転がしておけば良い


兄が素早く麻痺した少女を回収してくれる筈だ


客席に向けて腕を突き出す…その手に持った魔道具を見せ付けるようにして


自分の手で降せなかったのは残念だが、その鬱憤は今夜しっかりと晴らさせて貰えば良いのだ


それを考えれば、笑みだって浮かべられる…この痛みの分だけしっかりたっぷり尽くさせれば気も晴れるだろう





どさっ





笑いかけたラジャンが、その音に反応するのに時間がかかった


頭が、それを受け入れるのに時間が必要だった


地面に落ちたものを目で追う


おかしい


何故…


魔道具を持った自分の腕が…肘から先の魔道具を掴んだままの腕が落ちているのか


だって、そんな所に腕があったら


自分の体には……


痛みすら、まだ頭に到達していない…瞬間、瞬時にペトラが放った風刃が肘関節を綺麗に切断した事に体も気がついていない



「させる訳なかろう…。これは親友の見様見真似だが…最後の一撃としようか。これ以上魔法を撃っては殺してしまうからのぅ」



ペトラが緑鉄を高速で回転させ始める


目にも止まらない速度で、扇風機のファンのように緑鉄を回しながら体をくるり、くるり、とその場で回していく…真紅の髪の、エルフの親友がよくやる得意技


勢いを付けずにその場で最大の破壊力を出すための体技…彼女は愛武器の長槍で行うが、自分ならば同じく長棒である緑鉄で同じフォームが使える



「お、俺の…腕が…っ!ひっぃ……ま、待ってくれ!頼むっ!でっ出来心っ…そうだ、出来心でついっ……悪かった!謝る、謝るからっ!俺の負けだ!」


「遅い。ならば最初からちょっかいなどかけてこなければ良かったのだ…我は許さん、絶対にな。それに…降参などされなくとも、この一撃で決着だ」


「ま、待って待ってくださいっ!ほんとにっ、ほんとに悪いと思ってますっ!」


「さらばだ、二度と我らに近付くな……ッ!」



問答無用…肘からだばだばと血を流しながらも無い手を突き出してやめるように懇願を始めたラジャンへ向けて勢いを増す緑鉄を、己のくるり、と回る勢いに任せて…鎧で守られているその部分に向けて凄まじい勢いで振り抜いた


まるでゴルフでもするように地面すれすれに緑鉄の先端を擦らせて、最大威力のその部位を容赦なく…



ラジャンの股間へ…



会場全体から「ウッ……!!」とうめき声が聞こえてきた…というか、会場に居る男達からだろうか



「ぃぎっいっっっ……ァっッっ…!!??!!?」



いくら高性能な鎧に守られていても、それを容易く破壊する一撃なのは最初の攻撃で分かっている…それが、男の弱点に向けてなんの躊躇いもなく振り抜かれると股間部分から鎧に向けてバキバキ、とヒビ割れが伝播していき…


形容し難い苦悶の声を漏らしたラジャンはそのままゴルフボールのように派手に吹き飛んでいき…片方の入場ゲートの門を突き破ってその向こう側へと姿を消した


その瞬間、いつの間に障壁を解除したのか…大銅鑼の音がタイミング良く鳴り響く


ペトラの勝利を告げる鐘の音が、今大きく試合終了を告げたのだった






ーーー





「ラウラ様。重症です…腕は切り落とされた物が残っているので何とかくっつきそうですが足と肩の傷は…見たこともありません。何をすればこうなるのですか?」


聖女タランサが心配そうに告げる視線の先には泡を吹いて白目を剥いたまま痙攣するラジャンの姿があった


一先ず人目が付かない選手の準備室に運び込まれたラジャンではあったが、試合が終わってからも意識が戻ることは無かった


まずは治療を施さなければ致命傷繋がる可能性もある傷だ…右腕は肘から切断され、肩と脚の腱は謎の魔法により消え飛び、脇腹と股間には強烈な打撲…


最初に切断された腕から聖女三人がかりで治癒を施しており、切り落とされた部分を繋げた状態で治癒をかければもう少しも経てばしっかりとくっつくだろう


動かすのに苦労するだろうが、そこはリハビリをしていればちゃんと動くようになる


打撲の方も問題はなかった、かなり酷く凄まじい衝撃があったのだと分かる程のものだったがここは普通の治癒でも問題無いので後回し…


問題は……



「…わたくしも見たことがありませんわね。切り取られたり抉られた…という傷ではありませんわ。まるで……かのような…これは厄介ですわね」



脚の腱と肩の傷だった


普通は攻撃された場所には攻撃による破壊の痕跡が傷に残るものだ


切断ならば刃物による斬撃痕、食い千切られたなら歯型や千切られた痕


高威力の魔法に抉られたなら、魔法を受けた方向から肉がその方向へと引き摺られている筈なのだ


なのに…ぽっかりと、突然世界から消えてしまったように肉が綺麗さっぱり無くなっている


治癒も傷を癒やすのが普通に可能な場合は肉体が続いている事が多い


切り傷ならば切られた部分を繋ぎ合わせるようにして癒やき、切断されたならば今行っているように切断された部位をくっつけたまま治癒を施せば良い


だが、治癒の難易度が高いのは『塞ぐ傷』ではなく『肉を再生』させなければならない時だ


しかし…そういう傷は『魔物に食い千切られた時』や『何かが貫通して向こう側が見えるような大穴が空いた時』だ


こんなに器用にで肩と脚を狙って肉が消し飛んでるなど…聖女達からすれば異様な傷跡だった



「少し、時間がかかります。あとは勝手ながら装備していた魔道具は全て解除させてあります。…随分と危険な物も装備されているようでしたので」


「よろしいですわ。……ペトラさんの様子がおかしくなったとは思いましたけれど、理由は間違い無くこのアーティファクトですわね」



頷いたラウラが、脱がされたラジャンから集められた大量の装備されていた魔道具の中から1つのアミュレットを取り上げる


目立たない赤い石が目立つように填められたそれに対し、鑑定魔法を行使すれば…不快そうに顔を顰めそれを地面に投げ捨て…



「ラウラ様、それは……?」


「洗脳のアーティファクトですわ。対戦相手の少女、ペトラさんに開幕で使用していたのはこれですわね。…この男はあの子を魂魄から隷属状態にして自分の物にしようとしましたのよ」


「っ……それはルール違反…いえ、人として軽蔑されるべき事です。運営に報告をしたほうが良いのでは…」


「そうですわね……私から言っておきましょう。それからーー」



ラウラの指先が指揮棒を振るうように、ぴっ、地面に向けて振るわれると…


顕現した黄金の立方体が先端を錐のように尖らせるよう変形させ凄まじい勢いで地面に叩きつけられたのだ


地面が揺れる程の衝撃と、錐のように鋭利な先端がセメントのような硬い地面に深々と突き刺さり振動と砂埃を巻き上げ、突然の破壊行動に聖女達も目を剥いた、が…



「ーーこのアーティファクトは、激戦に耐え兼ねて破損していた……そうですわね、皆様?」



黄金の立方体は、その鋭利な先端で赤石のアーティファクトをぐしゃり、と一撃で破壊しており、もはや原型は残らない程にばらばらにされた


治癒にあたる3人の聖女は「えぇ、もちろんです」と洗脳という卑劣な魔道具をこの世から消したラウラに尊敬の視線を向けるが…一級聖女タランサだけはその実、すごく冷や汗を流していた



(ほ、本当に仲が良いご友人だったんですか…!み、見たこと無いくらい怒ってますよねラウラ様!?そんな地面ごと潰すなんて…!)



あのペルトゥラス・クラリウスという少女がラウラの友人なのは本人から沢山聞いていたのだ…確かにエルフの少女の時から治癒に力入れてたりしたので分かりやすかったが、ここまで懐に入れた相手だったとは…


聖女達にとって、その怒りは正しく女神の怒り


こういう時はヘタな事を言わないに限る…



「消滅した部位はある程度肉が盛る程度で構いませんわよ。冒険者なのでしょう…お肉でも沢山食べていればその内戻るのではなくて?」



辛辣…一応治癒はしてあげるように言っているが渋々なのが丸分かりだ


そして、自分で治癒する気はないだろう…そのまま興味を失ったように「では、後はお願いしますわ」と言ってゆっくりと立ち去るラウラに両手を胸の前に合わせて祈るように頭を下げる聖女達


そんな彼女達に「あ、そうですわ」と思い出しように振り返り、倒れたラジャンのことを…いや、一部をぴっ、と指差しながらこう言った






「その股間の打撲に、治癒は必要ありませんわ」





僅かに漏れる黄金の魔力の波動が、彼女の怒りを表していた


聖女達は無言でこくこくと壊れたように頷くことしか出来ないのであった








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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【後書き】



「あ、危なかった。一時は脳味噌がジュースになって流れ出ていったかと思ったぜ…」


「い、いやカナタよ…そなた、脳味噌しっかりシェイクされとったぞ?ま、まぁ普通に起きて良かった…ラウラさんを止めた甲斐があった…」


「えっ、何の話?」


「気にしなくていいです、カナタ。こっちの話ですから。それよりも…結構沢山のコメントが頂けてたんですよ」


「んっ……みんな同じ事思ってたみたい……」


「同じ事って…なんだそりゃ…」


「「「『世界が終わる』…と」」」


「世界っ!?」


「本当に皆さん、綺麗に同じ事を考えていたみたいです。ペトラがあのまま寝取られ展開になったら脳が破壊される、とか…」


「寝取られなんてされたらカナタが魔神族と共謀して世界を終わらせる、とものぅ…」


「……カナタ、信用されてる…っ」


「おいおいっ、そんなっ………なんで俺のことそんなに分かってんだよ…」


「いやほんとに世界終わらせるのかカナタ!?わ、我的にはその…う、嬉しいが…」


「任せろ。世界の全てを塵に還してからペトラの洗脳が解けるまで……徹底的に寝取り返す!」


「寝取り返すっ!?」


「凄い言葉です、初めて聞きました…それはつまり…あれですね?」


「……またカナタの事を思い出すまで……徹底的に…ってことぉ…っ!?」


「そうだな…半年くらいかけて徹底的にかつ手加減無しで、どろどろになるまでしっかりと体に思い出させて…」


「ふぉっ……わ、我っ、あのまま洗脳堕ちしてたらもしかして危なかった…っ!?」


「みたいですね。多分、壊れる寸前まで物凄い勢いと期間、延々と愛され続けるハメになってたのでは?」


「うわ……そ、それ、凄いね……」


「……でも、逆にもしかして、洗脳されていれば必死なカナタに全力で愛してもらえていた、と?」


「!?…そ、それは危ない発想ですペトラ!」


「っ…ヤバいよ…!?…半年だよ…!?…しかも、徹底的とか壊れる寸前までだよ……っ!?」


「カナタよ……実はまだ洗脳の効果が残ってるみたいでな…?心が…ラジャン様とカナタの間で揺れておって…」


「っ!?ぺ、ペトラ…それはヤバいからちょっと…ちょっと家行こうか。大丈夫、大丈夫……水と食事は半年分あるから、な?」


「ぅおっ、き、急に担いで何処にっ…そ、そんなに愛したいのか、カナタよっ?………………えへへっ、このえっちめっ」


「ま、待って下さいカナタ!騙されてますっ!ペトラに騙されてますよっ!」


「…っあの顔……めっちゃ幸せそうっ…!くっ……なぜっ…なぜ私は隷属寝取られif展開の匂わせが無かったの……っ!?」


「無い方が良いのでは!?マウラまでそっちに行ってしまったら私はどうすればいいんです!?あ、ちょっとカナタ!……て、転移で行ってしまいましたけど、これペトラは…」


「……絶対無事じゃ済まない…というか…わざわざラジャンに「様」付けしてカナタのこと煽ってた……策士っペトラっ…!」


「くっ…!私だって気になってたのにっ!半年分の壊れかねないハードなやつ!」


「…シオンも大概…っ…でも…興味はあると言わざるを得ないっ…!」


「ですが、予想通りなら…3日後とかでしょうかね。少し待ってみましょうか」



〜〜3日後〜〜



「…あ、ほんとだ……ペトラから通信……」


「予想通りですね。出てみましょうか……聞こえますか、ペトラ?」








『ふっ、ふたりとも手伝ってくれぇっ!かっかなたがっ…止まらんっ!もう寝る時間以外ずっとしておるっ!あっ、待て待てカナタっ!も、もう朝から…くっぅぅっ……!!…加減無しがここまでとはっ…あぁっっ…!』


「「うわぁ……」」


『ふたりともっ!?聞こえているかっ!?ひんっ!?か、かなたっ、おちっ落ち着い…ふっおっ…!多いっ…多いかなたぁ…っっ!出しっ出しすぎ……っ!』


「「うっわぁっ……!」」


『へ、返事をしてくれぇっ!んむっぅ……!ふぁなたっ…まへっ…んぐっ……もうそろそろ一度抜い…んむぅぅぅっっ!!?はっ、げしっ……ーー』


「……あ、切れた…」


「……まぁ、楽しそうなので手伝いに行くのは来週でいいでしょう」


「…これがっ……『策士策に溺れる』…っ…!」


「確かに溺れてますね…カナタの愛に。ここでは描写できないくらいのえっぐい音してましたからね」


「……音の擬音入れたらBAN確定の凄い音だった…っ…でもっ……私達も突入する以外に道はなし…!」


「勿論です。こういうのは体一つで突撃以外にありません。……気になってましたからね、「壊れそう」って…どうなってしまうんでしょうかっ…!?」


「……やっぱりシオンも大概……というか、一番重症……そのうち、大変な目に遭うよ…?」


「上等です。ばっちこいなのです。それでカナタに壊されるなら…本望っ!」


「……というか…来週までペトラ、無事かな……これ聞いた感じ……かなり激しいんじゃ……?」


「……もう少し早く、行きます?」


「……だね…」

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