第80話 瑠璃が舞う絶壊の遊び


「本当に行かなくて良かったか?オアシス…楽しみにしてたんじゃないの?」



冒険者登録をした日から翌日…その日はただ外を出歩いて4人で回っただけの日となった


当初はカラナック観光名所の1つである巨大オアシスで泳ぎに行く、と行っていたのだが3人は街をふらふらと歩きながらのデートをお望みだったのだ


どうやらペトラとのふわふわしたデートが羨ましいとの事で、今度2人でそれぞれ回るとして今回は4人でする事になったらしい



「それだけではありませんけれどね。折角楽しみにしているのです、それならば…オアシスデートは優勝後の慰労に取っておこうという話し合いになりました」


「だな。それに泳いで疲れるのは良くないしのぅ。明日に支障が出ても困るだろう?ここは1つ、前日は英気を養うに留まろうという訳なのだ」



宿の部屋で各々がゆっくりと過ごしている今は、既に外で夕飯を食べてきた後


適当に湯を浴びてすっきり疲れを落とし、カナタはベッドの上で仰向けでゴロゴロしながら空間ディスプレイ上でコンソールを操作しており、シオンは机で本を読み、ペトラはソファに腰掛けて手にした武装・緑鉄ロクガネを布で拭いたりしてメンテナンス中、マウラはその隣でお菓子を摘みながら目を細めていた


なるほどねぇ…と漏らしながらもちょっとだけ…いや、全然ちょっとじゃない勢いで実は彼女達の水着姿を楽しみにしていたカナタはお楽しみが先に行って少しもどかしい気分…


ーーでも、今日楽しかったしいいか


と一瞬で考えを変えるあたり、カナタもカナタで彼女達となら何でも良くなっている


実は何日か前からシオン、マウラ、ペトラがそれぞれ取っていた宿の部屋は解約して大部屋1つへと移っていた


マウラがカナタと結ばれたことで各自の部屋を取る意味が無くなったのである…そう、一度結ばれたのなら全員同じ部屋でいいじゃん?といってカナタが気がついたら部屋が変わっていたのだ


ちなみに…この部屋のベッドは1つである


部屋の変更主が何故、大部屋にベッド1つ…しかもやたらと大きくて四人は余裕で横になれるベッドにしてあるのかは…まぁつまり、そういう事である



「明日の本戦だけどな、多分お前達3人は早々にかち合うと思う。って言っても、これ伝え聞いた話だけど」


「む?どういう事だ?」


「本戦の一番盛り上がる後半戦で「同門だから見送り…」なんて白けた真似させない為らしい。だから序盤で同門は合わせてから上に進ませるんだとか。ま、かち合う所まで勝ち進める選手ならさっさと同じチームは固めた方がいいよなぁ。確かに、準決勝とかベスト3戦で「はい、君達同じチームだから試合は無しでいいよ」とか言われても興醒めかぁ」


「流石に初戦からは無いと思いますが…成る程。とは言え、出場した感じは同じ門下のような者はそう居なかったような気もしますが…」


「確かに…我もそれらしき者達は見んかったな。もしかしてそこまでメジャーな存在ではないとか?」



疑問符を浮かべるシオンとペトラは、実は自分達は浮いた存在なのでは?と思ってしまうが、マウラはそうでもなかったようだ



「…あれ…?……何人か固まってた選手、居たよ…?…多分、同じ門下……動きが似てた……」


「第三予選にも同じ感じの奴ら居たらしいしな。…というか、そりゃライリーとペトラのせいだろうに…」


「「え?」」


「ライリーは随分とつまらなそうに最初やってたんだよ。その割に撃破ペースが早いから多分面倒な予選をさっさと終わらせるために片っ端から選手を片付けてたんだろうなぁ。無差別に潰してったせいでバラバラにしか生き残ったんだろ」


「…ペトラ…開幕で大きい一撃を撃ったから……多分、強い人しか残らなかったんだと思う……」



思えば、シオンはそこまで大勢を撃破する前にライリーと交戦し、その間に残り8人まで減っていたのだからそれまでの間に人数はあらかた減っていたのだろう


ペトラに至っては完全に自分のせい…見当たらないのも当然だった


カナタとしては三人の優勝はかなり堅いとは思っているのだが…なにせ、懸念すべきはライリー・ラペンテスだ


ラジャン・クラシアスは装備する魔道具でしか強さの幅が無さそうに見えた…その分、何をしてくるのか想像がつかないのが難点だが本人自体は強くない


だがライリーは違う


ラジャンとは違いそこの見えない力をまだ残しており、戦闘においては恐らく…技術の類はシオンとマウラを上回る


シオンの防御力を抜くパワーにマウラと同じように俊足を武器とし、実践と高度な教えによる高次元の戦闘術は凄まじいものがある


シオンですら、決戦装備無しでの特異魔法使用でようやく五分の可能性があるのだ


つまり…本人の実力でいけば相当にいい勝負


彼女達を鍛えたカナタですら、シオンが勝てるとは言い切れない



「……カナタ、何見てるの…?」



そんな中、マウラがソファからぴょんっ、と身軽に飛び跳ねて降りるとカナタの隣に飛び乗るようにしてベッドへダイブ。そのまま彼の真横に仰向けで寝転がるとカナタが操作しているディスプレイを覗き込む


先程からずっとカチカチと音を立てて何かを操作しているのが気になったらしい



「これ、今広げてる戦力配置。色々と考えてんだけど、どうにもなぁ…魔物が乱戦仕掛けてくる時点で正面からの勝負になるからあんまり小細工かけても意味ない気がして…」


「む、見せてみよ」「どんな感じですか?」



興味津々の様子でシオンとペトラまでベッドに飛び込んでくると揃ってカナタの横から顔を覗かせる


大きいベッドなのに密度がとても高い…あと心なしか温度も高い…



「…のぅ、カナタよ。この『イエローインパルス』というのは何だ?」


「それ、戦中偵察用のイエローカラーだな。戦闘中に空から敵の情報を送ってくれるヤツ。今回用意したのは8機一隊の15隊」


「偵察用で……120機…?」



「あ、これはなんですか?『バスタースパイダー』…なんだか『Ⅰ』とか『Ⅱ』とか色々種類がありますけど…」


「八脚型機動戦闘兵器、通称『スパイダーシリーズ』…陸上戦闘の主戦力の片割れでⅠ型が通常の連射魔法と近接戦用クローを装備したフォーマルタイプ、Ⅱ型は火属性爆発魔法を発射する戦車タイプ、Ⅲ型は曲射で範囲殲滅をする迫撃砲タイプ、Ⅳ型は重装甲にクローとシールドを持った近距離戦タイプ…まぁその他諸々、結構種類あるよ」


「その…気の所為でなければ、合計65000機と書いてありますが…」



「……あ、カナタ…っ、これ…他のとなんか違うよ…?…1つしか無い…っ」


「お、良く気づいたなぁ。それは最近ロールアウトした対四魔龍用の殲滅機動兵器『アルビオン』だ。一式陸戦型要塞級魔導戦車機兵…通称『ガルガンチュア型決戦兵器』の4番機でこいつの兄弟機に1番機の『ガルガンチュア』、2番機の『エンデヴァー』、3番機に『プルガトリオ』が居て『アルビオン』は末っ子の4番機なんだよ」


「…ちなみに、どういう兵器なのだ?その…名前からしてとても物騒な気が…」


「下半身が戦車で上半身が人型の全長約85m、武装を入れたらもっとデカいか。だいたい何でもぶっ壊せる大砲とか、群がる雑魚一掃用の魔法機関砲とか、地面ごと周り吹っ飛ばせる炸裂魔法とか撃てたり…あぁ、アルビオンには害鳥グラニアス対策で色々と積み込んだからなぁ。ちょっと他の奴らとは仕様が違ってて…」



楽しそうに言われた兵器の解説をノリノリでするカナタの様子はとても楽しそう…なのに何故だろう、全く安心できない


特にアルビオンという兵器の説明に力の入るカナタを前にしたシオンとペトラは思ってしまった…



ーーこれ、とんでもない兵力用意してない?



陸戦用の兵器一種類ですら、その数65000…その他にもなにやら沢山名前やら数やらが記されておりもはや目で追うのが億劫なほどだ


一見しただけでもこれだけの兵力を平然と動かしているのを見るに、この戦いに対してどれだけ気合が入っているのかが伺える


ちなみにマウラはカナタの隣で興奮気味に「…おぉーっ……じゃあこっちは……っ?」と色々聞いており、カナタも機嫌よく「はっはっは、それはね…」とまるで孫に話しかけられたお爺さんのように饒舌に語る



(ペトラ、ペトラ…カナタは結構平然としてそうですけど…これ、かなり気合入ってますよね?普通に考えて国家戦力を有に超えてますが…)


(だのぅ。カナタにとってグラニアスはそれ程厄介な存在という訳か。というか我、カナタの手製兵器って見たこと無いのだが…)


(あ、私はありますよ。学院襲撃の時に助けてくれました。確かその時の兵器に八本脚のやつがありましたね…多分それが『スパイダー』の1つだと思います)


(なるほど…案外そこら中に居る、という訳か。そりゃ何万もの兵器を魔法袋に入れるのは不可能だし、当然といえばそうか)



向かい合って小声で話すシオンとペトラ…そう、実は兵器と呼べるカナタの作品を間近で見たことがあるのはシオンだけであった


学院へのテロが行われた時がそれである


しかし、基本的にカナタは世に自分の作品が見つかることを避けていた為、むしろ見たことがないのは当然であった


そしてペトラも勘づく…今、何万という兵器達がこの地に集って来ているのは恐らく世界中に倉庫か基地のような場所が沢山あり、そこから集結しているのだろう事を


ペトラとしても…これは命懸けの決戦と言える大事件だ


それほどの戦いが間近に迫ってる…カナタの下準備はそれを改めて認識するには順分過ぎる情報だった



(我らが無事に帰れる保証もない…か。もしかしたら、腕の1本くらいは覚悟しておいたほうが良いかもしれんか)


(縁起の悪いことを…ですが、その通りかもしれませんね。言い換えれば、これは世界の存亡に繋がる戦いですから…)



シオンも目を細めてその言葉に首を頷かせる


命懸け…思えばそれほどの戦いなんてしたことがなかった


もしかしたら…それは覚悟しなければならないのかもしれない、と……ーーー



(……あれ?さっきからカナタとマウラが静かですね…)


(む、確かに…もう話し終わったのか……?)



カナタに背を向けて二人で話し込んでいれば、気が付くと自分達の小声だけが聞こえていた事に気が付く


おや?楽しそうに話していたのにどうしたのかしら?と思い2人揃ってベッド中央のカナタとマウラの方向を振り返り…













「んっ…あっむ…カナタっ……しよっ…?…ちゅ…んん…むっ……好き、好きっ……明日に向けて…いっぱい元気ちょうだい……っ」





「「あああーーーっ!!?」」





めっちゃ吸い付いてた


マウラが


カナタに


それはもうカナタの上に体を乗せて僅かでも離れてる所があるのも赦せないと言わんばかりに密着して、必死と言わんばかりに唇に食いつく勢いでキスしていた


もう舌とかにゅるにゅると複雑に絡んでる…いったいこの数十秒でどうしてこうなったのか


カナタもマウラの肩をぽんぽんと叩きながら「ま、待てマウラっ!ちょっ…んっ…ま…むぐっ……ふっ…う…っ……!」と落ち着かせようとしているようだが完全に真上に乗られたカナタに抵抗の手段は無い…宥めようとする言葉すらマウラの口の中に消えていき、言葉を作ろうとする舌は彼女の舌が絡め取ってその先の発言を赦さない


彼女の頬は朱に染まり、猫耳はぴくぴくと忙しなく動き、ふわふわの尻尾は悩ましげにくねくねとしている…そう、どう考えても発情中であった


カナタは食べられてる真っ最中である


シオンとペトラから声が上がる…そう、非難の声だ


自分達の隣でおっ始めようとしているから…ではない!


当然!


ずるいからである!


そうと決まればもはや取る行動はただ1つ…


着ている服を全て脱ぎ捨て裸一貫、今夜も激しい戦いに挑むのみであった



4人の夜は激しく熱く…今夜も長く続くのであった









ちなみに、3人をカナタがしたのは、だいたい8時間後の事であった


だいたい21時〜5時くらいまでの事である







ーーー






「行けるか、3人とも?」


「ええ、コンディションばっちりです。今なら何だって倒せる気がします」






「…本当に、大丈夫か?」


「ん…カナタは心配性……今、やる気に満ち溢れてるっ……!」






「…いや、本当にそれ大丈夫なの?」


「まったく…問題ないと言っておろう?何をそんなに心配しておる…」



客席のカナタが3人に向かって度重なる確認をしていた


時は武争祭当日、既にトーナメント戦は始まっており後は出番を待つだけとなっていた


ペトラが呆れた様子でカナタを見るも、カナタには心配するべき理由がちゃんとあったのだ…


そう…




「あんなにバテるまで昨日シてたのに本当に大丈夫なの!?」


「流石はヤった張本人です、自覚はあったんですね」


「今回ばかりは俺が暴走したみたいに言わないでくれる!?昨日の君達すんごい肉食系だったんだけど!?」


「言ったであろう?あれはだ、と…」


「俺からいったい何を補給したってんだ…」


「…それは……ナニとしか言えないけど……強いて言うならせ…」


「あ、言わなくていいっす…恥ずかしいから静かにしてて…!」



ばっ、とカナタが手のひらを突き出してマウラを止めた!


そう…結局火が着いたマウラに誘発されたシオンとペトラの3人と燃え上がる夜を過ごしてしまったのだから心配になるというものだ


つまり、カナタはこう心配しているのである…



ーー腰、抜けてない?



しかしそんな心配は他所に、3人は確かに絶好調に見えた


魔力は滾り、やる気は満ち溢れ、準備運動でぴょんぴょんと飛び跳ねる様子は全く夜更かしした後とは思えない


トーナメント表を確認してみれば、カナタの予想通りと言うべきか…3人は早々に合流しそうであった


シオンとペトラは1回戦を勝てば合流、マウラは2勝で2人と合流するような配置となっているのはやはりそういうことなのだろう


3人揃う頃には準決勝という訳だ


はぁ…とちょっと心配しながらも3人を少し離れた出場ゲートまで送って行くカナタ


出場ゲートは言わば建物の1階…観客席は3階より上にある


『変なことにならなきゃいいけど…』と心配しながらそそくさと上の観客席へ戻っていき、席に座る最中…ふ、と…何かが引っ掛かった


自分の領域内に何かが入り込んだ…その感覚に立ち止まって目を僅かに細める



(アマテラス、どうなってる?)


『各センサー、警戒機の情報を精査中。……データ上の異常は検出されません』


(なんだ今の…妙だな…。チッ…もっと大型の探査、警戒機飛ばしてれば感知してたか。アマテラス、3人から目を離すな。ラウラからもだ)


『了解しました。ブラスター・ジョーカー三機、大闘技場屋上付近に待機。インパルス三機、ラウラ嬢を上空を旋回させます』


(…こりゃ身に覚えのある嫌な感じだな。旅の中でも何度かあったぞこんな事…)



アマテラスは…いや、この街や会場内に潜ませた観測機からは違和感の正体が検出されなかった


だが、カナタ自身の感覚にそれは引っ掛かっている


禄でも無さそうな事が起きる予感に舌打ちをしながら観客席へと戻るカナタ


その先で見た光景は、カナタの予想をはるかに超える物だった








『これにて全第1試合終了ッ!勝者!エルフの麗しい美少女!シオン・エーデライトォォォォォォッ!続けて第2試合に移りますッ!』



「あれぇぇっ!?早すぎないっ!?えっ、さっき別れてから数分しか経ってないんだけど!?その間に3人とも終わったのかよ!?」



会場内の喧しいアナウンスが全ての初戦が終了したことを告げ、カナタの度肝を抜かれる声が虚しく廊下に響き渡る


先程出場ゲートへと送っていってからまだ観客席に辿り着けていないのに、3人の試合は瞬時に終わったらしい


いや、まぁ大凡の想像は出来るの…彼女達が力を抑える、と言ったのはあくまで予選だけ…魔力のセーブを掛けずに闘った結果、戦闘時間はほぼ無いに等しいまさに瞬殺といえる内容となったのだろう


彼女達の「絶好調」は、どうやら嘘でもハッタリでも無いようだった…





「歯応えがない」


「ですね」


「いや…あんな速さで終わらせたらそりゃそうでしょ…。俺、3人の試合見れなかったのよ?…早く終わりすぎて」


「悪かった悪かった。次からはしっかり見せてやるわい。しかしまぁ…これもカナタがを上げてくれたお陰かのぅ?」


「違いありません。想像以上のパワーが出ました…これは戦う前の恒例にするべきです、えぇ。」


「…気に入ったんだな」



客席に戻りその他の試合を観戦しながらシオンとペトラがうんうんと頷くのを見て、なんとも言えない気分になるカナタ…そんな高密度に体を重ねていたら戦闘よりそっちの方が疲れるのでは?とか言える空気じゃなかった…


だって、なんか本当にコンディション良さそうだし…



「さて、私とペトラはこれで合流…マウラは次の試合で勝てば私達と合流出来ますね」


「うむ。余裕の勝利、といきたいところだな」



これから始まるのが、第2試合…マウラの試合もここで行われるのだ


今、一つの試合が終了し…そして彼女の出番がやって来る…





ーーー




(…やっぱり…1人だと広く感じる…)



マウラは闘技場の中を進みながらそう思った


第1試合の時も感じたが、ここの大闘技場は一対一をするには広すぎる


まるでサッカースタジアムで2人が格闘戦をするようなものである



『さぁ続けての第2試合!ラヴァンからやって来た獣人の少女、マウラ・クラーガスッ!対するは謎の少年、ランッ!』



そのど真ん中でマウラも相対したのは…これまた変わった選手だった


若い…というか、幼さすら感じる紅顔の美少年といえるだろう


ふわふわとした紫色の髪に柔らかな笑顔、背丈は小柄なマウラと変わらないようなもので、その体付きも筋肉質というよりは普通のどこにでもいる少年的だ


中性的で、成長途中…その分、外見的にはマウラよりも幼く見えるだろう


だが…その分、計り知れない部分がある


マウラが言えたことではないが、こんな少年が予選を通ってこの場所にいる…いや、もっと言えば第一試合を勝ってここまで来ているのだ


どんな手品を隠しているか分かったものではない



「よろしくね、マウラちゃん。いやぁ、実は君に会ってみたかったんだよ。弟分から話は聞いてたからね、随分と魅力的な娘だった、ってね」


「…………誰のこと…?……私、君のことも知らないよ……?」


「あははっ!いいよいいよ、気にしないで。これはわ…おっと、僕の独り言さ。さぁ、その強さ…是非見せて欲しいな」



開幕の銅鑼が鳴り響く…その音に掻き消された筈の少年の最後に呟いた声に



ぞ  わ  っ



マウラの尻尾の毛がぶわり、と逆立った


言いようのない危機感がマウラの本能を突き動かし、一瞬にして真後ろへと飛び退る



「あれ?」



飛び退ったマウラを見て不思議そうな顔をして首を傾げる少年はその後に…楽しそうな笑いへと表情を変えた










直後



ズ バ ン ッ



破壊音を立ててマウラが先程まで立っていた地面が…横一文字に裂けた


いや…切れたのだ


まるで巨大なギロチンでも落ちて地面がざっくり切り裂かれたかのように突然、深々と切れ目が入ったのである


良く見ればいつの間にか少年の手が真横に軽く振られたような形で動かされており、それを見てマウラはたった今何をされたのかを理解した



(……っ…手刀…!…ただ手刀で腕を振っただけ…っ…!…この人……すっごく強い……っ!)



自分の危険察知と俊敏性がなければあのままバッサリいってた可能性があった…マウラもそれを理解して戦いのスイッチが入る


体を伏せるように両手を地面につき、四つん這いに近い形の格好になりそのバヂバヂと瑠璃色の稲妻を纏い始め、膨大な魔力が彼女の肉体に満ち始めた



「あははっ!凄いなぁ。これはあの子でも苦戦するかもなぁ。さぁ、始めよう!死んだら駄目だよ!」



少年の腕が2度、掻き消える…いや、そう見える速度で動かされた瞬間にマウラは反応した


空間が弾けるような音と共に残像を残すような速度で瞬時に移動を開始、その直後にまたもマウラがいた場所へ十字の斬撃が地面を斬り裂く


肉眼での視認が困難な速度で動くマウラが稲妻を纏わせたガントレット…青鉄アオガネを構えて低姿勢から少年の背後へ突入


その拳を振り翳して背中からの一撃を叩き込もうとした瞬間…



「うわぁ、速いねほんと。僕も見逃しちゃうかも……なーんてね?」


「!?」



少年の視線が完全に…高速移動するマウラを焦点に捉えていた事に驚愕するマウラがまたもや背筋を這うような悪寒に反応して地面と背中すれすれになるまで姿勢をガクンと引き下げた


マウラの目にはスローモーションで見えていた


少年の手刀が、体をほぼ横倒しにして避けた自分の体の真上を……腹と、胸の先と、鼻の先端を髪の毛1本挟むかどうかの距離で通り過ぎていくのを


マウラが突入する軌道上に置かれた手刀は動かされることすら無く…それは彼女が勢いよく駆け抜ける力だけでもすっぱりと肉体を斬り裂いていただろう



「……くっ…………!」



ほぼ横倒しの体を、高速移動の中で地面に接触させること無くアクロバティックな動きで跳ね上がって姿勢を元に戻すと、すぐさま少年へと視線を戻し…




動くこと無く、少年の手が指で突くような動きでこちらへ何度も動かしているのが見えた


はっ、とマウラは目を見開き、即座に回避は間に合わないと判断すると瞬時にガントレットで固めた拳を構えて連続で正面に向けて拳撃を振るう


対戦相手の少年はかなり離れているのに、その場で拳を振るう姿は妙に思えるだろうが…そのガントレットの装甲が拳を振る度に連続で「ガンッ、ガガガッ、ガキッ、ガガガガガガガッ」と何かを受け、弾き飛ばすのが音と、装甲が弾く度に瞬く火花のような閃光を連続で放てばそうも思える者は居ない



(…指弾……っ!…しかも…っ…弾になる物の代わりに……衝撃みたいなのを撃ち出してる……っ!……それに…速いっ…避け続けてたら攻撃出来ない……っ、ならっ!)



本来は石や金属を弾き飛ばす技である指弾…それを弾丸のように衝撃に近い何かを指弾を連射してくる少年に対し、回り込んでの一撃を辞めた


こちらを迎撃した時の反応速度は…マウラの想像を超えるものがあったからだ


自分の速度が、こちらに返すカウンターの一撃を致命傷に変えかねない以上、マウラが取る戦法は背撃から正面突破へ切り替わる


目にも止まらぬ速度で拳を振るい、全ての指弾を片っ端から弾き飛ばしながら正面に向けて突撃した


少年の指弾を全て弾き返して彼の元へと迫るマウラに対し…少年は未だ動く様子を見せずに笑顔で彼女を見つめている…



「へぇ……速いだけじゃないんだ。どれ…受けてあげようかな…!」


「…ッ…!」



指弾の嵐を正面から突っ切ったマウラがその勢いのままに少年へと拳を浴びせる


先程のような大振りな一撃で決めるスイングではなく、その速さを生かした瞬速の拳撃…それを連続で打ち込みまずは一撃を狙いうつ


が、少年はその場から一歩も動くこと無く頭へ放たれた初撃を僅かに首を傾けるだけで回避…そこに続く彼女の連撃を掌や手の甲で最小限の動きで体の外へと流していく


一瞬の打ち合いで十数発の拳を流されたマウラはその場で小ジャンプの後に回し蹴りへと繋ぐ


その場から未だに動いていなかった少年へと横薙ぎに放たれた一蹴は一番避けにくい横っ腹を薙ぐようにして放たれた



「すごいや!体術、強化、回避、判断、受け!全部すごい!ねぇ、うちの子にならない!?マウラちゃんだっけ?わ…僕の弟分とも気が合うよきっと!」


「っ…いやっ……!…なんか君…変…っ!……っ!?」



その回し蹴りを…片手で掴み取られたマウラは流石に驚愕を隠せなかった


足首を掴んで受け止めた少年そのまま体を回転させるようにして…マウラの身体をぐるぐると振り回し始め、マウラも流石に抜け出そうと藻掻くも…信じられない事に片手で足を掴まれているだけが、どんなに動いてもびくともしない



「ほら!僕君のこと気に入ったんだ!ねぇ、どうする!?返事くれるまでぐるぐるしちゃおっかなぁ!」


「……だからっ…やっ……!」


「あははっ!そう言う姿も可愛いなぁ!あ、そうだ、僕の弟分も結構軟派な奴でさぁ。君、あいつの彼女になってあげない?他分野相性いいと思うんだよ!」


「…勝手ばっかり……!…もういい…っ!…

雷撃衝サンダー・フォース』…ッ!」


「うおっ……とと…っ」



振り回されながら、マウラがむっ、と苛立つような声を上げて拳と拳、ガントレットをガツン!と打ち合わせるとマウラを中心に球状の範囲を、瑠璃色の雷撃が埋め尽くした


それも一瞬ではなく…バリバリバリバリッ、と轟音を立てて球状の雷撃を維持しており近くに存在する物は全て破壊される…稲妻の領域


マウラが地に足を付けて、その魔法…雷撃衝サンダー・フォースを解除する。少年はマウラの脚から既に手を離しており、いつの間にか数十mも先の魔法範囲外へと出ていたのだ


しかし、彼の着ている服は2箇所ほど焦げ目が付いており少年はそれを意外そうに見て、摘んでイジり、楽しそうに笑う



「魔法もすごいんだ…すごいや。ますます…君に興味出てきちゃったなぁ」



あの範囲内を焼き尽くす雷撃の領域から、ゼロ距離に居たはずなのに…雷撃僅か2本が彼の体を掠めただけ


それにマウラの顔は険しさを帯びる


可能性は2つ…1つは魔法防御を施して離脱した。しかしのこれはあり得ない…2本の雷撃が服を焦がすだけで済むような魔法防御ならばそもそも全て防御で弾けている筈


喰らい方が中途半端なのだ


もう1つの可能性…それがマウラの危機感をさらに膨らませていた



(……私の雷撃より……速い速度で動いて殆ど避けた…!……あの2つの命中痕は…多分、当たってもあんまり効いてない…!……特異魔法を使ってない時に戦ってたカナタと同じ…っ!)



そう…この戦況はマウラにとってかなり身に覚えがあるものだった


物理が効かず、魔法も効かず、こちらに対応してくる…それはまるで、自分達が特異魔法を使用できなかったあの時に戦っていたカナタと同じなのだ


つまり…



ーー普段の自分とは隔絶した力の差がある



その証明である


マウラの身に、異質な魔力が溢れ出す


先程の雷撃や強化魔法の魔力の輝きとは違う…深く、濃く…それでいて激しい


もはやこの相手に…この少年にこの魔法を使わずに戦うことは自殺行為だと、判断した




「……いくよ…ッ……雷焉回帰ハイエンド・ボルテージ…ッ……単装雷心シングル・コア…!」





ーーー




「なんだあの小僧…!?マウラの速度を容易くいなすなど普通ではない!こ、こんな強者がまだ残っておったのか…」


「凄いです…受け方も、ただ受けるだけじゃなくて流すみたいに…今のマウラがあそこまで手玉に取られるなんて信じられません…!」



その光景は、親友二人に驚愕を覚えさせるのに十二分な威力があった


マウラは強い…それは特異魔法を使わずとも実力を使わずとも、その力は学院に入学する前の比ではない


その彼女が…得意の速さで受け裁かれている


シオンとペトラからすれば、このレベルの相手が突然目の前に現れるのは驚きどころの話ではなかった


マウラの体が、幾度かの攻撃を経てついに…特異魔法の輝きを身に宿す


彼女が本気の力に差し掛かった証明


二人が固唾を飲んでマウラの闘いを見守る中、カナタもまた、険しい視線で闘技場内に視線を送っていた




「……あいつ…………チッ、面倒な事を……ッ」




僅かな声で、悪態をついた…その声は、盛り上がる会場の声にかき消されて隣の2人にも届くことはなかったのであった









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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【後書き】



ーーここまで読んでいただき、ありがとうございます


作者です


また新たにレビューコメントをいただきました、ありがとうございます


いやめっちゃ嬉しいです


あと、私創作活動始めてから初のギフトいただきました


ありがとうございます、ほんと


1人で「えっギフトって何?なんかあたったの?」とか最初騒いでおりました


とてもモチベーションになります…ウレシイ…ウレシイ……





ーーそれはそうと聞いてくれカナタくん


「えっ、なに急に…俺、前回からあんたが話に入ってくると碌な事ない気がして…」


ーー実は最近、コメントをよくいただくんだよ


「めっちゃいいじゃん」


ーーそう、めっちゃいいのよ。なんだけどさ…


「素直に喜んでいた方がいいぞ?そりゃいいコメントだけな訳ないんだから、反省のコメントだってあるに決まって…」


ーー…最近、本編より後書きの方が面白い、なんて言われてるんだ。もしかして…こっちの漫才のほうがクオリティ高いんじゃないかってね…


「えぇーーー……この下ネタ乱れ打ちの珍劇場人気なのかよ…。キャラ崩壊にメタ要素ばっかりの作者の気休め場所だろ、ここ」


ーーうん。ただ…ちょっと気を休めすぎたみたいだね。私、こういうアホみたいな掛け合いとか大好きだからさ、つい気合はいっちゃって


「ま、褒めてくれてるんだからいいだろ?別に悪く言われてないし」


ーーつまりだよ、カナタくん…その内読者人気を反映して本編の長さを後書きが上回る可能性が…


「おい本編一万字超えてんのにそれより長く後書き書くなよ!?というか半分以上後書きのノリで書いたらほぼ官能小説だろ!」


ーーなんてことを言うんだカナタくん。健全な小説じゃぁないか。これがダメなら矢吹健◯朗先生の作品は少年誌に載せられないよ?


「どえらい大御所引っ張ってくんじゃねぇ!」


ーーあ。ちなみに最近よくコメントで来るのが…


「え、まだなんかあんの?…というかコメントそんな貰ってんのこの話…?」


ーーノクターンまだ?っていうやつなんだけどね…


「それお前が遅いだけじゃねぇか!さっさと書いて投稿しろよ次は俺とシオンのあっつあつ回だろ!俺だって早く字で読みたいんだから!」


ーーえっ、自分のやってること読みたいの?…ちょっと歪んでない?


「お前に歪んでるとか言われたくねぇ…てか、マウラ回とかその他色んな場面でシてるとこあるだろ。書こうとしたらお前…」


ーーうん。何話も書けるね。エロ小説だけで


「うわぁ……これ、本編がBANされたらノクターン移住間違いなしだろ…」






はい、皆さん本当に遅くなって申し訳ないです…


ノクターンの方は時間を見つけて鋭意執筆中ですので少しお待ちを…


急かされたから、とかじゃなくて普通に私が書きたいだけなのです


ドロドロでぬるぬるでぐちゃぐちゃのやつ


なので催促貰って嬉しいくらいです…「需要あるんだぁ」とか思えてワクワクしてます


本編と共に今後ともよろしくお願いします

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