第79話 冒険者、始めます


とても沢山の視線を集めていた


大闘技場から出て大通りを歩いていれば、まず感じたのは大量の視線だった


もしも視線に物理的な力があるなら身動きが一切取れないであろう程に、物凄い数の視線がギラギラとこちらに向けられている


…いや、此方…というか両側の3人の少女に向けられている


ただ単に3人が目も眩むような容姿の少女だから…というだけではない


明らかにそれ以外の種類の視線が混ざっている…それは即ち…

 



畏怖畏敬の眼差しである




シオンはかのレオルドが育てた唯一の弟子にして現在最有力の若手冒険者ライリー・ラペンテスと激闘を演じ、クライマックスさながらの相打ちを披露しながら見事に両者トーナメント進出を果たした


マウラはこれまた目立たない相手と思いきや…やり手の金級冒険者パーティ「タンゼア」の不意を付いた奇襲を見事に返り討ちにし、多対一の不利を見事に覆して余裕の勝利を収めた


ペトラに至っては開幕で過半数を超える出場者を一撃の下に戦闘不能にし、金剛級冒険者の実弟であり数多の魔道具を扱う金級冒険者ラジャン・クラシアスを一対一で蹂躙したのだ



そう……目立ちまくっていたのである



武争祭でのこれだけ目立つ戦績を叩き出している上に、その容姿はどこかの姫を彷彿とさせるような美しくも愛らしいものなのだから、目立たない筈もなかった


そして、そんな最注目の中の3人が謎の仮面男にべったりくっついて楽しそうにしているのだから尚更向けられる視線の数は増える


というか、くっついているどころか超イチャイチャしてるように見える…あのヘンテコ仮面は何者なのだろうか?と誰もが気になっていた


しかもヘンテコ仮面が侍らせているというよりも、少女達のほうからべったりだ


一体何をしたらそんな羨ましい状況になるのか?という周囲からの疑問が聞こえてきそうである




大闘技場の控え場所でちょちょいとゼネルガ・クラシアスを追い払ってからさっさと街へと抜出して来たのは良かったが…どうにも観戦していた者達にとって彼女達は相当に注目される存在となっているようだ


とは言え、3人は今とても機嫌が良い


特にペトラの機嫌が凄く良い


どうやらゼネルガに触れられそうになった時にカナタがその怒りを僅かに漏らした時の感情の波がとても嬉しかったらしく、今もカナタの腕をしっかりと組み付いたまま「♪」が頭の周りに浮かびそうな程に上機嫌で歩いている



「思いっきり目立ってるなぁ。やっぱこっそりトーナメント進むなんて無理だったかぁ」


「うっ……む、無念です…。もっと上手くやれると思っていたのですが…こ、これは全部ライリーのせいです!」


「んっ…!…私もこっそり出来てた……っ。……変な冒険者が来なければ…誰も気が付かなかったのに……っ!」


「うーん…それ抜きでも無理だったんじゃない?なんかお前達は、そういう星の下に産まれてきてる気がする…トーナメントでもなんかありそうだよなぁ」


「なんて不穏な事を言うんですか…」


「だから言ったであろう?どうやったって無駄だから諦めた方が良い、とな。さて、カナタよ…これからどうする?暇であろう?」


「決めつけやがって…まぁ暇だけどね。あ、そうだ…」



暇なのを否定しないカナタだったが、思い出したように言い出したのは、3人にとっても少し「あー…」となる内容ではあった


そう…一度、なんだか碌な事にならなそうなのでスルーして帰ったが、今ならスムーズに達成できるのでは?と思ったのである


何故ならその問題は…カナタが手ずから片付けてしまったのだから




「冒険者登録、行くか」







「…本当に行くんですか?別にここでしなくても良かったのではありませんか?」


「んっ……前もなんか変なの居たよ……?…なんな……どんなのだっけ…?」



シオンは眼の前に聳える、一度は立ち寄ったカラナック冒険者ギルドに悩ましげな声を漏らしていた


別に良く見てもらう分にはシオンとしても問題ないのだが、なにせあそこまで欲望丸出しで見られて好き勝手に言われるのは気分が悪い


良からぬことばかり考えていそうなあのサブマスターが居る限りここに来ることはないの思っていたのだが…


ちなみにマウラに至っては名前すら覚えていないどころか、顔も覚えていなかった…興味がないにも程がある



「うむ、それについては色々と解決しておるらしいぞ?…そうだろう、カナタ?」


「まぁね。色々とあったのよ、色々と」


「らいしのぅ」



カナタが遠い目をしている…それを見て楽しそうに含み笑いをするペトラが視線を逸らすカナタの横腹をつんつんとつついている


シオンとマウラもそれを見て何となく察しがいった…



ーー……何かしましたね?


ーー……なんかしたんだ…?



「あーほら、さっさと行くか。うん」



そんな2人からの視線に耐えきれず、冒険者ギルドの中へと入っていくカナタに、3人は顔を見合わせて笑顔を浮かべたのであった





ギルドの中はあいも変わらずな雰囲気で、カウンターに居る受付嬢も変わらずのようだがどこか職員の雰囲気が違うように見える


何かに気を張らずにいられる理由でもあるのか、前来た時よりも肩肘を張っていないような雰囲気だ


何よりも、一目みただけで違いが出ている点があった



女性冒険者の数である



あの時、良く考えればギルド内は男性冒険者ばかりが居たのだ


それが今、随分と個人やパーティで女性冒険者の姿がそこらに見えるようになっているからなのか、ギルド内部の賑わいも前とは1段違ったものとなっている



「じゃ、改めて…冒険者登録してもらっても良いですか?」



カナタが受付嬢にそう尋ねれば、前回と違いこちらを確認した彼女はパッ、と笑顔を浮かべて頭を下げる



「皆さんあの時の…!その節は本当に失礼しました!その…今回こそは登録の方をさせていただければと…」


「うむ……我ら三人、新しく登録させてもらうかのぅ。今度こそ、だ」


「はい!…ところで、申込用紙ってお持ちではないですよね?あの時書かれたものは何故かどこにも見当たらなくて…」



改めて受付をしてくれる彼女も、サブマスター迷惑をかけたのはしっかり感じていたらしく…しかし、前回確かに書いたはずの申込用紙はごたごたの最中でどこかへ消えてしまっていたのを思い出して訪ねてきた


これに「あっ」と顔色を変えたのはペトラである…そう、見当たらないのも当然


サブマスターに書いた申込用紙を使われそうになったあの瞬間、ペトラが放った刻真空撃エストレア・ディバイダーによる魔法の弾丸が3人分の申込用紙をこの世界から消し去ってしまったのだから、見当たるはずがないのである


目の前で受付嬢が「すみません!私の管理不足で…!」と頭を下げるのを見るペトラが少し気不味そうに「あー、うむ……き、気にするでない…」と小さな声で頷いていた…


一先ず3人は受付で再び同じ内容の申込用紙を書くこととなったのだが、やはり気になるのはその内容のようだ


少し難しそうな顔をして、こちらにだけ聞こえる声で受付嬢はそっと話してくるのは…



「前回も確認の途中でしたが…3人全員が特異魔法の所有者というのは間違いありませんか?虚偽の記載は罰金の対象になるので」


「はい、間違いありません。とは言え、全て自己申告ですからね…もしかしてこういう場合は…」


「そうですね……我々職員の前で、一度見せていただければ手っ取り早いです。ギルド職員には高位の魔法使いも所属していますから、確認出来れば間違いありません」



特異魔法はそれこそ、出会えれば幸運なくらいには希少な魔法であり普通に暮らしていて出会えないのも当たり前にあるような存在である


正直…カナタの周りだけ特異魔法の数がインフレしているだけであり、本当ならば3人纏めて特異魔法の使い手がギルドに現れて登録するなど天文学的な確率としか言いようがない


受付嬢が信じられない、と言うのも無理のない話であった


特異魔法がどうかは高位の魔法使いがその力を鑑定する事で確認できる


鑑定によって発動した魔法がどのような物か、どんな名前の魔法なのかが視認できるのだ


このような確認法が存在するからこそギルドに対して、自分を特異魔法持ちである、と偽ることは非常に難しい


特殊な通常魔法と特異魔法は見分けがつかない場合も多いのだ



「宜しければ確認させていただければ早いですね。どうですか?お時間があるならすぐに終わりますよ?」



顔わ見合わせる3人は、今回こそ怪しい連れ込みではないと判断し、そろって「お願いします」と声を合わせる


カナタはそんな彼女達の背中をふらふら、と手を振って見送り酒場のような形態の集会所の椅子に腰を掛けて待つことにするのであった




ーーー




【side カラナック冒険者ギルド】



数年も前から常態化していた問題があった


それはギルドの2番手の席に座るギルドサブマスターの地位に着いている貴族の息子…彼はこのカラナックを収める大貴族の次男坊であり、ギルドマスターの親しい友人であるその貴族から直々に「せめて食っていける程度に頼む」と言われて引き取る形で事務局員に着いたのが最初の事


最初から褒められた態度ではなかったが仕事ができない訳ではなかった


不足はない程度に仕事をこなしていたのだが、ある時突然事務局員の纏め役をしていた男が自ら職を辞したことに始まる


最初はなんの違和感もなかった…ただ「実家の事情でギルドから離れる」とだけ言って辞めていっただけに見えたのだが、これと同じ現象は彼だけに留まらなかったのだ


次点で事務局員の纏め役に着いた男は、その立場に着いてから10日もせずに何も言わずにギルドへ姿を現さなくなったのだ


皆が心配したが、その後手紙だけがギルドに送られ「突然抜けて申し訳ない」というような旨だけが綴られていて不気味な疑問だけが加速したのだが…その次に同じ立場に着いたのが、貴族の次男坊だったのである


それから計七度…同じように、彼より上の立場の人間が突然ギルドから抜出して空いた席に彼が座り…そんなことを繰り返していく内に昇進もなにも起こらぬままに、空席を埋めていく形でサブマスターという地位まで着いてしまったのだ


流石の職員も理解していた…この男が裏で手を引いていたのだろうことはどう見ても明らかだった


彼の目上ばかりが都合よく連続で消えるなんてある訳もないのだから


その手腕は、巧妙で狡猾…ギルドマスターでさえその尻尾は掴めず「次、ギルド職員に不義理を働けばどうなるか」と詰めよった事によりようやく彼の凶行は収まりを見せていく



筈だった



彼の欲望は、地位をある程度上げた次に自らを飾る女性へと向けられた


当然、こんな男に近寄る女性など居るはずもなかったが、彼はそれを弱みや力だけで侍らせる暴君の如きやり口で叶えようとした


カラナック冒険者ギルドからは秘密裏に冒険者達へと勧告が行われた


専属冒険者…それになってしまえば彼に進退の全てを握られ冒険者生命と引き換えに彼のモノとして扱われる…最初のやり取りをギルドマスターがそれとなく防いでからは、彼は既存の冒険者は諦めて自分のことを知らない外から来た冒険者やなりたての初心者を狙うようになった


気付けない間に、何人かの新人冒険者や登録しに来た女性に手を出し、大きな問題に発展していた


それも、女性達からの打ち明けは無く、その慕いし人物からの報告でようやく明らかになった程に手口は卑劣かつ巧みに行われていた


ギルドはギルドマスターの一存だけで職員の排除は実際に行えない


出来たとしてもすぐには不可能だった…時間を与えればどんな返しの手を打つかわからない



そんな時だった



その1人の少年と3人の少女達が現れたのは



受付嬢も、カウンターの奥で事務に勤しんでいた男性職員も一目で視線を奪われた



真紅の髪をし、眼鏡をかけたエルフの少女


瑠璃色の髪をした小柄な猫獣人の少女


純銀色の髪をした凛々しい魔族の少女



どう見ても、その辺の「美人」とはレベルの違う美少女達は明らかにサブマスターの意識を根こそぎ持っていくのに十分すぎたのだ


我先に…申込みから自分だけの部屋に誘い込み、様々な話やメリットなどを付けて専属冒険者へと仕立て上げようと画策するその行動…可笑しいと思う程に相手にしていない少女達には全く効いておらず


ならば書いた申込用紙を手にしてしまい、受理したことにして自分の専属冒険者として抱き込もうとするも、何故かカウンターに放置されていたはずの申込用紙は跡形もなく消えていたり…


そのまま少年に連れられてギルドを去っていったのを見送るしか無かったサブマスターの様子は、見ていてとても胸のすく光景だった


しかし、彼は裏ルートや非合法な手段を問わずに手を出してくることは分かっていた


彼女達の身の安全を願うばかりであったのだが…





そのサブマスターが数日後に、ぱたり、と姿を表さなくなったのだ


何でも…カラナック領主である自分の父に、犯罪行為や様々な違法手口などの真っ黒な部分を突き明かされ、その領主の名の下に法の裁きによる制裁が下されることになったと言うのだ


ギルド職員は両手を振って喜び、すべての冒険者にこの件を通達…ここ数年、活気が失せていたカラナック冒険者ギルドは男女入り交じる賑やかで活力のある姿を急速に取り戻していたのだ



そして、その切っ掛けとも見えた少女達が今、ギルド内部の練習場に3人揃っていた


練習場は初心冒険者に訓練や講習を施す屋内運動場であり、ここで闘いの基本や野営の方法を初心者は学ぶのだが、魔法の適正を調べるためにも使われる為、運動場は頑丈な壁と天井に土の地面で固められている


ここで今、少女達の魔法を確かめるのだ






「って言ってもな。3人揃っていた特異魔法なんてあり得るのか?長年冒険者の魔法見てきてっけどそんなレアケース見たことねぇぜ」


「それはそうですけど…申請がある以上はミッヅさんに確かめていただかないといけませんので。持ってないようならすぐに終わりで構いませんから」


「なるほどねぇ。ま、仕事はするぜ嬢さん。なにせ、あんた美人だしな」


「もう…真面目にやって下さい…」



初老くらいの小柄な老人が、地面スレスレのローブを羽織って運動場を受付嬢と共に歩いていく


彼がこのギルドで魔法関連の確認を担当してくれている魔法使い、ミッヅ・ニニンツ


容姿よりも進んだ御年91歳の元白金級冒険者であり、今はギルドの御意見番として席を置いてくれている老人である


特異魔法無しに地の属性魔法を強みとして白金級までのし上がり、魔神大戦禍でも活躍をしていた一線級の冒険者だったが、カラナックに腰を据えて穏やかな老後を過ごしており、こうして冒険者ギルドからのお願いを聞いて魔法の力を奮ってくれるのであった


ちょっと口が悪いのと美人に弱いところがあるが、皆から頼られるお爺さん


その彼が、どうにも胡散臭そうな顔で受付嬢…ミュラのことを見て尋ね返していた


そう…彼程のベテラン冒険者であろうとも、生涯3人同時に特異魔法の所有者が現れた事など一度としてあったことは無い


ミュラから話を持ってこられた時は一体何の冗談なのかと笑い飛ばしそうになったものだ


しかし、この運動場の中に多数の冒険者がわらわらと一目その特異魔法を目にしようと好奇心からずらりと集まっているのを見れば彼もやれやれと溜息をついてしまう



「ったくよぉ。おい暇人どもォ!見せモンじゃねぇぜ!失せろ失せろ!」


「そう言うなって爺さん!俺達の後輩がどんなのか、気になるじゃん?」


「そそ。ましてや特異魔法だって言うから、こりゃ見ないと損ってもんだ」



野次を飛ばす冒険者達…どうやら聞き耳を立てていたのか、はたまた最初に彼女達が来た時のサブマスターとの一悶着を憶えている者が居たのか…


噂の特異魔法三人組を見ようとギルドに居た冒険者達がわちゃっ、と集まって見学しに来ておりこれにらミュラも額に手を当てる始末…


ノリは良いのだが「ちがう、そうじゃない…」と言いたいらしい


今更追い出すのも時間がかかってしまうのだが…



「私達は大丈夫ですよ。良ければ、このまま始めても構いません」


「ギャラリーがおる前で魔法を使うのも、学院と武争祭とも変わらんからのぅ」



エルフと魔族の少女は気にしない風にそう言った


……獣人の少女は興味無さそうに尻尾ゆらゆらと揺らしながらちょっと眠そうに目を細めていた



「ほほぉ…これまた別嬪さんばっかり。こりゃやる気も出るってもんだぜ。どうだ?この後お爺さんとそこでコーヒーでも…」


「ミッヅさん?」


「冗談だってぇの…半分は…。どれ、早速見てやるか。…起きろ、岩石兵ロックゴーレム



ミュラの鋭い視線に射貫かれたミッヅが「へぇへぇ」とその視線から逃れるようにそっぽを向きながら腰の短杖を引き抜き、くるりと回す


次の瞬間魔力の迸りが地面へと至り、土を固めた運動場の地面から生え出てくるようにして、3mはあろう人型のゴーレムが姿を表した


巨岩と小岩を繋ぎ合わせたような見た目のそれは、魔力によって強靭に固められた岩が繋ぎ合わさって出来ており当然ながらその辺の岩より遥かに硬い…それが3体同時に現れたのである



「さ、好きに魔法をかけてみな。ぶっ壊してもいいぜ?お前さんらが魔法使う時に鑑定で見せてもらっからな」



ほれ、とゴーレムを指差すミッヅは魔法により地面を隆起させて簡単な椅子を作り、そこに「よっこいしょ…」と座り込む


それみ見て…冒険者達は笑った



「意地悪言うなって爺さん!このギルドで爺さんのゴーレム壊せたの5人も居ないだろ!」


「俺の時なんか「壊せるもんなら壊してみ」なんて言ってよ…。可愛いからって手抜くなよ爺さん!」


「抜かせ小童共!手なんか抜いてねぇぜ!この程度も壊せねぇテメェの弱さを恥じろってんだ!」



ミッヅが目を取り上げて声を上げた冒険者を指さして声を上げるとロックゴーレムまでつられてミッヅと同じように指をビシッと指しているのがどこかシュールだ…


ゴーレム壊しはこのギルドの名物である


かつて「岩壊のミッヅ」と恐れられた彼のゴーレムは、このように杖一振りで作られたものでも非常に頑丈かつ力があり、金級冒険者ですら表面に傷を作るだけに終わっている


今、この場に野次馬しに来ている冒険者全員がこの名物を通っており、そしてこの場の誰一人として…男女関係なく、ゴーレムの一部ですら壊せた者は居ない


だが……そんな野次を飛ばす冒険者達に喝を入れながらも、ミッヅの目はふざけた様子は無かった


白金級冒険者……頂点である金剛級に次ぐ英雄と呼ぶに相応の実力者


…その目が、容姿だけで実力を見抜けぬ程に節穴な訳が無かった 



(…可憐な容姿に惑わされそうだが…こやつら、強いぜ?少なくとも、ここに集まってる馬鹿共の百倍は強いかぁ?)


「では、私から行きます…特異魔法で壊せば良いんですね?」


「おうよ、遠慮なくぶっ壊せ。鑑定すっから何秒かは魔法使ったままにしてくれよ?」


「分かりました。では……」



エルフの少女が前に出た


ミッヅはその目に鑑定魔法の光を宿して見つめれば…その少女の体が膨大な魔力によって満たされ、溢れるのをすぐに知覚する


特徴的な真紅の魔力光…その確かな輝きの向こう側に、異質な魔力を感じ取った


それを凝視し…脳裏にその言葉が思い浮かぶ



「ミッヅさん、どうですか?」


「ふむ……メモをせい嬢さん。ーーーシオン・エーデライト…特異魔法名『極限臨界エクスター・オーバーロード』…」


「っ、は、はい!」



ミッヅの真剣な声に突き動かされて手にしたバインダーに挟む紙にその情報を刻んでいく


異質な魔力を纏ってゴーレムへと歩み寄るエルフの少女へさらなる鑑定魔法の行使していくミッヅノ目にはその魔法効果が大雑把に写る…詳しく見ることが出来ないのは相手の魔力が強くて鑑定が届いていないからだ



「…極限臨界エクスター・オーバーロードの魔法効果は……む?ただの「強化」…?そんなアホな……それだけの魔法が特異魔法な訳が……」



強化……それしか見えなかったのだ


強化魔法ならば魔力を使える者なら誰もが習得できる


それなのに、希少な特異魔法の力が「強化」というのはなんとも地味…


しかし、その考えは目の前で行われた結果によって払拭される


エルフの少女が親指で人差し指を押さえてデコピンの形でゴーレムに手を近づけると、何の気無しにそのデコピンをゴーレムに当てた


そう、ただのデコピン


コンッ、と軽く指が当たって終わり…その筈が


耳を劈く轟音を響かせてロックゴーレムを粉々に粉砕したのだ


「ふぅ…」と彼女が集中を解く息の音が運動場に聞こえる……そう、集まっていた冒険者達は全員が大口を開けて絶句していた


なにかあり得ないものを見てしまったかのような反応だ



「じ、爺さん手加減は…」


「してないって言ってんぜ。正真正銘この子の魔法だ。強化ってのはのことかい。それも今お前さん……?」



珍しいものを見たようにエルフの少女を見るミッヅも、長生きの中で色々な魔法に出会って来たがここまでシンプルな特異魔法は見たことがない


しかも…見ていた限り間違い無く、力を上手く抑え込んで放った一撃だった


動作がデコピンだったのがいい証明だ


あれは恐らく……デコピンで抑えなければ破壊されていたのはゴーレムどころでは無かったということ



「…嬢さん、こりゃお前…金級で足りるか分からねぇぜ。こんなのが銀級以下に居たら詐欺もいいトコだ」


「ぎ、ギルドマスターに報告しておきます。これはちょっと…そ、想像していなかったと言うか…」


「この調子じゃ残りの2人もどんな玉隠し持ってんだか分かったもんじゃねぇぜ。面白くなってきた…よし次だ!次!」



声を大にして次の魔法を促すミッヅも、彼女がまさか礫級からスタートするなんて無理だと見た瞬間に感じた


こんな子を銀級以下に置いておいたら、銀級以下の冒険者が狩れる魔獣や魔物が根絶やしにされかねない




「では、次は我だな。壊すというか、特異魔法を当てれば良いよだろう?」


「ほう?…そうだな。どんなのでも良いからやってみな。魔法が確認できりゃ問題ねぇぜ」


「よし、では見逃すでないぞ?」



魔族の少女が前に出た


先程のエルフの少女と違い、彼女は指先に魔力を集中させていく


明るい緑色…新緑の魔力がしゅるしゅると編まれるように指先に光を集めていき、その指先をゴーレムに向けて…



「む、見えた。ペルトゥラス・クラリウス…特異魔法名……『刻真空撃エストレア・ディバイダー』…その効果はーー」




バギュッ




異音と共にゴーレムの胴体部分が円形に消えた


文字通り…突然、ゴーレムは四肢を残してどこにも無くなってしまったのだ


腕と脚だけが地面に転がる音が虚しく響く中で、ミッヅの剣呑な声が木霊した



「ーーあらゆる物のか。こりゃぁ…なんつー魔法もってやがんだ。使い方を間違えれりゃとんでもねぇ事できるぜ?」


「間違えるものか。生憎、師に恵まれたものでのぅ」



にっ、と笑って見せる魔族の少女が戻っていくのを見るミッヅは呟いた





「ふぅむ……いい女だぜ、あれ」


「ミッヅさん?静かにしてもらえますか?」




相変わらず受付嬢のミュラは冷たい…


その視線から逃げるように「おぉっと…いけね。次!」と慌てて最後の一人へ促した


彼女は怒らせると怖いのだ…この静かな怒りを前に強気に出れる冒険者はこの街に存在しないのである…


言葉無く、獣人の少女が前に進み出た


相変わらず目は少し沈みがちで眠そうに見えるが、そこから覗く瞳はその印象とは程遠い


少女の体がビリビリッと瑠璃色の稲妻を纏い始める


雷の属性魔法…ここに来て属性魔法が現れてミッヅも「ほぉ、雷系か…」と漏らした


先の2人が印象強すぎて、逆に新鮮に見える明らかな属性魔法の力に意外そうにしながらも…その目はさらなる非常識な魔法を捉えていく



「マウラ・クラーガス……特異魔法名…『雷焉回帰ハイエンド・ボルテージ』…ッおいおいその魔法は…ッ!」



初めて、ミッヅが動揺を露わにした


その目が…魔法使いとしてあり得ない魔法効果を示していたからだ


少女の手がゴーレムの体に触れ、手のひらをぴたり、とくっつける


攻撃する様子は無い…しかし、彼女がもう片方の手を自分の胸にぎゅっ、と当てて目を閉じる


次の瞬間……非常識な魔力の波動が少女の肉体からビリビリと放たれ始め、その魔力は瑠璃色の稲妻へと変換…手のひらを通じて流れたそれは本来、電気が通らないはずの岩石製ゴーレムを


特出していたのはあまりにも非常識な魔力の波動


ミッヅには魔力の…いや、生物の法則から逸脱したその魔法の力が、どれ程狂っているのか分かってしまった



「あり得ん…!ま、魔力の……魔力の…!?な、何を……どこからそんな魔力を……!?」



まさに無から有を生み出すに等しい奇跡


世の理から外れているとさえ思える力


何かのエネルギーを魔力に変換しているとしか思えない


でも…じゃあ何を?


何から魔力というエネルギーを生み出している……


そんな慄くミッヅに、獣人の獣人はグッ、とサムズアップしながらこう言った







「………愛っ」







「……愛かぁ」



愛らしい


ミッヅは理解するのを諦めた…


ーーま、可愛いからいっか


とか思った訳では断じて無い



だが、理解した


今の魔法はただの属性魔法…


ただ単に…ゴーレムを完全に破壊できるまで魔力の出力を無尽蔵に引き上げただけだ


完全な力技


魔法における究極の脳筋


「魔力を上げて魔法で殴る」を体現したかのような使い方


故に…強力無比


3人揃って規格外の魔法を持っていることは証明された



…ちなみに、見ていた冒険者は唖然としたまま何も喋れなくなっていた


彼らが再起動するまでの間に、3人はさっさと戻って行ってしまったのであった







「はっ!?い、今の子達は!?俺達のパーティに是非!」

 

「バカヤロウ!俺のパーティだ!そっちはもう魔法使い居るだろ!」


「ちょうど魔法使い欲しかったんだ!いやほんとだって!しかもあんな可愛い子なら尚更…!」


「マヌケ共…とっくに戻っていったぜ、お前ら。てか、あんな子達がお前らなんかに釣り合うかってんだ!」



沸き立つ冒険者……共に男性諸君の声が一斉に上がり始めるも怒鳴りつけるミッヅがそれを黙らせる


それもその筈…今見せられた彼女達の力は普通に出会うにはあまりにも希少かつ強力な魔法であり、パーティに入ってもらえばそれだけでパーティランクが1つ上がるようなパワーアップが計れる


より上の依頼を彼女達の力があればクリアする事も可能となり、そうなれば飛躍的にランクも名前も売れに売れる…それに自分の身の安全に直結するのだ


更に言うなら



めちゃくちゃ可愛い、美人ちゃん三人組だ


もしもただではない関係になれれば男としてこれ以上のハッピーも無い!


顔も体も心持ちも抜群の少女達を迎えられればそれはもう彩りのある冒険者ライフが送れる事間違い無しだ


それに三人とも魔法使いならば、前衛をつとめる男ならば「自分が前を守ってあげるから」…なーんて事で桃色な雰囲気に発展するかもしれない!


美しくか弱い魔法使いを前で守る自分…そんな最高のペアを組める自分の姿に妄想も捗ってしまう…




「馬鹿ねーあんたら…まさか武争祭の結果聞いてないの?」



そんな彼らに1人の女性冒険者が呆れた声を出した


「えっ?」と間抜けた声を出す男性諸君相手に溜息をつきながら、たった今出たばかりの号外をヒラヒラと見せつける


彼らの考えなど、数年冒険者をやってる女性陣からすればまるっとお見通しなのである


その号外は武争祭のトーナメント進出者や試合模様などの様々な事が書かれているのだが…



「あの子達3人とも、予選突破者よ?」



「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」」



あの荒くれ者の祭典で、予選を勝ち抜いた…それがどれ程の事なのかは、そもそも出場していない彼ら冒険者からすれば想像するにかたくない



「しかも試合内容もとんでもないわ。あのエルフの子はライリーちゃんと格闘戦で互角、猫ちゃんは「タンゼア」を強化魔法と雷だけで単騎全滅、魔族の子に至っては予選出場者の大半を一撃で行動不能にした上で魔道具モリモリのラジャン・クラシアスを一方的に弄んでたらしいわよ?」



「「「「「「「「「あんなに可愛いのに!?」」」」」」」」」



「ちなみに、集会所で待ってた男の子とイチャイチャしながら帰ってったわ。残念ね、あんた達のスペースは残ってないみたいで」


「「「「「「「「そんな!?」」」」」」」」



男性諸君が膝と手を地面に付けて項垂れた!


折角…折角春を夢見るチャンスだったのに!


なーんて思ってる彼らをバカにしたように笑い飛ばす女性冒険者はからかうように「はーい、残念残念!解散よー解散」と手で彼らを追い払うように運動場から追い立てる



「そもそも…いい女にはいい男がちゃんと付いてるモンなのよ。あんな子達がフリーで手付かずな訳ないじゃない」



ド正論に悔しさの呻きすら出てこない…


でもめちゃくちゃ可憐な少女達を忘れられない男共は、せめてあの子達を精一杯応援してあげよう!と決意を固めるのであった


こうして3人は知らずの間に、沢山のファンを作っていったのである






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【後書き】



ーー卒アルって見ること無い?


「急にどした?俺、一応小学校卒業しないで異世界来てる設定なのよ?」


ーーいやぁね?掘り返した小学生の時の卒アルと高校の時の集合写メを見てよく思うんだよ……『どうしてこうなった?』って…


「なんて悲しいこと言いやがる…昔は可愛かった〜、とかそういう哀愁に浸るのはやめろ…虚しくなるだろ…」


ーー時の流れの残酷さを思い知ったね。マジで「誰コイツ?」って真面目に思ったのよ。ちなみに今の友人とかに小学生の集合写真見せると絶対バレないんだよね


「見せてどうすんだよその写真……え、可愛い〜って言ってもらいたかったの?キッショ…」


ーーおい、メロンパン入りサマーオイルみたいな引き方するのはやめろ。そんなこと狙うわけ無いじゃん


「あぁ、良かった…創作主がそんなキモい生態してたらどうしようかと…」


ーーカナタ君にもいずれ分かるさ…大人の渋みってやつがね…


「知りたくねぇ…」


ーーそして理解するんだ…。『生徒は成長して見分けつかないのに先生だけ今も昔も変わって無くね?』という事実を…


「うっわ。それ老けてないって意味?それとも昔から老け顔ってこと?っていうか、作者…あんたそんなに歳いってんのかよ」


ーーふふ……熟成した年季の数だけ、下ネタに奥深さと厚みが増すのさ


「最低かよ!?見損なったわ大人!」


ーーでも、だからこそカナタ君は本編でドロドロに気持ちよく愛し合える訳なんだが…


「最高だな。尊敬してるわ大人」


「流石は大人です。一味違います」

 

「うむ、やはり頼るべきは大人だな」


「……おじさん、さいこー…っ」


ーーうわ、いっぱい出てきた。というかおじさんではないかな?うん…多分、きっと…


「大人な作者にはこれからも是非、期待したいところだな」


ーーなんという掌返しだ。流石は私のクリエイトした主人公、と言うべきか。返す速度が速すぎて手首から先が消えて見えるぜ…ま、最近は頑張り過ぎてBANも間近とか言われてるんだけどね


「やっぱり控えろ!作品無くなったら元も子もねぇ!」


ーー嫌だね。私はこういう作風が好きなの。そんな少年誌じゃあるまいし、主人公とヒロイン揃ってんのにラッキースケベのボディタッチやらキスだけで終わるわけ無いでしょ。そりゃヤるに決まってんのよ、ヤることしっかりヤんないならおままごとも良いとこよ


「くっ……これが大人か…でもありがとうございます…!」


ーーほら、直接的な行為の表現はしてないから。そこは読者さんの逞しい想像次第で…


「マジで上手くやれよ?そんなんで小説消されたらたまったもんじゃ…」


ーー…想像次第でカナタ君がどんなド変態プレイをしているかが左右されるんだから


「読者さん!?俺ノーマルっすからね!?」


ーーちなみに、私は本編の投稿ペースを維持しようとした結果…R18版になかなか手が付けられなくなってしまってね…そろそろどストレース下ネタ満載ヌルヌルエロエロの世界が書けなくて禁断症状がっがががががががががガガガガガゴゴゴゴ


「ひぇ!?こいつ定期的にエロ接種しないとぶっ壊れんのかよ!?マジでどうしようもねぇな!?」




※こんな感じの経験談から、主人公は召喚時と現在とで見分けがつかない事になっております


皆さんもたまには、是非昔の姿を見てみてはいかがでしょうか?


今後とも、どうぞよろしくお願いします

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