第72話 戦いの祭典


勇者を名乗りあげる…


その行為に規制が掛けられた事はない


何せ勇者という職業があるわけでもなく、それを名乗るのに必要な免許がある訳でもない


遥か昔から人々の中に根付いた常識…いや、概念だろうか


英雄の最高位を表す伝説そのものを指し示す言葉であり、誰もがそれを何の不信感もなくこれまで「勇者」と呼び崇めた


その意味は「希望」であり「救世主」であり



同時に「絶対強者」でもあった



かつてこの地に降臨した伝説の勇者達119柱


皆がその時代の人々の頂点に君臨するような能力や力を誇る…そう、人生に数人と出会う事など叶わない魔法の中の超能力、特異魔法を持つオリジンホルダー


歴代全ての勇者が、余すこと無くその魔法を身に宿していたオリジンホルダーだったのだ


正面からの戦いで彼らに勝てるものは殆ど居なかっただろう


事実、全ての勇者達が…直接的にアルスガルドの者によって殺害、もしくは致命傷を受けたことは一度として無いのだ


だが…「無敵」では無かった


アルスガルドに侵攻した魔神の足元まで辿り着くことは出来なかった


いかに英雄といえども人の領域…魔の神の眷属とその尖兵によって119柱全てが惨たらしくも息絶えた


しかし、それでも勇者の存在は人々の、世界の希望の象徴として燦然と輝き続けてきたのだ



そんな彼らと同じ称号を名乗りあげる事…それ自体は罪でも違反でも無いだろう


では、何故これまで…自らを勇者と名乗りあげる者が居なかったのか?


世界最高の英雄を自分で称する自信家が居なかったのか?



答えは簡単だ





勇者だからといって報酬が出る訳でも無く、ちやほやされるかと言われればそうでもない


何故ならアルスガルドの勇者は必ず異界からの異邦人だからだ


それを万人が知っているのだから、突然今まで普通に暮らしてきた者がいきなり勇者を名乗ってもただ痛々しいだけである


そこに加えて、勇者は世界の救世主…つまり、その使命を平和なければならなくなるのだ。生半可な力ではその入口に立つことすら不可能


だって、その人物には勇者の使命を遂行する事は出来ないのだから、それは勇者などと言っても相手にされるわけがない



ならば…




その勇者の使命が既に終わった今なら?




勇者とは魔物の天敵


強力な魔物を殺して回れる力があり、反対意見の大半を黙らせられる実力があるのならば…そんな人物がもし「勇者」を名乗っていたならば、誰が正面から否定できるのか?


そう、それを真っ向から否定する事はできるだろう


しかし、何を持って否定する?


名乗ることに罪はない


ならば名乗っても問題はないではないか


個人の感情を抜きにするならば、何も悪いことはしていない


なら今まで何故、そんな者が大量発生しなかったのか…


その理由こそがが120代目勇者にあった



今までの勇者は志半ばで魔物に、魔神族に討ち倒された…悪い言い方をするならば、勇者を名乗っても「負けて良い理由があった」のだ


かつての勇者だって負けたのだから、自分が負けたり逃げたりしても誰が責められるだろうか?


だって、本物の異世界からの勇者だって負け、破れ、殺されたのだから当たり前である


だが、120代目の勇者…黒鉄の勇者がその全てを封殺した





真似なんか出来る訳がない


誰が何十万、何百万に登る無尽とさえ思えた魔物の軍勢を片っ端から鏖殺できる?


誰が群がる魔神族を雑兵のように蹂躙できる?


誰が何百年とアルスガルドに絶望を撒き散らした魔神を討滅することができる?


彼が暴れ回る中で自分も勇者を名乗る?


あり得ない…言い訳なんて用意されていなかった



でも、魔神大戦は終わったのだ



黒鉄の勇者が猛威を振るう時が過ぎされば…そして背負うべき勇者の使命が既に果たされているのならばどうか?





「魔物を狩って、人を守る…これを勇者と呼ばずに何と言うんだい?」


「だよなぁ兄さん!皆思ってるぜ、勇者ゼネルガのお陰で魔物に襲われないってな!」


「当然だ…俺が何体の魔物を狩り回ってると思っているのかな?まったく…俺を差し置いて、勇者を名乗れる者が今、この世に居る筈が無いよ。今の俺を否定できるのは…真の勇者だけさ、彼だけが…俺の「勇者」に合否を付けられる。それを守られてるだけの奴らが難癖を付けるなんて…恩知らずにも程があるね」


「でも兄さん。パーティを「光の行軍」に変えたのはいいけどさ、パーティメンバーはどうするんだ?今までの奴ら、何考えてんのか知ら無いけど兄さんが勇者になったら急に消えちまったし」


「ははっ。心配するなラジャン。あいつらのには勇者の旅に付いてこれる度胸が無かっただけさ。勇者パーティはここ、カラナックで集めるよ。何故なら……今、ここでは世界有数の腕自慢が集まっているからね」


「そうか!すげぇよ兄さん!ここなら前の奴らなんて霞むパーティが集められる!なぁ!俺も好きなメンバー集めていいか!?」


「勿論だ、ラジャン。ただし…この勇者ゼネルガに相応しい、見目麗しい女性を選ばないと駄目だ。パーティ内で男女のトラブルなんてあってはいけないからね、このパーティは…俺とラジャンを慕い侍る美しい女性だけが、入ることを許されるんだ」


「すげぇ!分かった兄さん!選び放題だよなぁ!勇者のパーティに入れてやるって言えば、きっと自分からお願いして付いてくるよ!」


「そう逸るなラジャン。人の心は簡単ではないさ、だから…賭けを使って有望な者はしっかりと手に入れるんだ。その辺の試合じゃ程度が低い…ラジャンの本戦、そして俺の指導者戦で集める。さらに…大本命はその後さ」



ある宿の一室で、穏やかな声音で語る男が…その声音からは想像もできないほどに己の欲望に忠実な考えを巡らせる


ベッドに腰掛けた男、年の頃は20代の半ばといったところか


背は高め、髪は薄い金髪の短め、目付きは柔らかく、身体つきは細身ながらも筋肉質…その一室に飾るように置かれた金と銀を織り交ぜたような豪奢な鎧を身に纏えばまさに、貴公子と呼べる高貴な装いの美男子だろう


側に居る10代半ばの少年は同じく薄い金髪を兄と違ったツンツンとハネさせたような短髪であり、彼は己の兄に興奮気味に話しかけていた



ゼネルガ・クラシアス


現在、勇者を名乗る男は楽しみを語るように、己の目標を告げる



「勇者には聖女が必要だろう、ラジャン?この武争祭には…この俺の隣で、最高のパートナーとなるに相応しい最高の聖女が現れるんだ。彼女を…俺の侍らせるメンバーの頂として、隣に使えさせる」


「それって…だ、大聖女ラウラ様!?そんなこと出来んのか兄さん!?そ、そりゃ兄さんに求められればラウラ様だって来るかもしれないけどよ…」


「ははっ、そうじゃないよラジャン。毎回恒例でね、本戦はバーレルナ親善大使から…そして指導者戦はラヴァン親善大使から優勝者への特別な褒誉が与えられるのさ。時に金一封、時に望みの品、時に栄誉な職…それを、この一大行事の親善大使としてのメンツとプライドにかけて叶えてくれる。勿論、不可能の無い範囲ではあるけどね。そこで…彼女を俺の聖女になるよう要請するんだ。いつまでも…消えた勇者の事など考えずに、俺の元で女の幸せを叶えさせてやれる…」



それは聞くものからすれば鳥肌の立つ考え


全てが上から目線…自分にどれほどの自信があればそうなるのか、と言わんばかりの絶対的な自信


それも、冒険者の頂とさえ揶揄される金剛級に上り詰めた実績と己の恵まれた容姿…事実、女性に関しては声をかければ黄色い声が上がるその姿。その全てが彼に、彼自身を肯定させていた


そして、今まで全て上手くいった


才能はピカイチ、魔力にも恵まれた、そしてこの整った容姿…20代という若さにしてここまで成功させられる男など殆ど居ないだろう


だからこそ、更に上へ登ろうとする


魔物を狩り、人を守る…冒険者の頂を越えた先にあるもの、それはもはや…勇者以外にあり得ない



ーー自分は英雄に相応しい、讃えられるに足る男である



ずっとそう考えていた


きっと今回だってうまく行く


(大聖女ラウラ…まさに、俺に相応しい女性だよ。かの黒鉄の勇者に懸想してる、という話もあったが…大会を制した俺からの直々の求めなら応じるに決まっているさ)


美しい容姿、気品ある佇まい、高貴な血筋、類稀なる力、洗練された精神、慈愛溢れる心…全てが、完璧…パーフェクト


この自分と並んで旅をする姿はどれ程絵になるだろうか?


それを…本気で考えて止まないゼネルガは武争祭に思いを馳せる



今回も、自分の思い通りに運ぶと…そう考えながら




ーーー




「では、行ってきます」


「うむ、気をつけて行く良い、シオン。大丈夫だとは思うが…何が起こるか分からんからな」


「んっ…目指せ、8人…っ!…最初からトバして行くの…?」


「いえ、それは悪目立ちが過ぎますから。流石に抑えて残りますよ。倒すよりも残る方を重視、軽くいなしながら、人数が減るのを待とうと思います」


「ま、それが賢明だよなぁ。こういうのって悪目立ちすると真っ先に潰されるし…」



大闘技場


その入場ゲートを先に見ながら…あの埴輪のような面のヘンテコ仮面を付けてフードまで被ったカナタは動きやすい戦闘服に着替えたシオンにそう言った


第1ブロック、予選大乱闘が今から始まるのだ


シオンの格好は上半身に黒のピッタリとしたノースリーブインナー、その上から白と赤のカラーリングに半袖で肋を覆う程度の丈のショートジャケット。下はショートパンツに太ももの半ばまで覆うロングソックスと踝の上まである頑丈な革製ブーツ


手には指貫のグローブを付けてあり、手の甲や各所に小さな装甲が施されている物だ


因みに、これはカナタが頑張って作った魔道具である


出場するとなった日から彼女達の要望を聞きつつ、決戦用の戦闘服を着る必要がない戦いで使える戦闘服を作り上げていた


細かな仕様は違うがデザインは3人ともお揃いである


当然、魔導具である以上はカナタの魔法が施されていた


とは言え、決戦用程オーバースペックではなく、あくまで防具…その機能は衝撃緩和、斬撃緩和、魔法緩和、自動修復、毒耐性、精神耐性、幻惑耐性、各属性耐性等の防御機能のみが付与されている


そして、武器も普段遣いの物が新しく渡されていた


シオンが己の胸に光る紋様を輝かせて取り出したのは一振りの長槍…彼女が持つ「戦槍プロメテウス」とは真逆の配色となる白銀の柄に漆黒の刃、柄の中心辺りに3つの小さな宝玉が並び、使い手の魔法をサポートする


何よりも求められたのは、頑丈


プロメテウスは魔法行使における演算負担、魔力消費最適化、威力増幅などなど…使い手が放つ魔法を更に上の次元に引き上げるように作られていたが、この槍にそれは無い


あくまで魔法の円滑な起動、発動に重きを置き、他は強度に振った一品でシオンが全力で振り回しても壊れないようにしてあるのだ


これも、彼女達の修練の為…プロメテウスのような超性能魔導具を使い続けていれば確実に鈍る


故に、攻撃性能は自身のみの能力が殆どであり、防御機能もシオンの持つ「焔纏」程の物はない


しかし、頑丈


破れず、裂けず、解けず…戦い続けられるように創られているのだ


手にした槍を数度振り回して馴染みを確かめるシオンが満足そうに頷きながら手に収まるそれを見つめる



「…いいですね、馴染みます。地に足が付いたような、しっかりとした振り心地です…名前はあるんですか?」


「一応な。作成段階では「赤鉄あかがね」って呼んでたけど…好きに呼んでいいぞ?」


「赤鉄…いい名前です。カナタの二つ名と近しいのも、素敵ですね。そのままで構いません…ふふっ、行きましょう、赤鉄」



上機嫌のシオンは仕舞いの一振りでその槍を光の粒子へと変えて胸の紋様へと仕舞い込む…最初から使う気は無いらしい


そのまま手のひらをひょい、と出す3人にすれ違いざま、パンッパンッパンッ、と小気味よいハイタッチを交わすと振り返ること無く入場ゲートへと歩いて行くシオン


その姿に緊張の文字は無さそうである


既に入場ゲートは出場者達が集まっており皆それぞれが手に得物、身に防具を纏ってその先の闘技場への扉が開くのを今か今かと待ちわびている状態…そこに臆すること無く混ざるシオンを加え


第1ブロック総勢80名…その中から8人を決める戦いが、幕を開けるのであった






『さぁ!今回も始まった武争祭予選名物、大乱闘勝ち残り戦!今回も命知らずが大勢集まっております!それでは!ゲート開門!選手の皆様、大闘技場へとお入り下さいッ!』



高くから見下ろせる観客席が中央の大闘技場をぐるりと取り囲み、一体何人が座って観戦できるのかという規模の客席は余すこと無く人で埋め尽くされていた


さらには通路に立って観戦する者も含めればその数は相当なものだ


それだけ、この武争祭という祭典が注目されているのだろう


まるで野球スタジアムかのように売り子が商売に歩き回り、その熱気はただでさえ暑い気候を上塗りするような勢いだ


そして、そんな数の観客達の鼓膜を揺るがす歓声の中、遂に大闘技場の四方にある鉄格子のようなゲートの門が開かれ選手達が現れた


因みに、予選から賭けは行われている


選手一名賭けで、その選手が本線へ登るかどうか…


全員がこの時の為に、仮設リングで行われる試合を回ってリサーチを行っていたのである



選手は大闘技場に入ると、その円型の闘技場内の壁に沿うようにしてポジションを取り始める


大乱闘である以上、当然中央に居ては周囲の敵から袋叩きにされてしまうのだ。故に、最大限中央からは距離を取り壁を背中にしてスタートをするのが常套手段…


シオンもその中にしっかりと混ざり込んでいた


…のだが…



(なんでしょう……何故かそこら中から視線を感じます。私、まだ何もしていませんけれど…何か変なところがあったでしょうか…?)



そう…周りの選手はおろか、付近の客席からの猛烈な数の視線を一身に受けている理由が分からずに首を傾げていた


しっかりと恒例や常套手段をリサーチして、何食わぬ顔で素人感を出さずに入り込んだと思っていたのだが…はて、何かミスでもしてしまったのだろうか?と思うシオン…



だが、それも当然



こんな美しい少女がこんな荒っぽい戦いの場に居る圧倒的な違和感である


どう見ても椅子に座って本を嗜んでいそうな雰囲気の落ち着いたエルフの美少女がその魅力を引き立てるような装いで戦いの場に居るのだ


当然、注目されるに決まっている


シオンもストレッチに身体を動かし慣らしながらもその視線の正体に気が付いたが…そこは、もはや諦めるしか無いと溜め息をつく


これは開始直後から面倒事が起こりそうだ…そう考えての溜め息であった



『選手達が全員、ポジションに付きました!今!開始の銅鑼がなった瞬間が武争祭の開幕でございます!開始の前にルールのおさらいを!1つ、殺傷禁止!1つ、戦前工作禁止!1つ、無関係者からの援護禁止!1つ、武装と道具は装備する物に限る!そして、予選は最後の8人が残り次第、終了!さぁ、準備は宜しいですか!?』



テンション高く、声を張り上げる司会者の拡声された案内が大闘技場内に響き渡る


長年に渡って手を加えられていないルール


観客のテンションと選手のボルテージが高まった瞬間に…巨大な銅鑼を、破城鎚のような丸太を6人がかりで持ち上げ叩き付けた爆音と共に…



『それでは!予選、開始ィィィィィィィ!!』



開幕の狼煙が上がった


ここからは闘技場内で好きな場所、好きなタイミング、好きな相手と戦いがいつでも起こり得る


その巨大な銅鑼の音に少し耳を伏せながら、シオンは辺りを見回した



(始まりましたね。さて、残り8人になるまで…何も無ければ適当に流して終わりなんですが…あ、カナタ達が見えます。マウラもあんなに手を振って…ふふっ)



客席の一角に見覚えのある三人の姿を見つけて、両手を振ってくる瑠璃色の少女に笑みをこぼしながら手を小さく振り返すシオン…




その両サイドから二人の男が素手でシオンに向けて掴み掛かろうと飛び込んできていた



そう、手っ取り早く人数を減らしやれば残れる確率や不意打ちの確率を減らす事ができる


周囲で開始の銅鑼の音と同時に乱闘が始まったのはその為だろう


周りの男は少なくとも…シオンをさっさと片付けてしまおうと考えた者達だった



「へへっ、わりぃなお嬢ちゃん!あぶねぇからさっさと出てた方がいいぜ!後でじっくり看病してやっから…」


「おいおい腕自慢で出てきたのかい!?ここはそんな生易しい場所じゃないんだぜ!ちと色々触っちまうかもしれないけど、優しく倒してやるよ!」



戦士風の男が2人、示し合わせたように両側から飛び掛かってくる…どうやら、人数減らし以外にも不届きな目的があるらしい


この場に、一人の少女に襲い掛かる男を咎める者など居はしない。なにせそれがルールなのだ


負ければ終わり、負けた者に、勝者へどんな文句も付けることが出来ないのがこの武争祭なのだ


それが、一人の少女を力で捻じ伏せてそのあと弄ぶような真似であろうとも…


碌に構えも取らないシオンを見ての、圧倒的な油断


自分がこんな美しい少女に負けるなんて微塵も考えていない慢心


組み伏せた後のお楽しみにニヤケが止まらない


その考えが…




2人の男の意識と同時に消し飛んだ



「……え?」



周囲の何人かがその光景を見て呆然と呟く


すぐに退場させられ、この街を出るだろうと思っていた少女が、大闘技場の固められた土の地面に指をめり込ませて…



片腕で逆立ちをした状態のままカポエイラのように身体を回転させ、左右の足で二人の男に同時に回し蹴りを叩き込んだのだ


それも、綺麗に顎へクリティカルヒット


二人の男は余程の威力があったのか、痛みに呻くことすら無く、それぞれ右から左、左から右へ向けてボールのように吹き飛んでいき壁に叩きつけられて地に沈む


ピクリとも、2人が動き出すことは無かった



「成る程…第三者の介入は禁止でも、出場者が徒党を組んで1人を潰すのはアリ…こういう事でしたか。とは言え、見た目でしか判断せずに突っ込んでくるお粗末さ…確かに、予選はという訳ですね」



ゆっくりと、腕一本で支えていた身体を足から着地させて体を起こす少女を、呆然と見ていることしか出来なかった周囲の出場者…あまりにも予想出来なかったカードに計算が崩れたのだ


今の一撃を見て、眼の前の少女がただの腕自慢ではないことが分かってしまったのだ


ここで取るべき選択肢は2つしかない


1つは全員で叩いてしまうこと


どうにか除去しなければこの少女は自分の大きな壁となるのだから、この場の全員で徒党を組んで恥も外聞もなく袋叩きにする



もう1つは相手にしないこと


8人もトーナメント枠があるのだから彼女はスルーして残りの7席を取りに行けば良いのだ

だが、これは結局トーナメントで彼女と当たることを意味する。敗北が少し先になるだけの事だ


ならば、どうするか…?





「…そう来ますよね。えぇ、分かってましたとも…。結局、静かには終われない…と…」




同じ結論に至った周囲の選手が揃って、シオンの方を向いて戦闘態勢を取った


武器を構え、杖を構え、拳を構え…ビリッ、とした緊張感を走らせながら警戒の視線を走らせるのにシオンが諦めたように静かに呟く


どんなに頑張って静かに終わらせようとも…何かしらの波乱が逃がしてくれないだろう、と予感はしていたのだ


最初のプランは開始数秒で崩れ去った…その虚しさに「はぁ…」溜め息の1つもつきたくなるだろう


しかし、ここまであからさまにフォーカスを合わされては、全員蹴散らして通るしか無い



「いいでしょう…これも修練の内、全員纏めてかかって来なさい。先程の方の言葉を借りるなら…ふふっ、そうですね。危ないので、優しく倒して差し上げます」



指を揃えてくいくいと挑発した真紅の髪を揺らすエルフの美少女に、火を付けたように何人もの選手が攻め掛かる


その挑戦的な笑みで余裕を崩さない少女をこの場で蹴落とす為に…


もはや、この場の誰も、彼女を見た目通りの少女とは思っていなかった


だが、それでも…この場の勝者が変わることは無かったのであった







【side ライリー・ラペンテス】



「はぁ……予選ね、予選…。残れば良いんだろ…残れば…はぁ…面倒くせー。別にいいじゃん、こんなん出なくても…師匠め勝手にエントリーしやがって…」



ーー思えば、この街に居座り始めた時からこの可能性を疑うべきだったんだ


なーにが「ちょっと楽しいイベントがある」だ、ただの脳筋喧嘩祭じゃねーか


これなら師匠と戦いながら適当に魔物ぶっ殺してた方がよっぽと俺の為にも人の為にもなんだろーが…


師匠譲りのバトルアックスを軽く振り回す…それだけで、突っ掛かってくる選手は皆が紙屑のように吹き飛んでいくのだ、歯応えがないにも程がある


それにもう成人から1年経つのだ、そろそろ1人での活動を許してくれても良いはずなのだが…



『ダッハッハッハ!生言ってんじゃねぇよライリー!世の中広いんだ、お前さんなんかまだまだヒヨッコもいいトコだってんだ!そこまで言うならいっちょ、武争祭で優勝でも攫ってこいや!ほら、エントリーしといたぞ!』



なんて言い始めた師匠をぶん殴ってやったのはまだ新しい記憶であった


…まぁ、殴ってもビクともしなかったんだけどな…


バケモン師匠め…


だが、予選とは言えこの程度の低さはやる気も減っていくというものだ


いや、分かってはいるのだ。この予選がただ無資格者を弾く為にあることは


とは言え…こうも退屈ではやる気も出ないというものだ


圧倒的に雑兵…って言うと感じわりーけど、弱いやつが多すぎなんだよ



「あーあ、ほらそこ、見えてんぞ?…おい、後ろとったのになんで叫びながら突っこんてくんだってーの、アホか?お前はなんでただの剣でバトルアックスに切り合おうとしてんだよ、へし折れるに決まってんじゃん」



ーーこいつら、対人戦どころか戦い自体したことねーんじゃね?


素人というか、気合で乗り切れればいいなー程度にしか考えてねーんじゃ…?


だって後ろから不意打ちしに来てるのにわざわざ大声だして襲いかかってくるとか変じゃん


俺が振ってるバトルアックスって師匠譲りの両刃あるデカイやつだぜ?それにただの鋼の剣叩きつけたらそりゃ真っ二つになんだろ、それ魔導具でもあるまいし…


うわー、強化魔法無しで突っ込んでくる奴までいんじゃんウソだろ?その見た目の筋肉だけでどうにかなるとか本気で思ったのかよ意味わかんねー



死なない程度に…というのか問題だ


弱すぎて、少しまともに当てたらこいつら一撃で死んじまいそうなのである


故に、片っ端からバトルアックス…師匠と同じ武器の職人に造ってもらったこの『レイジネル』を振り回し、その衝撃と風圧だけで闘技場の壁面に叩き付けていく


武器もへし折っとけば不意打ちもクソもねーだろ


師匠が出場する指導者戦ならいざしらず…こっちの戦いでまともに張り合える奴が出てくるのにどんだけ上まで進めばいいんだか…最悪、めんどくせーからこの場の出場者全員伸して出場者減らしちまうか


とは言え、まだそこら中で乱闘が起きてはいるが徐々に人数は減ってきているのが目に見えて来た


それを見て、最低限気分を撫で下ろす



「思ったより早く終わりそーだな。うっし…俺もさっさと人数減らして、早期決着に貢献しに行くか。こんなんずーっとやらされんのだりーしな」



肩に担いだバトルアックスで肩を叩きながら、適当な相手を転がすために乱闘中の場所に向かって歩き出す…が


その途中…猛烈なプレッシャーが背後でぶわり、と巻き起こり飛び起きるように担いだバトルアックスを構えて後ろを振り返る


そう…今まで何人突っかかってきても片手間で転がしていたのにここに来て突然、自身の身の危険をビリビリと感じたのだ


自分は強い…自信でもあるし、他から見ても結構やれる筈だが、その自分がここまで危機感を刺激されるなんて相手は普通の腕自慢ではあり得ない



(おいおいなんだ今の…!肝冷えたぞ竜種でも出たのかってくれーの圧だ…!しかも一瞬で消えやがった…どこだ今のプレッシャーの出処は!?…ちげー、わざと隠してんな。俺と同じ、適当にあしらってトーナメントに行くために人数減んの待ってやがんだ…!)



まるで炎の上位龍でも現れたかのような背筋がチリつく圧に辺りを見回してその正体を探る


どんな厳つい奴がいるのか…師匠みたいな筋肉ダルマでゴリラ型の魔物と見分けの付かないような奴か!?…と、それを探していた自分の視界にちらり、と入り込んだ…今まで何故気が付かなかったのかと、自分を殴りたくなるような存在に思わず二度見して視線が釘付けにされた



真紅の短めな髪


ピンと伸び尖ったエルフの耳


戦闘の場にも関わらず普通の眼鏡


目に映える魅力的な戦闘用の服装


それを引き立てる美貌



あまりにも、こんな荒事の祭典に似つかわしくない美しい少女の存在に、一瞬周りの情報が全てシャットアウトされた



(め、めっちゃ美人…!やっべーめっちゃタイプだわ…。てーか、なんであんな子がこんなトコ出てんだよアホか!?おいおいさっさと乱闘終わらせねーとあの子やべーんじゃ…!)



はっきり言おう…目を惹かれた


人の見た目で惚れた腫れたなんていうのも失礼だが、こんなに一目見て持ってかれたのは初めてだった


なんて心を擽られるのだろうか…是非お知り合いに…というか、色々と親密になりたい所だが、ここは今…



「チっ、おい危ねーぞ後ろ!ったく…!なんだってこんなバカイベントにあんな子いんだよクソッ!」



容赦ない戦いの舞台だ


その少女に、後ろと横から飛びかかる2人の男


恐らく組んでる…同時のタイミングであの少女に仕掛けやがったのだ


後ろなんか見て無い少女は構えを取ることもなく歩いている最中であり、その奇襲攻撃に対して応戦の姿勢を見せていない…こんな男共が殴り合い切り合いの戦いしてる中であんな美しい少女が意識を失えばどうなるか…想像なんかしたくもなかった


故に、バトルアックスを構えて飛び出そうとする



そう



飛び出そうとしたのだ



恐らく、それを見ていた中で…襲撃者を入れても俺しか見えていなかっただろう


その少女が…一切振り向くこと無く後ろから鞘に入れた剣で後頭部を叩こうとしている男の剣を目にも止まらぬ速さで手を伸ばして…鞘ごと中の剣まで丸ごと


いくら魔導具ですらない剣とは言え、鉄製の剣である。素手で壊すなんてどう考えても普通の力ではない


そして流れるように剣を潰し、握りしめた拳を繋ぐ動きで裏拳に変えて背後の男の側頭部を殴り付け…まず後ろの男がボールのように吹き飛んだ


思い切り裏拳を当てた訳では無い、素早く最低限の動きで肘を起点に拳を後にスナップしただけで蹴飛ばされた小石のように飛んでいく男は闘技場の中央に10回近くバウンドした後に地面に転がり、そして起き上がることはなかった


少女の開いた右手のひらからパラパラと剣だったものの残骸が虚しくこぼれ落ちる


そして、目の前の素手で掴み掛かろうとした男の手を、その左手でするり、と握り締めれば男はそこから一切…体を動かせなくなった。片腕で、片手で手を握っただけで、である


まるで鉄の柱に腕が埋まってしまったかのように、引きも押しも叶わずビクともしなくなってしまったようで、慌てた男がもう片方で少女の左手を引き剥がそうとするも虚しく、優しい手付きで握っているような少女の手はその実、万力のように男を逃さない


そして思わず鼓動が早まるような蠱惑的な笑みで…



「握手がしたいんですか?いいですよ…さぁ、握って下さい、存分に」



そうイタズラに笑う彼女が自分の何回りも大きな男の手を握ったまま…まるで木の枝でも持つように振り上げると濡れたタオルを振るようにして…地面に凄まじい勢いで叩き付けたのだ


それも、3回


ビタンッ、ビタンッ、ビタンッ!


最後に叩き付けてからゆっくりと手を離す少女…もはや、その時に男は動かなくなっていた…完全に白目を剥いて意識がどこかへ旅立ってしまっている…その可憐な姿からは一切連想出来ないほどの圧倒的なパワープレイ


天と地程の実力差…息1つも乱すこと無く、後ろの男に至っては見てすらいないのに一撃で沈めている


…彼女だ


自分の背中をチリつかせたプレッシャーを感じたのは彼女からだ、間違いない


綺麗に体内で収めきっているが凄まじい魔力と練度の強化魔法で肉体を満たしきっているのが、近寄ってみればよく分かる


自分だって強化魔法を主とする戦闘法を取るのだ、分からないわけが無い


こんな他の追随を許さない戦闘法を取りながらも、その戦う姿は泥臭くもお上品でもなく…その少女だけの色がある不思議な物があった


男が伸びた後は、またもゆっくりとまるで散歩でもするかのように壁際を歩きながらその存在感を隠していく少女に…



ここが戦場にも関わらず…ぼー、と彼女だけを魅入ってしまっていた…



「……やっべー……惚れたかも」



もとより守られるだけの非力な者など好みでない


別にガチガチの戦士として強ければ良い、とかではなくメンタリティや精神的、心から強い相手もストライクゾーンではあったのだが…


あれはやばい


見た目からしてもそうだが、あの悠悠たる強者の風格、余裕、この状況を楽しんですらいそうな強靭な精神…もう全部が好みのど真ん中なのだ


だが、同時に試したくなった


今、この闘技場内で自分以外で一番強いのは間違いなく彼女だ、見れば分かる


そんな、あの少女が…自分とどれ程打ち合えるのか


戦士として、確かめてみたくなってしまった



(…もし倒しちまったらせーいっぱい、体の隅々まで看病するからなっ…わりーが許せ!)



手にしたバトルアックスを構えて、自身の肉体に今までのあしらうだけだった半端な強化ではなく、戦闘用の出力まで魔力を高めた強化を滾らせ、突撃する


先程のアホのように叫ぶこと無く、足音も最小限…まわりの乱闘による喧騒に紛れて近寄りバトルアックスの刃ではなく、柄を飛びかかりざまに…振り抜こうと構える


当たればどこかへぶっ飛んでいき、しばらくの間気絶程度はするかもしれないが、柄で後頭部を叩かれても死にはしない。この大会でその程度の覚悟はしてきているだろう


完璧な奇襲攻撃…背後を突いたその一撃が彼女に当たる…そのコンマ数秒前、予想しないその光景に仕掛けたこちらの顔が引き攣った



(…おいおいマージで言ってんの!?)



僅かに首を振り向かせて瞳を此方に向けた彼女の瞳とバッチリ視線がかち合ったのだ


奇襲攻撃…それは、先手必勝で当たる事が前提の一撃、故に反撃は頭にあまり入れていない


この乱闘騒ぎの喧騒の中で、そこら中で戦いの気配が満ちている中…飛び上がっての奇襲は完全に音を絶ち切っていたにも関わらず、完全に感知されていた


だからこそ…動きが遅れる


すっ、と胸の前で少女の手が目に見えて真紅の輝きを纏った…その手をぎゅっ、と握り締めたのを見た瞬間、ぶわり、と嫌な汗が浮かび上がりぞわぞわとした悪寒が背中と脳裏を電流のように走る


直後、頭の中に浮かび上がる光景ビジョン



少女が振り向きの勢いを利用し、頭をわずかに傾けてこちらの振り抜くバトルアックスの柄を紙一重で避け、カウンターの拳が自分の顎を抉り抜くように直撃する光景が…


師匠との訓練や戦いを重ね、次の手を読み危険を予知する感覚を磨かれたそれが、自分自身に見せた未来の自分の姿…



「チィッ!」



それを見た瞬間、体の動きを強引に変えにかかる


無理な姿勢からの姿勢変更で強烈なGが体がミシミシと言うが、関係ない


振りかざしたバトルアックスを己の体の上に引っ込め、その重量を利用して瞬時に姿勢を地面と水平になるまで仰け反る形で下げた


空中…故に制動が効かないが、強引に地面まで距離を詰めて少女の拳が通るであろう軌道上から自分の体を逃がし、接地の瞬間に体を反転させて足から着地を計る


飛び掛かった勢いを殺す為にザリザリと脚でブレーキをかけながらバトルアックスを地面に叩き付けて強引に静止を効かせてから、瞬時に構えて少女と対峙…


幸いにも、当たらないと分かった拳を振ることが無かった少女は右手の握りこぶしを解きながらこちらをゆっくりと振り返った



「良かった…まともに戦える人が居るみたいで嬉しいです。そうじゃないと、ここに来た意味がありません」


「そりゃ良かった。俺も適当に流して終わりだと思ってたんだけどよ、安心した…師匠以外でちゃんと殴り合えそーなの、久し振りに会った」


「そうですか?案外、多く居ますよ…私達のような、世間知らずよりも強い人って。師がそれを教えてくれましたから。私はそれを確かめに、ここへ来ましたから」


「世間知らずか…言えてる。まさかこんな子に出会えるなんて…」



ーー涼しい顔してとんでもない事を言ってんなーコイツ


気になんのは俺より随分含蓄ある事言ってくれるって事だ。なーんか…色々経験してきてるっぽいな。それこそ、でけー挫折とか負けなんてのも通ってきてる感じだ


自分のことを「世間知らず」なんて言うヤツその辺に居るわけねー


それに…俺との違い


自分で言うのもなんだがなー…自信の、いやー慢心とでも言ったほうがいいのか?


俺は師匠みたいなバケモン以外とは負け知らずだ


人相手に負けたことなんざ殆どねーし、魔物相手にしたって大概ボコって終わり


冒険者だって水晶級なんざ余裕で通り過ぎれる、あたりめーだ


俺はこれを自信でもあるし、他からは慢心って言われんのも分かってる


ま、師匠にも言われてっからな


でも…コイツにはそれがねーんだ


いや、あるにはあるが…なんだろうな…





気になんのは…こんなヤツの師匠ってどこのどいつだ?


俺の師匠、レオルド・ヴィットーリオは最強の冒険者だ間違い無い


鍛え抜かれた強化魔法と磨き上げられた武技、戦技だけで金剛級冒険者になり、世界を救う黒鉄の勇者一行への旅に同行したほどの実力者


そんで、そのたった1人の弟子が俺だ


中位の竜種程度は余裕でぶっ殺せる


武器無しだって、この鍛えた強化魔法と戦闘技術でピカ一ってもんだ


でも…そりゃ世界最強の冒険者の弟子、ライリー・ラペンテスだからって考えりゃー、そうなるよなって話




その俺に、回避を取らせるこの少女はどこのどいつに技を習ってやがる?俺が固めた強化ならその辺の奴、ぼっ立ちでもダメージなんか食らわねーのに…あのパンチ食らってたら一発でオヤスミしてた。どんなバケモンに仕込まれてんだ?



「は、はははっ!いいねいいねーッ!なぁ、名前教えろよ!俺はライリー!ライリー・ラペンテスだ!」


「ライリー…?まさか…冒険者レオルドの教え子ですか。成る程…それは戦えるのも納得…。いいでしょう、私はシオン・エーデライト。シオンで構いません」


「よっしゃ、シオンか…!じゃあ、シオン!今から戦おう!んで、俺が勝ったらそん時ゃ俺の女になってくれ!」



めんどくせー駆け引きは無し!シオンか、いい名前だな…こういうのはどストレートに言ったほうが良いに決まってんだよな!


きっと俺となら相性バツグンに決まってんだ!


どうしても、シオンの事が欲しくなっちまった!



「え、嫌です」


「そう言わずによー!結構いいと思うぞ俺!冒険者も水晶級で実入りも安定してっし、夜だってバッチリ満足させれっからさー!」


「いえ、夜に私を満足させられる人は1人だけです。…というか、そもそも…」




















「女の子ですよね、ライリー?」


「おう!見りゃ分かんだろ!だからどうした?」



…なんか問題あったか?





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




【後書き】



どうも、こんにちは、未知広かなんです


先日、なんとフォロー数が3000を突破致しました


仰天です


フォロー数が3000越えたという事は、それはつまり3000人がフォローしてるということなんですよ(混乱)


遂にこんなにマークしてくれてる人が居たのかと思うと1人でプルプルしております…


こんな拙作を読んでくださり、感謝感激です


いつも応援や☆、コメントを下さる方、本当にありがとうございます


まだまだ、自分の世界を字にして行くつもりなのでよろしくお願いします






「さて、前話の話から少し気になったことがあるのだ…」


「…んっ…それは私も思った……思わざるをえない……」


「えっ、なんですか…なんか前の話にそんな話し込むことありましたっけ?」


「うむ…我らの戦闘力の話だ」


「戦闘の話ならこの話から始まったところですが…前の話でそんな話ありましたか?」


「…そう……あれはラウラさんの家族の話……」


「あぁ、あそこのシーンでしたか。…戦闘力の話、ありました?」


「あったであろう?そう……ベッドの上の戦闘力の話が!」


「そこですか!?」


「…そうっ……あの話を見て、思った……!…私達は、どれくらい強いのか……!」


「気になる…!我ら、どういう強みがあるのか気になる!」


「い、いえ…微塵も気になりませんが…」


「…ということで……私のスーパーキャッツ・アイで見たシオンのステータスが…こちら…っ」


「ちょっ」



『シオン・エーデライト  ナイトスペック


・耐久  ☆☆☆☆☆☆☆

・責め  ☆☆☆☆

・持久  ☆☆☆☆

・技術  ☆☆☆☆

・再起  ☆☆☆☆            』


「おお、バランスタイプ!良いではないかシオン、特に耐久と持久ステータスが高いのはメリットだな!兎に角回数で勝負できるシオンらしいステータスだ!」


「な、なんですかこの猛烈に恥ずかしいステータス表は…!というか回数で勝負とか言わないで下さい!」


「…そしてっ…ペトラのステータスはこちらっ……!」


「えっ、我のもあるのっ?」



『ペルドゥラス・クラリウス  ナイトスペック


・耐久  ☆

・責め  ☆☆☆

・持久  ☆

・技術  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・再起  ☆☆☆☆☆☆☆          』


「技術が☆9個!?ペ、ペトラはカナタに何をどうやってシてるんですか!?というかヤられやすいのにヤケに回数出来てると思ったら再起のステータスに☆が7つもあります!?」


「うわぁぁっ!?ち、違うのだ!こ、これはカナタが喜ぶから色々試してたらつい…!え、えぇい!マウラのも見せんか!」


「…あっ、私のステータス表…!?」



『私   ナイトスペック


・耐久  ☆☆

・責め  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・持久  ☆☆☆☆☆☆

・技術  ☆☆

・再起  ☆☆☆☆          』



「「せ、責めが☆9…!」」


「んっ…ち、ちょっと恥ずかしい…っ」


「い、いやまぁ覗いた時、凄い勢いで責めておったからな。まぁ納得のステータスではあるが…」


「でも返り討ちには合いやすい、と…こ、これを見ると確かに私はバランスタイプに感じます…」


「の、のぅマウラ…ちなみにカナタのステータスは…」


「んー……見ない方がいい…」


「「そんなに!?」」


「……見たら……次する時怖くなるよ……?」


「「そんなにっ!?」」


「…ちなみに私は……んんっ…ぞくぞくした…っ」


「「そんなにぃっ!?」」




「カナタさん……」


「ち、違うんすよラウラさん!これはそのあいつらが可愛くてブレーキが…」


「もし私とする時も、その調子で頼みますわね」


「アレェ!?」



「流石私の娘です」


「さ、流石君の娘だ…」


「姉さん…流石としか言えないよ、もう…」

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