第67話 墓守の問い
「んっ……あれ…ここって………」
「む、どうにも見覚えがあると思えば…」
「ユーラシュアの跡…ですか」
ようやく夜の帳が下り、星達と月が照らし出す夜の下…転移の輝きと共に森林の中に開けた大きな草原地帯の中で3人の声が響く
ここはラヴァン王国の南方へ遥か進んだ場所にある海辺の国ターティアルトより北東に暫く進んだ大森林…ケネルーの森
魔神侵攻の関係上、非常に立地に恵まれた場所にあるこの森は比較的魔物の脅威が少なく、自然も豊かで産出物も多い事から人が棲むのに適した場所であった
北側を勇者召喚のラヴァン王国が、南側を巨大海洋国家のターティアルトに挟まれており、どちらも魔神族からのヘイトが高い場所だった事から、その中間に位置するケネルーの森は比較的安全な場所だったのだ
当然、ここにも人々は住んでいたのだが、一帯を支配していたのが森林の中を居住地としていたユーラシュアの民であった
大村…などと自称していたがその支配領域はその辺の中規模国家を遥かに上回り、国家を名乗らないのは明らかに不自然なレベルの超大規模集落だった
その実態はレルジェ教国を中心としたレルジェ教による亜人の迫害をきっかけとした亜人種族の集合体であり、主に獣人族、魔族、エルフ族、ドワーフ族が中心となっており、様々な文化や技術の混濁した新しい文化体型とも言える様相を自然と構築していたのである
人数規模もそこらの大都市を遥かに上回る人口を誇るその巨大集落は、その日…10日に渡る大戦争の果てに滅び去った
ーー魔物の大軍勢との戦いによって
それまで魔物が多く湧かなかった筈のケネルーの森に、類を見ない大規模な魔物の襲撃が発生したのだ
その末に…ユーラシュアは魔物の八割を葬り去るも、敗れ去り…僅かな生き残りを避難させた末に壊滅したのである
ちなみにその中心となる4種族…獣人族、魔族、エルフ族、ドワーフ族のトップとなる4家が合議制による統治を敷いていた
4家はとても仲が良く、それぞれが得意とする専門分野を担当としており、この手の代表による合議制を取る中でも珍しい…敵対関係が無い関係だった
そしてその4家こそが…
ーー知識を司り、大図書館を取り仕切る司書の魔族家……クラリウス一族
ーー武力を司り、防衛軍を率いて集落を守護する獣人族家……クラーガス一族
ーー信仰を司り、自然を崇拝する神官を修めるエルフ族家……エーデライト一族
ーー技巧を司り、土木やインフラまで手に掛ける職人衆の大頭のドワーフ族家……アシュトルト一族
その一族達が残した最後の生き残りこそが…
「今年は少し早いですが…お墓参り、していきましょうか」
「そうだな。…しまった、花を忘れておった。摘んでいくか」
「ん……あっちに沢山生えてる……」
仲良く肩を並べて森の中へ入っていく3人を見送りながら、開けた場所へと進むカナタ
かつて国と見間違える程の家々や建造物等で栄えた中心地…だだっ広く開けたその場所は今…柔らかな草原とそれを彩る花々が地を埋め尽くし、そこに巨大な慰霊碑と、それを囲む4つの大きな墓が存在している
中央の巨大な慰霊碑に彫り込まれている文字…
『ユーラシュアに生きた者、ここに穏やかなる眠りに着く』
と刻まれている
それを囲む4つの墓は、それぞれユーラシュアを率いた4家の墓である
「…ま、俺のせいみたいなもんだしな。あの3人にはもっと嫌われてもいい…って思ってたんだけどなぁ…。正直、勇者を打ち明けたら殴り飛ばされてもおかしく無いと思ってた…」
1人、苦々しく呟くカナタ
魔法袋から取り出した自分の花を4つの墓と慰霊碑に備えてから手を合わせる
何故穏やかで魔物の少ないこの場所が、魔物の大群によって滅び去ったのか…それはひとえに…カナタの動きが間接的に関与していた
ユーラシュアが滅びたのはカナタが王国と袂を絶ってすぐの事だ
つまり…魔神大戦が終わってから起きた事件なのである
かつて、手当たり次第に魔物を鏖殺し魔神族すら見つけ次第即殲滅の姿勢を取っていたカナタは大戦最終盤において…莫大な量の魔導兵器を用いた多方面同時作戦によって魔物の集まっていた場所を同時に襲撃した
最終戦の現場となったその場所に主力兵器を投入し、量産型の魔導兵器は全て…勇者本陣への挟み撃ちを防ぐべく…先んじて魔物の密度が高い集結地点へと殲滅に動かしたのだ
つまり…魔物が攻め落とそうとしていた大国、大都市周辺では魔導兵器と魔物による大戦争が各地で勃発していたのである
魔導兵器は数と性能によるゴリ押しと制圧により片っ端から魔物を殲滅…戦況は優勢を極めていた
事実、生き残った魔物は本当のままに逃走していき、魔物に狙われていた国や街は無事に次の日を迎えることが出来たのである…しかし…
逃走した魔物はどこへ行ったのか?
それこそがユーラシュア滅亡の理由である
大国を落すための尋常ではない数の魔物…それらが敗北を悟って逃走していき、魔導兵器よ追撃を振り切ったものも多く存在した
そしてユーラシュアは……そんな大国の中間に位置していたことが最悪の状況を作り出したのだ
大国ラヴァンと大国ターティアルトは勇者の魔導兵器に続いて国内に籠もっての防衛戦から外に出ての撃退に切り替えてしまったのである
再び集結しては後方の脅威となることを懸念し、魔導兵器により四方へと散らして、集結させないように動かしていたはずが…各所へ散ったであろう魔物の残党は内部から攻め出る猛反撃により、魔物の逃走ルートを一箇所に限定してしまった
逃走した魔物達は揃って反対方向へ…つまりユーラシュアのあるケネルーの森方向へと集結してしまったのだ
これがユーラシュアを襲撃した魔物の大軍勢を産み出した原因である
目立った国や街は回ったことのあるカナタだったが…ケネルーの森の中にある集落までは知らなかった事もあり、その里が壊滅したことを知ったのは全てが終わった後だった
「…悪かった……好きなだけ恨んでくれ。責めてあの世に行った時には…頭地面に擦り付けて謝らせてもらうからな……」
彼女達との絆が深まる度に…その事実が己の心に影を落とす
ちなみにその事は全て3人には話してあった
己の正体を明かしたその時に、洗い浚い…
その返答は…
「そなた、まだ気にしておるのか?まったく……それはカナタのせいではないと、あれ程言い聞かせたではないか」
「そうです、カナタ。結局、ラヴァンとターティアルトの間には通り道になる大街道が走っていましたから、魔物はそこを通らざるを得なかった…そもそも、その魔物達に両国が堕とされれば、その魔物の群は全て…結局はユーラシュアに来ていたのですから」
「んっ…街の撃退行為も…予想出来なかった……。…ラヴァンもターティアルトも……同じ事をして同じ結果を作るなんて……誰も想定できない…」
「っ……聞いてたのか」
いつの間にか、花を積みに回っていた3人が真後ろまで来ており、呆れた溜息を聞かせながら各々がそれぞれの墓に色とりどりの花の束を供える
気が付かない随分と長く手を合わせていたらしい
「よく見ると、その墓に手を合わせる所作も見たことがないと思っておったのだ。…なるほど、そなたの故郷では故人に手を合わせて祈るのだな」
「…まぁね」
カナタの短い返事に柔らかく笑うペトラが、その真似をして両掌を合わせて頭を下げる
3人が揃ってカナタを真似て手を合わせる姿はほんの少しだが…故郷で曽祖父母の墓参りをした時の事を思い出させた
こうして皆で、墓前に花を添えて手を合わせた…その時の光景がなんとなく、脳裏に浮かび上がってくる
(…もし帰ったら、俺の墓もあったりすんのかな。…もう5年も帰ってないしなぁ。っていうか、背格好変わりすぎて気が付かれない、なんてこともあるか。…まぁ、小6の時から30cm近く背伸びてるし)
繋げて故郷に思いを馳せる
帰還して、家族にあった時どうするのか…たまにこうして考える
5年も行方不明の少年が突然、青年になって今出てきたら大パニックだろう
「カナタ、私達の方は終わりましたよ?」
シオンの声でもう一度思考を引き戻されると気を取り直して3人が集まってくるのを待つ
墓参りにそこまで時間は掛からないのがこの世界の一般的なものだ
「それで、カナタよ。我らに見せたいもの、というのはどれだ?まさか普通に墓参りへ赴いたわけでもなかろう?」
「んー、半分正解、半分ハズレ。んじゃ……次の墓参りに行こうか」
カナタの言葉に「?」を浮かべる3人
墓参りならたった今、したばかりであるが…「着いといで」と言うカナタはユーラシュアの巨大な慰霊碑を通り過ぎ、その後ろの森へと向かっていく
大きな木々が行く手を遮るその先はとても人が通る場所ではない鬱蒼とした木々が乱立しており、普通ならば入る気は全く起こらないだろう
おもむろに、カナタが森の手前で耳元に手を当てたまま、小さな声で呟いた
「…偽装解除」
直後……森が動いた
「はぁっ……!?な、なんだこれは…!?我、こんな隠し機能知らんのだが!?」
「わ、私も知りませんよ!?というかいつからこんな大掛かりな仕掛けを…!?」
「…おぉー……」
比喩ではない
森を構成する木々がそれぞれ独立して動き回って移動しているのだ
良く見れば木の根と思わしき場所は全て装飾のように造られたものであり、その下に隠れていたのはガチガチの金属製脚部パーツが8本現れ、それをガシャンガシャンと動かしてどんどん左右に移動していっている
時間にして数十秒程が経った時、目の前に壁と如く聳えていた森は綺麗に左右へと避けられ一本道が出来上がっていたのだ
そのまま何事もなかったかのようにすたすた、と現れた道を真っ直ぐに進み始めるカナタの後を追う3人だが、どうしても左右を…動き回ってた木を見てしまう
「か、カナタ…流石にこれは…木じゃありませんよね?どれくらいあるんですか…?」
「それ、ガワだけ木っぽく装飾した魔導兵器でね。監視と結界の役目を果たしながら戦闘も出来る優れもの…ユーラシュアとこの先を囲む木々は全部だよ。ちなみに名前は「ウッディ」君だ。ほーら、ウッディ君、3人に挨拶してー」
ガションッ、ブンブンッ
周りの気が一斉にこちらに正面を向けて太い枝を手のように振ってくる!
シオンとペトラは流石にその光景に若干の恐怖を覚えた…!
前を歩くカナタが「ふっ…俺の自立プログラミングは完璧だぜ…」と、なんか自慢気に頷いている!
ちなみにマウラは楽しそうに手を振り返していた…「おぉ…!」と楽しげに反応しながら右に左に手を振りまくっている…!
「ま、まさか我らの故郷周りがこんな手を加えられておるとは……というか、こんな大掛かりな兵器群がなぜここにおる?」
「そりゃあもう…ここ、ユーラシュアの壊れた家屋の整理とか整地をしたのはウッディ君達だからな。ちなみにここの隠蔽と防御の結界は完璧だ。ウッディシリーズ全機が結界の起点になるように造ってあって、それを繋ぎ合わせて広範囲をカバーする大結界を構築してる。まずどう頑張っても、その辺の奴らが迷い込むことは無い」
「いや、手が込み過ぎだろう!びっくりしたわ!新手の魔物にしか見えんかったぞ!?」
「だってあからさまにメカメカしいと変だし…ほら、この木目のディテールとか結構凝ってるのよ?」
ほら見て、と言わんばかりに道の脇に寄り「ウッディ君、お手」と手の平を出すカナタ
その手の上に枝をズシンッ、と置くようにする木に「どうよ、この自然な木目と樹皮の質感…初見で見破れる奴は絶対に居ないね」と1人うんうんと頷きながらちょっと誇らしげなカナタ…もはや意味の分からない光景である
さらに、時折巨木といえる立派な木が何本も生えており、ウッディ君達の群の中で等間隔で並んでいる…まるで何年も立っているかのように太い蔦が幹に絡みついた姿は樹齢数百年という貫禄を放っていた
「か、カナタ?この一際大きな木も、もしかしてカナタが造ったやつで…?」
「あぁ。それは「スーパーウッディ」君だ。ウッディ君のバージョンアップ型で色々とパワーアップしてんだ。見ろ、あの蔦…あれは伸縮自在の超合金で出来てて刺突から切断までなんでもござれだ。スーパーウッディ君は近接型でね」
「ど、どう見てもトレント種の魔物です!というか、その気の抜ける名前はなんですか!?」
「可愛いだろ?」
シオンが混乱の声を響かせる…そんな彼女にスーパーで君が旗でも振るように皆で蔦を振り回していた
ビュンっ、ビュンっ、スパァンっ、ビュンっバシィィンっ
空を切り裂く物騒な音が森の中に響き渡る…!
ちなみにマウラはそれに共鳴するように尻尾をみょんみょんと楽しそうに動かしていた!
スーパーウッディ君達の蔦の動きとシンクロしている…!
既にシオンとペトラはツッコミに疲れて軽く息を切らせていたがそんな事をしながらも、先に進んでいけば…ようやく一際広く開けた場所に景色が一変した
中央に巨大な…先程まで何故気が付かなかったのか、と思う程の…優に100mはあろう、まるでビルのように極太の巨大樹が聳え立っており、その周囲の地面は広く、綺麗な石畳に整地されているのが特徴的だ
石畳は巨大樹を中心に円を描くように綺麗に並んでおり、さながら渦を巻いているかのようにも錯覚する
巨大樹には真っ赤な林檎にも似る果実のような物が沢山ぶら下がっており、風にサラサラと音を奏でるエメラルド色の葉の中に星の光を受けて煌めく赤い果実が並ぶ光景はまるで木の葉の中に赤い星々が輝いているかのように幻想的なのだが…
当然…3人は同じ事を思った…
「……カナタ……もしかして…あのおっきい木も……?」
「あぁ。あれこそ周囲のウッディ君達を統率するウッディシリーズ最強の機体…大樹木偽装型防衛移動簡易要塞タイプB…通称「アルティメットスーパーメガウッディ」君だ。おーい、スッディくーん」
カナタが手を振ると聳える巨大樹の自動車のように太い枝がぶんぶんと手を振るように振られてくる!
愛称は「スッディ君」らしく、呼ばれた巨大樹はまるで「やっほ〜」と返事でもしているかのようだ!
シオンとペトラの空いた口が塞がらない!
「おぉぉぉ…っ……カナタっ、カナタっ……あの樹の実はっ…?…ホンモノっ…?」
1人、マウラだけは興奮気味にぴょんぴょん飛び跳ねながらカナタに問いかけている…カナタに一番感性が似てるのはマウラだということが証明された…
「あれか?ふっふっふ…あれも自信作だ。一見樹の実にしか見えないが、あのオーブは全方位に対して炎熱系の光線魔法を改良したプラズマ熱線を発射可能な高性能制圧魔法兵器…通称「シラユキヒメ」だ。魔物だろうが魔獣だろうが、結界を超えた時点で、一瞬でバーベキューよ」
「えっ……じゃ、じゃあもしも侵入したのが墓泥棒とかの不埒者だった場合とかは…?」
「そりゃあもう…一瞬でバーベキューよ」
「物騒にも程がある!?」
物騒にも程があった
絶対に果物と呼んではいけない代物である…いや、むしろ触れてはならない禁断の果実なのかもしれない
ペトラのドン引き悲鳴が虚しく広間に響き渡った
見た目の神聖っぽい大樹感からは想像もつかないほどの物騒さ加減に頭が痛くなりそうである…
だが…それはそれとしてシオンも気になってしまった…
「か、カナタ…あの葉っぱとかは装飾ではないんですか…?」
「いいとこに気付いたな。あれは全部着脱可能な軟体金属で造られた葉で通称『マジカルリーフ』…全部飛ばしてコントロール出来るようにしてある。普段は葉に見えるように軟体だが戦闘では硬質化させて全ての葉を操作可能、硬質化させると周囲を覆う盾に、葉は全部刃になってるから侵入してきた魔物に飛ばせば一瞬でバラバラよ」
「も、もしかして…それ、相手が墓荒らしとかの犯罪者の場合って…」
「そりゃあもう…一瞬でバラバラよ」
「なんてコトを!?」
なんてコトをするのだろう
ここに悪意を持って入った者は例え人であろうとも、バラバラにされて熱線でこんがり焼かれる…文字通りバーベキューにされてしまうらしい
シオンが「ひぇっ」と後ずさりそうな勢いでドン引きしている…!
普通の葉っぱにしか見えないのに…!
「そしてあの葉を操作することによる防御に加えて、武装を2つに絞った事により搭載された圧倒的物理装甲と魔法防御装甲、さらに魔力によるハイパーシールドを12枚重ね掛けすることが可能!単体で大規模結界の展開が可能で砲種を制限したことによる超防御力を発揮!自己修復機能と魔力生成用の大規模魔導リアクター一基、中規模リアクターニ基を備えていて、さらに自立歩行も可能だ!枝と根に擬態した柔金属製触腕による近接戦闘能力は大抵の魔物を瞬時に擦り潰す!…俺の作品の中でも、かなりイカした一品よ」
カナタがとても楽しそうに語る!
男のロマンが詰まった一品らしい…説明する口調もいつもより力が籠もっている
その説明に合わせて巨大樹…アルティメットスーパーメガウッディ君もまるで力こぶを両腕で作るように左右の巨大な枝でマッスルポーズみたいな格好をとっているのが小憎らしい…!
しかもその動きをする度に巨体が動くせいで地鳴りのような音がするので全然可愛くない
どう見ても植物系モンスターのラスボスにしか見えないのは決してシオンとペトラだけではないだろう
ちなみにマウラとっても嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている
まるで大ファンのアイドルに会ったかのように「…手…っ手振ってスッディ君っ…!」と頑張って手をぶんぶん振っている…アルティメットスーパーメガウッディ君も楽しそうに
「ま、まぁ取り敢えず本題に戻るか…うむ…。それで、カナタよ…そろそろ教えてくれても良いのではないか?」
「ペトラ?それって…カナタが見せようとしたのってこれじゃなかったのでは…?」
「ふんっ…違うだろう、カナタ?このトレント系の頂点のような見た目の傑作品、アルティメットスーパーメガウッディとやらは………ここで何を守っておる?」
「「っ!」」
呆れたように言うペトラの言葉に「はっ」としたシオンとマウラが慌ててカナタのことを見る
「まさか、あのオーバースペックの超兵器がユーラシュアの墓を守る為だけにあるわけではあるまい。そなたが見せたいものは他にあるのではないか?」
「…さっすがペトラ」
先程までのちょっとおちゃらけた空気を仕舞い込んだカナタがそう言って指先を合図のように振った
その直後、アルティメットスーパーメガウッディ君の3箇所ある洞の穴が光を放つ
そして…石畳の床が展開を始めた
ガコン、ガコン、ガコン、ガコン…音を立てて石畳のブロック一つ一つが移動し、地面に沈み横に動き、まるで古代遺跡の仕掛けのように石畳のそこら中が変形し、そこら中の地面から下から何かが迫り上がってくる
迫り上がってきた物は透明な2mはあろう大きなクリスタルケースのような透明の箱であり所々は金属製だが箱の内部は全て見える仕組みになっていた
そんなクリスタルケースがかなりの数地面から現れる
巨大樹を中心に正確な円陣を描くようにして、ずらり、と
カナタがクリスタルケースに囲まれた道を真っ直ぐに巨大樹へ向けて進み始めるのを見て、慌てて着いていく3人
何も言わないカナタに少し疑問を抱きつつ…シオンは直ぐ側を通り過ぎたクリスタルケースの中身を見て息を呑んだ
(これはっ……骨っ?)
そう、全てのクリスタルケースの中身は白骨化した骸骨が横たわっており、腹の上で手を組むような姿勢でケースの中に収まっているのだ
だが…あまりにもその骸骨には違和感がある
(なんでしょうか、この骸……肩と脇腹の損傷が酷すぎる……他の骨はきれいに残っているのにこの部分だけぐしゃぐしゃで…まるで何かが貫通したみたいな……)
だが…その違和感はそれだけに留まらなかった
ゆっくりと歩くカナタの後ろを進みながら左右のクリスタルケースを良く見れば…どれもが見るも無惨な破損状態の骸ばかりなのだ
腕がそもそも無い、下半身が丸ごと無い、肋骨が削ぎ落とされてる、黒ずんで炭化している、額に綺麗な穴が空いてる、頭蓋の一部が粉々、全身罅まみれ、挙げ句の果てに頭蓋しかない物まである
それらを見送りながら、巨大樹の根本まで辿り着くと遠くからでは気が付かなかったがそこに石碑が立っていた
見上げる程度の大きさをした、黒曜石のような艶のある石碑
そこには…シオンも見たことがない文字が刻まれていた
やたらと棒が多かったり、逆にミミズのように曲がっていたりと法則性の別れた文字が3行ほどつらつらと記されているが…見たこともない、全く読めない未知の文字である
「……カナタ、なんと書いてある?これは…そなたの故郷の文字だろう…」
目を伏せて、カナタの背中に問いかけるペトラになんとなく…彼女はもう分かっているのだろう、と…カナタもシオンもマウラも…3人が思った
振り返ること無く、カナタはその答えを彼女へと打ち明ける
「……"" 日の本より来たる者 遥かなる故郷を願い この場にて待ち眠る ""。俺がそう刻んだ…ここは119人の先輩達が眠る場所。シオン、ペトラ…お前達が王城の地下で見たのとは違う、ここは正真正銘…」
振り返ったカナタは巨大樹を背にして
先程のようなお調子の良さをぴったりと潜め
両手を広げて、この場所を見せつけるようにしながら
「ーー歴代勇者達の墓場なんだ」
120代目の勇者は、己の弟子にそう言った
ー
【side ペルトゥラス・クラリウス】
「元から正体が割れたら3人には見える予定だったんだよ。…まさか王宮側があの場所に2人を案内するとは思ってもなかったけどな。スーパーメガウッディ君には3人の故郷ユーラシュアと…そして全勇者達の遺体を守らせてる。……俺が皆を日本に連れて帰るその日まで、な」
一目見て特別だと分かるほどに、目の前の巨大樹にカモフラージュさせて造られた魔導兵器は圧倒的な存在感を放っていた
妙だと思ったのだ
ここまで力を入れてまで、一体何を隠して何を守ろうとしているのか
そして納得した
そもそも、強奪した歴代勇者達の遺体を魔法袋に入れっぱなしになど、する筈もないだろう
こやつならば、しっかりと墓場に据え置いているとら思っていた
どの骸も…折れ、砕け、喪い、穿たれ…ぱっと見ただけでも死因が分かるようなものばかり…その壮絶な死に様を体現しており、明らかに普通の死に方ではない
さらに言うならば遺体の、骸の状態が良すぎる
何百年も前からあるにしては骨事態が綺麗過ぎるのだ
そんな骨なんてもっと朽ち、黒ずみ、崩れているような物だが…損傷以外はまるで骨格標本のように美しい…一体どのように保存をしているのか検討もつかない
「ほら、マウラの隣にある棺見てごらん」
そんな中、そう指し示しながらカナタが視線を送る先はちょうどマウラが立っている真横に横たわる棺
その中にある骸は…胸骨を中心に肋骨と背骨が円形にくり抜かれたようにぽっかりと喪失しており、凄惨な死因がはっきりと見て取れる
一体何の攻撃をくらえば勇者の肉体をこんなデタラメに破壊できるのか想像もつかないが…
「その棺の中居るのは、圧擊の勇者マツミカノ……胸部を一撃でぶち抜かれて即死。さらにその後ろの棺、空撃の勇者ナエシロヨウタ…両足を破壊され全身を捕食され死亡。その左の棺、毒付の勇者イケヤマジンジ…腰から下を食い千切られ死亡。その前の棺、飛翔の勇者ヤツキミナコ…全身を鋭利な飛翔物で撃ち抜かれ、死亡。1つ飛んで後ろの棺、斬擊の勇者マトウヒナ…全身を握り締められ圧死。シオンの前の棺、爆導の勇者シナノレオ…頭部を噛み潰されて即死。その後ろの棺……ーー」
1つ、指し示した棺が順々に別の必要を示し、そして淡々とその棺に収まる者について語られる名前と死因に鳥肌が立ちそうだ
想像を絶する死因…勇者とも言われる彼らがまるでいとも容易く葬り去られてきたかのように聞こえて…隣のシオンとマウラも流石に顔色が悪い
もし一歩間違えたら、同じ勇者であるカナタだってこうなっていたと考えれば…震えが収まらないくらいだ
だが…そのあとに続く言葉はさらに我の背筋に氷を差し込んだ
「ーー以上、勇者21名。その死因は全て同じ……全員が、まったく同じ原因によって無惨にも命を奪われた。なにか分かるか?」
ーーっ…成る程、そなたはそれを言いたかったのだな…。随分と意地の悪い教え方をしおって…
21人…その数字ならあまりにも最近聞かされたばかりだ
「…魔鳥龍グラニアスか」
苦々しく…恐らく自分の顔は随分としかめっ面になっていると自覚しながらその答えを口にする
隣のシオンは…その答えを聞いて表情に影を落としているのを見るに、どうやら予想は出来ていた様子だ
ユピタ紅葉林についての歴史を調べたと言っていたからな…恐らく、カナタが読み上げていった名前に聞き覚えのある勇者があったのだろう
つまり、カナタが伝えようとしているのは…
「正解。今言った勇者21人は全員…魔鳥龍グラニアスに惨殺された。彼らの名誉の為に言うけどな…皆、強かったよ。簡単に一国を左右できるような強大な力を持ったまさしく英雄……勇者だった。その勇者達ですら、グラニアスの前では及ばなかった…こんな無惨な姿になるほどに惨たらしく殺害された」
とさっ
石碑の足元に持っていた大きな花束を備えたカナタが再びこちらに視線を戻す
その語りは、淡々と話している癖に…憎そうに、恨めしそうに、怒りを湛え、何よりも……心配の色に塗り潰されているのがよく分かってしまった
「これが四魔龍。そして、これから戦う魔鳥龍グラニアスだ。…もう一度、例えしつこいと言われようともう一度だけ言わせてもらう。……家で待っててくれる気はないか?」
ーーそれを言いたかったのか、カナタ
不安なのだな、我らを大切に思ってくれるあまりに…そなたの唯一の弱点が我ら3人になってしまった
前回、そなたが相対した時には持ち得なかった究極の急所…それが我らだと…
悔しいが…それを否定する材料は無い
ただの自信だけで頷けるほど、この質問は軽くない
…別に自信があったわけではない。ただ…カナタと共になら、シオンやマウラと共にならばどんなことだって出来るのではないかと…そう思っていた節があるのは確かだった
まさに世の趨勢を左右する戦いなのだ…それがここに来て身に染みるように入り込んでくる
きっと…離れたラヴァンで待っているのが正解なのかもしれない
カナタの心配の種にしかならないならば…身を引いてその身の無事を祈るのが当然なのかもしれない
形骸とは言え、思い知った…四魔龍の規格外の戦闘能力
いかに勇者と言えども、その力には叶わず21もの犠牲を払った
そんな怪物に……カナタは勝てるのか?
魔将と魔神族が現れて、四魔龍まで放たれて…カナタだけで…本当に?
「……嫌だ」
だって…勇者の死体にはこんな壮絶な傷が残っている…これをカナタが受けたら?
「……………嫌だ」
それが…我の知らない所で…
「嫌だっ」
こんな…ぐしゃぐしゃに体を破壊されるような目に遭うなんて事があれば…
「嫌だ嫌だっ!ダメだカナタ!1人でなど行かせるものかっ!足は引かんと言った筈だ!そなたが…っ、そなたがこんな目に遭うかもしれんと想像するだけで…っ震えと吐き気が止まらん!もう大切な物は失いとうない!そなたが居なくなっては…っ我はっ………我は壊れてしまうっ!」
もう自分が何を言っているのか分からなかった
只ひたすらに…滂沱の如く溢れる感情が、言葉によって肉付けされて口から飛び出しているような…己が指を差す棺の骸を見て、それをカナタに重ねて…世界が崩れ落ちるようや絶望が襲いかかってくる
この時、自分がボロボロと大粒の涙を流していることにすら意識が向かず、まるで叫ぶような大きな声を発しているのにも気が付かない
「せめて側に…っ!少しで良いから側に居させてくれ!雑魚の相手でも街の守りでも何でも良い!どんなに微細と言われても力を貸すとも!だがっ…待つだけなんで嫌だ!それくらいなら共に死ぬ!だから頼むっ……少しでも良いからっ…頼むぅ…っ」
自分が膝をついたと認識したのは…左右からシオンとマウラが我を強く抱き締めてくれた時だった
2人の熱と力の籠もったハグに、意識がようやく闇の底から引き上げられる
涙でぼやける視界の先で、カナタは…考え込むようにして立っていた
取り乱した…柄にもなく…そんな我の姿を見て、慌てるもなく、ふためくもせず…ただ真剣な顔で、少し申し訳無さそうに目を伏せながらも…言葉を発することはなかった
それだけ、彼が発した言葉は本気も本気…今のこんな情けない我の姿を見てもすぐに覆そうとはしない程に…強い意志を持ってそう言ったのだと理解した
この喪失による恐怖を…我らを失う事による絶望を、きっと彼も感じているのだ、と…
「…カナタ。私はカナタが考える気持ちも分かります。でも、きっと…それは私やマウラ、そして今ペトラが言った事と全く同じなんだと思います。最悪の可能性がどんどん頭の中で膨れ上がって…全て無くしてしまう想像に押し潰されそうで…それくらいなら箱の中に大事に仕舞っておけばいい。そう考えるのは当然です…」
「……でも……それは私達にとってすごく…残酷…。……私も、2人も……こうなるって分かってて……カナタと結ばれたよ…?…だって……側に居れないって…辛いから…。…もし、お家で私達が待ってて…それでカナタが無事に戻ってきて……笑って出迎えるなんて、多分…無理だよ…。…一緒に戦お…?」
2人の言葉は、それを全て見通していて、そして全く同じ心を共有していた
それを受けたカナタは…目元を抑えるようにして静かに…
「……少し、考えさせてくれ」
そう一言、呟いた
ーーー
3人が道を引き返し、ユーラシュアの墓場へと戻っていくのを見送ってから巨大樹の根に腰を降ろして額を手で覆うカナタ
考えさせてくれ…そう言ってから3人はすぐに立ち上がり「向こうで待ってますから」とシオンの言葉を残して道を引き返していった
今この場には、カナタしか居ない
「…あんなに取り乱したペトラは初めて見た……。なぁ、俺は間違えてるか…?大切なものを守る…この行動は正解じゃなかったのか…?」
『マスター、それは…』
「あの3人に何かあったら俺は…今度こそ立ち直れない。例えこの世界の全てを破壊しても…止まれなくなる。この世界の厄介事の中心は俺だ…その俺から、荒事の間だけ引き離すのは…間違えなのか…?」
『マスターの気持ちは理解しています。マウラ嬢と結ばれて、3人と身も心も通わせたからこそ、怖くなったんですね?ですが、彼女達も覚悟はしているのかと…』
「違うッ!3人の覚悟は分かってるさ!あいつらは半端な覚悟で物言える奴らじゃねぇんだ!ああやって言うってことは、命をかけて俺に着いてくる気なんだ!だから!だから怖いんだ!ここぞって時にあいつらは間違いなく…っ命も体も張っちまう!それを分かってて、愛した女3人も死地に連れてく間抜けが居る訳ねぇだろうがッ!」
怒声……いや、どちらかといえば悲鳴だろうか
声は怒り狂うように強い感情を載せながら、その実…心から漏れ出る悲鳴がカナタの口から溢れ出す
「グラニアスが相手だ、ただの魔物討伐とは訳が違う!それだけならマシだったのに魔将が二人以上割り込んで来るのは確定だ!体が2つあっても足りねぇのにもしあの3人に何かあったら…っ守りきれねぇんだよッ!」
『マスター、ですが…』
「でもも何もあるか!?他の魔物の相手っつったって、魔物と魔神族の相手で地面も空も俺の兵器が飛び回って攻撃魔法の嵐になんだぞ!?どこで何してて貰えばいい!?カラナックだって安全じゃねぇ、最悪街ごと更地の可能性だってゼロじゃねぇんだ!ならどこに居てもらう!?決まってんだろ!一番安全な場所だ!そんなの……」
アマテラスの言葉すら通らない
もはや、カナタの中で3人への想いは巨大に膨れ育ち、自分でもどうしようもなくなっていた
カナタ自身ですら、それを止める術はない
だからこそ、様々な機能を有し要塞化させたカナタの家まで退かせる…その言葉を言おうとした直後、彼の言葉を遮ったのは…
『そんなの、お前の側に決まってるだろ…黒鉄』
『世界で一番安全な場所なんて、最強の勇者の隣以外あり得ないと思うけど?』
カナタの一番側にある2つの…
そこにそれぞれ腰掛けた、光る半透明な2つの人陰からの言葉だった
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注意…デュ◯マをご存知ない方は飛ばしてオッケーです
【後書き】
◯お題ーー好きなデュ◯マは?
「あ、今度はデュ◯ルマスターズですか。これはあんまり知らないんですよね、私」
「ほぅ、なんだ我のデッキをまた知りたいのか。この知りたがりさんめっ」
「…私のデッキは……トぶぜ……っ!」
「…おいおい、俺のデッキを知ってから同じことが言えるかな?」
「すごい…っ、この3人の反応は…嫌な予感しかしません!聞きたくないっ…じゃあ耳抑えておくので、静かに言ってくださいね?せーの…」
「轢き殺せ!ホーガンミスキューっ!(制限前)」※弱々性感魔族
「…全ブッパ上等っ…ラッキーダーツっ!(制限前)」※誘い受け上等獣人
「覇ァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!(制限前)」※最強◯倫勇者
「煩すぎます!?特にカナタ!それはもう意味分かりません!吼えてるだけです!しかも全員揃って運ゲーばっかりじゃないですか!?」
「え、でもほら…デッキの説明に「覇を出します。覇で勝ちます」しか書いてなかったりするし…」
「なんですかそのクソデッキ!?」
「ちなみに我のデッキにも入ってるぞ」
「……私のデッキも……入ってる…っ」
「明らかにクソカードです!?というか3人揃ってガチガチの制限受けたデッキばっかり!恥とか無いんですか!?」
「覇ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「そのワケ分からない掛け声で誤魔化さないで下さいカナタっ!」
「先攻1ターン目ラッキーダーツ捲ってホーガン・ブラスター出たのは覇…これが我ら3人の友情トライアングルアタック!」
「赤単速攻を潰した時の快感は異常!」
「……ファッティの暴力で……潰して差し上げろ……!」
「まさか…速攻系に恨みがあるからそのデッキのラインナップなんですか!?陰湿にも程があります!」
「ふふっ、お待ちなさいシオンさん。人のデッキに文句は付けられませんわ?何せカードの世界は勝利だけが全て…何をどれだけメタメタにメタろうとも勝てば官軍ですのよ」
「ラウラさん!…いえ、待ってください。こういう時ってだいたいラウラさんも…」
「開け天門!ヘブンズゲート!」※ダークホース聖女
「やっぱり速攻潰しでした!?イメージ通り過ぎて逆にビックリです!というか速攻系に親でも殺されたんですか!?」
「絶対に許しませんわ。当然、1マナブロッカーから星龍の記憶も入れておりますの。1枚とて、私のシールドは割らせませんわよ!」
「いい執念だなラウラ…流石は聖女だ」※ベッド無敗王者分からせるのもアリな男
「……まさに……守り特化の聖女…っ」※仕掛けてから分からされるのぶっ刺さり大好きキャット
「これが
「絶対に違うと思います!というかそこに聖女は関係ありませんがっ!あとさっきから書いてある肩書き酷すぎません!?」※何だかんだ一番М度高くて抱き潰されるくらい激しいの大好きエルフ
「へぇ…」
「…ふーん」
「ほぅ」
「あらあら…」
「む、皆どこを見てるんで……あっ」
※〜作者の一番好きな時期の話となります。ほら、最近のはカード名が子供向けっぽくて…この頃が好きだったなぁ…〜
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