第55話 夜に乱れ咲く紅の華
「…カナタ。鎧、脱いで下さい」
上体を起こしたシオンが膝をついて顔を下に向けたカナタに一言、そう言った
全てを言ってしまった…といったカナタの気力が抜けたその肩を掴み、彼の目を見るように輝く双眼のバイザーに視線を寄せるシオンにゆっくりと顔を上げるが…しかし、彼女がどう感じたのか…それが怖くて彼女の目をまともに見れない
「…いや…ちょっと今顔合わせんのは……。…っちょっと落ち着いたらまた話すからさ…ほんとはこんな形で話すつもりじゃなくて…もっと普通に、考えて色々言おうと思って…」
「いいから!脱いで下さいカナタ!じゃないとフルパワーの
ガシッ、と今度は兜を両手で鷲掴みにして声を大きくするシオン
カナタとしては…もっとスマートに、ペトラの時からしっかりと学んで穏やかな形で自分を伝えるつもりだった
予想外だったのだ
自分を知って尚、ここまで力強く、無我夢中で、何の躊躇いもなく、自分を求めてくるのは
…いや、ペトラもそうだった
どこか心の中で…まだ期待しきれていなかったのかもしれない
シオンも同じとは限らないと、彼女がそう言ったように、自分の心は彼女に寄り掛かっていなかったのだろう
それを真正面から全否定された
その衝撃が…順序立てて言葉を選んで伝える筈だった心の中身を、ダムの壁が壊されたように引き摺り出されたのだ
違う、そんなつもりじゃない
もっと穏やかに、言わなくてもいい事は秘めて、自分もシオンもちゃんと納得できる理性的な応えをする筈だったのに
堪えきれない思慕が、爆発したのだ
このままでは、余計なことを全て言ってしまいそうだ
それが怖かった
ペトラは戦いの最中に何もかも分かって伝えてきた。敏い彼女はこちらの思惑を先読みした上で、それでもいい、と覚悟を決めてくれていた
でも…今、なんの言葉も選ばずにぶちまけてしまった内容は…正直、どんなに引かれてもおかしくない筈だ
一度頭を冷やさないと…
そう思うカナタを、シオンは逃さない
「ちゃんと、ちゃんと普通に話すから待てって!今整理してんだ!冷静に考えて話せばあんな訳わかんねぇ事言わないから少し…!」
「鎧があったら!抱き締めてキス出来ないでしょう!?」
その言葉に、目を見張った
聞き覚えのある…そんな言葉を、自分は掛けてもらった事がある
『…っ鎧を脱ぎなさいジンドー!でないと…っ私は貴方を…ッ貴方をこの胸に抱き締められないッ!!お願い……っ少しでもいい…心を預けて…!私にッ!…じゃないとっ…貴方はっ壊れてしまいますわ…っ!』
ああ、そうだ
彼女だ
自分のことを考えてくれる人は皆…この鎧が邪魔だと言うのだ
それを思い至った瞬間…
まるで歯車を地面に落としたような、あっけない金属音を立てて…漆黒の鎧が光の粒子と化して霧散した
カナタ自身が意識して解除したわけではなく…気が付けば、己を覆う『勇者』はバラバラに分解されて消え失せてしまったのだ
機械的に目の前に映された映像から、生の視界に切り替わり、茫然とするカナタの視界はすぐに…シオン一色に塗り潰される
力強く背中に手を回され、これ以上は痛いと思う程にきつく抱きしめられ…またも、『勇者』なんてものが役に立たない事を思い知らされた
「……これでどうですか?まだ分からないような鈍感でもないでしょう、カナタは。…分からないようなら分かるまで殴ります」
「…もうちょっと穏やかにいかね?」
少し震えた声でなんとか言い返すも、シオンはくすり、と笑いながら「ダメです」と囁く
「別に知らない場所へ行くことに抵抗はありません。それが異世界だとしても…むしろ、カナタの世界を見てみたいです。どんな所で育ったのか…行ってみたいとすら思います。そして、カナタたとえ今まで…屍山血河を築きあげていたとしても、それが無意味で無情で…考え無しの行為とは思っていませんから。あと…私の幸せは私が決めます、カナタにだって決めさせません。断言しましょう…カナタといれば、幸せなんです。それを手に入れる為にどんな試練があるかは知りませんが…その為ならばどこまででも進みます。だって…私はカナタの弟子ですから」
「変なとこばっかり似ちゃって………嫌って言っても、離してやれないぞ?ペトラの件で思い知った…俺、滅茶苦茶そういう所あるっぽくてなぁ…」
「ふふっ、最高です。絶対離さないでください。あと……私から、私達から離れられると思わない方がいいですよ?カナタはとっても…とーっても厄介な女達に、惚れ込まれてしまったんですから」
体の力が、本当の意味で抜けていき…「…みたいだなぁ」と冗談めかしてぼやく
その視線がしっかりと強い意志を宿した彼女と交錯し、そして今度はどちらからともなく…
互い唇を重ね合わせた
彼女の紅い髪が揺れ、ほんのり朱に染まったピンと尖ったエルフ耳をピクリと震わせて目を閉じる
静かで、なのに熱く、互いの心の温度を物語るように情熱的で…そしてなにより
この世の何よりも、大切そうに
ー
剥き出しと土と岩に均された大地の上で横に並んで座り込む
シオンの姿は既に戦闘装束「焔纏」を解いて元の学生服に戻っており、その肩をカナタにぴったりと寄せて頬を肩に乗せ、手は指を絡めるようにきゅっ、と繋がれた状態となっていた
「気にし過ぎなんですよ、カナタは。むしろなんで自慢しないんですか?勇者ですよ勇者。カナタはこの世界の英雄なんです、むしろ私達の師匠兼恋人として胸を張って貰わないと困ります。というかカナタが動かなかったらこの世界の人は皆殺しの可能性高かったんですよ?殺しにかかってきた相手を何人返り討ちにしようとどうでも良くありませんか?そもそも強いってちゃんとしたステータスじゃありませんか?弱いより遥かにマシだと思いますが…カナタだってその強さに助けられて来ませんでしたか?その力は呪ではなく恩恵なんです、ちゃんと自分が特別だって考えた方が…」
「はい…はい…すみません……はい…いやほんと…マジすみません……」
いや、なんか甘い会話とかじゃなかった
ひたすら彼がシオンの垂れ流す言葉責めに小さな声で「はい」と「すみません」を繰り返すbotと化していた
シオンは理解していた…カナタが妙に自己嫌悪の強い妙な癖があることを
そこに自信を持ってくれれば…と思うのだが、恐らくこの自己嫌悪に最初のブローを叩き込んだのがペトラだった。自分と相対した時のカナタは恐らくまだペトラの時よりは改善されてた方なのでは?そう思わずにはいられない
「ほんとにもう……正直、家の側で戦ったのは失敗でしたね。魔法、本気で撃ったら家ごと周囲一帯が木っ端微塵になっていました。…こんな破壊規模の魔法、使う機会あるんでしょうか?」
「あぁ、あるある。正直、使う場面がイヤってほど思い浮かぶ…ま、撃てるけど撃たないのとそもそも撃てないとでは違うからなぁ。それは必要になるまでとっときな」
「それは……四魔龍とか、ですか?」
シオンの言葉に唸るように声を籠もらせ、目を細める
特に、彼女が正解に辿り着いた理由の1つが四魔龍だった事もあり、心当たりはそれしか思い浮かばなかった
今回はその力を肉体へメインに使ったシオンではあったが…ハッキリ言って、手加減とまではいかずとも使ってない力…いや、使い方がまだ存在している
しかし、シオンは自分でもその強みは火力と言わしめる程に振り切った物を持っている為に、なるべく広いリーバスの森の側に広がる草原を選びはしたのだが…本気で魔法攻撃をした場合、これだけ家から離れたとしても今まで過ごしてきたあの家が蒸発するのは避けられない…
「…一応言っておくけど…俺の封印には近づくなよ?特に、特に…と、く、に!ユピタ紅葉林には近づくな、いいな?」
「わ、分かりました、分かりましたっ!…そんなに強かったんですか、エデルネテル…?」
「……アイツの前にお前達…女を連れてったらダメなんだよ。基本的にエデルネテル相手は女人禁制…エデルネテルの生態は知ってるか?」
「繁殖に寄生性が強くあり、他生物に幼虫や卵を寄生させる事から都市部や町村などの人が集まる場所では凄まじい被害が起こる…というのは聞いたことがありますが…それなら男性が行っても同じではないんですか?」
「あー…パニック抑制で情報抑えてんのか…?…エデルネテルはな、人類の女性を相手に「寄生」じゃなくて「交尾」すんだ。実際に子宮の中に卵だの幼虫だのを産み付けて、強烈な媚薬質の毒で逃げる力と恐怖心、反抗心を奪い取り自害すらさせなず、産ませる…男の場合は餌ってだけだし、毒食らってもムラつくだけだからな」
「っそれはなんというか…気色悪いというか…私、カナタの子供以外は遠慮します」
「…ま、またそういう事を平気で言う…」
「事実です。…イヤですか?」
「……な訳あるか…」
「…顔、赤いですよ?」
「お互いにな」
居心地の良い沈黙が横たわる
夜風が熱くなった頬を撫でるのが心地良い
「…カナタ、言ってください、私に。さっき言ってた言葉、思いっきり、自信を持って言ってほしいんです」
さっきの言葉…それはカナタが思わず口走って後悔した中にあったものだ
シオンがそれを聞けばきっと自分からも離れるのではと危惧した、言葉選ばない意思を…それを伝えて欲しいと言う
本当に…バカな男に惚れてしまって…そう思いながらも、胸中はあまりにも嬉しく、飛び跳ねそうな程で
「…ずっと側にいてくれ、シオン。どうしようもないくらい、お前の事…その……愛してる…から…うん……」
いや、言わなきゃ言えない場面は弁えてるカナタではあったが、何故この言葉はこんなに小っ恥ずかしいのか
漫画やドラマの人間はよくもこんな歯の浮くセリフを堂々と言えたな…と故郷の名優達に思いを馳せる
元の世界なら「ヒューヒュー」と茶化される事間違いなしの甘いセリフのはずなのだが…こんなにも、幸せそうな顔を向けてくれるのだから気張って言う甲斐があるというものだ
「…っ……はいっ!この身朽ち果てるまで…永遠に…っ!」
その言葉を聞けば、自分が人に対して、こんな顔をさせることが出来るなんて…ペトラに加えてシオンまでだが、本当に信じられない気でいっぱいになる
そんな嬉しい言葉をかけられたら…抑えきれなくなる
ただでさえここまで心に入られてしまったのに、その上でぐいぐい来られると…ちょっとヤバい
この言葉に幸せの眩しい笑顔、寄せられる肩、絡む指、鼻に届く花のような匂い、密着する体…戦いのアドレナリンや彼女からの受け入れによる安心感、心の緩み、幸感、そして体に伝わる柔らかさ…
心臓が弾むのも無理はない…とカナタは思った
「と、取り敢えず…もう戻ろうか!明日から、建国記念で色々ありそうだし!あーほら、学院も暫くは休みになるだろうから…」
「…っそう、ですね…っじゃあ、行きましょう…っ」
「じ、じゃあシオンの部屋から送ってーー」
その手に羅針盤を取り出そうとしたカナタよりも数瞬も速く、既にシオンの手には羅針盤が握られていた
カナタが転移を起動するよりも速く、言葉を言わせる間も無く、転移の輝きは2人を包み…
「ーーく、か…?」
飛んだ先はシオンの寮部屋…ではなく、自分の、つまりカナタの部屋だった
あれ、俺確かにシオンの部屋に座標入れてたのに…なんて思ったカナタの視界の端に、パタンっ、と閉じられたコンパスが写る
「…カナタ。私は…さっきの言葉、嘘ではありませんし軽い気持ちで言ったつもりもありませんから。だから…っ…その……っ」
さっきの言葉?ああ、沢山話してて良くわからないな…
と、ここですっとぼけられる程、カナタは鈍感ではなかった…!
『私、カナタの子供以外は遠慮します』
(これそういう流れ!?そ、その気になったら良くないと思って寮まで帰ってきたのにそっちがその気なの!?これっ…抑える理由無いんじゃ…)
赤面しながら、普段のクールな印象を見せないようなちょっとだけ慌てて捲し立てる言い方に制服の胸元をぎゅっ、と握って恥ずかしそうに
…何よりも、ここまで意思を示されてこちらが日和るのはあまりにも情けない…とカナタは思った
「…ペトラとはシた…ってのは聞いてんだよな?」
「っ…は、はい。その…詳しく…かなり詳細に聞きました…」
カナタは内心悶絶した!
なんで自分と体を重ねた内容を詳しく聞き出してるのか…!
恥ずかしいなんてレベルじゃない…!
「あんまり…手加減してやれないというか…だ、だいぶ負担が大きいかもというか…は、始めると結構ノリが変わるというか…」
「わ、分かってますっ…私もそれを聞いて……怖いとかじゃなくて…う、羨ましいって思ったんですっ。だから手加減とか考えなくていいから…っ全力で愛して欲しい…ですっ」
あー…また自分のブレーキが壊れる音が聞こえる…そう思いながらも、もう自分がブレーキを踏む気がないのも分かっていた
正直、ペトラにはだいぶハードに無理をさせた気がしていたのだが、恐らくそれも全て根から先まで聞いているのだろう
それを知っても尚…と言うのなら…
近寄る彼女がベッドに、真横に座り込む
ベッドの下にそっと、
あとは自分の心の赴くまま…そして彼女の熱望通りにするだけ
シオンの口を己の口で塞ぎ、そっとベッドに押しせば抵抗なく倒れ込み、彼女から後ろ頭へ手を回すように迎え入れる
その日の夜は、シオンにとって最も長い夜になった
ー
【side シオン・エーデライト】
「わ、分かってますっ…私もそれを聞いて……怖いとかじゃなくて…う、羨ましいって思ったんですっ。だから手加減とか考えなくていいから…っ全力で愛して欲しい…ですっ」
今までもカナタにアピールしてきましたけれど…こ、こんなに緊張と興奮で震えたのは初めてです
言い切ってから猛烈な羞恥心で顔が熱くて仕方ありません…っ
カナタがカーテンを閉めるのを見れば心臓が弾む…
カナタの顔も真っ赤です
ペトラから根掘り葉掘りと聞き出した…その…よ、夜のカナタの強さはかなり非常識です
当然、経験などありませんが世の常識なら知っています
普通の男性は一夜に何度も何度も出来ません
魔力による肉体の強度、性能上昇やそれに併せた肉体の元から持ち合わせた長所に掛け合わせて行える得意は決まります
スタミナが多い、視力が良い、聴力に秀でる、跳躍が高い、力が強い、足が速い、反射神経が良い、頑丈、毒耐性が高い、アルコールに強い、記憶力が良い、大食漢、鼻が利く、そして……性豪
その場合は一晩中女性を抱くことが出来る男性も居たりするそうです…
ですけど…か、カナタは…み、三日三晩し続けても全然物足りないらしいです…っ
三日三晩っ!?し、しかもその…全力でして沢山出すもの出してそれって、ち、ちょっと変では…っ
と、思いはしたものの、「勇者」という存在にもこの特性が存在することを思い出しました。それも…この魔力による補正が可愛く見えるような補正がある事を
私が読み知った中でもそれは顕著です
かつて勇者ナカジマはラヴァン、ヴァーレルナの国家間の距離を全力疾走で駆け抜け僅か4時間で走破した
勇者ムツキは1時間半の連続潜水が可能だった
勇者タケシタは1km以上先の目標を目視で弓により撃ち抜いた
勇者モリヤマは街の酒屋5軒の酒という酒を全て飲み干した
勇者ツダは王城に存在した蔵書の全てを暗記した
魔力による補正でここまで極端な真似は出来ません。勇者には明らかに、勇者だからこその極端な力が発揮されていますが…
多分、今までの戦闘や日常的なモノを見るにカナタは肉体的な強度や強靭さについては頭抜けて凄まじい強さを誇っています
いくら勇者といえども、魔法の直撃を受けて平気だったり地面にめり込むほど殴り飛ばされて平然と立って向かってくるなんてあり得ません。それが強化魔法があったとしても、です
彼が勇者だと分かってこの謎も解明できました
恐らく…カナタは頑丈、力等の体の器官ではなく「素の肉体」が極めて高い強度なんです
そこに加えて勇者特有の…いえ、勇者の中でも莫大過ぎる魔力による異次元的な強化魔法によって常軌を逸した強さを発揮していたんですね
意味不明な肉体に意味不明な強化魔法を掛け合せた結果が、あの不死身のような強さの正体だった訳です
そして多分…そのぉ…じ、冗談かな、と思いはしたのですが…カナタが勇者として極めて強い補正を受けている「肉体の性能」の中には…べ、ベッドの上の性能というか…せ、性交に関しても異常な補正があるんだと思います
そこに加えて莫大な魔力による圧倒的な強さの掛け合せが行われた結果が…
「し、シオン、水飲めるか?その、だいぶトバしてヤってしまったというか、なんというか…つい我慢できなくて……大丈夫?」
これですかっ!
「だ、大丈夫っ…ではありませんがっ!はぁっ、はぁっ…!な、何回したんですかっ?しかも時間…っ」
「あー…始めてから2時間か。よしっ…まだまだ出来るな…」
「そのっカナタは大丈夫なんですかっ!?ふ、普通こんなにしたらへばると思うんですがっ!?」
カナタが手にしたコップに冷たい水を入れて差し出してくれましたが、なんとか手で持って口を着けられますけれど…たった2時間で既に下半身が震えています!
いや正直言いますと…予想より遥かに凄いものでした
最初は痛い…というのは違いありませんでしたが、そこを超えてからは、なんというか…底なし沼のようなハマり方をしてしまいそうな気持ちよさというか…つい次を求め続けてしまう痺れるような快感というか…
決して淫乱とかそういうのではありませんよ!?
ですが……はい…認めます
好きです、カナタとスるの。それもすっごく好きかもしれません…
ですが…ですが…!
加減は無くとも限界というのはあるのでは無いんですか!?
いえいえ、これで出すの我慢してて長時間連続で出来るならまだ理解できます…けど!
もうどれだけ出したと思ってるんですか!?あとちょっとサイズ変です!
ペトラの言っていた意味がようやく分かりました…!
これは……変になります…っ!
…火照った体にこの冷たい水はとても染みますね
「あ、ありがとうございます…。……これ、私やペトラじゃなかったらとっくの前に意識も手放して立ち上がれなくなってますよ、カナタ…」
「あー、それペトラにも言われたな。…でもほら、加減しなくていいんだろ?ちょっと、頑張っちゃおうかなと思って…」
「あっ、あれでまだ頑張ってないって言うんですかっ!?確かに加減無しでいいと言いました!けれど!ほ、ほらっ!ペースとか色々あるんじゃっ…」
「任せとけって。そこはペトラとシて良く分かったからな…このペースなら何日かは…」
「何日っ!?いやいや随分激しくされたと思うんですがっ!もうちょっとゆっくり穏やかに愛し合いませんかっ?」
「言ったろ?手加減出来ないって…覚悟してくれよ?……今まで抑えてた分、がっつりシオンの事抱くつもりだから」
あれぇっ!?の、望み通りの展開の筈なのに、何でしょうかこの猛烈な危機感はっ!?
う、嬉しくて仕方ないのにこの胸に響く不穏なドキドキはなんなんでしょうかっ!?
か、カナタがちょっとだけ性格違って見えるのは気の所為じゃないかもですっ!
これはっ、体が持たないかもっていうのも分かりますっ
あっ、ちょっ、まっ……えっ、今度は後ろからですかっ!?
ー
「っ……あれっ、今何時……」
「あ、起きた。ちょっとキツかったか?…すっげぇ声出て、そこからパタンと意識無かったからちょい心配したけど…ちなみに、まだ意識とんでから30分くらいかな」
ほやほやと頭が茹だるような火照りと、どっくんどっくん、と煩い胸の鼓動が意識をふわふわと靄のように覆う中で目を覚ましたら、カーテンの隙間から既に昇りかけの朝日が光を滲ませていました
あ、あれからすっごいペースと激しさで何時間したんでしょうか…
タオルケットに包まれた私の裸体が綺麗になっているあたり、カナタも流石に目を閉じた私を抱くことはしていないみたいで、むしろしっかり体を拭いてくれてたみたいてす
…まぁ綺麗に出来てない部分というか…どんどん出てきて汚れてく場所もありますが…いやほんとに底なしですね!?聞いてた以上というか、実際されると分かります…っ!ペトラが歩けなくなるのも納得ですっ!
「はい、コーヒー」
「あ、ありがとうございます。…カナタ、やり過ぎですね。これじゃ一晩で命中と言われても納得です」
「は、ははっ…それだけ好きだったって言うか…我慢出来なかったと言うか…わるい」
「いえ、責めていません。言ったじゃないですか全力で愛して欲しいって。…ちょっと全力が過ぎますが、それでも冷めてるよりよっぽど情熱的で…素敵ですよ」
むしろ、これで2、3回だけして終わり…なんて言われてもそれは私の方が物足りませんからね
下腹をゆっくりと撫でるとそこにたっぷり詰まったカナタの熱くて重たいモノをじわじわ、どくどくと感じ取ると、どれだけ強く愛されたのかが実感出来て…とっても幸せです
このまま…身籠ってもいいと思ってしまいますが…成る程、このまま身重になる訳にはいかない
やるべき事が、成すべき事が、行くべき場所があります
この腹に彼の子を宿すのは…その後でいい
「…カナタ。今でも昔の仲間は…ラウラさん達が信じられないんですか?」
「ん?……今か……別に悪く思ってる訳じゃないよ。ラウラは…正直どうすればいいか、分からない…かな。他の奴らもイマイチどうしたらいいのか…」
「ラウラさんはカナタのことをすごく心配していますし、今回の件で王国側との不和は主犯の二人による暴走…というのは良く分かりました。……少しくらい、許してあげてもいいんじゃないですか?」
カナタとの仲違いは見ていて少し心が痛みます
パーティの皆さんに関しては完全にカナタの不信からのようですし、王国との決裂も…それが王国の総意ではない事は分かったはずです
特に今回のレインドール王子の言葉は…それを象徴するものでした
…どうせ、それも聞いていたんですよね?
カナタの目は少し困ったようで、それでちょっとだけ鋭くて…喉から唸るような声を漏らしながら眉間を手で揉んでいる
まずは…そこから解決しましょう、カナタ
「国王陛下やその臣下の方々はかなり…気を揉んでいます。カナタが破壊した勇者の霊廟ですら、カナタを恐れてそのままにされていました。…まだ、そんなに憎いですか…?自分をこの世界に連れ去った…ラヴァン王国が…」
「憎い…………あぁ、憎いかもな。あの時、怒りのあまり、国全てを焦土へ均してしまいそうなほどに…でも、でなきゃお前達には会えなかった。そこは感謝してる…」
ベッドに腰掛けたカナタがカップから湯気を立たせるコーヒーを口に近づける
その横に体を寄せて、互いに裸のような格好にも関わらずぴったりと身を寄せる
カナタが自然と私の肩を抱いてゆっくりと寄せて、私も自分から彼の肩に寄り掛かる
そのまま彼が唇を重ねてきて、私もそれに応えて、先程までベッドで行っていたような深く絡み合わせる濃密な物ではなく、啄み合うような柔らかなキス
示し合わせな訳でもなく、なのにお互いに求め合って…こ、こういうのすっごく憧れてましたっ!なんかこう…恋人感、ありませんか!?ゆ、夢みたいです…っ
「んっ……私も、カナタを喚んでくれた事には、どんなに感謝をしても足りないくらいです。でも、少し考えてあげたらな…と思わなくはなくて…特にラウラさんはカナタをずっと心配してますし、私が言う事でも無いですがあの人はカナタの事を…」
「…そう、かな…」
短いカナタの言葉には、沢山の感情が詰まっているように聞こえます
そのまま何も言わずに…マグカップを傾けるカナタですが、そのマグカップをことり、と机に置くとその手を私の胸にぎゅっ、と掴むようにしながら一緒にベッドに倒れ込み、私はカナタの上に体を重ねる形に
ユカレストの温泉でもそうでしたが、今はそれ以上に互いの素肌が密着しあっていて、胸を合わせているような状態では互いの鼓動さえ伝わって来そうです
そして、今度は私から…カナタにキスを重ねる
体全部を重ねて押し当てて、彼の手は私の背中に回されて、今度はしっかりと奥まで…お互いを味わうように、舌を絡める…
ここが夢の中かのような多幸感と舌から脳に響くようなじんわりした快感に震えそうで…
「…ありがと。ちょっと…考えてみる」
「ふふっ、良かったです。…まだ、したいんですよね…?」
「勿論。いいよな…?」
「ええ。…思う存分…」
少し、思い直してくれたなら嬉しいです
そしてまた、私達はベッドで体を交わらせ…
朝、疲れ果てて眠る私の頬にキスを落として部屋を出るカナタに、気が付くことはありませんでした
ーーー
【ラヴァン王国・王城】
「陛下、わざわざ自ら教えていただかなくともマルトゥーカ卿であれば…」
「よい。勇者の事は儂ら王族…いや、王であるからこそ当たらねばならん。それを、嫌と言う程に思い知ったばかりであったからのぅ。勿論、マルトゥーカ卿の事は信頼しておるが」
「いえ、構いません陛下。むしろ、大聖女ラウラ様や魔后サンサラ様、金剛騎ナスターシャ様がお相手となれば私では役不足というものです」
「はっはっは!その二つ名は恥ずかしいからあまり呼ばないで欲しいな。いつの間にそんな名前が付いたのやら…」
「私もその二つ名、久し振りに聞いたわねぇ。そう考えるとラウラの「大聖女」って、とっても便利なのね」
かつ、かつ、と足音を立てながら他愛ない話に花を咲かせているのはラヴァン王国の国王バロッサと王立書士官長を務めるストラウス・マルトゥーカ。そしてその後に続くラウラ・クリューセル、サンサラ・メールウィ、ナスターシャ・ミレニアの3人である
その足が向かう先は建国記念日により来訪者で騒がしくも賑わう王城のエリアからは少しずつ離れており、時間は太陽が天辺に登るような真昼となっていた
「最近はちと忙しくてのぅ。ズォーデンとゲッヘナのその後をずっと追わせておったが、厄介な所に逃げ込んでおった…。よりにもよって、あやつらが頼ったのがレルジェ教国…何を手土産に匿われておったのか…」
「学院での内通者も判明しています。ゲッヘナ・ガベルの兄にあたるルヴォ・ガベルの孫であるキルタ・ガベルが姓を変えてジュータ家に息子として引き取られていて、学院に通うキルタ・ガベルにゲッヘナが接触して魔法管理棟への内通を行っていました。恐らく…大戦により家が断絶する事も考慮して血を継ぐ者を様々な方法で広げていたのでしょう」
「かの国は何を考えているのかよく分からぬ…大戦終了後の勇者身柄引き渡し等という荒唐無稽な要求を始めとして、ラヴァンとは最も敵対的といえよう。…厄介な話になりそうじゃ」
マルトゥーカの話す言葉にラウラも目を細めて不快を露にする
同じ貴族として、そのような真似をする者が居ることがまず受け入れられないものだ
自分の血族すら駒のように様々な場所へと配置していた…その非道とも言える手段にまんまと撹乱された形となったのだ
挙げ句、名前が上がったのはかの大国レルジェ…いい噂など全く聞かない、ラヴァンとは犬猿と言える国に、ラヴァンの高位貴族だった2人が匿われたのには相応の見返りを支払ったはずなのだ
それが単純な金銭な筈もない…
想像するだけで厄介事が沢山転がっていそうな物である
「…とはいえ、2人は死んだんだろう?それもジンドーの手によって…ほら、ザッカーが見たんだろう?目の前で意味の分からない魔力砲の直射を受けて地理すら残さず消し飛んだってさ」
「そうね、まぁザッカーが見たって言うなら本当だと思うけど…。そのザッカーがなんでここに居ないのよ…」
「た、確かに…そういえば「おじさんには必要ない情報かなー」とか言って街の出店に繰り出して行きましたわね。…ジンドーの紋様、気にならないのかしら…?」
サンサラとラウラの脳裏に「ははっ」と笑いながらお祭り騒ぎの街に駆け出していく中年男の姿が思い浮かぶ
そう、今回集まったのは勇者ジンドーの体に刻まれた紋様の開示を行う為であった
彼の姿に迫る重要な情報なのに…そう思うのも束の間、ナスターシャは「あれ?気付いてなかったかい?」と首を傾げている
「ザッカーの愛用の短剣、鞘から少し見えてたけど…色がね、一部だけど黒に変わってたんだよ。ほら、ジンドーとかち合って帰ってきた時…でさ、気になってこっそり抜いてみたらさ、短剣の峰に…「勇者」の紋様が彫られてたんだよね」
「「なんですって!?」」
衝撃の内容にラウラとサンサラの声がぴったりと重なる
何故それを早く言わない!?というかそれがどういう意味なのか…
「多分…ザッカーの奴、ジンドーと相当話してきたんじゃないかな?それで何があったか知らないけど…羨ましいことに仲良くなったのかなんなのかで、彼の魔法で愛剣を魔改造してもらったんじゃない?」
「なっ、ん…っ…でそういう大事な話をしませんのあの中年!?信じられませんわ!」
「あの適当盗賊男…!後でガチガチに氷漬けにしてから洗い浚い何があったのか搾り取ってやるわ…!」
「いや、普通に口止めされてるんじゃないかな?吐いたらジンドーにボコボコのボコにされるんじゃ…というかラウラは既に彼御手製の杖持ってるんだよね?」
「それとこれとは話が別ですわ!」
見ていて楽しいナスターシャだが、このままではあの中年斥候が括り殺されかねない
歩き続けて数分…そんな他愛ない話に花を咲かせていたのだが、国王バロッサとストラウスの後に続いて辿り着いた場所を見ればそんな気分も鳴りを潜める
そこは王城の真裏に器用に建てられた、無骨で飾り気の無い、頑丈な、ただの四角形
まるで防空壕の入口とでも言えるようなそれは、あまりにも良い思い出が無い場所と言えた
「……霊廟……陛下、なぜここに?」
サンサラの目がスッ、と細められる
「うむ…紙に書いたような物を見せても信じられまい。故に…使用された「本物」を見せた方が良かろうと思うてな」
「本物…?どういう事ですの…?」
ストラウスが鋼鉄の門を開き、中にバロッサを通せば3人へ「どうぞ、お入り下さい」と頭を下げる
この場所は彼ら勇者の一行にとっても、王宮側にとっても苦い記憶の塊だ
世界を救った勇者との決別の場所
触れることすら危険とされ、王宮にとって「勇者」という禁忌と化してしまった忌まわしい事件の起きた現場
この地下にはもう…何も存在しない筈なのだが…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【後書き】
「……大事なのはバランス、だと思うが…?」
「私がアンバランスとでも言う気ですか、ペトラ?」
「うおっ怖!?どしたのあの2人!?」
「ん……ボディラインやばすぎのシオンとスタイルバランスやばすぎのペトラでアピールポイント競り合わせ中……どっちがカナタ受けがいいか…って…」
「やっべあいつらに見つかったら一番めんどくせぇの俺じゃねぇか!」
「……カナタはどっちがいい……?」
「それ聞くのかよ…。…どれがいい、とかは無い…かな。どれも魅力的だろ……勿論、マウラ…お前もな」
「っ…んっ!」
ナデナデ、ナデナデ
「「……カナタ?」」
「やっべ!?」
「あら、カナタさん、スタイル良い方も好みですの?ふふっ…少しは私にも分がありそうではなくって?」
「…ラウラさんのは…反則……ふぉぉ…柔らかい……っ」
「あらあら、ありがとうございます、マウラさん。……あれは…放おって置いて良いのかしら?」
「ん……どうせ最後はえっちな事して有耶無耶……でも、次は私…っ!」
「いいですわねぇ……これは、負けていられませんわ」
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