第46話 雨に乱れ咲く銀の華
カナタの目がまるまると広がりピタリ、と動けずされるままにペトラのキスを受け止めた
重ね合わせるだけのそれは、ぐっ、と強く押し付けられ冷たい雨水に濡れた体は互いの唇の温度をはっきりと感じ取ることが出来る
カナタのシャツの胸倉をしっかり掴んで引き寄せる状態での行為は何秒も…いや、もしかしたらもっと重ね合わせていたのかもしれない。周りの情報は地面と体にぶつかり流れる雨の音だけであり、その他に感じ取れる情報は互いの事だけであった
ゆっくりと離れる互いの顔と共に、ペトラの手が離れ改めて互いの顔を見合えば彼女はどこか優しく、少し自慢気に笑う
「馬鹿者………そなたの考えくらい、我にはお見通しだ。………怖かったのだろう?勇者と知られ、それでも我が着いてくるのか…試したかったのだろう?己の過去と姿を見せて、受け入れられるのかどうか…。己から打ち明けるには衝撃が大きいと思い、どこかの瞬間で我らがいずれそなたの正体に辿り着けるように、少しずつ己の過去を散りばめた…本当に、不器用な奴め」
「……はぁ……格好つかねーなぁ…。……でも、だからこそ…なんでそこまで、って思うんだよ。正直…俺はそこまで良い奴でも大した奴でもないんだ。ただの子供が異世界に連れてこられて、生きる為になんでもして………今の俺があるのは、ただそれだけだ。英雄なんて勘違いで、勇者なんて柄違いで…」
「だ、か、らっ!」
珍しい、カナタの肩を落とした気弱な姿
その彼の胸倉を再度掴んで、今度は、ごちん、と額をぶつけて真正面から碧眼をカナタの黒い
「勇者など今は置いておけ!そなたが己をそう卑下するのは後でいくらでも訂正してやるが…っ…今!我がそなたに示しておるのは唯一つだ!良いか、よく聞け!」
その目は真っ直ぐに、恥ずべきところはどこにもなく、その心と意思になんの迷いもない力強い物が確かに宿っていた
だた目を見ているだけではない。もっと奥まで…カナタの本当の姿と飾らない魂まで見通すような視線…
「我は!そなたを…ジンドウカナタを、愛しておると!そう言っておるのだ!」
はっきりと言語化された、深愛の言葉
なんの飾り気もない、好意の言葉
勇者、という単語を脇に置き、目の前の男に目掛けた心のストレートパンチ
思えば
2人から「好き」という言葉をかけてもらっていたが…「愛してる」という言葉を使われたのはペトラが初めてだった
「理由が必要ならば教えてやる!家族を全て失った我らの兄となってくれた!温かな飯を毎日用意してくれた!生きる術を教えてくれた!楽しいことも、必要な事も教えてくれた!故郷も何もかも失くした我らに、ずっと側に居てくれた!不安に泣く夜には温かい紅茶を淹れてくれた!過去の恐れに取り乱した時は、ぎゅっ、と強く抱き締めてくれた!嵐に怯えた夜には、寝るまで隣に居てくれた!何か不手際をやらかした時は頭を強く撫でてくれた!どんなに目の前が真っ暗になろうとも、力強く「大丈夫、任せとけ」と言って、我らの光となってくれた!我らでは操りきれぬ魔法の才を、誰も傷付けずに導いてくれた!……出会ったあの日から、幾度と命を救われた!」
心の中の感情が、そのまま口から溢れ出すように
この想いをどうしても、相手に伝えたいと願うようで
思い知れ、と仇敵に言って聞かせるように
ペトラは己の好意という好意を言葉に変えてぶちまけた
「勇者に惹かれた訳でもない!英雄に憧れた訳でもない!我はっ、1人の男に惚れたのだ!まだ理由が足りぬなら日が暮れるまで語ってやる!夜が明けるまで愛を囁いてやる!明日の日が落ちるまで、心の内を聞かせてやる!………………これでもまだ分からんかっ?」
「っ」
ペトラは…必死に見えた
いや、見えるだけじゃない、必死なのだろう。このまま彼が離れてしまわないように、悲しいだけの人で居させないように、不安を抱えたまま次に行かないように
その隙間を、己の心で埋めてあげたいと切に願っている
それが、目の前のカナタに痛いほど伝わってきた
苦しいほどにその心が響き渡ってきた
ペトラの気の所為でなければ…彼は泣いてるようにも見えた
流れる大雨に、それを確かに見ることは叶わないが…彼のその表情はペトラが見たことがない程に…感情が露わになっているように見えた
「……ありがとなぁ……わり…そこまで言わせるなんて、男失格かな…。はぁ……ほんとに…格好つかないな、今日は…」
「…そんなカナタも、我は好きだぞ。…では、カナタよ。我の「愛してる」への返事…聞かせてもらっても良いか?」
一転、ピリついた空気が弛緩していき、カナタの口から今まで締め付けていたものが開放されたように大きく息を吐く
そんなカナタも…そう言ったペトラが求めている物は分かっていた
それは…カナタ自身も欲しているものだから
「……俺もだよ。…あー、こんなむず痒い台詞を本気で言う機会が来るなんてっ………」
空を仰ぎ、自身の真っ赤な顔を雨粒で冷やすようにしながら1人呟くカナタ
その様子にくすり、と笑いながらも…彼からの言葉を待つ
「…愛してるよ、俺も。本当に、心の底から…どうしようもないくらいに、愛してる。…………で、でもな?その…俺はシオンとマウラも…その…同じくらいに…」
「分かっておる。分かっておるよ、カナタ。良いではないか。我らで同じ男を好いて、同じ男を愛し、同じ男に尽くす…ふふっ、何か問題でもあるのか?この上なく素敵で、幸せではないか」
カナタは息詰まった
「そ、そういやこの世界、一夫多妻が基本だったよなぁ」と…彼女達にとっては仲の良い3人で同じ男の元に行けるのは幸せ以外の何物でもないのだ
それは障害ではなくむしろ彼女達にとってはメリットでさえある
「それよりも、カナタよ。……愛してる、と言ってくれたからには…する事があるのではないか?」
期待する眼差し、朱が差した頬、僅かに上がる顎先
ペトラが求めている物は明らかだった
カナタもこれが分からないほど鈍くはなかった
いや、ここまでしてくれた彼女には、ねだられなくともするつもりではあったのだから躊躇いは無い
普段は凛とした強さのある彼女が待つ姿に、思わず胸を高鳴らせながら彼女の背中に手を回す
引き寄せるカナタに抵抗など少しもなく、その体を寄せられカナタから、ペトラへ向けて唇を重ね合わせた
ペトラの意志の強い切れ長の目がそっと、閉じられ惚れた男から唇を奪われる姿は、普段の強気で強かな彼女からは意外な程に
1人の普通な、女の子なのであった
ー
びしょ濡れになった体をタオルで拭い、雨水が滴る髪をくしゃくしゃと拭う
いくら夏の初めとはいえ、雨に濡れた体を放置では肌寒いし風邪を引く
あの後、リーバスの側の家まで2人で戻り、それぞれ自室で体を乾かして着替える事にしたカナタは上半身は服を脱いで裸体のまま、一先ずずぶ濡れの長ズボンは脱いで干しておき部屋着の半ズボン一枚のみの姿
頭からタオルを被ったまま久方振りの我が家のベッドに座り込み「ふぅ…」と一息をつく
『少々手荒な展開となりましたが、概ね良かったのではありませんか?ある程度の情報が渡されていたとは言え、ここまで早くマスターの正体に行き着くとは思いませんでした』
「ああ…ほんと、その通り…。ペトラにはしてやられたよ。…色々と予想外ではあったけど、正直今…めちゃくちゃ嬉しい。この世界に来て多分…一番今が安心した瞬間だと思う…」
『しかし、マスターは怖がりすぎです。もっと穏やかに打ち明ける手段はありました。…ペトラ嬢を試すような真似をするから、彼女も火が着いたのです』
「うっ……だ、だってよぉ…こんなのに着いてきてくれるか不安にもなるだろ!?後で分かってから引かれるなんてもっと嫌だし…」
『はぁ……なぜこんなのが『勇』者などと呼ばれているのか…』
「うっせぇ!ほっとけ!」
わざわざ勇者の『
しかし、アマテラスの言うことは正しい
俺は怖かった
彼女がこんな自分の事を知ってしまい、離れていくのでは…そう考えれば次の一歩が踏み出せない。もし、このまま行くところまで行ってから彼女がこの事を知ったら?こんなことをしてきたと、こんな男だと気がついたらどうなってた?
恐ろしい…その先なんて怖くて想像もできなかった
だから…これでもかと、勇者の己を見せつけた
いかに非道で野蛮で
どれだけ血塗れた道を歩み
どんな常識ハズレの存在なのか
嫌というほど披露した
嫌うなら、今嫌ってくれ…
離れるなら、今離れてくれ…
冷めるなら、今冷めてくれ…
その恐怖が、恐ろしい「勇者」という怪物をあからさまに彼女へ理解させた
…筈だった
ペトラの意志はもはやこの程度の小細工では微動だにしない程に強かった
勇者という恐怖と狂気を見せたつもりが、それを上回る烈迫の心で押し返されたのだ
勇者であっても構わず、勇者で無かろうと関係ない
この神藤彼方のことを、愛していると
そう言った
敗北したのだ
彼女の心に
圧倒的な力を見せつけ、この世界で有数の力を見せつけた彼女にさらなる理不尽を叩きつけ、戦闘において圧倒していた筈なのに
彼女のただ一途で純粋な想いに…「勇者」という怪物は呆気なく敗れ去ったのだ
『…おや、これは…。失礼、マスター。用事があるので私はこの辺で。…ご武運を祈ります』
「は?何言ってんだ?用事もなにもお前…」
脳内に響くアマテラスとの通信が一方的に切断され、怪しさに首をひねるが、その直後に大体の事は理解した
「…カナタ、入ってよいか?」
自室の扉の向こうから、彼女の声が聞こえたのだから
(ご武運ってこれかよ!?)
変な気使いやがったアイツ!?
ペトラはこちらの「えっ、あ、うん、いい、です」というしどろもどろでガタガタの返事を受けて部屋の中へと入ってきた
その格好は先程までの大雨に濡れた制服姿ではない。丈の随分と長く短いスカート程度はあり、肩口までのショートスリーブが特徴的な胴長のパーカーの正面は大きなボタンで止められている
見ただけで分ける…かなり危ない格好だ
本来はその下にショートパンツを合わせて着る物を、恐らくそのパーカー1枚しか身に付けていない
すらりと伸びた眩しい太ももは大胆に見せられ、彼女の育ったボディラインも見事に薄手の胴長パーカーは強調しており神々しいまでのバランスが整ったスタイルをこれでもかと主張してくる
そのうえ、彼女の僅かな光でもきらりと輝く美しい銀の長髪は雨に濡れたのを拭いただけなのか、ぺったりと首筋などに張り付いており、否が応でもその魅力をビリビリと理性を貫通して伝えてくるのだ
「あ、いや…悪い、こんな格好で。…どうした?まだ風呂は入ってないのか?流石に濡れたまんまじゃ…」
「う、む…。風呂は…入れておらん。そなたに用があってな、その後でもよかろう」
少し歯切れの悪いカナタに同じくどこか様子が変わったペトラ
彼女は扉をぱたん、と閉めるとこちらに歩み寄り自然な流れでベッドへと腰を降ろす……そう、カナタの真横へ
ギシッ、と二人目の体重で僅かに聞こえたベッドの軋みがやけに大きく聞こえ、そこからは窓の外で大雨が屋根や窓を叩く雨粒の音だけが戻ってきた
少しの間、二人の間に沈黙が横たわる
少し恥ずかしいが、心地よい沈黙…
「のぅ、カナタ…」
「ん?どした?」
「…これでも我、勇気出して来たのだが…どうだ…?」
「どっ…う…って…っ」
めっちゃどもった
過呼吸を疑うレベルでめちゃくちゃどもった
恥ずかしい…
だが、そんなことさえ気にならない
隣に座る少女は肩からしっかりと露出した腕がこちらの腕と擦り合う程近くに居り、僅かにお尻を隠せる程度の丈しか無い胴長パーカーから伸びるしなやかで柔らかな脚は半ズボンから伸びるこちらの脚にみっちりと寄せられているのだ
挙げ句、狙っているからなのか大雨と初夏の湿気で暑いのか、彼女のボタンの上は2つほど開けられており柔らかそうな谷間がしっかり見えているのだ。
雨粒なのか汗なのか、肌を伝う雫が彼女の首筋から伝って真っ白な胸の間に吸い込まれていくのが見える…
(うっわ…っ…!どうも何も…っ…普段は凛とした隙のないペトラのこの無防備さはやばい…っ!。し、シオンとマウラで少しくらい慣れたりしたかな〜…とか考えてたのに全く関係ないじゃんっ!?)
「…そう、だ、な…うん、正直結構…その、あー……ムラっと来ます…はい…」
カナタは正直に吐いた
だってホントなんだもん
それにここまできて照れ隠しで否定しては彼女の魅力を否定しているような気がして嫌だった
「そうか…ふふっ、そうかそうか。…シオンとペトラからそなたにどうされたのかは…聞いておる、うむ…」
「ぐぉぁ…っ…は、恥ずかしいなんてレベルじゃねぇ…!なんでそんなこと共有しあってんだよ…!」
「くくっ、我らにとっては重要なことだからな。…そなたから向けられる異性としての好意は、望む所だ。……………で、あるからな…その…こう言っては……我も恥ずかしいのだが……」
もじもじと脚を揺するように擦り合わせるペトラがどこか言いづらい…というより言うのが恥ずかしいといった風に頬を赤く染め、カナタの肩にこてん、と頭を預ける
濡れた彼女からふわりといい匂いが漂いそれだけでもゾワゾワと居ても立っても居られなくなりそうだ
そんな彼女がこちらを見つめながら
「我には……してくれんのか…?…我も…して欲しいし、その………そなたに、求められたい…」
そんな事を言ってくるのだ
普段は堂々とした佇まいなのに、こんなに恥ずかしそうにペトラが言葉にしているのはかなり大胆というか、ギャップがまたこちらの理性を遠慮無く破壊してくる
「……なぁ、正直…もうかなりギリギリの所で踏ん張ってる状態でな?……始めたら、加減なんて出来ないし絶対止まれな…」
「うむ……望むところだ、カナタ。…この状況の男と女に…加減も止まる必要もなかろう…?」
こちらの言葉を待ちもせずに、YESを突きだすペトラ
彼女の顔に、言葉に、恐怖や嫌悪は微塵も存在しない
そこまで言ってくれるならば…
最早、この心がペトラを求めるままに動こうと、理性のタガが外れる
彼女のパーカー越しにグッ、と括れた腰元を引き寄せゆっくりと唇を重ねる
カナタから、ペトラへ向けて、口づけ…それは少し短く、互いの唇の感触が分かるように押し当てられて、まるで挨拶かのようにすぐ離れれば互いの視線が意図せず交錯する
カナタの目が…「いいのか?」と訴えているのをペトラはすぐに理解し、言葉で返さずこくり、と頷けば…今度は先程よりも少し強く、ちょっと乱暴に唇が交差する…奪う、という表現が正しいように
恐る恐る彼女の唇を舌先で突つき、嫌がらないか、引かないかを確かめれば逆にペトラの方から自らの舌先でこちらへ、触れ合い、その意志を示してくれる
そんないじらしい彼女のアピールに、カナタも完全にトんだ
いや、これで理性残ってる奴とか男な訳ないだろ!?と頭の中で思いながら…止まれない、いや…止まりたくないのだ
彼女の肩に手を回し、その体を己の体に限りなく密着するよう抱き寄せて、彼女の方からも己の体重全てを預けるように身を寄せられ…荒っぽくっ唇を重ね合わせる
加減などできず
にゅる、と彼女の口内に自分のそれを入り込ませていき、彼女の熱い体温を舌で感じとれば、そこにペトラも己のそれをしっかりと押し付け、絡み合わせ…互いの耳の奥にはかなりディープに、互いの舌と唾液が絡み合う粘液質な水音が反響するように響き渡る
ぷはっ、と呼吸をする為に口を離して空気を廃に吸い込むがその時間すら離れたくないと言わんばかりに互いから距離を詰め、再び唇は重ねられた
「んっ……んぅ…っむ……カナタっ…」
「…っわり、ペトラ…っ…我慢出来なくて…っ」
「…何を言っておる…んむっ…我慢などする必要はなかろうっ…我は「足りん」と言っておるのだ…っ」
名前をキスの合間に挟まれ僅かに慌てるカナタだが、ペトラの本心からのその言葉はカナタの危惧の真逆を示し、それが更に行為を加速させる
ペトラをベッドに押し倒し、彼女はカナタの首裏へ両手を回して引き寄せ、情熱的で過激なキスは続く
カナタの手が、彼女のパーカーを押し上げる膨らみを触れても静止はなく、柔らかなその感触を手に感じながら、まるで口内で体液を交換するかのように互いの口内で相手の舌を絡みつけ、堪能した
何分そうしていたのか、二人共認識しない程の時間をそうしており、気づけば互いに荒く息を乱しているほどである
「っ…なぁ、その…こっから先は…っ…………………………………っダメなら今言ってくれ。はっきり言うと…絶対加減出来ない。……ペトラ、お前が欲い…っだから怖いなら押し退けてく……ッむっ…ん…!」
「んむっ………ぷはっ…ばかものめ…。ここまで来て怖じ気づく程、我は女を捨てておらん。……愛した男に求められる事に、何を怖がることがある…?それに……互いに愛しあっておる男女が、こうしてベッドの上で絡み合う…後はする事など1つではないか…?」
「っ……焚き付けやがって…っ。……後悔すんなよ…?」
「…望むところよ。そなたこそ……もっと早くすればよかったと、後悔するぞ…?」
荒天の中、雨の吹き荒れる中
誰も居ない森の横にある草原の家
その一室のベッドの上で
2人の男女の影が1つに重なる
紅髪の少女には己で止まり、瑠璃髪の少女では他者に止められ…
しかし、この場に止める者は誰一人居ない
互いの体がぶつかる音も、少女の甘い艶声も
誰にも聞かれることは無いのであった
ここはリーバス魔群棲大森林
誰かが居る筈もないのだから
ーーー
過去に召喚されたどの勇者にも共通していた事
それは強靭でハイスペックな肉体能力を持っていることである
個人差はあるが大抵は病気にもかからず、常人よりも遥かに頑丈で、力も強い
そこに加えて勇者としての固有魔法等が足されることで単騎にして一軍を超える戦闘力を発揮するのだ
そもそも強い魔力を持つ者は総じてこのような特徴があるのだが、勇者はそれに加えてこの勇者補正を持っている
その他にも様々な肉体的能力の強靭さがあった
ある勇者は一度見たものを忘れなくなり、ある者は無尽蔵のスタミナで都市間を走り抜けることも出来た。食堂の食材を全て食べ尽くせるほど健啖な者も居たし、どんなに強い酒を飲んでも酔わない者まで居たそうだ
勇者の肉体は特別製である
故に『勇者』
今代の勇者は上記のような特別で特殊な肉体能力こそ持っていなかったが、その他の基礎的な肉体能力が異様なまでに高かった
まず、頑丈
肉体強化を施さなくともその辺の魔物の牙や爪なら通らない
強い衝撃が加わろうとも魔法によるダメージがあろうとも立ち上がれるタフネス
そして、剛力
素の肉体だけで岩も砕き、剣を捻じ曲げ、地面から三階建ての建物の屋根へ飛び乗れる
さらに、健康
病気や体調不良は一切無く、ある程度の毒や状態異常は無効化出来てしまう
特殊な物こそ無いが、肉体に本来備わる機能が軒並み桁外れなスペックを持つのが最後の勇者の特徴だった
だからこそ、カナタの強化魔法は桁外れに強い
元からハイパースペックの肉体をさらに何倍にも強化しているのだから、他の人が強化するのとは強さの倍率が桁違いなのである
己の肉体で出来ることなら何でも知っている
知らなければ勇者などやっていられないし、魔神討伐なんて夢のまた夢だったのだから、自分に何が備わり何が出来るようになっているのか把握するのは当たり前のことだ
しかし…そのカナタは今日、初めて己の肉体に存在したその能力を認識した
そして…
目を覆った
(いや、まさか………ベッドの上までハイパースペックだとは思わなかった……。…何回したんだ、俺…?今、完全に夜なんだけど……一回も休んでないのに…しかも…まだ足りないとか思ってる俺…!何回出したら収まんだこれ…!)
滅茶苦茶だった
主に『夜』の性能が…
まさか自分に備わっていた勇者の特殊な肉体能力がこれとは思いたくないのだが…そもそもサイズ的に「あれ?こんな大きかったっけ?」と思うような感じではあった
『まぁ成長期で来てたし、成長もするだろう』とか軽く考えてたがここにきて怪しくなってきた説がある…
いや、現実逃避も遠回しな言い方も止めよう
回数も
量も
はっきり言って凄いことになっていた
サイズも結構洒落にならない…
そりゃ、あれだけやる気で覚悟決まってたペトラもいざ最初に目の前にしたら「ちょ、か、カナタっ。ほ、ほんとに入るのかそれっ?わ、我っ、大丈夫だよなっ?」とかなっちゃう筈である
……というか…
「…ほんとにシたなぁ…」
遂に、と言うべきか。今までのように理性で堰き止めることもなく、誰かからの横槍で流されることもなく…本当にペトラと体を重ねた
しかも数えるのも馬鹿らしいくらいの回数、彼女の事を抱いた
ペトラは隣で眩しい裸体を晒しながら薄手のブランケットをかけて寝息を立てている
当のこちらも衣服など身に付けていない…1時間ほど前までがっつり繋がっていたのだから当たり前である
正直、滅茶苦茶燃え上がった自覚はある
なんなら今もだが…流石に眠る彼女に手を出すほどケダモノでは無いつもりだ
相当無茶させたし…
『おはようございます、マスター。とはいえ、現在は夜ですが…』
(おはよう、アマテラス。…………………一応聞くけど…なんにも見てないし、聞いてないんだろ?…あんま茶化すなよ…?)
『ええ、勿論。なので私から言うことはありませんが、1つ言うとすれば…おめでとうございます、マスター』
(…どーも。さて…お茶でも淹れて、飯でも作るか。あとは…あれも用意しないと…いやほんと、採取のついでに偶然いくつか取っててよかった…)
ペトラを起こさないようにベッドから降り、ズボンだけさっさと履き…ふ、と思い出したかのようにペトラを見つめると、静かに寝息を立てる彼女の顔にその顔を寄せ…頬に当てるだけのキスをする
なんとなく…そうしたかったのだ
そのまま部屋を出て、リビングへ
彼女が目を覚ましたら、ゆっくり飯でも食べようか、と考えながら
一先ず最優先として……学院へ休みの連絡を二人分入れるのであった
ー
【side ペルトゥラス・クラリウス】
凄かった
いやもう何が凄いって全部凄かった
我の語彙力が死ぬくらい凄かった
こちらから仕掛けておいて…という所ではあるが完全にやられた…
も、勿論、我もそういう勉強は独学で知識は学んでおったが…絶対っ!カナタは普通とは違うと思う!
あ、あんなに何度も何度も…しかも毎回あんな沢山…っ…こんな時間までぶっ通しだぞ!?
わ、我は目覚めさせてはいけない者を呼び起こしてしまったのかもしれない…
されるがままに、我からも求め、時折我も反撃に出たりはしたが…すぐ啼かされしまうし…腰はガタガタで力も入らんっ…ほんとにあやつ初めてかっ!?
正直すぐにでも風呂に入った方が良い…薄れる意識の中でカナタが体を拭いてくれてはいたが、汗とかカナタのとかでどろっどろになっておったし…あと、…うん…その……な、中に溜まっているカナタのが溢れたら床が大変なことに…っは、恥ずかしすぎて…こ、これまでカナタに掃除させるのは羞恥で死ぬっ!
ど、どうにかしなければ…っ
……だが、間違いなく…幸せだ
こうなれる事をどれだけ望んでいたか
後悔もない、落胆もない、最高の形で、最高以上の結果を迎えられたのだ
…まぁ、あのカナタの性豪ぶりは考えておらんかったが…冷めた夜よりも気絶するほど熱く激しく愛し合えたほうが良いに決まっておるわ。………正直、我、されて分かったが…そのぉ…好きだし…するの…うむ…
カナタが隣で起きる気配を感じて急いで反射的に目をつむれば、彼の指が我の頬にかかった髪を掬い流してくれ、その好意がビリビリ伝わる動作1つに胸が高鳴る
ベッドから静かに降りたカナタが部屋を出る直前に何かを思い出したかのようにこちらに寄り、そして我の頬にキスを落として出ていく…
や、やばい…む、胸がきゅんと痛むくらい今の好きかもしれん…っ
今の我ら、めちゃくちゃ恋人っぽくなかったか!?
…っとと、一先ず我も動かなければいかんな
今朝着てきたパーカーは…これは洗濯しなければいかんな。流石に着れんか…
と、なると…
視線がカナタのクローゼットに向けられる
流石にサイズが違いすぎて下は履けんが…シャツくらいなら借りても良かろう
ちょっとはしたないが…このまま風呂場まで行かせてもらうとするか…
…………………………
…………………
………
…
さっぱりした
うむ、元から雨で濡鼠であったからな。熱い湯を浴びるだけでも違うわ
それに、どちらの、とは言わんが…互いの物でかなりどろどろになったしのぅ……
と、というかっ……い、幾ら洗っても溢れ出てくるのはなんとかならんのかっ?カナタっ、どれだけ我の…っ…ご、ごほんっ…まぁ、それは良い。我としてもそこは嬉しくある、うむっ
ー
「あ、起きてたか。風呂も入ったな……あー、随分無茶させたけど、その…大丈夫?」
ダイニングにはカナタが軽い茶菓子と良い香りの紅茶を淹れてくれてるところだった
その彼が少し気まずそうというか…申し訳無さそうに訪ねてくるのは、まぁ…かなり激しかったからな…
「うむ、大丈夫。…と言うにはちと、膝も腰も笑っておるが歩けんほどではない。…しかしカナタよ…あ、あそこまでとは…その…普通の娘では耐えれんくらいではないか…?我、ちとシオンとマウラが心配になったのだが…」
「うっ…た、確かに……ペトラもすごい声出てたもんな…」
「ごっほっ…げほっ!…んっんんっ!そ、それはよいっ…あ、あまり思い出すな…っ…我、結構落ちるまで耐えた方だと思うのだがっ」
顔真っ赤で咳払い…というかほぼむせ込みバシバシとカナタの肩を叩いて抗議
「悪かった悪かった」と笑いながらのカナタだが、彼が小声で「…でも俺、まだ全然出来んだよなぁ」と呟いたのが聞こえれば戦慄が走った
そ、そういえばカナタ…朝から晩までシておったのに全然疲れておらん…こうして一度終わったのは我が夜に意識を手放したから…?ま、まさか…あれでも自制して中断してくれたと…?
…我、とんでもない怪物を目覚めさせてしまった…
戦慄に1人震えていると、カナタが無言のまま我の手に何かを握らせた
手の平に乗っているのは…乾燥した小さな種…?のようだが…はて、見たことはあるが何だったか…
「ムォッカの実の種を干したもんだよ。それ、3つ食べておいた方がいいと思ってな」
「ムォッカの実…って、一年中木に実っとる真っ青な果実ではないか?…あれ、猛烈に不味くて食えなかった気がするが…」
食べてみれば味は無いがかなり特徴的な甘い香りが鼻を抜ける
コリコリと食感はまるでハードなドライフルーツのようだ
ちなみにムォッカの実の果肉の方は想像を絶する酷い味がする。マウラに例えさせたら、コゲとスライムを混ぜて糊で形を整え、仕上げに砂の食感を織り交ぜたような感じ、と言っておった
それにくらべれば、この乾燥させた種は全然いける気がするが…
「まさか俺達の間で必要になるとは思わなくてな…うん。家にあって良かったと言うか……」
「む?…オヤツではないのか?案外イケるが…」
「あー……ムォッカの種はな、乾燥させると…その…避妊薬になんだよ。それも避妊薬の中でも最高品質で、即効性と持続性も抜群……これ、買うと高いからな…」
「…あー、なるほど。うむ、それは…必須であろうなぁ……あれだけ我の中にしこたまぶちまけて流し込めば…」
「ごほんっ、げほっ、ごほっ…んんっ!その……言葉にされると恥ずいから、やめてください…」
気管支に何か入り込んだかのような咳払いが我の言葉を堰き止める
とはいえ、事実ではないか、そなた…
先程、風呂場で頑張って溢れるモノを流す我の姿を見せてやれば良かった
「まあ、我としては授かるのも大歓迎なのだが……やるべきことがあるからな。今はまだ、その時ではない…残念だがな」
「やるべきこと?」
「…この魔神族との因縁を終わらせ、そなたと共にチキュウへ行く」
「っ…ペトラ、お前…」
ふん、何を意外そうな目で見ておる
当たり前であろう?そなたが1人で魔神族と戦うのを尻目に帰りを待つお姫様を演じるつもりなど無い
わ
そんな荒事が間違いなく待っておるのに、孕む訳にもいくまい
そなたの故郷へ行き、穏やかな時間を手にしたその時は……しっかりと仕込んでもらうかのぅ
「くくっ、ムォッカの種、学院に戻るまでに沢山採ってこないといかんな、カナタ?それと……言ったはずだろう?そなたと共に、どこまでも行く、と。くくっ、そなたのご両親に挨拶の言葉でも考えておかねばならんな。「息子さんは我が頂きました」とでも…な」
「…ったく…それを言うなら俺のセリフだっての…。…てか、学院でもか。まぁ…俺も我慢できるか怪しいしなぁ…」
困ったように笑うカナタだが…そなた、自分がかなり嬉しそうだとは自分で気づいておらんな?
…我はそなたにとって、そういう存在になれておる…そういうことなのだな
カナタがふ、とこちらに寄り我の左手を掬い上げるように手に取れば何やら…いくつかの金属?を手に持っている
それを持ったまま手を持つ指で我の薬指を触り…
「…『
「っ」
直後、カナタの手の平に乗っていた金属が黒紫のスパークによって粉々の粒子状にまで瞬時に分解され、光とともに我の薬指を中心に廻り始める
っ…これが、勇者の魔法…
粒子状となった素材たちは我の薬指に絡みつくようにして形を整えていき、それが次第に指輪のような形を取り始める
まるで踊るようにサラサラと音を立てながら輝きを灯すそれはくるくると我の薬指を回りながら
「…装着者認識……対物理、対魔法防御……腐食耐性……スローリジェネ……心魂防御……自動帰還……全属性防御……簡易収納……毒性無効……勇装通信……特級証明……我が意志と共に、かの鋼へと身移り宿れ…」
それは、シルバーリングの形へと姿を整えていった。
あまり飾らない、シンプルなそれは見たことのない黒いシルバーリング
小さなエメラルドのように輝く宝石にも似た結晶が、シルバーリングを一周するように等間隔で埋め込まれており、光に当たるとより深緑の輝きを煌めかせる
そう、指輪だった
「カナタ、これは……」
「『よく勇者に辿り着けたで賞』だな。この世界で俺に辿り着いたのはペトラが初めてだ……あとは…まぁ…ペトラは俺のってマーキング、かな…」
後半めちゃくちゃ小さい声で猛烈に恥ずかしそうに言った言葉に不覚にも…不覚にもときめいてしまった
このっ…男らしいとこあるではないかっ、嬉しいことを言いおってっ…ますます惚れ込んでしまう…っ
そして…これに燃え上がってしまった我はまだ不完全燃焼のカナタを焚き付けた結果
当然ながらこの後延長戦に突入し…
熱くなった我が「今度は加減などせず、好きなだけ良いぞ…?」と浮かれてカナタに言った結果…その……………物っ凄い回数されて、それをすべて受け止める事となり…我、完全にカナタの押してはいかんスイッチを押してしまったらしく…その…うむ…正直、ひたすら互いを求め合う猛烈に爛れた時間を過ごすことになってしまったのだが…
「はぁっ…はぁっ…もっ…ち、力がはいらんっ…立てんではないかっ。どうやって帰るのだっ」「…なら、しても同じだよな、ペトラ?」「ぅえっ!?わ、我今腰が抜けてるのだぞ!?まっ、か、カナタぁっ!?」
「ふぅっ…はぁっ…こ、ここまで足腰抜けたのは…っ修行始めた時以来か……っ」「なら、もっと『修行』しないとな。…始めてすぐだし、俺もペトラも」「ばかものっ!これを修行と言い張ってはいかんとっ、我っ思うっ」「…わり、諦めろ。今はとにかく、ペトラが欲しい」「そ、それはすっごく嬉しいのだがっ。嬉しいのだがぁっ!わっ、か、カナタぁっ」
「カナタっ、そ、そなた底なしかっ?我っ、もっおっ…っ限界っ、かもぉっ」「限界は越えろって、昔教えたろ?」「そ、そなたの限界はどこにあるのだっ!あっ、まっ…んっむっ…!」「…ん…今ちょっと、お前が愛しい気持ち限界超えててな…。言ったろ?後悔するなって」「ぷはっ…こ、後悔など微塵もしておらんがっ、そうではなくだな…っ。そのっ、休憩せんかとっ!我っ、何かご飯でも作りにっ…」「今食べたいのは…ペトラかなぁ」「あほぉっ!ちょっ、カナタっ……あんっ」
………それはまた別の話だ
結局、我らが学院へと戻ったのは…それから三日後のことであった
だって…こんなにカナタが夢中で我のこと求めてくれるの嬉しくて…盛り上がってしまったんだもん…
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