第26話 不穏の後始末

「この前の王都での再来から僅か数ヶ月と経たずにまた現れるなんてねぇ。いやはや、これはおじさん達との再会も近いんじゃない?」


「そうね…私達も彼への言葉、考えておいた方が良いのかしら?」


「俺は結構考えてますよ?そりゃぁもう感動的でお涙頂戴の再会の言葉を…」


「柄じゃないでしょ、ザッカー…別に、私が彼をどう思っているのか、誤解を解ければ構わないわ。それより……これはかなり派手に動いたわねぇ」


時間は夕方を過ぎ、夕陽も沈みかけた刻

夜の帳が天を覆い始め、日中と違い生ぬるい風が肌を撫でるのは活火山であるロッタス山に温められたものだ


まるで高熱と衝撃で全てが薙ぎ払われたような破壊痕を残す山岳地帯の麓に広がる平原

そこにザッカーとサンサラ、そしてローブ姿の女性数人がそこら中を見渡しながら歩き回る姿があった


サンサラの中でも腕の経つ弟子数名が水晶玉や魔方陣を掌の上に展開して散策しているのに任せて気の抜けた話をする2人

彼らがいるのはロッタス山の麓に広がる熱源泉が真下に存在する岩場…が存在した場所だ


そう、つい数時間前まで少女達と魔神族が戦闘を繰り広げた場所である


「三魔将のギデオンか…そりゃ大物が出てきたな。むしろこの程度で済んだなら儲けもんって感じだねぇ。最近の若い子はなかなかやる」


「いえ、ギデオンは見ていただけだったそうよ。魔将の弟子…とかいう2人組と戦ったって言っていたわね、ラウラちゃんは。この破壊の跡も弟子の1人と女の子達の合わせ技がぶつかった結果みたい…結構な魔力の跡が溜まっているもの。その弟子っていうの、結構強いんじゃない?」


「魔将に弟子って…姐さんも弟子沢山いるし、もう二世世代ってやつなのかねぇ。おじさんも弟子、育てようかな」


軽口を垂れ流しながらもザッカーの片眼は小さな魔方陣を浮かべながら光を放っている

周辺に視界を飛ばして片方の眼では徒歩では回りきれない範囲を見て回っているのだ


とはいえ、既に魔神族も転移魔法で消えた跡だ

寄ってくる魔物を感知するついでに周囲の偵察をしているだけなのだが…

この岩場のそこら中に大量に残る地面の赤い染みと肉と骨の折り重なった残骸を見ればその必要も無さそうだ


(ラウラちゃんもまぁ、ジンドー君に染まってるなぁ。前まで後ろからの回復と援護に徹してて、戦闘なんてからっきしだったのに…。慈母抱擁アマティエルをこんな使い方まで出来るようになったのは成長なのか、悪影響なのか…)


昔のラウラは聖女らしく、後方から治癒と防御をかけ前線を支える根っからの後方支援家だったのだが…勇者と旅をしている中で四方を魔物に囲まれ、不意打ちやら魔将との戦いやらを積む内に、守る為の障壁で殴るは刺すは潰すは切るは…


結果、大聖女という奥ゆかしい肩書きに反して全く手出しできない戦闘力を手にしてしまったのである


なので特に変わったものも見つからず、こうして会話に花を咲かせているのだ


「む、師匠!見つけました!」


そんな中、サンサラの弟子の1人が気の抜けた声でぶんぶんと手を振ってくる

その手には光る水晶玉が乗せられており、何かを示すかのように点滅を繰り返していた


「ようやく、ね。魔神族とジンドーがここで顔を会わせた理由…まぁ、想像はつくけれど」


「確かラウラちゃん曰く…『温泉を止めてた元凶が無くなった』、だっけ?ジンドー君がそう言ってたらしいけど…」


水晶玉にサンサラが触れれば、まるでディスプレイのように空中に映し出される映像や様々な数値の数々

それを眺めるサンサラは「やっぱり…」と口にしながら


「…この真下…地下200メイル下に少し前まで存在しなかった巨大空洞、ちょうど熱泉が火山帯から集まる集束点よ。今は熱泉で埋まってるみたいだけど、その空洞…北に向かって長いトンネルが繋がってるのよ。ちょうど…ジンドーの封印施設の方向から、真っ直ぐに、ね」


「確定か。流れ的には…ガヘニクスの回復に火山の熱エネルギーを与えつつ世話をしてた魔神族の御一行と女の子達が偶然遭遇して交戦、ガヘニクスを追ってたジンドー君はそのまま女の子達を助ける形で介入しギデオンは彼との戦闘を避けてガヘニクス共々転移、魔法で姿を消す…ジンドー君は女の子達を巻き込まないように追撃は避けたってとこかな?」


「…なんだかんだ言って人を無闇に巻き込む戦闘は昔からしない子だったものね、ジンドー。あらかたその通りだと思うわ」


まさしくその通りであった


正確にはガヘニクスではなく少女達を助ける為に追ったのだが、恐ろしいほどその通りである


素顔は分からなくとも共に旅をしていれば人間性も行動も分かると言うものだろう


動く魔神族と魔物の中でも最強のうち1体という怪物…2人はまるで数年前の旅の続きが始まったかのような、気味の悪い緊張感を感じながら、ふとサンサラの視線が真横を見つめ始める


「…ザッカー、変に大きい魔力があるわ。…妙ね、急に魔力が強くなってきてる。ロッタス山の裏よ」


「…なーんかそれ、なにか分かるような気がするな。姐さん、そいつ今まで微動だにしてなかったんじゃない?」


「ええ、急に魔力が強まって動き始めたの。……あぁ、成る程」


緊張感なく訪ねるザッカーに首をかしげるサンサラだが、彼の言わんとする事がなんとなく分かった彼女は視線を山へと向ける


「俺らがわざわざ調査に来てんだからなぁ。そりゃも来てるに決まってる、か」


直後、大気を震わせるような魔力とうねりと音を立てながら山の向こうから姿を表したのは…1隻の船、のような形の代物


短い翼に四角く太い胴体、そこに幾つもの筒状のパーツがあり、それが光を放ちながら浮遊の為のエネルギーを放出している

胴体の上には花のような円盤…アンテナにも似たパーツがゆっくりと回転しており、その全長は50メートルに相当する大きさ


それがロッタス山の向こう側からゆっくりと姿を表したのだ


そして、それと同時に周囲の岩場や森、山のあちこちから飛び出す白色の影は50cm程の球体に土星の輪のように取り付いた円形の翼

UFOにも似た形の物


それが飛び出し、一斉にロッタス山の向こうから現れた船へと向かっていく姿は親鳥に群れて従う小鳥のようであり、わずかに残る夕陽を背に姿を見せる船はこの世界にはあり得ない威容を放っていた


「…彼の船ね。私達が旅の最中に乗った船じゃないけれど…もしかして情報収集の為に造られたのかしら?」


「でっかいなぁ。いや、それでも『バハムート』よりはマシな大きさか。回りの飛行ゴーレムは、言わば子機ってところか」


「恐らく、彼は乗っていないわね。もう…旅の頃に造っていた物が可愛く見えてくるわよ、なんなのあれ?どうやってあんな数を一気に操ってるのかしら?」


2人は勇者の造った『バハムート』と名付けられた飛行船に乗ったことがある

旅の終盤に彼が1週間という期間で完成させた代物であり、馬車など比べるのもバカらしい速度での移動を可能にした船にして…最後の戦いの最中、彼らを助ける為に地に堕ちた、異世界の神獣の名を付けられた戦闘艦


彼の兵器群を見慣れた2人だからこその反応だが、サンサラの弟子からすればこの近未来的兵器訳の分からない代物は言葉を失うほどの驚愕に値するものだろう


そのフォルムはどれもこの世界には存在しない異様地球的な見た目をしているのだから


全員がぽかん、と口を広げて飛び交うそれを眺めることしかできない

彼女達からすれば勇者の創造物は伝説の1ページだ

実物が目の前にあり、しかもあんなに沢山…非現実的とさえ言える光景に放心も仕方ないのだろう


「さて、ジンドー君は何を掴んだのかね。おじさん達も知りたいもんだが…」


やれやれ、といった溜め息のままに空を見上げるザッカー


その視線は子機を収容した浮遊船…

観測艇『スターゲイザー』が遥か向こうへ悠々と転身していく姿を追い続けるのであった


ーーー




「本物!本物よ!」「は、初めて見たぁ…」「ちょっと、見えないってば!どいて!」「見る見る!私も!」「さ、触っちゃダメかな…」「そこに刻んであるんだ…見たことないと思った!」


湯煙漂う浴場の中、きゃあきゃあと黄色い悲鳴を上げて女子生徒が輪をつくって集まっている

その中心に居るのはラウラであった


もとより反則的なスタイルに白く濁りのない肌、風呂に入る為に一房にまとめたボリュームのある輝くような金髪と、人目を集める要素十二分のラウラだが、皆が視線を集めているのは彼女の左胸


性格には左鎖骨の少し下に位置する胸の膨らみの上辺りにある紋様に視線を集めていた


銀色に淡く輝くそれは、十字架に抱擁するかのような手と腕がデフォルメのように被さっており、それらが六角形の中に収まるデザイン


ラウラ・クリューセルのシンボルである


「あら、そんなに珍しいかしら?教会や王国にもある程度出回ってると思いますけれど…」


きょとん、とするラウラだがそれは有名人側の視点だからである


有名な人物のシンボルはある程度知名度を帯びており、そうなると冒険者ギルドや新聞等でも取り上げられ周知されるようになっていくのだが、それらは言わば本人の刻印の模写


ラウラほどの人物の紋様など全世界に覚えられているが、当の本人に直接刻まれた、魔力の光を帯びる紋様を見れるのは非常に運がいい


しかも刻印する場所は本人の自由であり、ラウラの場合はそのまんま彼女の大きな胸の上に刻んであるのだから見れる者など滅多に居ないだろう

それこそ、彼女と風呂や水場で遊ぶでもしない限り…


さらに彼女は世界を救った英雄であり、誰もの目を引く容姿の聖女としての頂点…さらにさらに大貴族クリューセル家の長女というトリプルコンボを決める超が三つは付く有名人なのだ


有名な冒険者などの紋様を見ることとは比較にならない程にレアなのは間違いないからこその騒ぎ様であった

とはいえ、当の本人はそんな珍しい物を見せているつもりは無いのだが…


「皆さんにもお師匠方の紋様があるでしょう?って、その紋……もしかしてゼトロ様の?」


「はっはい!い、一応教えて貰ってます!と言っても、ゼトロ様のような強大な魔法が使える訳では無いですけど…えへへ」


マーレの腕に刻まれた刻印にはラウラにも見覚えがあったのか、見渡す彼女の視線がマーレの腕にぴたり、と止まる

その紋様は貴族の間ですら有名中の有名だ


ラウラの師匠は、実は居ない

その理由はただ一つ……………天才だからである


13歳にして大聖女と謳われた天才少女に魔法を教えられる人物など殆ど存在しないのだった


「私には師匠紋という物を刻んで貰ったことがありませんので、こういう物を見せ合うのは新鮮でいいですわね。良ければ皆さんのも見せてくれますか?」


この言葉にはしゃぐ少女達

かの大聖女ラウラと裸の付き合いなど前代未聞どころではない機会なのだ

その言葉だけでラウラの回りは女子生徒で埋め尽くされてしまうほどであり、シオン達はそんな輪の外に避難してその様子を「うわぁ…」と見つめることに…


「しかし、前に風呂を共にした時は見損ねておったな。確かに…あの紋は見たことがあるぞ」


「当たり前です、ペトラ。教会、ギルド、町や城、学院までそこら中にありますから、むしろ知らない人は各国を探しても居ないのでは無いですか?」


「…えっ………知らなかった……」


「「…………」」


思い付いたようなペトラの言葉に苦笑ぎみのシオンだが、マウラは彼女の紋を記憶に残していなかったらしく、2人のじっとりとした視線がマウラにちくちく突き刺さる


ばつの悪そうなマウラ

その猫耳は「そんな目で見ないで!」とでも言うようにぺたり、と伏せてしまい、そっぽ向きながら口許まで湯の中にブクブクと沈んでいく


座学が嫌いなマウラは興味の無いことへの物覚えは極端に悪いのであった


「あ!ラウラ先生なら分からないかな?マウラさん達の師匠紋、みんな誰のか分からなくって」


「確かに…ラウラ先生なら分かるかもっすね。そういうの、結構詳しいんじゃないっすか?」


誰が言ったのか、その言葉に自然と全員の視線が人の輪から外れていた三人の少女を捉える


「えッ」とすっとんきょうな声を出した3人と全員の視線が交錯、ちょっとした沈黙が間に流れるがラウラは楽しげに笑い、3人へと近づいていく


その笑顔も当然だろう


ラウラは3人が誰の下で修練を重ねているのか知っているのだから

挙げ句、その関係が師匠と弟子というには余りにも火傷してしまいそうなホットな関係であることも知っているのだ


とはいえ、ここまで3人を鍛えられる男の紋様を知りたいのもある


世界を旅したラウラは貴族としての情報も合わせて有力な者への見識はかなり深い

確かに何者か判断するにはラウラはうってつけの相手だ


「さて……カナタさんの、ですわね?見せてくださいます?」


3人の前まで来たラウラが他の少女達には聞こえないような小声で囁けば3人を代表して少し恥ずかしそうに自らの胸元をさらけ出すペトラ

なんだろう…他の子に見せた時はそこまででもなかったのにラウラに見せるとなると途端にちょっとばかし緊張してしまう


「…そ、そこまで気にすることか?少々、あれは知りたがりが過ぎると思うのだが…」


「そうでもありませんわ。力とは時に権力すら紙のように貫ける特権ですもの。権力なんてものは法や階級がなければただの飾りですけれど…力は同じ以上の力でなければ張り合えない。だから権力者は自らが動かせる特級の戦力を欲しがるのですわ」


「カナタがそんな大それた人とは思えませんけれど…特に誰かの下に着いている感じもしませんし、そもそもそう言うのは嫌う人です」


「だからこそ、ですわ。『フリーの実力者がいる』と言うだけで貴族やそれに連なる者は警戒を持たざるを得ないもの。貴女方3人ははっきり言えば、この歳にしては過ぎた力をお持ちですの。それこそ、世に名を轟かせる天才達…自惚れでなければ私を含めた極少数と同じ存在。そんな子を育てられる者が何者なのか、皆興味が尽きないのも分からないでもありません」


彼女達も自分の力の立ち位置が少しだけ理解できてきていた


入学の時も、実践講義の時も、少し目立っている…というにはオーバーな周囲の反応

それがあり得ない程の力を目の当たりにしたからだと薄々分かってきたのだ


「…空から降る…光でしょうか?槍にも見えますけれど…それが下にぶつかる…見たことないですわね。なんなのでしょうか…それに弟子の証となる円の外に意匠を着けるなんて…分かりませんわね。兜…?…んーーーー…………謎ですわ!」


じっくりと見つめ、目を細めて唸るようにしていたラウラが、ついにお手上げ、と言わんばかりに声を漏らす


見たことない紋様に常道から外れたデザイン


意味が分からん!とラウラも匙を投げる姿に他の少女達も残念そうに肩を落とす


さっきから胸ばかり凝視されて恥ずかしくなってきた3人は揃ってぶくぶくと鼻下まで濁った湯の中へと沈んでいくのであった


「それにしても、このお師匠様は随分と格闘に重きを置いてますのね?それに加えて魔法も卓越している…全てご指導がありましたの?」


「え?い、いえ…カナ…師匠は特に強化魔法と体術を重点的に指導していますので。確かに魔法もアイデアや魔力の扱いは教えて貰っていますけれど…それほど沢山は教わっていません」


「うむ…魔法と言えば基本のものばかりだな。魔法弾シュートバレット魔法矢マジックダーツ……良くて中級の魔法槍マジックジャベリンか。よく考えれば、それ以外の魔法は見たことがない…」


さらにラウラが強化魔法と攻撃魔法の両刀使い、近接戦にも触れるがシオンとペトラの返答に少し首をかしげる


3人が異常なのは遠近どちらもこなせる万能さに加えて卓越した技や技能を持つことだ


しかし、魔法の指導はあくまで基礎の基礎…基本の無属性魔法と魔力の操作だけだという


つまり…


「え、魔法は自分で練習しただけっすか?」


「?…えぇ、まぁどんな魔法がいいかアイデアや運用は指導を貰いましたけれど…」


スーリの言葉にきょとん、としながら当たり前のように返すシオンだが…数回しか見たことのないシオン達の魔法ですら見たことのない、テンプレから外れたものだったのにそれは自身の努力で身に付けたというのだ


((((((……………天才………………))))))


ここにきて「もしかして師匠が凄いのもあるけど…元から天才なのでは?」と皆が思い始める


『魔法奥義大全』と呼ばれる辞典がある


冒険者ギルドと世界魔法研究機関…国を越えた二つの組織が発行するこの辞典には世界中、様々な種類の魔法名や効果、威力などが記されており、その魔法の発明者の名前が記載されている


魔法は発明した者に対して著作権のようなものがあるわけではないが、そもそも魔法の発明という時点で普通ではない


どのように術式を組み、魔力を回し、どのような機能を以て何を発現させるのか…それを開発するために国を越えた世界魔法研究機関なるものまで存在するほどに難しいものだ


この辞典に名をのせるのは魔法研究家の夢でもあるほどに難しいとされている


特に代替の似通った魔法があったり、意味の無い魔法は新魔法でも無いに等しいとされるからであり、余程革新的かつオリジナリティでなければその名が載ることは無い


魔法の発明はそこまで難しい筈なのだが…聞き違えていなければシオン達はそれを自分でしていると言う


3人揃って首をかしげ、頭に「?」を浮かべるシオン達を見て、少女達は思ったのだ


" これ、弟子彼女達がヤバいだけなんじゃ… "…と


ーーー


「そりゃ、お前達も来るに決まってるよな。魔女サンサラおっさんザッカー…てか、行動が早いな、ラウラから連絡でも回されたか」


女湯で和気あいあいと裸の付き合いで親交を深める中、1人客室で寝転がるカナタの目の前には幾つもの空間投影されたディスプレイが浮かんでおり、その内の1つには遠くから望遠された画像にサンサラとザッカーがこちらを…というより映像を送っている観測艇『スターゲイザー』を見つめる姿が映っている


カナタ自身が乗っていないのが分かっているのか、見送るだけで追跡をするわけでもなさそうだ


『回収できる情報は全て調査完了しました。『観測艇スターゲイザー』はこのまま成層圏軌道での巡回飛行に戻ります。要監視エリアをマトロス海、ユピタ紅葉林、ジュッカロ魔棲帯、エヴィオ砂漠に限定します』


「後はスフィアードのZナンバーとイクシオンのΩナンバーを5機ずつ、各封印施設に配備。スフィアードはZ1が2機、Z7が3機…イクシオンはΩ6が1機にΩ3が4機でいい。他、空戦型インパルス系と多脚陸戦ストライカー系をしこたま回しておけ」


『了解しました。…スフィアードシリーズとイクシオンシリーズは5機ずつだけで良いのですか?』


「この先、マジで必要になるからな。正直、四魔は厄介ではあるんだが…その戦力を破られたならそれでいい。今はスフィアードとイクシオンの数を減らしたくない」


『では、命令通りに配備を進めます』


カナタの目の前から空間ディスプレイがふっ、と全て消えると大きく溜め息をついてベットに大の字に転がる


既に日も落ちてきて、僅かに頭を覗かせる夕陽が今日最後の光を届かせているのを横目で窓から見つめながら、ふ、と彼らとの会話が頭をよぎる






『ありゃ?がっちがちの鎧なんか着ちゃって。おじさんと顔合わせて話してくんないの?』


『君が当代勇者のジンドー、ね。私はサンサラ、君の旅に同行させてもらうわ。よろしくね』



『おじさんの偵察より先に出たら危ないぞ?ちゃーんと見てくっから大人しく待ってなって』


『私の魔法の前で戦闘をするのは危険、って何度もいってるでしょ?あまり無茶はしないで、もう…』



『おい!そこまでは俺も見きれねぇ!ジンドー、行きすぎるな!くそっ、聞いちゃいねぇか…!』


『援護が間に合わないわよ、ジンドー!ああもうっ!どこで戦ってるのよ!私達を待ちなさい、聞いてるの!?』



『なぁ、あそこまで前に出る必要は無かったんじゃないの?ジンドー君、すごい数相手にしてたけどさ、ありゃいつ死んでもおかしくないって感じだ。無理しすぎだねぇ…せめて、おじさん達と一緒に戦っちゃくれないかい?』


『無謀よ、ジンドー。何故私達がいると思ってるの?あなたと共に戦う為よ。もっと頼りなさい、そこまで頼りなく見えるのかしら…』



思い返される彼らの言葉に対して、記憶の中の自分は悉く……無言


「はい」も「いいえ」も無く


只前だけを視界にいれて、その他一切は目にも耳にも入らなかった

今思い返せば感じが悪いどころの話ではないレベルで無愛想を通り越した態度だが…


カナタには帰還、という目的の為ならば他は一切必要ない


文字通り、All for One全ては俺の願いの為に


歓声も、お礼も、激励も、援護も、仲間すらも要らなかった

居ても故郷への帰還にはなんの役にもたたないだろうと、そして自分に着いてきてる奴らも本気で『仲間』なんて寒いことを言ってる訳ではないだろう、と

そう思っていた


だが、彼らは違う


世界の為に団結し、歩み寄り、出来ることは全て行う

危険を侵す者に手を差し伸べ、その危機に自ら割り込める者達


文字通り、One for All自分は世界と仲間の為に


そのあり方はまるで違う、というか真逆の存在だ

いったいどちらが『勇者』なのか分かったものではない…カナタは今、痛いほどにそう思っている


(……今更どんな顔して会えってんだ…いや、今も俺の目的は変わらない。この世界に来た時から何一つ、変わってなんかいないからな)


そう強く思うカナタ…だが、昔と違いその表情は苦々しく、そして少し苦しそうにも見えた


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