第21話 湯の国に咲く火花


ラヴァン王国の東部に栄える都市、ユカレスト


その歴史は古く、ラヴァン王国建国時に東西南北の4ヵ所に王国の柱となる四大都市を築く計画が行われた時に興された、ラヴァン王国の東を司る大都市である


四季がそれぞれ訪れるラヴァン王国内において、特に冬場の苦難が少ないのがユカレストだ


都市に寄り添う形で聳える巨山、ロッタス山は遥か昔から火山活動の活発な危険な山であったが、ユカレストの前身となる集落で活動をしていた冒険者がロッタス山内部の洞窟で見つけた神話遺物オーパーツ火神ひかみの要石』の力によって、火山活動を大幅に抑え込むことに成功したのだ


火山活動さえなければロッタス山は火山灰によりもたらされる栄養と山から満ち流れる豊富な魔力により、恵まれた土壌を誇っており食料の心配をされることはなかった


さらに、ユカレストのある麓は地下水脈にも恵まれており、水源問題も難なく解決


挙げ句の果てにロッタス山に暖められ、土壌に含まれる薬効や魔力が溶け込んだ温泉が多く噴き出すことから、一大観光名所として名を挙げることとなる


夏は山の恵みが多く採れ、冬の寒い時期は温泉があるユカレストはこうして大規模な隆盛を誇り、魔神対戦中から終結まで庶民や旅人、冒険者はおろか、貴族までもが訪れる場所となっているのであった


そして、誰よりもユカレストを重宝していたのは魔神対戦中にも国家間、都市間を旅して依頼をこなす冒険者達である


彼らは冒険者ギルドから受注した依頼に応じて様々な場所へと命懸けで旅をしては依頼を完遂していくのだ


故に、一定の戦闘力を持たなければ不可能な職種であり、そんな彼らは魔神対戦中の危険な旅路でも都市間を渡り歩くことが出来ていたのだ


様々な町や国に向かう彼らにとって癒しとなるのは精々酒場か娼館程度のもの…


しかし、このユカレストには旅の疲れを癒す温泉が湧き出しており、それが安値でも入れることから、はるか昔から冒険者に愛されている


そして、それはユカレストに腰を据えたり、長期に渡って拠点として活動をする冒険者を増やしていき、ユカレストは世界でも類をみない冒険者数を誇る都市となっているのである


そんなユカレストに今…






「ふふっ、着きましたわ。懐かしいですわねぇ、ユカレスト…」




学院の1年生一行が到着したところであった


ーーー


ユカレストが有名な理由の一つ


そこには勇者ジンドー率いる一行が訪れた最初の街であることも含まれている


ラヴァン王国の王都より出発した彼らが最初に目指したのが、このユカレストなのだ


今から遡ること5年前に訪れたラウラは懐かしげに周囲を見回しながら宿泊予定の温泉宿へと歩いていく


そしてそれは、カナタも同じであった


かつてここを訪れた時は温泉を楽しむ時間もその気も無く、ただ旅の中継地点の1つとしてしか考えていなかったのだ


王都を出た時には既に全身鎧の姿で身を固めていたので人前で脱ぐことはせず、風呂も入らず一目の無い場所で体を拭う程度のことしかしていなかった


しかし、今目の前にすれば…やはり温泉というのは心が踊る


『やっぱそういうところって、日本人だよなぁ』と思いながら、彼なりに少しは楽しむつもりなのであった



たどり着いた宿は、やはり生徒含めて100人以上が宿泊出来る宿なだけあり、大きな建物に幾つもの別館を備えた大型の宿泊施設となっている


温泉も大浴場や予約制の個人風呂、家族風呂に加えて薬効別に幾つもの湯が備わっており、このユカレストの中でも相当の大きさを誇る大旅館だ


とはいえ、カナタから見ると少々違和感があるのは仕方の無いことだろう


カナタの温泉旅館のイメージは当然、和風の旅館に浴衣を着て歩く物なのだがこの世界にそんな純日本の文化は存在しない


木造なのは確かだが、大型の宿屋にも似た構造となっており、裸足やスリッパのような簡易の履き物もない


湯船も岩を並べたような日本風の模様がある訳では無く、綺麗に並べられた石のブロックで組み上げられ、桶などは無くシャワーの役割を持つ放水の魔法具がいくつも壁際に取り付けられている


ちなみに生徒達の部屋割りは三人か四人で一部屋となっており、一年生同士であれば誰とでも同じ部屋で組めるようになっている


先生は一人一部屋だ


そして、旅館で用意された朝食と夕食を除いて大体は自由時間となっている


この旅行はクラスに関わらず仲良くなる為のものであり、それを妨げるような行程は組まないようにするのが一年生の懇親旅行の醍醐味だ


なので、当然人気のある生徒はとなることが多く…



特に人気なのはやはりマーレだ


かわいらしい容姿でムードメイカーな心優しい王女様なのだ


人気で無いわけが無い


自由行動が開始されてから一瞬で男女問わず生徒達に囲まれてしまって「あ、わわっ、みなさんっ待ってくださいっぃ…!」と人の渦の中から彼女の慌てるような声が聞こえてきている


つづいて人気が出るのは高位の貴族達だ


彼らと仲良くなれば…仲良くならずとも取り巻きくらいになることが出来れば過ごしやすさや将来もある程度は有利になる場合がある


そして、そんな貴族達や血気盛んな男子達に人気が出るのが見目の美しい少女達だ


貴族も庶民も綺麗な彼女…ひいては奥さんになってくれる人を探しており、この学院にいる間にそんな相手が作れることが多い


学院を卒業してしまえばこうして多くの女性と近い立場で親しくできる機会というのも激減してしまうことが殆んどだ


なので皆、将来の奥さん探しに躍起になる者が多くいるのである


そして、そんな彼らの視線の先にはだいたいの場合、同じ3人の少女が映っていることが多いのであった


しかし今回は様子が違う


確かに何人もの男子生徒が誘いをかけては断られ肩を落として帰ってくるのを繰り返しているが、明らかに数が少ない


様子を見るような男子が増えているのだ


その理由は勿論、新入生の歓迎パーティーにある


あれだけ1人の男と熱烈に踊って接触していれば3人揃って恋心を寄せる男がいることは明らかなのだ


それを知ってる男子のだいたいが、そんな彼女達と噂の男との当て馬にはなりたくないと考え、結果この旅行でその仲を確かめようとしているのだった


そして、案の定…




「さて、カナタよ。あちらの出店から回ろうか。我、移動中から腹が減っててなぁ」


「宿に戻るのは夕方まで…かなり時間はありますね。カナタ、こことここの物品点を見たいのですが…」


「んむっ…んむっ……カナタ…これおいしいよ……?」


「おい、なんか既視感あるなお前ら…あぁ、ラヴァンの王国の王都に行った時と同じか!おい引き摺るな!歩くってちゃんと……マウラは毎回いつ買ってるんだそれ!?」


ずるずる、とシオンとペトラに両脇から腕を組まれ引き摺って行かれるカナタにその場の全員が生暖かな視線を投げ掛けていた


彼女達に腕を組まれて体をしっかり密着されてるのは大変羨ましいのだが…なにぶん、連れていかれるカナタの様子が完全に恋人というよりも連行という言葉の方が似合う有り様である


そんな3人の前を歩く猫耳尻尾の美少女は何故か到着したばかりだと言うのに、その手に持ち帰り用の焼き菓子を一袋抱えて頬を膨らませているのだ



これを見た殆どの皆が思った




『あぁ、苦労してんだなぁ』…と


ーーー


「おい!どうなってるんだこれ!」


「知らねぇよ!俺の店もだ!」


「詰まったのか!?早く管理衆呼んでこい!」


「ここの井戸もダメだ!」


生徒達も各自で行動を始めた頃…引き摺られていくように街中を歩くカナタ達の目の前で騒ぐ町民が、声を荒げてなにかを話しているのが目立っていた


そこは宿や湯屋…公共の風呂屋等が軒を連ねる一角であり、この時間はある程度賑わいのある時間帯の筈なのだが…どうやらそのような雰囲気でもない


「トラブルでしょうか?お湯が出ないとなると私達も困りますが…」


「とはいえ、ただのトラブルで湯が出ないとなると我らがどうにか出来る話でもあるまい」


シオンもペトラもその様子を遠目で眺めながらも少しは気になっている様子なのは、やはり風呂好きということもあるのだろう


カナタの教育の成果と言うべきか、彼女達は揃って熱いお湯に浸かるのが大好きなのだ


とはいえ、彼女達も水道工事が出来る訳でもなく何か手伝えるわけでもない


この町には温泉や水道設備に関する全てに管理を行う職人衆が存在しており、彼らはこのユカレストの根幹にある温泉への技術と知識を持つが故に、古くから街の経営に深く関わっているのだ


ユカレストが発足してから彼らがあらゆる問題を解決してきたこともあり、今に至るまで大きなトラブルなど一切無く進んできている


なのでこの時は皆が、数時間もすれば解決する物だろうと思っていた




…そう思っていられたのも、自分達の泊まる宿に戻るまでのことであった






「冷水しか出ない…ということですの?」


「はい、申し訳ないですが…現在、この区画一帯の温泉が全て冷めてしまっていて…。原因が明らかになっていませんので温泉は暫くお入りにはなれない状態でして…」



宿に戻るなり耳にする会話も、どうやら温泉関係のトラブルとなっていた


カナタが街を巡り歩いた限りでも『お湯がでない』『水がでない』等のトラブルが多く見られており、流石に只の水回りのトラブルとは思えない状態だ


ユカレストに到着して早々ながら、教師達もどうするべきか話し合いとなっていたが、ここから他の都市へ変更というのも日程的に不可能だ


「ラウラ様、他に移れる宿が無いか聞いて回ってみましたがどこもダメです。ここら一帯の温泉全てが極端に冷えているかそもそも出てこないか、ということらしく…」


他の宿に移ることも検討したのだが交渉に行った教員から出る報告は全て同じで内容


つまり、宿から民家に至るまで総ての温泉の機能が停止しているらしいのだ


温泉無しでユカレストに滞在するのか…それを検討する中で、3人の少女が密かに宿から姿を消すのであった


ーーー


時間は夕方


日は沈みかけ、オレンジ色の夕日が辺りを包む時間帯に3人の少女がある建物へと入っていく


『冒険者ギルド・ユカレスト支部』


そこは冒険者達が様々な依頼を受ける彼らの活動の中心である


学生服をローブで隠し、頭からフードを被った3人…シオン達の目的は、温泉の不調の解決である


ただの水道トラブルでなければ、まず間違いなく解決の依頼を出されるのが冒険者ギルドだ


そして、彼女達には温泉が無くては困る理由が存在しているのだ


それこそが…







(このままでは混浴が使えんではないか…)


(このユカレストこそチャンスと思っていましたが…ですが、問題ありません。私達で解決してしまえば良いのです)


(……カナタに洗ってもらう……楽しみ…)





そう……ただ彼と温泉に入りたいだけであった


拾われたばかりの頃は風呂の面倒を見てもらっていたのだが、3人が成長し始めてからは当然カナタが一緒に風呂に入ることは無くなっていた


そしてそれを不満に思っていたのは実際カナタではなく3人の方だったのである


成人を迎えてから積極的にアピールを重ね、それぞれ想いの丈をぶつけるに至ってはいるのだが、流石に彼の入る風呂に突撃をしたことはなかったのだ


しかし…この混浴という物を見つけた時は3人揃って妖しく目を光らせたものである


合法的に(カナタの意思は問わず)彼と同じ湯船にはいれるのであれば何も不自然ではない…(彼女達にとって)


三人揃ってそんな目的の為に、ギルドの建物へと脚を進めていくのであった




冒険者ギルドの中はレンガや石材で全て作られた建物であり、これは都市内に魔物が入ってきた時にギルド自体が強固なシェルターとして機能するよう造られているからだ


それ故に内装も無骨で実用的な造りとなっており、入り口から入って正面に分厚い木製のカウンター、その両脇に使い古して黒ずんだ依頼表を張り付ける木製ボード


左手には簡易的な飲み食いが出来るテーブルや椅子がずらりと並んでおり、ここで自分に合う依頼が来るのを待ったり、これから行く依頼に同行してくれる冒険者を募集したりと、様々な用途に使われる


この依頼ボードに貼り付けられる依頼にはギルド側が測定した難易度がランクとして決められており、依頼と同じランク以上の冒険者でなければその依頼を受注することは出来ない仕組みとなっている


ランクは上から『金剛級、白金級、水晶級、金級、銀級、銅級、れき級』の7階級に分かれ、その下に見習いや本職と兼業で小遣い稼ぎ程度に依頼をこなすライト層の『級』が存在する


基本的に頼りにされるベテランといわれるのは金級の冒険者であり、そこから先はさらに才能のある者が水晶級に上がれることもあり、水晶級の冒険者ですら国に数名居る程度の人数しかおらず、白金級に至っては国に一人居るかどうかの存在だ


金剛級に関してはほぼ伝説的な存在であり、このアルスガルドでも現在は四名しか居ない


故に、このギルドでたむろしている冒険者も殆どが銅級や銀級の者達だ


「うむ…初めてギルドに入ったが、何というか…面白みの無さそうなイメージだな」


「まぁ命のやりとりが多い冒険者家業にはぴったりの外装や空気だとは思いますが。さて、温泉が止まったことに関する情報があればいいですけど…」


「…埃とお酒の匂い……ちょっと嫌……」


三人は冒険者登録をしていないので依頼を受けることは出来ないのだが、依頼を見ることが出来れば何が原因かは大方分かる


それを確認しに来たのだが…


「………無い」


「ありませんね」


依頼ボードにはそれに近しい依頼は無い


ううん…と頭を悩ます彼女達…そこに声をかけたのが


「どうも、何かご依頼をお探しですか?」


先ほどまでカウンターに据わっていた受付嬢の女性だった


歳は20代程だろう彼女はギルド職員の制服に身を包んだ茶髪のサイドテールが似合う明るい女性であり、なかなかの美人である


そんな彼女も依頼ボードの前で立ち尽くすローブ姿の三人は目に止まったのか、こうして声をかけてくれているようで、彼女には三人が依頼を探しに来た冒険者に見えたのだろう


「いえ、我々は冒険者ではありませんので…」


「あ、ではもしかして冒険者になりに来た方ですか?ふふっ、やっぱりを聞いてここまで来られたとか?」


「いやいや、我らは冒険者になりに来たわけでは無いのだ。少しどんな依頼があるのか気になってだな…」


「あら、そうでしたか。失礼しました…でも結構多いんですよ、このギルドで冒険者デビューしたい!って方。なにせ、ここは勇者様が初めて立ち寄って冒険者登録した場所ですから」


女性の冒険者は今でこそ多くは無くとも珍しくは無いが少し昔までは殆ど見かけないような状態だった


男性が戦いで数を減らした結果、100年も遡らない程度の昔に女性兵や女性冒険者の数が一気に増えた結果、今ではある程度は見かける程の存在となったのである


その昔は力仕事は男性の分配、と言う意識があり、実際男性の方が当然力もあったがそれを根底から覆せる「魔法」の存在により、魔法に秀でた女性や極希に力仕事に秀でた女性もいたことから魔神大戦時の戦力としても重宝されたのだ


そんな歴史を知っているからか、受付嬢は是非とも三人の少女にこのギルドの良さを教えたい、と言った様子である


「……そうなの…?…じゃあ…勇者見たことある…?」


「ええ、勿論!と、言っても鎧越しですけどね。その時に彼の受付をしたのも私なんですよ?」


どうだ!といいたげに自慢する彼女に「おお」と合いの手を打つシオンとペトラだが、どちらかというと聞きたいのでは無くあちらが話したい、と言ったところか受付嬢のテンションは所見の割に随分と高く見える


「そしてあの印を描いて自らの紋様と決めたのもこのギルドの、このカウンターなんです!あれ、その場で勇者様が考えて作られたんですよ」


その言葉と共に彼女が指さしたのはカウンターの真上に当たる壁の一面…そこには今や誰もが知るシンボルが大きな木板にレリーフ状に彫り込まれてかけられている


横向きに兜と交差する雷と剣が重なった不思議な紋様…勇者ジンドーのシンボルだ


確かに勇者がギルドに初めて立ち寄ったのもシンボルを作ったのも事実である…しかし、あまり知られていない話だが勇者ジンドーのギルドランクは銅級のままであった


これは冒険者ギルドで依頼を受けて功績を積み、申請を通すことでランクが上がる仕組みなのだが旅の最中の彼はギルドでの依頼をわざわざ受けず、目の前の敵と障害を機械的にその場で抹殺していたためランクアップなどすることは無かったのである


勿論、そんな彼がランクアップの為にわざわざ申請をするはずも無く、結果魔神を討伐する程の力を持ちながら彼のギルドランクは底辺の銅級のままになっている


…なので、今も多く現れる偽物勇者が冒険者から現れるとギルド職員は一発で分かるのだ


その手の輩は大体勇者と共に、「勇者は強かったから」というイメージでそのまま高ランク冒険者を名乗るからである


「それでですね…」と話がつながろうとした時に出入り口から駆け込んできた男性のギルド職員の言葉がギルド内の全員の意識を奪うこととなった


「緊急の依頼だ!人数の制限はなし、現在広範囲で起こっている温泉不調の原因解明!銅級からの依頼になる!場所はロッタス山の麓にある源泉が沸く地帯だ、何かしらの有用な情報があれば報酬に追加が出るそうだ!」


この報告に沸いたのはギルドの中に集まっていた冒険者達である


彼らは殆どが銅級の冒険者であり、昇級できずに行き詰まった者達で、こうしてギルドで過ごしながら楽で報酬が流れてくるのを待っているのである


そんな彼らに、近場の山で情報を見て持ち帰るだけの依頼に追加の報酬まで期待できるとなると食いつきがいいのも当然だろう


依頼してきた町側も、冒険者の数に任せて情報を可能な限り集めたい思惑もあってか、受注出来る人数に制限が無い

本来であれば依頼を同時に受ける冒険者がいると報酬の件などで揉めるためブッキングを防ぐために最初の受注者しか依頼を受けられないのだ


今回は手広く情報を集めるためにこのような形になったのだろう


「ちょうど緊急の依頼が来たみたいですね。私も温泉止まって困ってましたし、これで一安心………あれ、皆さん?」


喜び勇んで受注していく冒険者の中、そして視線を依頼を持ってきたギルド職員から戻した受付嬢の前からいつの間にか、三人の少女の姿は忽然と消えているのであった


ーー


『マスター、報告です』


「…見つかったか?」


あの後しばらく教員同士で話し合い、ひとまずは宿泊することとなった学院の一同だが、風呂なら魔法でも沸かせられると言うことで一時的にはそのまま過ごすことに決まったのだ


宿の部屋に入り、堅苦しい話し合いの間に日も完全に沈み始めており授業は寝るタイプだったカナタもため息を付ながらベッドに腰掛けたところであったが、人工知能アマテラスからの報告の声に目を細める


カナタとしてはこのまま学院の面々がユカレストから撤収となり、後々自分一人でガヘニクスの処理を出来れば良かったのだがそこまで上手くいかず…とは言え弱ったままのガヘニクスであれば大した被害も出さずに仕留められる計算でいたのだが


『捜索に当たっていたブラック隊ですが、先ほど全機撃墜されました』


「おいおい…ガヘニクスは寝てるはずだろ。空の上のブラック隊に手出し出来るわけ…いや、そうか。封印から出した連中がガヘニクスと行動してるのか。むしろ都合はいい、あいつらには聞きたいことが…」


『マスター、もう一つ報告があります』


「…どした?」


やけに溜めを作って話すアマテラスに嫌な予感を抱きながら聞き返すカナタだが、こうして報告してくる場合は大抵碌な情報では無いのだ


『今から一時間前に冒険者ギルドより街からの依頼で複数の冒険者が温泉不調の原因調査に出発。ロッタス山の麓に集まっていますが既に複数の冒険者が魔神族に殺害されています』


「そりゃ…運が無かったな。今から行けば間に合う連中も居るかどうか…」


『その冒険者に混じって数名の生徒とシオン嬢、マウラ嬢、ペトラ嬢の姿を確認しました。現在、複数の魔物と魔神族数名と交戦中で…』


「馬鹿か!そういうことは最初に言え!というかなんで生徒まで山に居るんだ!?ったく…何してんだあの三人は…!」


その報告に慌てて窓から飛び出すカナタ


家族のような三人の少女に初めて明確な危険が迫っている…そのことにどうしようも無い不安を抱きながら夜の闇に身を紛れ込ませていくのであった

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