第10話 晴れの姿は戦装束
「なぁ、そもそも魔法学院は18歳までいれるんだろ?…俺、自分より歳上の奴らに教えないといけないのか?」
「パンフレットや評判を聞く限りではかなりの実力主義のようだぞ?年齢など些細な問題ではないのか?」
「……12歳からの初等部も学院にいる………変じゃない……」
全員が汗を流し終わると再び必用なものを確認したり、学院について調べてみたりと穏やかな時間を過ごす4人
だが、魔法学院の中等部は18歳まで在学できるので、カナタよりも歳上の生徒が居るのだ
これにはカナタもちょっと腰が引けぎみであり、「そもそも、歳下に教わりたい奴居ないだろ」とごねているのだが…少女達の共に行く決定に否は存在しないらしい
「後は武器と防具ですね。今使っている物で良いでしょうか?あれでもかなりしっかりした武器と防具ですが…」
「いや、それは新しく作ってやる。入学祝いと…それから成人祝いだな。今回は気合いをいれて作るか」
「お、ほんとかカナタ!」
「…んっ、楽しみ……」
この家の周囲の鉄柵や金属の加工品、果ては彼女達の訓練で使う武器や防具は全てカナタが仕立てている
家の外に小さな小屋があり、そこで鍛冶やらもの作りをしている…という設定で、自身の魔法『
なので彼女達もやたらと鍛冶加工が上手い、くらいにしか思っていないのだが…彼女達が自分達の持つ装備の性能と世間の装備品の差に驚愕するのは少し先の話であった
ーーー
【sideヒュークフォーク王立魔法学院】
ラヴァン王国には王都や他の都市を含めて幾つかの学院が存在する
市民向けや商人向け等の様々な学院が在る中でも、最高峰の教育機関…それが王立学院である『ヒュークフォーク王立魔法学院』だ
創立は約600年以上前だと言われており、歴史書にある『魔神が現れた時、それに対抗できる精鋭を育て上げる為の教育機関』が、このヒュークフォーク王立魔法学院の前身だと言われている程に、歴史と由緒ある場所なのだ
そして、貴族、果ては王族も『この学院の卒業生』という肩書きは大きなものであり、大貴族や才能ある貴族は皆こぞって、この学院へと入学を試みるのである
歴代の国王も漏れることなく、全員がこの学院を出ていることから、貴族にとってこの学院に通い、卒業することは必須といえるステータスなのだ
そして、令嬢、令息共に在学をすることからこの学院にいる間に生涯の伴侶を見つけることも非常に多い
令嬢は特に、嫁ぐ先の家の令息を見つけることが大事と言われる家庭もあるくらいなのだ
貴族以外の人間も、有力な商人や騎士の息子、果ては平民まで能力さえあれば関係なしの実力主義
教員に関してもこの実力主義は当て嵌まっており、能力さえあるのなら犯罪者を除いて、年齢性別生まれは一切考慮しないのである
そんな学院のトップ、学院長の部屋にて…
「それでは、前々からご提案していた件、お受けいただけるので?聖女ラウラ殿」
「ええ、構いませんわ。私、今とても機嫌が良いのでこの話もお受けしようかと思いまして…ふふっ」
「おお、それは運が良い…勇者殿が現れたことと、ご関係がおありかな?」
「あら、何故そう思われたのかしら?と、言っても…隠すつもりもございませんけれど」
落ち着いたアンティーク系の机や棚が並んだ、目に煩くない程度に豪奢な室内
その業務を行うであろう机の後ろにある窓からは、広大な敷地と様々な建物が並ぶ学院全体が見渡せる景色が横たわっている
壁には部屋の主の趣味なのか、様々な杖や錫杖が取り付けられた棚に飾られており、見て分かるほど高級なものや、明らかに古くからある希少そうな物までがずらりと並んび、手書きのメモにはその杖の名前や由来、活躍などが事細かに記載されている
そして、柔らかい高級な客人用のソファにて、立派に髭を蓄えた背の高い老人と白の聖女装束を身に纏ったラウラが向かい合って話していた
この老人こそ、ヒュークフォーク王立魔法学院の学院長にして、齢160にもなる魔法使い『ドロテオ・ガルバニア』である
学院長歴は100年を超えており、彼をなくして学院はないと言われる程の男だ
かつては400年以上の時を生きる大魔女より教えを受け、その師匠紋を今も大切に体に残しており、その魔法の力は国内でも最高峰だ
魔神対戦時も体力的に前線に出ることは出来なかったが、その圧倒的な大魔法によって幾度も王都の危機を救った偉人なのだ
老体が旅に耐えられない、という理由さえなければ勇者の旅に彼も同行して欲しい、と声がかかった程である
「あの夜会の話を聞けば嫌でも分かりますとも。勇者殿に、その想いを告げられたとか…ほっほっ、お若いですな」
「ええ、是非受け入れて欲しいですわね。まぁ、そんなことですので、魔法学院での臨時教師の件、喜んで引き受けますわ。ただし、長居はしませんことよ?」
「勿論、構いませんとも。1年か2年か…それだけでも子供達のよい教育の機会になる…」
上品に笑顔を浮かべるラウラに愉快そうに笑う学院長ドロテオ
実はラウラもこの学院の卒業生であり、桁外れな魔力量や才能により、1年飛び級で初等科を卒業した天才である
12歳で入学した初等科を3年ではなく2年で卒業し、そこからその才能と、もとより聖女教会による『大聖女』の認定を受けていた彼女は勇者の旅に同行することとなったのだ
実は勇者の旅から帰還したラウラには何度も臨時教師として、「旅のことや魔法を子供達に教えてやってくれないか?」とドロテオは打診をしていたのだ
しかし、ジンドーのことが気がかりでそれどころではなかったラウラは今まで全て断っていたのである
それがここに来て勇者の再来に言葉を交わし、想いまで告げ、挙げ句贈り物までされたというのだから彼女のご機嫌も頷ける話だ
さらに…
「それに…気になる子も、見つけましたの」
「ほぉ、先程見ていた申し込み書き(申請書)かい?聖女ラウラ殿の眼鏡にかなうとは。どの家の子かね?」
4枚の履歴書を手にしたラウラ
その申し込み書きには
『シオン・エーデライト』
『マウラ・クラーガス』
『ペルトゥラス・クラリウス』
その名前と姿絵(写真は存在しない為、自分の絵を描いてもらう)が書き込まれているのであった
(ふふっ、また会えそうですわね、3人とも。やはり、あの場だけの縁ではなかったですのね)
思い浮かぶのは初めて会った自分のことを心配してくれた、ちょっとお酒に弱い3人の少女達の姿
そして最後の履歴書…
『カナタ・アース』
(『カナタ』…確かあの3人の想い人が、その名前でしたわね。歳は17…3人と同じタイミングで臨時教員の希望…ふふっ、これは…)
「…楽しくなりそうですわね?」
彼女の表情は悪戯な笑みで染まっているのであった
ーーー
カナタは一人で出かけることが多くなっており、最近も何日もかけてどこかへ赴いては帰ってくる、というサイクルを繰り返していた
理由は彼女たちに贈る武器と防具の素材を調達するためである
鉱物や鉄関係は、自身の反則魔法によってどうとでもなるのだが、布や革などの素材和どうにもならないのだ
直接採取してくるしか無く、結果空間超越を乱用してそこら中から材料を掻き集めている
カナタも大事な三人の少女の命を預かる武器と防具なので並大抵の装備を贈るつもりは毛頭無かった
その間、三人の少女が何をしていたのかと言うと…机に向かって勉強の真っ最中だ
いくら実力重視とはいえ、学院とは勉強をする場所なのだ
先だっていくらかの知識は頭に入れておかなければ、とのことで急遽勉強会をしているのだが…
「…むーっ…分からない…」
「…まぁ、分かってはおったがマウラに座学は似合わぬからな」
「…最低限だけ出来ればいいのです。ええ…」
見るからに不機嫌なマウラは座学が苦手のようで、先ほどからうなっては天井を眺める行動を繰り返している
シオンとペトラはそこに加えて対貴族用の対応やマナーについて勉強をしているのは、ヒュークフォーク魔法学院が王族すら通っている貴族の巣窟だからだ
学院内では基本的に身分を振りかざすような行為は厳禁であり、それが判明すれば厳罰もある、という校則となっている
しかし、これも絶対では無い上に、貴族の子弟はおバカが多いことで有名でもあるのだ
家がお金持ちであり、親は甘やかし、成功するように仕立てられた道しか歩まず、我が儘は大抵権力とお金で叶えてしまう…
そんな貴族が多いのは事実なのである
そんな輩から余計なやっかいをかけられないようにも、とのシオンの提案で対貴族用の勉強もしているのだが…マウラは諦めた方が良さそうだ
そんな中、窓の外から風が吹く付けるような音が断続的に聞こえてきており…
それを聞いたマウラは持っていたペンを放って扉の外へ、たたたーっ、と駆け出してしまう
これはカナタの持つ転移用の魔法具が空間を繋げたときの音だ
つまり、数日のお出かけから彼が帰ってきたのである
『あー…きつかった今回…。なんで自分で封印した魔物の素材を今になって取りに行ってんだか…お、マウラ、ただいまああぁぁぁぁぁぁ!?』
ドズサァ!
『……カナタ、耳撫でて…尻尾も…たくさんぎゅって触って……っ』
窓からのぞいたペトラとシオンの視界には、勉強のストレスに耐えかねたマウラが癒やしを求めてカナタの腹に頭から突撃し、勢いのままに押し倒すと、ぐりぐりと頭をこれでもかと押しつけている
それを見たシオンとペトラは「むうっ」と頬を膨らませて無言で立ち上がると、揃って玄関からカナタのいる中庭へと向かうのであった
『どうしたんだマウラ…お、シオン、ペトラ!なんかマウラの様子が…え、なんで助走つけてんだ二人とも…いやいや!そうじゃなっ、ちょっ、おおおおぉぉぉ!?』
四人の家は、今日も平和であった
ーーー
「…いてぇ…」
「これは不可抗力です。カナタ」
「うむ、これは致し方ないことなのだ」
「……カナタ、もっと…尻尾撫でて、ぎゅって触って…」
ようやく家の中に入ったカナタはソファに座りながらぐったりとしており、ペトラとシオンは何も悪いと思っていないすまし顔…マウラに至っては我関せずと、カナタの太ももの上に、瑠璃色の毛並みのふわふわな尻尾をのてせおねだり中だ
なんだかんだでマウラの尻尾をするすると撫で、くりくりといじるカナタも実はマウラの尻尾や耳はお気に入りで、手癖のように触ってしまうのであった
マウラもカナタに触られて気持ちよさそうに目を細めている…
…なんだか、最近彼女たちのスキンシップが多く、過激になっているのは気のせいだろうか…そう考えるカナタは恐らく間違っていないだろう
「まぁ、とりあえず、だ。装備の材料は今回ので全部調達出来たぞ。後は作るだけだ。確認だけど…シオンは槍、マウラはガントレット、ペトラは弓でいいんだな?
」
その問いかけにうなずく三人
カナタの戦闘訓練では武器も握っての戦いもされており、彼女たちはそれぞれ得意とする武器が決まっているのである
シオンは自身のパワースタイルと魔法の相性から背丈ほどの槍
マウラは自身のスピードを阻害しない物で、両手をフリーにして戦える手甲
ペトラは自身の魔法の相性と戦闘スタイルから弓
という具合だ
現在の訓練でも使用している武器は、カナタが戦闘用では無く模擬戦用に拵えたものであり、今の彼女たちが全力で行う戦闘に使用した場合、一瞬で壊れる危険すらある
彼女たちにそれぞれの希望や要望を聞いていき、頭の中で設計図を組み立てるカナタ
それを軽くメモ書きにまとめると、ポケットから取り出したメジャーを目の前のマウラに渡し
「体のサイズだけ測って教えてくれな。身長、BWHの数字、腕と足の長さに肩幅…流石に俺が測る訳にもいけないし…」
そう言い切って、リビングから出ようと立ち上がるカナタの服をきゅっ、と掴んだのはマウラだ
何事かと振り返った先ではマウラが今し方渡したばかりのメジャーを彼方に向けて差し出しており…
「……カナタが測って…カナタなら…触られてもいい…」
少し頬を朱に染めたマウラの言葉にびきっ、と固まるカナタ
「…どうしても?」
たらたらと、やけに大粒の汗が額から流れ落ちるのは決して熱いからではない
マウラはこの言葉に応える代わりに来ている衣服を脱ぎ始めてしまい…惜しげも無く下着姿でカナタの前に身を晒していく
ライトブルーの下着の上下に包まれたマウラの体は、彼女らしくきゅっ、と引き締まったスレンダーな体つきながら、ブラに包まれた胸は歳不相応にしっかりと主張しており、括れた腰元に、しなやかな太ももと伸びる足が非常に眩しく…
助けを求めてペトラとシオンに視線を向けるカナタだが、二人は食い入るようにこちらを見つめているだけであり、むしろ『早く』と視線は急かしてきている
『こ、この前は胸に直接触らされたけど…今回は下着の上からだ…落ち着け、俺…!』と脳内で、まるで真剣勝負に挑むかのように覚悟を決めたカナタは、まず無難に脚や肩、ウエストのサイズから測っていくことに
…その時点でマウラの肌の温かさや柔らかさに頭が沸騰しそうであり、『な、なんでこんなどこもかしこも柔らかいんだ…!?』と戦慄すら感じているカナタ
残ったのはヒップとバストの二カ所だが…恐る恐るマウラ腰から下にメジャーを巻いていき、腰骨のあたりで一周させれば必然的に彼女の柔らかなお尻に手も触れ…
最後はバストサイズの測定だが、どうやっても胸の一番高い場所にメジャーを当てなければならず…
「………いい、よ…?」
「…っ」
彼女の一言で思い切ってメジャーを巻くカナタ
しゅるしゅると、メジャーが伸びてブラを擦る度に、「…んっ」「…っあ…ぅ」と耳に届く声がカナタをさらに追い詰めていき数字が測定できた頃にはカナタは消耗のあまり膝たちで床に手をついていたのであった
対して、体をしっかり触られていたマウラはどこか満足そうであり、少し恥ずかしそうにしながら自分の衣服を拾い上げると、たたたっ、とリビングから出て行ってしまい…かと思いきや、扉から顔を半分だけ出すと
「…ありがと、カナタ……うれしかった…」
と小さな声で伝えて自分の部屋へと走り去っていった
この後、マウラ自身も自室のベッドに転がり大胆な自分の行動を思い返して、ドキドキと弾けそうなほどにうるさい鼓動を打つ胸を押さえながら「……うにゃっ……!」と悶絶するのだが…
リビングのカナタはそんなマウラを見て若干の放心状態だ
『あれ…こんなに可愛かったか…?いや、元から可愛いけどなんか…パワーアップしてないか?』
そんなことを考えるカナタの前に、ふと、ペトラが近寄ると、落ちていたメジャーを拾い…それをカナタに手渡し…
「……………えっ?」
抜けた声を漏らすカナタの前で、ペトラも真っ赤な顔をしながらその場で衣服を床に落とし始めるのであった
カナタの装備作りは、まだ始まったばかりなのだ…………
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