第一章・学園生活編
第9話 心と体に刻むモノ
ラヴァン王国王都より山を2つ、渓谷2つ、湖1つを挟んだ遥かな遠方に存在する巨大森林
30mを越える巨大樹ばかりが作り出す大型国家の国土を上回る広大な森は、未だに人々が踏みいったことが殆どない場所だ
木材、動物の素材、潤沢な資源を内包したこの大森林は人々の生活を国家単位で支えてなお、使いきれない程に満ち足りているだろう
では、何故人の手が入っていないのか?
答えは単純、誰も入ることが出来ないのである
元々強大な魔獣の巣窟として知られている場所であり、危険な肉食性植物や、果ては人を相手に繁殖をする獰猛な動植物まで盛り沢山の特級危険地帯なのだ
そこに加えて魔神大戦に際し、魔神が産み出した大量の魔物の多くもこの森林に住み着き、結果独自の生態系を作り上げてしまったのである
その結果、誰も近づけない程の危険な地域となってしまったのが、この『リーバス魔群棲大森林』だ
その森の外周…すぐそこに先の見えない森の入り口がある程の目と鼻の先に一軒の家が建っていた
コテージ風に木材を組んで所々に補強をされた2階建ての大きなそれは、周囲に鋼鉄製と思われる鉄の柵を回しており、柵の内側に家を含めた広い敷地が広がっている
ぱっと見れば森の側にある穏やかな草原に立つ別荘のコテージとでも言える雰囲気を漂わせているのだな…建てる場所があまりにも危険、というかほぼ自殺行為のような場所にある
誰がこんな危ない場所に家など構えているのか…その住人は現在、誰も近寄らないであろう森林地帯の側の広大な草原にて…
「ッ……やぁッ!」
深紅のセミショートヘアを靡かせた少女が構えた拳のままに突進、目の前の黒髪の少年と激突したところであった
ーーー
「出過ぎるなシオンッ!」
「っ……後ろに回る…ッ…」
伊達眼鏡は外し、他の2人とお揃いのショートパンツに靡かない程度にフィットしたシャツを身に纏ったシオンが構え、地面を抉り飛ばす踏み込みで飛び出した勢いのままに突き出された拳が、その場で振りかぶったカナタの拳と激突
直後、大気が弾け2人を中心に強烈な衝撃波が撒き散らされ、あまりのインパクトに地面はひび割れ陥没し、嵐でも来ているのかと思わんばかりの風と衝撃が辺りをビリビリと震わせていく
現在、この家で恒例のカナタによる授業の真っ最中である
カナタは3人を拾ったその時から1人で生きていけるように力を教えてきた
幸いにも3人がそれぞれ特別級の才能を持っており、教え始めて早3年にして非常に高い戦闘能力を持つに至っている
カナタの教えはとにかく『近接戦闘に長けた魔法使い』という一点に特徴的だ
最初に教えた魔法も無系統魔法『身体強化』…パワーやスタミナ、その他身体機能を上昇させる魔法に加え、無系統魔法『金剛体』…肉体を頑丈にし、筋力を増強させる魔法の2つであったほどだ
故に、3人は可憐な見た目に反して尋常ではない程に強い
シオンの尋常ならざる踏み込みの加速や、周囲に衝撃波を撒き散らして地面を粉砕するような破壊力のパンチを繰り出しているのも全ては身体強化魔法の賜物である
が…勢いを付けて突進したパワーでカナタに激突したシオンは現在、一歩も動いていない筈のカナタに押され始めていた
「くっ…ぅッ…!まだですっ!」
脚を地面にめり込ませる勢いで抵抗するシオンの身体から、身体強化魔法に湯水のごとく費やされる紅色の魔力の煌めきが爆発的に増していく
莫大な量の魔力を消費して底上げされた身体強化の出力は先程の比ではなく、特徴的な真紅の魔力光が弾けるように輝きを放ちどれだけの力が込められているかを物語っていた
3人の中でもっともパワーと火力を誇るのはシオンだ
だが、その彼女が全力で押し込もうとしても…カナタは脚を僅かにもずれ動かすことすら無い
そして…
''バチチッ''
電気の走る音が背後で聞こえたカナタの視界の端に突如として瑠璃色の魔力をスパーク状にして身に纏ったマウラが現れる
シオンとカナタが激突した瞬間から移動した彼女はその距離数十mを瞬時に駆け抜けた…まるで瞬間移動かのように瞬きする間の時間で一瞬にしてその姿をカナタの後方へと移動させたのだ
マウラは3人の中でもトップのスピードを誇る
その常軌を逸した速度のまま水平に跳び跳ねたマウラが勢いと速度をすべて乗せて放たれた飛び蹴りがカナタの横腹を目掛けて放たれた銃弾のように一直線で突入するも、カナタは視界の端で捉えた彼女の足裏目掛けてもう片方の腕を振るい……放たれた裏拳がマウラの靴裏に衝突
結果、眩いばかりの瑠璃色のスパークと衝撃波が追加で彼らを中心に爆発した
両腕でシオンとマウラの猛攻を受け止めるカナタの顔には普段見せない獰猛な、楽しげな笑みが浮かんでおり、戦い…というより強くなっている彼女達を嬉しく思っている様を見せる
「いいね!強くなってきてる!でもまだまだパワーと勢いが足りてないな、次はどうするッ!」
そんなカナタの両腕を防御に回した状態でがら空きになった胴体正面にペトラが深緑色の魔力を竜巻のように身体から噴き出し纏いながら肉薄していく
彼女の右手は掌の手首に一番近い場所…掌底に渦巻く魔力を集めあげ螺旋状に渦巻く暴風を、カナタの腹に向けて突撃の勢いのままに掌打
美しい緑の閃光が彼の腹に炸裂し、結果弾かれたように猛烈な勢いでカナタの身体は吹き飛んでいくこととなる
近接戦において、今出来る渾身の一撃を使った2人を囮にしたペトラの会心の一撃はついにカナタを捉えることに成功していた
派手に吹き飛んだカナタは地面に一本線を刻むように地面を抉り飛ばしながら、ようやく飛んでいった先で粉塵を巻き上げて地面に突っ込むカナタを見送る3人の表情は、ようやく掴んだ一撃目を当てたとは思えない程に真剣な表情だった
彼女達は知っている
自分達をここまで鍛え上げた人間が、どれだけ非常識に強いのかを
直後、舞い立ち込める砂塵と粉塵が中心から一気に吹き飛び、軽くクレーターとなった地面の穴からお腹を擦るカナタが……何事もなかったかのようにゆっくり歩いて現れるのを見れば三人の表情が険しいのは納得だろう
どう考えても今の一撃は一般人ならほぼ即死。シオン、マウラ、ペトラの誰が受けても腹を抑えて戦闘不能になり立ち上がるどころか身動き取れなくなるのに十二分な威力があったのだ
「おー、
無傷…ではないのだろうが、全くダメージが無さそうなのはいったいどういう理屈なのか…その正体は分からないがここで怖気づくような訓練の日々は送っていない
3人は体勢を立て直して今一度カナタへ向かって突撃を謀る…今度こそ、これを地に伏せて勝利を宣言する為に
しかし、訓練の度に3人の目標となっていたカナタへの勝利は、ついに今回も果たされることはなかったのであった
ーーー
「はぁっ、はぁっ…わ、訳が分からん…なぜ、あれを食らって平然と向かってこれるのだ!?我、この前岩山に同じ技打ち込んだらバラバラに吹き飛んだのだがっ!?」
「さ、最大の謎です…っ…カナタのあの強さはどうなっているのでしょうか…っ!何度打ち込んでも効いてる気がしません…!ま、まるで大地そのものに攻撃を当てているようですっ…」
「…ふぅ…ふぅ…カナタ、硬すぎ…っ!……おでこに思いっきり直撃したのに…っ…首が少し動いただけだった…っ!…意味わからないっ…疲れた……お腹空いた……っ!」
草原に敷かれた青色のシートの上に大の字で倒れる3人の少女は敗北の感想と理不尽を、空を見上げながら垂れ流していた
あれから彼女達も本領の魔法を交えた戦闘に突入したのだが…結果は惨敗
撃ち出される魔法のことごとくを避け、弾き、此方へ進撃するカナタはさながらターミネーターの様であり、近づかれると打ち、投げ、飛ばし、様々な方法で転がされる
カナタの使う魔法は無系統のみなのだが、その威力や使い方は普通ではない
撃ち出される一般的かつ簡単な初歩的攻撃魔法…
魔法の小さな矢を放つ筈の魔法、『
魔力による破壊力を込めた弾丸を放つ魔法、『
果ては貫通と威力特化の魔力エネルギーを槍状にして放つ射撃中級の登竜門的な魔法、『
普通に意味がわからない
もはや魔法使いでなくとも見れば分かってしまう意味不明の戦闘法と強さだ
ちなみに息も上がりきった3人の少女と激戦を繰り広げたカナタは今…
「おーい、出来たぞ。その辺歩いてたバジリコッコの焼き鳥にスープにサンドイッチ…サラダはその辺に生えてたヤツ適当に採ってきた」
元気に料理を拵えていた
疲れた様子もなく、服が若干煤けて見えるくらいのもので、彼の後ろには即席で組んだ焚き火と積んだ石による竈があり、その上で食欲をどうしようもなくそそる匂いを放つ鍋や串が湯気をたてている
そのスパイスや弾ける油の放つ威力抜群の匂いと見た目に、大の字でぐったりと伸びていた3人の少女ものろのろと彼の方へと引き寄せられていくのであった
…ちなみに、その辺を歩いていた『バジリコッコ』とは、視線を合わせるだけで相手を石のように身動きのとれない状態にする呪いをかけてくる5m近い大きさの怪鳥である
上級の冒険者や騎士が2、30人がかりで1匹を相手にするような怪物である
それでも何人もの犠牲を出すような相手だが、お肉は絶品で、首から上以外は超がつく高級食材である
…悲しい事に、そんな皆が恐れるモンスターは出会い頭にカナタの武器『アルハザード』によって一撃で首をはねられ絶命した
サラダにされているその辺に生えてたヤツは潤沢な魔力や強い魔物や魔獣の糞尿という、豊富な栄養と魔力を蓄えた土壌でしか育たない希少な高級種ばかりである
…残念な事に、集る魔物は威嚇のためにカナタが放つ魔力で姿も見せずに逃げ出した
焚き火を囲むように並んだ4人は同時に手を合わせて『いただきます』と声を揃える
カナタの日本からの習慣だが、彼女達もその姿を真似してご飯の時はするようになったのだ
「…うまいっ」
「…美味しいですっ」
「んむっ、んむっ……はむっ、はむっ…!」
疲れた身体に染み渡る少し濃いめの味付けに、手を加えすぎない調理の食事は高級食材の力を余すことなく伝えてくる
マウラなど、もはや話すこともせずに料理にがっついている程だ
昔からだが、手の込んだ料理はしないカナタなのだが料理はとても美味しいのだ
カナタとしては単に日本での食事のポテンシャルがこの世界よりも高かったのでそれを味見を繰り返しながら再現しているだけなのだが、これが予想を超えて3人の少女には好評だった
現在は料理は三者三様皆が得意分野のある料理上手ではあるのだが、訓練の時やたまにだが、こうしてカナタが料理を振る舞ってくれる機会は三人の密かな楽しみとなっている
「しかし、三人とも普通に強くなったな。お兄さん、あまりの伸びしろにびっくりなんだが…自分で鍛えといてなんだけど、どうなってんの?」
「その三人の攻撃を全部捌いて打ちのめしたのはどこの誰なんですか?むしろどうなってるのか、こちらが聞きたいのですが…」
「うむ、びっくりなのは我らの方だぞ…カナタ、そなたはちと強すぎはせぬか?世間は知らんが、どう考えても並の腕前ではあるまい?」
「昔は世界中を旅してたからな。これくらいの強さは必要ってもんだ。ほら、旅の最中って適当に戦えないと満足に夜も寝れないし」
もりもりと串肉やらに齧り付きながらそう言うカナタの言葉に「そういうものか…」と首を傾げる。カナタは3人に出会う前は世界を旅していた…そう告げている。確かに嘘はついていないのだが重要な部分が隠してある辺り、カナタもなかなかに口が回る男であった
「……カナタの料理、おいしい…どの国の料理…?」
だが、うまくシオンとペトラの言葉を交わしたカナタは、マウラの質問だけはすぐに答えられなかった
考えるように「ん〜…」と唸るようにした後、少しの沈黙の後に苦笑気味に答えるカナタの表情は……少し寂しげで困った様子にも見えた
「…故郷の味だ。ずっと遠くの故郷の、な」
その一言はからにじみ出るのは、声音だけでも分かる望郷の念
そこに込められた真意を全てとは言わずとも3人は理解できた。帰れる場所なら、こんな言い方はするはずも無い…3人もそれは同じ事だ。だからこそ、それがよく分かってしまった
そんなカナタの姿に食事の手を止める三人の少女は、そこから味わうようにゆっくりと食事に専念する頃にしたのだった
彼の故郷の味を、しっかりと覚えるために
ーーー
「さて、入学に必要な物は大体入学時に購入できるらしいけど…持って行った方がいいのは『自分の武器』『防具』と…『師匠紋』?」
パンフレットを読みながら声にしていたカナタが聞いたことの無い単語にこてん、と首を傾げた
単語だけでもその正体が連想できない…一体なんのことなのか、それを教えてくれたのはシオンであった
「自分に技術や魔法、戦闘技術を教えてくれた者のシンボルとなるマークを体に刻印魔法で刻んでおくこと、らしいです。刻印場所はどこでも可能…この『師匠紋』が庇護者のいる証として機能するそうですが、カナタはシンボルなんてあるのですか?」
場所は変わって、現在は自宅のリビング
魔法学校のパンフレットを四人並んで眺めているとたまに現れるカナタの知らない単語を、シオンの読書趣味により掻き集めた知識を頼りに読み進めていく
その中でも異彩を放っていたのが『師匠紋』の文字であった
『師匠紋』とは、誰の教えを受けていて、誰がその者の後ろにいるのかを知らせるためのものとして、この世界では広く浸透している物だ
全国に存在する『冒険者ギルド』が、このシンボルマークの登録を行っており、強い冒険者や実力者は皆、その名前に代わり独自のシンボルマークを持っている
有名どころになればそのシンボルは知名度を上げ、より強い力を持つようになり、そんなシンボルを自分の師匠として身に刻むことは、『自分に手を出せばこのシンボルを持つ者が黙っていないぞ』という意味合いも持つのである
言わば地球で言う『社紋』や『家紋』の個人版のような物であった
師匠側も、自分の信頼の証として弟子に刻むのでその弟子の行動が自分の顔に泥を塗る可能性なども覚悟しなければならないのだ。刻む側、刻まれる側両方にメリットとデメリットが存在する…信用や信頼が無ければ他人に自分のマークを刻むことはあり得ない
ちなみに、刻印する場所によって意味合いが増える場合もあるのだが……
「無いことも無いんだがなぁ………いるか?シンボル」
「「「いる!」」」
「………そっかぁ」
有無を言わせぬ力強い三人の要望を覆す力はカナタには無かったのであった。欲しいと言うなら上げましょう、というカナタは刻印魔法なら使ったことがあったが、人に使ったことなど一度も無いが…
「…まぁ、そこはいいか。で、どこに刻印するか…。適当に腕とか…お、首とか脚もテンプレっぽいな。…いや、首は見え過ぎて恥ずいか。ここは見え難い二の腕とかに…」
パンフレットを読み込んで「ふむふむ」と頷きながら刻印する場所を考え込むカナタ
その言葉を聞いたシオンは、ペトラとマウラに小さな声で耳打ちをする…ごにょごにょっ、と囁やきマウラとペトラ「ほぅ…っ」「んっ……」と何やら色めいた声を漏らして頷き合っている
そんな仲良し3人の様子を見たカナタが「?」を頭に浮かべている間にうなずき合う彼女達は、三人そろって…………何故かシャツを脱ぎ始めた
「いやおい待てってっ!ちょちょっと目のやり場が…!というか突然どうしたのかな三人ともそんな恥じらいのない子に育てた覚えは…!」
テンパって早口にまくし立てるカナタ
そりゃ拾った当初は一緒に風呂に入ったりしたものだがそれもすぐに止めた…主にカナタが耐えられなくなりそうだったから
それくらい現在の三人はあまりにも魅力的に成長しまくっおり、三者三様それはもう素晴らしいモノをお持ちなのだ、カナタも慌てるというものである
しかし、慌てるカナタをよそに上半身を下着のみの姿になると、まずはカナタの前に近寄ったシオンが自らの胸…深い谷間の間の真ん中を指さして示し始め
「ここに刻んでもらえませんか?」
「…………はい?」
正直、体も育ちまくっている彼女達の、しかも半裸姿を直視できなかったカナタは抜けた声を漏らして、ちらり、と前を見る
そこには頬を種に染めながら指先で示しているシオンの白く、柔らかな、ボリューム満点の胸の間…3人の中でも特に重そうでたっぷり大きな2つの果実は彼女の呼吸によって僅かに動き、その谷間の向こうの胸の中央を指でつんつんと示している彼女に「……まじ?」と思わずつぶやくカナタ
「あ、あのな?刻印魔法は刻む場所に触らないといけなくてな?だからもうちょっと無難な場所に……」
「ここに刻んでもらえませんか?」
「いやいやっ!さ、流石にそこ触るのはちょっと俺もハードル高いというか…っ、し、シオンも触られるのは抵抗あるだ…」
「ここに刻んでもらえませんか?」
ためらうカナタにシオン、まさかのリピートである
全く同じ要請を3度も言われれば指物カナタも「あ、はい…」といわされ…カナタは恐る恐る人差し指と中指の二本指をゆっくりシオンが指さす胸の谷間に近付けていく
その手の左右にそびえる柔らかな二つの巨峰に触らないように細心の注意を払いながら近付ける手…いつになく真剣で緊張した面持ちのカナタの手は心做しか少し震えている
そんな極限まで彼女の豊満果実を触らないように慎重を期していたカナタの手を、シオンは両手で握ると抱きしめるように、ぎゅうっ、と……その手を自らの胸に押しつけ始め
「っっ!」
「お、おねがいしますっ…」
そんな事をされれば彼女の胸の谷間にむぎゅっ、と手がサンドイッチされるのは免れられない。柔らかくてむっちりしてて、触れたことのない感触の暴力がカナタの手を襲っていた…!
驚きと手に伝わる柔らかすぎる感触にフリーズするカナタだが、顔を真っ赤にして声を出すシオンを見て…何よりも、この手に伝わるシオンの弾けそうなほどの心臓の鼓動を感じ、腹を決めて刻印魔法を行使する
「んっ…!あ……ぅっ…す、ごっ……んんっ…っふっ、ぅ………はぁっ……もっとっ……来て、ください…んっぅ……っ……む、胸の奥が…どくどくっ、て……っ…あっぅ……は、入ってきてるっ感じがっ……!」
息を乱し、艶かしく吐息を漏らしながらカナタの手を掴む手に力が入るシオンは悶えるように体をモジモジさせながら…その感覚に身を委ねていた
カナタの魔力が自分の肉体の中心…心臓の奥までどくどくと入り込んでいき、彼の力が自分の心臓に染み込んでいくこの感覚はあまりにも言葉にしづらく…癖になりそうな被征服欲を刺激する物があった
まるで彼の魔力で自分にマーキングされている…彼の物だと、カナタの手によって直接心臓に刻み付けられているような感覚すら感じてしまうシオンはぞくぞくドキドキと背筋を震わせながらもそれを無抵抗に受け入れる
それを感じているのか、悶えるようなシオンの様子にたちまちカナタは理性を焼く払われてしまいそうになるが、その衝動をなんとか抑えに抑えて刻印を完了させていく
じっくりと魔力を彼女の胸から流し込み、手を離した後のシオンの胸の真ん中には、深い紫色の刻印が淡い光を放っていた
そのデザインは二重円の中に、カナタのシンボルと思われる『大地を砕く天から下る光』の意匠、そして、二重円を上から貫く『一本の剣』
紋様を囲む二重円は、その中にある紋様の者の教え子であることを示す弟子の証
カナタのシンボルはその中にある特徴的な紋様…まるで空から光の槍が落ち、地面が砕け散るかのような紋様がカナタの物である。実際、カナタの肉体にもこの紋様はしっかりと刻まれていた
特殊なのは、その二重円の上から紋様ごと貫く意匠の一本の剣を表す紋様だが…
「はぁっ、はぁっ…すごかったです。カナタの魔力が奥までどんどん入ってくる感覚がとても…ん、んっ……ぞくぞくしました。今もずっと、ここにカナタのモノが残ってる感じがして…」
「おっけ、分かったからそれ以上言わないで…お兄さん、心臓爆発しそうだから…」
妙に艶っぽく、大事そうに刻まれた紋様を撫でるシオンから視線を逸らすカナタ…だが、彼の試練はまだ終わっていなかった…!
逸らした視線の先には「…次は私……」と言わんばかりにマウラが自らの胸を差し出していたのだから…!カナタは戦慄した…あと2人も同じ事しないといけないの?
マウラの手が、シオンの胸から話されたばかりのカナタの右手をぎゅむっ、と掴み己の胸に導き始めるのを静止する間もない
……結局、ほかの二人にも同じようにして、胸の中央に紋様を刻んだカナタは溜まりたまった煩悩が爆発する前に森の中へと駆け込むのであった
しばらくは、溜まりたまった物を破壊力に変えて暴れる地響きが遠くから聞こえ続けることとなる…
ーーー
【sideシオン・エーデライト】
紋様を刻む場所を何の気なしに尋ねてくるカナタに、ふ、と本で読んだ知識が頭をよぎりました
『紋様は通常、手の甲に刻むことが多い。しかし、刻む場所によって含まれる意味合いは変わってくることがある。首の横であれば一番弟子…一番見えやすい場所の中で、最も高い場所だからだ。二の腕ならば友人のような関係の弟子…力こぶが作れる二の腕は繋がりを表す。そして胸ならば…恋人か絆を超えた関係。特に心臓に近い場所の刻印は、自らの魂まで共に、という意味合いになる』
それをマウラとペトラにすぐさま囁くと考えてることは同じなのか、お互いにはからずとも同じタイミングでうなずき合いました
流石に恥ずかしいですが…カナタならば私は構いませんし、ほかの二人も全く同じ心でしょう
彼の手が近づくとどうしようも無く鼓動が早まってしまい、つい、ごまかすようにその手を抱きしめてしまいましたが…カナタが私の体を見て、触れて緊張や…言ってしまえば欲情を持ってくれているの感じ取れたときはとてもうれしかったです
妹のように…それだけでは無くちゃんと女として意識されていると確認できたのは思わぬ幸運でした、体を張った甲斐があります
しかし、刻印をされている時の感覚は忘れることはないでしょう
心臓…というよりもっと深い場所にカナタの魔力が絡みついて、私のそこにカナタの刻み込んだモノがずっと置き去りにされている感覚…
思わず恥ずかしい声が漏れてしまいましたが、そんな私を見て顔を赤くして目をそらすカナタは少し可愛かったですね
マウラとペトラの紋様は同じく弟子を表す二重円に地を穿つ閃光までは同じでしたが…マウラの紋様は私のモノとは違い、剣では無く稲妻が二重円を上から貫く意匠
ペトラのモノはさらに変わっており、二重円の上に被さるように兜の紋様が刻まれていました
なぜか森の中を暴れてきたカナタ曰く…
『シオンは攻撃特化の弟子だからそれを表す剣で、マウラは稲妻のように素早く、を表してる。ペトラのは三人の中で戦闘中に一番頭が切れるし、三人の中では特に防御が得意だろ?だから兜の紋様を加えてある』
とのことでした
私たちのことを考えて意匠を変えてくれている心遣いにきゅん、としてしまいました
成人を機に、とカナタは口にすることが多いですが私たちも思っています
成人したのだから、カナタとの関係を深めたい、と
結婚だってできるようになったし、子供だって作れる体なのです
これからの新しい生活で、ちゃんとカナタの心を捕まえないと…と
なので、いつ今でも『妹扱い』で逃げられるとは思わないでくださいね?カナタ
ちなみに、この後、訓練の汗を流すためにお風呂に入りましたが…自分の胸の真ん中で輝く紋様を見て三人そろってにやけてしまっていたら…見事にのぼせてしまったのは…三人だけの秘密、です
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