Side*毬奈* 憧れの愛しい人

――ある人に恋をしてしまいました。



そう思っているのはあたし雛据毬奈ひなすえまりな。何故彼に心を打たれてしまったかというと、訳があった。あのきっかけで。


今思い浮かんでもウキウキする。〝初恋〟だ。

きかっけは二日前のことだけど、あの時のあたしは静かな図書館で〝あの事〟を調べていた。

一年最後の学期の期末考査の問題が大学入試問題でも出る難しいレベル出てきたのを解けずに悩んでいて。また出てきたら解けないとまずいなと焦ったから、あたしは図書館に急いで向かった。


そして探した本を見つけると、テーブルに大袈裟に置き大慌てで本のページをペラペラと捲っていく。

早くしなきゃ、と焦りでいっぱいだった。


見つけて自分でできるようにやろうと勉強のことで頭いっぱいにしていた。から気づかなかった。突然〝誰か〟が来るなんて。


コツコツ、コツコツ


靴音が近づく音に気付くと、同時に甘い香りが私のほうにじわりと匂う。


ん?だれだろう?、と後ろを少しだけ見ると、男のようなストレート髪の黒い影。


何だろう…嫌な予感がした。あたしの方に歩いてなんかあるの!?もしかしてストーカーとか?!と思ったけれどそんな様子も見せない。

けれどその陰の奴は誰だか知れないとなるとなんかムズムズして我慢できなくて。


のしのしと〝あたし〟の方に歩いていることを止めない彼に、自分でもそのノロノロと歩く靴音にだんだんと〝気になり〟始め。感情を抑えられない衝動に、思いっきり後ろへ振り向くとそこには、


背が高くて成績優秀っぽい彼がいた。

…だけどその彼はどっかで見たことがあった。


身長も顔立ちもスタイルも眼鏡も有名な彼に似てるなぁ…そこも。あそこも。考え事で視線が徐々に上に上げていくとバチッと視線が重なる。


彼と一瞬目が合ったとき、

〝本当の彼だ〟と今更分かってしまった今。


『…っ』


バクバクするほど動揺していた。


彼は静かに口を開け、『それ分からないなら、教えてあげようか?君の問題』と少し微笑む彼。


『え…?』


本当に有名な彼みたいな人に、教室入るのとは違うような態度だった筈…なのにお勉強のお誘いなんてなかなかない。だが、〝何か〟を見つめるような目線でこちらを向けるその態度は自分でも正直驚いていた。


眼鏡を上に上げて目で追いかけるその姿にもうどうしたらいいんだと言う程の癖になぜか自分も目線を追ってしまう。行動に強く惹かれて。

でも、そんな長く続くことはなく――運悪く突然風がページを捲った。彼はあたしの目線を逸らし、捲ったページに目をつけた。


〝第一問――この問題で当てはまる数字を書いてください。〟


丁度苦手な問題がズラリと並べられて書いてあったのをみてあたしは気分が下がった。


あぁ…だ、だめ…やろうって思ったところなのに。だけどその問題はさっき言った通り大学専用の問題。高校生なあたしでも普通はこんなの解ける人なんて居るわけない、わかるわけない。

できるような問題でもないから無理なんだろうな。きっともうこんな問題でてきても〝できない〟。考えてもやっぱりでないと諦めようと本に手を添えた。だけど彼は、無言でその本を見てその手を止める。


ただ見ても意味ないじゃない。〝無理だ〟とわかっている筈なのに。無言で見ていた彼が優しい言葉で、

『それ、分からないんだったら教えてやるけど。いちいちそんなの気にするな。』と呟く。


ありえない。うそ、だ。


『…え、でもっ!…』

『いいから。やってみなくちゃわからない』

『そんなこと言われたって…!』


優しいハスキーな声に反論する。


…ってあれ、なんでなんだろう…?あまりにも聞いたことがあるような声にするりと入っていくのに何故か反応してしまうあたしがいる。


あたし、会った事あるの?いや――あるわけない。そう思ってもきっと勘違いだと思、う。

知らんふりするようにカチャッと眼鏡を上げてあたしを優しく見る彼の行動をジーッ見つめる。

でも真面目に教えようとする翼裟くんは難問のページを出す間すこしチラリとあたしを少しだけ見つめ、指差してニコッとにこやかに微笑みながら〝これだよ〟と教えてくれる。


ドキっと、不覚にも心臓が鳴る。…いや、鳴った気がする。


本当に彼がここに居ること自体信じられないことだし、夢でもみているかと思えるくらい有り得なかった。正直、なんで彼の笑顔をした時鳴ったか分からない。…けどドキドキにも耐えられなくて、この心臓が鳴っているのかも正直まだ知らないあたしの頭は不安でいっぱい。


そんなあたしが意識していることも何も気にせずに、スッと隣に座る彼。


でもあたしなんか、ドキドキッ、ドキドキッ…だ。隣に座られると緊張でたまらないのに。

翼裟よくさくんは、その本を見ながらあたしが見えるように真ん中へ移動させるようにコトンッと本を置く。


あたしは無意識に音と同時にスッと優しく差し伸べる彼の手にただ目を追う。なぜだかわからないけど、つい目が追ってしまう。


なぜならスローにみえる彼は綺麗、だから――。


でも心臓が急に高鳴り出していて耐えてくれそうにない。動揺を隠せないあたしは、彼にお願いする。


『はい…、お願いしますっ!』

『……ん。』


本当に心から本当に嬉しかった。あたしでも皆でも軽くは出来ない問題を教えてくれる。それだけで。…恋に落ちてしまった。物凄くいいと正直心からそう思った程に。


だが、早二日経った今。


「キャ~!楽しみぃ!今日に限ってメイクしてよかった!」

「さすがね!私もしてきたの!どう!?」

「すっごく似合うよ!」

「よかった!!!これでみてくれるかなあ!」

「うん!絶対可能性あるよ!私も負けないんだから~!」


学校に来れば黄色い歓声がどこからともなく聞こえる〝彼〟よくさくんの噂が消えては、聞こえてくる。



二年生の授業が始まるのに、そんなのも気にかからずに集まっているのは女、女、女。どうやら、その女の子が集まる原因は話題の〝彼〟よくさくんがいることで賑わっているらしい。


みんなの憧れるほどのカッコ良さで身長も高い、彼の特徴は眼鏡の名前は、水無月翼裟みなづきよくさ。彼はいつも人気で、来ていても廊下には〝彼〟を待つために群れていて毎日毎日通っても人ばかり埋め尽くされる。


もちろん彼のことは入学した頃から知っていたけど、人気だからってあんな何人もキャーキャーと騒ぐ女みたいに近づくことがあまりにも、

恥ずかしくて出来ないあたしは、遠目でいつも彼を眺めるだけ。

だから翼裟くんの話題についていけなくて。

けど友達とわかる話題を、せめて教室の状況とかよくわかるようにしたかったあたしは毎日盗み聞きするしかなかった。今日はどうなんだろうか…とか、今日は何あったんだろうか…とか、他愛のない会話を耳澄ませながら聞くと、さっきの女の集団の話し声が隣から、


「ねえー今日さ、みた?櫂琉くん!だっけ?」


円になってそんな話をこそこそと始める。


「あれさ。似てない?兄弟なのかな…?」


だけど今日は翼裟くんじゃなく〝櫂琉くん〟かいりゅうくんのことを話していた。


けれどそれを聞いたことないあたしには話を聞いてビクッと反応した。もちろんあたしの情報では〝櫂琉くん〟の話なんて初耳。興味も惹かれるあたしは耳を傾ける。


「っていうかさー翼裟くんのほうがいいよねー?」

「うんうん、うちもーやっぱ眼鏡には敵わないよー!」

「やっぱり翼裟くんかっこいい~!」


しかし〝櫂琉くん〟の話は終わっていて〝翼裟くん〟の話が進行していた。微かに黄色い声が聞こえてきて、遠くからも騒ぎ声がその話題に目を向ける。今でもわからない話題のことは〝櫂琉くん〟という兄弟の噂。

確かに〝翼裟くん〟は噂に兄弟がいるというのを耳にしたことあるし、噂で一年生とは聞いていたけれどその兄弟なのかいまだわからないのだ。それから一切、女の軍団達は〝櫂琉くん〟の名前は出さなかった。


櫂琉くんってどういう人なんだろう?やっぱり翼裟くんみたいな人なのかな…?

翼裟くんが二人いるなんて想像もできない…


ふと〝翼裟くん〟という名前も何故か恋打たれたせいか机を少しだけちらっと見てしまうが、

席には誰も座っていなかった。


二日前のことを思い出しながら机を眺めるけど、その席は閑散としていてむしろ逆に心配してくる。


あれ?今日は居ないって連絡…どうしたのかな?

そんな疑問も抱えながら目を細めると同時に教室から太陽の向けによって〝翼裟くん〟の机に光を照らされた。その時――キーコンカーコン。HRのはじめるベルが鳴った。

鳴ってもその席は〝翼裟くん〟が居ずに、机にはからんと空いていて。騒がしいようなクラスでも、HRが始まると何故かシーンと静かになり、1限目の授業の準備をし始めて先生に向けている。


だれも気づかないのかな…?だれも動かないクラスメイト達。

動く気配すらない静かな教室の中でただ先生の張りのある声が聞こえてくる。


「これから、いろいろやるのでこういうことを参加するのは大事だが――」


ハキハキと言う先生の声を聞いてあたしは真剣に言葉を静かに聞いていた。けど――〝翼裟くん〟が居ないというとでも言うような静けさで

はじめる皆に疑問しか感じなかった。


アレほど〝翼裟くん〟と言っていた筈なのに、

それも忘れるかのような集中は…


ここの特徴といってもいいだろう。それぐらい真剣な目をしているから。

先生の言葉を一生懸命耳にするけどあたしはやっぱり〝翼裟くん〟が気になった。


翼裟くんが居ないってわからないのかなと思うけれどさっき始める前に〝翼裟くん〟と言っていたんだから。きっと居ないとわかるはず…。

けど、こういうのはやっぱり言わないとわからないよね?


強く手を握り締め、勇気振り絞って口を開こう

―――とした途端。誰かの男の声で先生の声が途切れた。


「先生、翼裟くん…来てないです」


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Strawberry soda☆苺炭酸革命! 椛縞しげ @momisige__

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