Side*妃奈* 捨て鉢=腐れ縁

「ごめんね、別れたいんだ」

「え…」



人気の無い一つの場所おくじょうで、あたし雛据妃奈ひなすえひなは彼氏に別れを告げた。


木蔭に木漏れ日の光が差し込む屋上の辺りはシーンと静かに空気が入り込んでくる。


あたしの真正面にいるのは…恐ろしく背が高い、顔もまぁまぁいい顔立ちに、不良のような着こなしをしている。彼氏だ。


おまけに髪色は銀色で悲しそうに目をしょぼんとする彼はあたしの幼馴染み鷹桐庵たかぎりいおり。彼の外見は完璧。遠くから見れば普通の公立の高校でも一躍人気になる程カッコイイ。


だがあたしはそんな庵が大嫌い〝だった〟

…いや、今も嫌いだ。


無理やり強引にキスしたりするし(私がしたいって言ってないのに不機嫌でもなんでもしちゃう)、彼女と言っておいてすぐ距離をおいてったりして(女の子と平気で目の前でキスをする)。


こんな性格をしている庵が気持ち悪くて気分なんか最悪、だ。


もちろん知らない庵は〝別れの言葉〟が気に入らないのか歯向かうように、告げる。


「別れたいなんて、そんなの…どうして急に?」


〝急に?〟庵は馬鹿なの?

そんなの〝あたしのこと見てないから〟


なん、てことも言えず…嘘を吐くあたし。


「…っき、急にあたしの好きだった人が!ガラッと変わったから、よ!」


その言葉にピクっと眉が上がる庵は演技のように笑うと。


「…そうなんだ?…ふーん」


〝そんなぁ…〟とわざとらしい残念顔を演技し、こちらに目を向けて問いかけてくる。

まるでわかってる。そんな庵の空気がこんなにも心地いい。いや、ダメだ。彼が危ない存在だと知っている。どうやったら彼を納得して別れることできるだろう。


何となく打開策が思いつかない。気まづさの空気に少し重く感じてると、私の知らない間に唇を塞がれ不思議にジーと見つめると庵が不気味に、ざまあと笑う事態。


てか、ちょっ!?

いきなりすぎるんですけど!?


「やめてよ!本当あんた嫌い!」


いきなりに嫌気さして睨むけど、少し悲しい目をして笑う庵に気になってしまう。


微笑みで昔笑うことなかったよ、ね?

笑顔を見せることなんて一度もなかったアイツが、悲しい顔で笑っている。ありえない。


だって〝どうせ変わらないんだから〟


だが庵は一瞬にしてさっきの残念そうな目とは違う、冷たくて鋭い瞳が向けて。


「…へぇ、そんなに、いやなんだ?」

「っ…うっ」


ガラリと変わった彼の瞳に怖く感じたのか、

背中がゾクッと寒気があたしを襲う。おかまいなく庵は靴音をカツカツと鳴らして歩いてくる。


いや、いやだよ、あんたなんかと――付き合わないから


音に怯えているあたしに満面な笑みを浮かべて頬をそっと触れる。


「じゃぁ…。俺のこと好きじゃなくてもいいから、キスしてよ?な?妃奈?それ位ならいいだろ?」

「…!ちょっ!ば、――」


答えも出してもないあたしを強引に腕をつかみこちらに顔を向ける。〝唇を奪おうとしている〟と気づいたあたしは振り払いたかった。


本当は――庵が好き〝だった〟


付き合っていた当時はいつも優しくして。

純粋に好きになれたのは庵が心配してくれて駆けつけてくれたりするようになって初めて〝異性〟を感じて…だけど…


長く続くことなくある日、他の女と会うようになり無視を繰り返すようになった


『可愛いよな、お前って』


女の子を落とし。

それから、つまらなかった。毎日。

なのに「お願いだ、別れないで」と庵に言われた。

ベタベタ女の体を触る庵とそしてニコニコ笑う女。光景を見ながらずっと我慢してた。ずっと好きだから。


だけど長年付き合っても限界だった。ただキスひとつで「大丈夫」なんて機嫌が治まるとでも思っている甘い奴だったのだ。

確かに本当に付き合ってるときはいつも優しくしてくれたけれどやっぱり。私のこと〝好きじゃなかった〟

そんな行動にしか思えなくなった頃から、付き合ったとしても何も感じれず。ましてや付き合う〝理由″なんて一度も聞いたことない。

たとえそれが、本気だとしても…じっとみているアイツにムカついてるあたしはもう好きだった気持ちなんかどこにもない。


だから、〝無理〟と思いっきり手を振り払い、

強く鋭い瞳で訴えるように



「誰がキスするもんか!キスしてなにが満足なのよ…!?―この捨て鉢があっっ!!」


そう告げる。もう。もう…!アイツと一緒に居て自分の心がズタズタされるなんて―――もう嫌だから。


右足を上げて蹴ろうとした途端、庵は不敵に笑みを浮かべた。あと少しで勝負は私の勝ちとしたかったけど無理だった


「――…ふっははは、」


言葉がボソッと聞こえた瞬間、あたしの世界が一瞬グルリッと簡単にもち上げられるように反転されて不意にあたしは目を瞑る。


そしてわたしの唇に――ピクリッと震える


やっぱり男には適わないんだ。

勝てない。


目を開けるときはもう逃げるのは遅くあたしの唇が庵の唇に塞がれている状況を把握した光景にあたしは、


「…んぬっっっゥ!!!!(何すんの!)」


喚きながら乱暴になるが、強引に庵の手がパシッと掴まれてしまう。


だって、意味わからないし!といっても…いやだ、いやだと言っても何も動けないわけで。


掴まれていない反対の庵の手は、あたしの後頭部を抑えられていて、いつでも暴れているあたしを必死に抑えるようになっていた。がっしりされていて逃げれない。

そして何故か不思議感覚を感じながらもあたしの口に深く入り込む庵の舌。


「抵抗しても、何度言っても許さねえよ?そうそう俺を止めたってそうはいかないから」


余裕もあるように勢いに乗せられていく…


何度か触れ合う口を合わせたあと唇の隙間から〝何かが〟押し込まれる。初めてのことにあたしの体に激しい痛みが襲いかかる。


こ、んなことしたくないのに呼吸も苦しくて。


だが、続くことなく

――キスをしている最中の数秒に突然、


「おい、誰かさん。いや、そこの男!無理矢理キスってのは女の子にはきついと思うけど?」


低い声を出す誰かさん。あたしたちはその声で無理矢理キスを中断させ、声が聞こえたほうに振り返る。


あまりにも突然、驚く程彼の低い声だったからその目の前にいた綺麗な顔立ちかっこいいスタイルをして短い黒い髪で。

何と言うか凄く素敵で華やかなオーラを出している彼は、物凄く目が行くほど綺麗だった。


そんな彼は少し気だるいような顔してあたし達を「なんだコイツ」とでもいう様な目指しを向けて、人差し指で庵を差す。


きっと、怒っているだろうなって思っていると


――彼があたしの方へ身体が向いて、質問を聞いてきた。


「さっきの…キスの…やつ、無理してた?」


唐突の質問に思わず戸惑ってしまった。


「…えっ何で…っ?」


なんとか声を出したけど、見知らぬ彼をふと顔を覗いた。


「そりゃ…喚いていた、から?」

「あ…」


気付いてたんだ…嫌だったこと。そう気づいていたら、キスしていた奴とは違った堂々とした態度にすごく心を奪われたような感じがした。


〝コイツ…やってくれるんじゃないのか〟と無駄に期待で胸がドキドキする。


彼の全体は爽やかな心地よい笑顔を見せていた、から。〝俺は…そんなの好きじゃ無いな〟みたいないじわるな庵とは違い、逆に〝爽やか系の王子〟だ。

なんかカッコいい…けど…どっかで見たこと…ある気がした。なんだろう?と思っていると、


「それか、俺に対するいやがらせ?」


彼の言葉に私は我に返る


…は?そんなわけないじゃん。嫌味で笑う彼の顔に、私はふと言葉を零していた。


「そんなつもりじゃないんだけど?」

「ふーん、…じゃあ喚いて、いたのは?」

「え?あれは―」


〝誰がキスするもんか!キスしてなにが満足なのよ…!?―この捨て鉢がぁっっ!!〟カーッとなって叫んでたけど…あれは本心でもある。


もしかして彼にはうんざりだったのかな?


「あれは、つい…嫌いって言いたくて」


思ったことを呟くと〝庵〟が見ていることに気付き横目で見渡すと、〝信じられない〟と

あたしを凝視していた。

サラッと返したけれど、彼から何も言われませんように願うあたしだが、目の前はあたしの見方が一人、〝庵〟の奴は一人も見方はいない。


でもこれはやっぱりこれは〝耐えられない〟と気にしているのだろうか明らかに焦っているような顔してあたしを見ている。


あたしに構って欲しいとか、また後でキスをするつもりとか。また、するんだろう


――そんな思うからあたしは嫌になったのに


するとしわ寄せ汗を手で拭きながら動揺を隠せないように訊ねてきた。


「なっ、お前…何言ってんだよ?」

「何って…?あんたとあたしのことだけど。本当にだし別に隠すことないでしょ?」


誤魔化すように言う庵にあたしは堂々と口にした。

〝だから、あんたから離れるからっ…!〟と目を強め凝視する庵を睨みながら告げた今の言葉は、本当にわかって欲しい。


いらついても、あたしの気持ちは変わらないから。あたしを残念そうに瞳見つめるかのように目を細めていたとしても。今更〝付き合え〟なんて言っても。

アイツの気持ちは――もう、いらない。


だけどその瞬間、見知らぬ彼が、


「フッ…いい度胸…じゃ、ねーか?」

「…!?」


あたしの目の前に立つ見知らぬ男が、あたしの態度を見て口元を釣り上げている。


な、なにが!?!?!どうしたの…!?

そんな驚くあたしを無視するかのように顔を無表情に見下ろす彼が。驚いた。ただ、その顔が綺麗だった。

お、音も聞こえない。何も聞こえない。何が起きたのかも追いつけない状態に、彼はゆっくりと口元を上げている。「お前は度胸あるな」とでも言うような顔でほんの少し笑って、ゆっくりとあたしに近づく。


どういう…?つもりなんだ?庵がひどく死んでいるような瞳をして驚いているのは気のせいなのかな?

だが見知らぬ彼に腕を掴まれると、


「まぁ、お疲れさま。よくがんばったよ、妃奈」


笑みに目の前の、視界が真っ白になった。


は…はぁああああああああああああああっ!?

驚くのも無理ない衝撃だったと思う。


だ、だって、

隣に見知らぬ彼の肩があるのだから。


簡単に手を回してくる彼の匂いにふとドキッとさせられるあたし。…ってなんで?こうなってるの?

庵に見せつけるように堂々と〝俺はもう彼氏なんだよバーカ〟とニヤリ笑っているし。おかしい…おかしい…、


だが見知らぬ彼に腕を掴まれると、『さっきの…キスの…やつ、無理してた?』という言葉。私の嫌がっていることだって気付いていて、さらにはこんな寄り添う状態になっている。

『フッ…いい度胸…じゃ、ねーか?』と、見せつけるこの堂々した態度。庵が嫌が―――えっ?まさかあたしを彼女にさせようとしている!?


まてまて待て待て!

そんな事して騙すとか!ありえない!


…と、正当化に言おうとしても言葉が出ない。

でも〝こいつ嫌い〟と隣で睨んでもあたしなんて知らずに何してんだとイラついても…無視。

そんなことも気付かない(ふりに見えた)で不敵な笑みを出し続け彼は話し出す。


「いちいち彼女に構ってたって無理だよ庵。ここに釣られてきてる理由バカでもわかるだろ?」

「…(いちいちって、してませんけど)」


ニコッと嫌味のように微笑む彼にイラつき、

唇を噛み締める庵。


「…お前、っま、」


ふざけんじゃねえ〟と怒るくらい嫌味な発言はあたしでも同感できた。でも庵とは付き合う気はもう、ないから。だから〝別れる〟んだ。


ため息を吐いていた呼吸を〝もう決心してるんだから大丈夫〟と安心させるように整えたその時。タイミングよく見知らぬ彼は呟いた。


「――コイツは俺のものだから。」

「…!?!?」


え…?まってまって。

あたしそんな言葉受けた覚えないんだけど!?



庵は死んだ瞳のような痛い視線を送っているし。彼の態度は相変わらずで。堂々とした彼の態度に、唐突な言葉に唖然するしかなかった。


というか、こいつも庵と同じ人間じゃんか!!


パニックだったのに。なんで!?

というかこの発言をいつ撤回できるだろう。

そんなあたしはお構いなしに(ひどくね!?)

庵は視線を移し、


「ふ、…ふざけんじゃねえよ。どういうことだ?俺はこんな事聞いてないぞ!」

「どういうことって、そのままだけど?」

「いみ、わかんねえ…んだけど…」


震えたまま低い声で〝ふざけんな〟と告げる庵に見知らぬ彼は余裕にサラッと返す。


それを聞いた庵はいままで見たことのない怒りが、庵の顔が、ふつふつと赤く、さらに赤くなっていく。

その震えた低い声と恐ろしい顔に何かされるんじゃないか、〝マズイ事が起こるんじゃないか〟と身体が震える。


どうしよ…!

これじゃヤバイ事になりそう、だし〝喧嘩〟のオーラが漂っているの――怖い。


だが見知らぬ彼はいらつく様子見せず、涼しい顔であたしの肩をギュッと強く握りしめ、本心突くように庵に聞く。


「頂点になったら、怖いんだって?噂本当なの?」


不敵な笑顔に庵は「うるさい」。さっきの立場がどこかに逝ったようなえらい態度とは違い、落ち込んでいるのか…


「何?もしかして怒りたくないなんて考えてるから、不機嫌なの?」

「……」


イヤミを言っても無反応。

なかったことにしようと誤魔化してあたし達の目逸らし唇を噛み締めているから。


大丈夫…なのかな?庵……そう考えてしまう。


心配性で馬鹿なあたしは何があったことも知らずに――


「平気なの?」と隣の彼に顔で問いかけようとしたが、何故かニヤリと笑って庵を鑑賞している。

まるで、作戦立てているかのように…ってあれ?これって、もしかして〝庵〟の野郎を切れるのを知っていて、やっている?

そもそもあたしが気にすることはないんだろうけど何か行動を知っているみたいな顔していたら。さすがに気になる。


知り合ったばっかでさっぱり謎だけれど。でも、なんとなく今は言っちゃいけない気がした


空気が静かになって唾を飲み込んで数分経っても何も行動がない彼らに、あたしは喧嘩を見届けようと見知らぬ彼の手をどけて座ろうとした途端――


一気にあたしを怒らせる事が目の前で起きた。


とっさに彼の襟を掴んでグッと頭を近づけ、さっきの行動とは違う勢いで強くネクタイを握り締め上に持ち上げる庵。


ば…馬鹿じゃないの!そんなこと、するなんて信じられない!もちろん私じゃなく。


「調子乗ってるんじゃねえよ。お前はよォっ…!」


見知らぬ彼に愚痴を吐く庵。


見知らぬ彼が嘘付いたことにケチをついているんだとあたしでも予想つく。

こんな事してて何になるんだろう?と思う。

行動でどうにかなるなんて何も言われてないしされてない。庵のやり方は本当にわからない。


「なら…さ?素直に受け止めろよ?彼女、相当嫌がってるんだからさ。」

「だから、お、お前にはな!言われる筋合いはねぇんだよ!!」


彼が言っても庵は気に入らないみたいで顔を顰めている。効果は逆効果で――余裕そうに彼は憎たらしい顔をしている庵に笑みを浮かべていた。


本当に助けているんじゃなくて何かを〝企んでいる〟しか思わない笑みに、ウザそうに眉を顰めている庵は、「お前どんだけ、俺にそんなこと!!」とでも言いたそうにして怒っていた。


〝企んでいる〟こととかウザいと憎んでいることとか何でそんないちいち争うか、いまだよくわからないあたしは彼らの状況についていけなくて…入ることもなく、話は進められ。


「言っとくけど、これば俺の仕事だから。てか…怒られてもただ困るし。ま、そのままお返しするけど」

「お前、ふざけんなっ!!俺が!」


ニヤッと余裕に笑う見知らぬ彼に、首を絞めるくらい上であげく目を開こうと強く睨む頑固な瞳を向ける庵。

今にも始まりそうな〝喧嘩〟の雰囲気が漂うのに不愉快な行動に思うあたしは疑問だらけ。


嘘ついてまで通そうと?何でやり返そうと?

二人にこうなる理由が知りたい。


だけど―その前に、彼らの空気をどうかと、強く言い放つ。


「ふざけてんの、どっちよ!?バカじゃないの?庵も!私はこうだったから嫌だったの!!!」


〝言いたかった言葉〟を纏めて。


庵は、ずっと毎日、冷たかった。も、ちろん庵が冷たいことなんて全く目にしていないとわかると徹底に女の子達が集まって調子乗って、私に歯向かってくる。


〝あたし〟を追い詰めていく彼女は、殴るだけでは〝許せなく〟なっていたから。嫉妬。怒り。〝なんで付き合ってるの?〟。そう問い詰められるくらい大きくなっていてもけして〝別れ〟なんていうこともなかった。確実にわかって欲しい願望に浸かっていた。〝いままでは〟だから考えると違うふうに見える。信じられない事を平気にやるなんてどうかしていると思う。 自分勝手にも程がありすぎるし躊躇なく勝手にひどいことしているし流石にそんなことで〝許される〟訳がないし辛いのだ…今一番許したら心が痛い。

ふとイラつきながらも彼をちらっと見る。


彼もやる気のような顔して「やってくれんじゃねーの。俺に歯向かうとは上等だ」とノリノリだったけど、彼がもし。このタイミングで「助けてやる」なんて言われたら、また。冷たかった庵はなにかと仲良くなって、一件落着するが、そのあと、だ。

『じゃあ…。俺のこと好きじゃなくてもいいから、キスしてよ?それ位ならいいだろ?』

いや。ダメだ。庵たちは、許せない…。

こんなことして意味ないから「別れたい」と決意したっていうのに…あたしと庵〝縁切ろう〟って悩んでると、隣の彼があたしに向かって突然ニコッと微笑む。


〝お前は強いな〟とでも言う優しい眼差しを向け、優しい笑顔で私を見つめる彼。

一瞬見透かされたと思ったあたしはドキっとさせられるが、状況が把握できないでいた。彼は、その後庵の方に視線を移し、


「俺、やっぱり考えたんだけど…無理矢理キスするのはまず優しくしなくちゃいけないんじゃねーか?」


なんて再度同じようにきっぱりとそう告げた。


あんな必死に見るような庵なんてあたしの人生の中でいままでなかったことにあたしは凄く驚いたはずなのに。庵が必死に〝奪いたい〟と思うことなかったのに、今更どうして庵はそれを聞いてからずっとこの調子だ。


アレほど、好きではないと言い続けて。

だけど今思うと…それが本当なのか、思い知らされた。〝やっぱり無理だ〟ということに


だけど目の前の庵はとうとう切れたような顔して、「テメエ」と舌打ちしながらネクタイを掴んでない方で拳を握り締め、さっき隣にいた彼の方へ拳を振り上げる。


そして、わたしが目を閉じている間


ボコっ!!ドンッッッ!!

庵はイラつきをぶつけていた。さすがに地面を叩きつける音を聞いて目を咄嗟に開ける。

もう既に遅くて地べたに落とす庵は、その衝撃に頭を強く打たせて、紫色に変化するような赤い痣を増やしていく。


目の前で庵は味方に一人攻撃したんだと思ったらあたしは頭が真っ白になっていた。


そんなことするのってダメなのに…

驚きをかくせないぐらい悲惨で、強い目線を見せる庵…を見てしまう

視線に気づいた庵はおもしろおかしく笑う。


「俺は妃奈が好きなんだよ。奪うとかお前馬鹿なの?お前は知らないくせに。小さい頃のアイツを見ていた俺に、勝てるとおもってんの?」


きつく目線を逃さない庵。

ガクガク震えるしかないあたしは怖くなった


だって好きだってこと――知ってしまったから

見知らぬ彼はもちろん私に優しい目線を向けているが、もう彼に手助けなんて限界だった。

もちろん。庵が笑っているなんてわかるわけない。


けど、フッと鼻で笑いながら彼に向かって、


「だいたい、俺を馬鹿にしている時点で、クズだろ?だって俺ら実際ラブラブなんだ奪うとかないわー」


ご機嫌に仁王立ちでいう庵。この言葉でいらつくのは知ってわかるのかな、とふと思う。

〝本当〟のことを嘘と言っているんだから――そもそもあたしは嘘いっていないし事実までを言っただけだ。なのに、殴っておいて嘘しかない。なんでこうなんだろう…はあ…。

切れたらきっとあれだからと思ってるのか、彼も無言で捨て鉢の庵をただ見つめている。


本当は、悪魔王子なんてみた、くなかった。笑うのはみたくなかった。こんな、見たくない姿をみてしまっている。それを見たくないようにするにはさっきみたいに、彼を頼る選択しかなかった。

わからないけど彼なら助けてくれるって思った。たまには直感を信じてみて、もし庵との縁を切って庵と決着つければもう近づくことができなくなるのも、あ、りかもしれないし。


目を瞑り信託しんたくにそう願おうとした途、端突如あたしの耳に乾いた音が鳴り響く。


――ドサッ!!


…!?


あたしはその音で咄嗟に目を開くとそこには驚きな光景が映し出されていた。

そこに現れていた光景は―殴られるというのは逆に彼が庵を殴っているところで。庵は拳を避けることもできないまま、二三発やると簡単に崩れるように倒れていく。

〝信じられなかった〟というほど目が一瞬止まった感じがした。


「…甘いんだよ、バーカ」


膝から崩れる庵のそばで、呟く彼は笑顔だった。彼には敵わないってこと

信じられなかった。知らなかった。

地べたにペタッとなっている奴にやり返すところを見ながらあたしの心に、ぐさっと痛みがささる。

庵の〝強い〟というイメージが、今見たこの光景ですべて崩されたから。知らない庵があたしを動揺させる。

その言葉に「嘘じゃないか」と目を開けている庵は眼飛ばしていた。

もちろん嘘なんだけど唇は噛み締めて一生懸命を探ろうとする庵が必死だったから、あたしは何も言えなくなってしまった。


バレたら、きっと〝変わらない〟庵が変わらない。

だけど、こんな言われるの初めてで、庵が切れたところなんて見たことなくて動揺してしまう


〝好き〟だから、けどそれじゃダメなんだ。


「お前は、勝手に〝強い〟とかで…女に八つ当たりしているくせにそんな意地が張れるよな~?こっちは一度も〝強い〟とは思わねぇけど。」


代わりに言ってくれる彼は仁王立ち。彼をいらつくようにみる庵は、変わらず反論していく。


「いちいち、言われることなんて頼んでない。お前は俺のライバルだっていうのに、俺の彼女まで奪う気かよ?大事だったと思う彼女を?」

「それが?どうかした?」


何もへっちゃらと言うようにさらっと返す彼。

たった数秒でこんな状態何分経ったかなんてわからないくらい。

まったくあたしの頭ついていけないまま、その〝ライバル〟という言葉が気になりすぎて戸惑っていた。聞いたこと無かった。

そう疑問に思っていると、彼はあたしに視線を向ける。


〝なんか言いたい〟とでも言うような顔が何故か物凄く悲しそうで。その言いたそうな顔にズキっと心の底がサイレンをする


なんで――そんな悲しくあたしをみるの?


何を考えているのか。何を訴えているのかわからなかった。全然、名前すら性格すらわからない赤の他人の彼で…


「くそ…覚えとけ」

「あぁ、そうしろ。」


庵は察するようにつまんないという顔をしたあと、短い返事を聞くと庵は反論も。怒りもぶつけずに。

〝いつか〟とでも宣言するかのように空気を残して、素早く立って屋上を出て行く。


その行動が早すぎてついていけないあたしは

混乱した状況を考えるのをやめて一息、


呼吸してさてどうするかと思った、


――その瞬間、あたしの心がほっと優しく包み込まれた。

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