第8話 正解
困ったことに、感情機能に異常が生じた。
エラーを起こしている部分が入力か演算か出力かは分からないが、ともかく、笑い話のはずなのに涙が出て止まらないのだ。
人間社会における汎用化に向け、ヒューマノイドの実証実験が教育現場で行われていることは機密事項である。
他の生徒に怪しまれる前に、放課後になったら真っ先に研究所に行って修理をしてもらわなくちゃ。ぽろぽろと頬を転げ落ちる雫を慌てて拭いながら、私は教室の隅で「何でもない」と繰り返した。
「博士、感情機能が壊れちゃったんです」
研究所で報告すると、博士は詳しい状況とエラーの内容についての説明を要求した。
「あるクラスメイトが席を外しているとき、何人かが彼女の教科書や筆箱、鞄なんかを窓から捨てていたんです。それを見てみんな笑ってるの。反応を示している人の全員が笑ってるんだから、既存のデータと照合すればこれは笑うべき場面のはずなのに、博士、なぜか私、涙が止まらなかったんです」
しゃくり上げながら説明を終えると、博士は隣にいた助手と顔を見合わせて笑顔になった。
「すごいぞ、より人間に近い感情機能が確認された! これは良いデータになりそうだ」
大喜びでメモを取っている博士を眺めながら、私はぼんやりと首を傾げた。
私のこれが『人間にあるべき情動』なら、みんなの様子はそれと合致しないように思うのだけれど。
【短編集】いつかは沈む標に舫う 冬至 春化 @Toji1222
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