第2話 季節の違う道

 異世界転生した。俺がそう気づいたのは、この世界が元の世界とは全く違っていたからだ。

 前世の記憶があるというのが得かどうかは場合によると思う。何故なら自分はその記憶があるばかりに今でも昔を懐かしんでしまうのだ。懐かしんだからといってどうにかなるものでもないのに。


 この世界は今俺が立っている一本の道を境界に、左側が春夏の陽気で春より。右側が秋冬の陽気で冬よりと固定されている。


 人が住める水星って感じだろうか。太陽に当たる面と当たらない面があるから気温が極端になるという。まあこの異世界はあそこまで極端ではないが。


 俺が住んでいるのは冬の陽気の場所だ。幸いなことに金持ち貴族の家に生まれたので、不自由はしていないが、それでも変わり者扱いされている。


 春と冬の世界しかないなら、誰もが春に住みたがる。金持ちやら貴族やらはこぞって春の土地を買いそこに住む。土地が高騰して庶民には手が届かなくなる。貧乏人ばかりが冬の世界に住む。


 季節が平等ではないと、こんな悪循環が出るのだと知った。

 四季を楽しんで来た日本人魂がうずく。冬の世界はもっと評価されていいはずだ。


「ご主人様の仰る前世のことはよく分かりませんが、それでも冬の世界を楽しもうという発想に私は救われました」


 そう言ってきたのは助手をしてもらっている少女のイネッサだ。冬の土地住まいだが、元はれっきとした貴族の娘である。

 イネッサが生まれると同時に母親が亡くなり、父親は貴族としての体面もあり後妻を迎え入れるが、その後妻が性格のきつい女性でイネッサが近くにいるのを嫌がるのだ。後妻に子供が生まれると一層それは顕著になり、一国一城の主は嬉しかろうとイネッサは冬の土地に別荘を与えられてそこに住まうことになった。貴族社会からは追放されたも同然だ。


 前世感覚でみると余りにもイネッサが不憫なこと。そして冬の土地では貴重な文字が読める人間であること。一人で寒い家に閉じこもるよりはいいだろうと俺は彼女を助手にならないかと誘った。


 まず簡易なものではあったが学校を作る。寒い地方で行っていた祭りを行事として組み込む。教室には火鉢や薪ストーブ。暖炉。建物は寒さに強い家。自ら先頭に立って雪かき雪下ろし。この地が発展しそうなことは思いつく限り何でもやった。

 中でもビニール栽培や品種改良で何とか冬の土地でも育つ野菜を作れたことは大きかった。食料問題がほんのちょっぴり解消された。それだけでなく寒い土地で育った野菜は甘味が凝縮されてむしろ美味しいと評判になるほどだった。

 俺が死ぬくらいの時になったら、冬の土地に住んでいるというだけで差別されることは少なくなった、ように思う。



 その転生者の名前はのちに、冬の土地を死の土地から生の土地に変えたと歴史に名を残すことになる。

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