いったいこのヒロインはどんな決断をするのだろう。
先が気になって一気に読み進めてしまった。特に後半部。
女性向けラブストーリーの王道は、なんといっても見目麗しい男性に愛され、そして彼を愛すること。そう断言しても過言ではないと思う。
本作にもとんでもないイケメンが登場する。
気配り上手で、紳士的。整った顔立ちに涼しげな表情。着こなしにも隙がなく、シャツの奥には見事にしまった筋肉が。そして何より彼はお菓子作りが得意なのだ。お菓子作りが、得意、なのだ……!
イケメンがスイーツを連れてくるなんて……!それなんて鴨葱!?
普通ならこの青年――名はハロルドという――とヒロインが結ばれてめでたしめでたしなのだが。
ところがヒロインであるヴィオレットには、事実上の婚約者がいる。
王太子シャルル殿下。やんごとなき身分で、ヴィオレットとは従兄妹同士。
そしてこの王子様、脂肪に包まれているのである!……脂肪に、包まれて、いるのである!!!!
体重は100kgオーバー。たゆたうお腹に、重なる顎下。座ったソファをぶち壊し、履いた靴のヒールをへし折る重量。
ああ、普通ならこの婚約者に愛想をつかし、麗しのハロルドと結ばれてほしい、そう思う。
でも困ったことに、脂肪に包まれた王子様もとても素敵な方なのだ。親切で、思いやりがあって明るい。何よりヴィオレットを大切にしている。
そして彼女自身も、己の侯爵令嬢という立場を大事にする娘なのだ。
そう、この物語はまさしく「令嬢の恋が筋肉と脂肪に挟まれている話」。
令嬢ヴィオレットは、筋肉を選ぶのか、脂肪を選ぶのか――。
ぜひみなさんも、自身の目で彼女の行く末を確かめてほしい。
小説はスイーツ、作者はパテシィエール、甘く優しい多幸感に、恋の刺激のエッセンス。
読書を始める際にまず、お茶会に添えられた菓子をイメージして頂きたい。
そして、アナタはお嬢様、お姫様になる。女性読者なら特に、男性なら、まあ、なっても良い。
三角関係、板挟みは恋の常、筋肉と脂肪、格好いいと可愛い、身分や歳の差、あれこれの折り重なったミルフィーユ。
口に運ばれる前の菓子は、煌びやかな見た目も大事。
話中、花の匂いや彩り、衣服のデザインやフリルの数、或いは人の営みの機微、その全てが豪奢とは言えないにしろ、ときに感じられる奥ゆかしささえ、物語の飾り付けと楽しもう。
それこそファンタジーの特に恋愛に於いては、最良のフレーバーではないだろうか。
お手軽さ、というのも今やスイーツの魅力のひとつを担う。有名ブランドの洋菓子だって、コンビニエンスストアとコラボレーションする時代だ。
重々しくコッテリとしていて、飲み物無しでは、などという作風ではない。
まして、どちらが美味しかったですか? などとイケメン秘書と健気な王子の2品のフレーバー違いを出されては、手軽で美味しく、ついついどちらも、という読書感。
召し上がった感想は、各々に任せるとして、レビューを菓子に例えた理由、おわかり頂けただろうか。
それこそ、女子(男子も可)の大好きなものを全て詰め込んだような、と言えはしないか?
余談だが、美と健康の為に、私は性別を問わず筋トレを推奨する。