Last Story
<<ダイス視点>>
旅に出てからどのくらい経ったのだろうか。
通りすがりの街で冒険者登録をしながら旅費を稼いでの旅暮らし。
数多の魔物を討伐し、数えきれないくらいの街や村を救ってきた。
救った街村ではどこも歓待してくれた。
勇者様と言って慕ってくれるのだ。
強い男に女は惹かれるという。
ムサシさんは "据え膳食わぬは"云々と言うが、俺も健全な男の子。
戴くものは頂いた。
どこでも強い男の血は欲しいのだろう。
方角も曖昧なまま同じ方向に歩き続ける。
どうせ地面は平らなのだから、来た方向にさえ進まなければ、多少遠回りしても世界の果てに着くはずだ。
何年も歩き続ける。
川があったら迂回し、崖があったら登りきる。
街や村があれば討伐依頼を受けて、差しだされれたモノは遠慮なく戴く。
ただそれだけだ。
何も変わらない長い日々、変わったことと言えば、最近あちらこちらで勇者の噂を聞くようになったことか。
勇者と呼ばれる程の強者がちらほら現れているようで俺が討伐する必要性もかなり減ってきているのだ。
俺の故郷よりもこちら側には、強者が多いのだろうか?
既にここまでの旅で俺の収納には有り余る金貨が入っているから、もう稼ぐ必要も無い。
無理をして稼ぐ必要が無いなら先を急げばよい。
勇者がいるなら任せておこう。
勇者がいなきゃ討伐依頼を受けて、据え膳を戴くだけだ。
しかし世界は広いものだな。
俺も60歳をいくつも越えている。
こんな生活を続けているのに、長生きしたものだな。
しかし50年以上旅を続けても世界の果てにたどり着かないとは、いったい世界とはどれほど広いんだろう。
<<神の世界管理官ディール視点>>
この世界に召喚者を送り届けて50年くらいになるかしらね。
武蔵君ったら、宿主が死ぬような目にあった時には、自我を持って宿主を乗っ取るように言ってあったのに、旨く理解できていなかったみたいね。
でもまあ上手く共生してくれているみたいだから結果オーライね。
宿主のえーとなんて言ったっけ、あっそうそうダイス君。彼が旅に出るって言ってくれて本当に良かった。
彼が「世界の果てを見たい」とか言った時は何この子?って思ったけど、結果的に世界中を5周以上も周り続けてくれたおかげで、自然発生的に勇者がたくさん生まれたのは予想外だったけど。
まあ、わたしの加護を付けた武蔵君の子種を女の子達の生殖器に付けてあげたからだけどね。
とにかく、武蔵君の役目もこれで終わりにできそう。
武蔵君にはサービスで次の希望を聞いてあげなくっちゃね。
ダイス君は、そろそろ寿命みたい。彼はほんと頑張ってくれたわ。
そろそろ旅も終わりにしてあげようかしらね。
<<ムサシ視点>>
ダイスと行動を共にして50年にもなるか。
あのひ弱だったダイスも立派な面構えになりおった。
儂が手を貸さなくとも、この世界に彼を負かせる者はおらんじゃろな。
しかしすっかり歳をくってしまって、もう白ひげの爺さんじゃないか。
さっき女神ディール様からお告げがあったが、そろそろ俺もお役御免らしい。
ダイスも頑張ってくれて、この世界での俺の人生も楽しいものだった。
ディール様に次の人生をどうするか聞かれたから、「また違う世界で同じような経験が良い」と答えておいた。
少し苦笑いしていたが、快く「いいわよ」と言ってくれていたので、次の人生も楽しめるはずだ。
<<ダイス視点>>
昨日からムサシさんの声が聞こえなくなった。
そろそろこの旅を終えろということか。
結局この世界の果ては見つからずじまいだ。だが、もしかすると世界の果てなんて無いのかもしれないな。
50年も旅をして様々な人に会い、一緒に戦い、酒を酌み交わした。
充実した日々だったと思う。
何人もの女と契りを交わしたがそのうちの何人かは身籠っているかもしれん。
世界中に俺の子供がいるかもしれないと思うとなんだか大物になった気分だ。
法衣子爵家の3男坊としては充分過ぎる人生だったんじゃなかろうか。
全てムサシさんのおかげだ。
彼はいったい何者だったんだろう。
そういえば、彼の話しを聞くのを忘れてたっけな。
さて、そろそろ旅も終わろうか。
次の街を残り少ない終の住処にしようと思う。
街に入ると見たことのある風景がある。この50年、世界中のあらゆるところを歩き回った。
よく似た風景の所も何回も通っているから不思議な話ではない。
だが、妙に懐かしさを感じるのだ。郷愁とでもいうのだろうか。
とりあえず、冒険者ギルドを探そう。
冒険者ギルドへ向かう途中で、墓地が見えた。
ひと際大きな墓標が目についたので、なんとなくお参りに行く。
その墓には ”ジネン伯爵家の墓” と書かれていた。
俺は世界の果てを探していたはずだ。そして50年かけて歩き続けた結果、この生まれ育った場所にたどり着いたのだ。
なるほど望郷の念が溢れるのも仕方あるまい。
この街を終の住処に決めて本当に良かった。
これも神様の思し召しだろうか。
しかし、存外なこともあるものだ。
誰が立てたのか、墓の裏には木の立て札があった。
”世界の果て”
「ふっ」
真新しい立て札を見て思う。
俺の生まれ育ったこの街が世界の果てであったとはな。
完
世界の果て まーくん @maa-kun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます