7th Story

<<村人ジャニ視点>>


今日もひとりの冒険者がやってきた。ムサシとかいうらしい。


何人も冒険者がやって来るがどいつもこいつも弱くて役に立たねえ。


最近では門番をやらせているヤリスの試験ですら通らねえってきてやがる。


まあ、ヤリスもここしばらくのブルードッグとの戦いでかなり強くなってるから、まあ並みの冒険者じゃ歯が立たないのかもな。


それにしてもこんな貧弱な子供で大丈夫なのか?


まあ、怪我したり死んだりしても知らねえけどな。


とりあえず説明だけはきちんとしておいてやろう。もしかしたら戦力になるかもしれんからな。





<<ダイス視点>>


ジャニさんに連れられて門の反対側に移動する。


どうやらこちら側が森に面していて、対ブルードッグの前線になるようだ。


これまでの経緯や襲ってくるブルードッグの特性、こちら側の戦力や交代体制などしっかり教えてくれる。


何度かムサシさんが聞いてきた質問を仲介しているとムサシさんも大体全体が把握できたようだ。



『ダイス、どうも戦況は良くないらしいな。何とか持ちこたえてはおるが、敵も数を増やして要領も得てきているようだ。


今夜あたりの襲撃では伏兵が現れて西側が破られる恐れがありそうだ。


儂等は夜半前に外に出て西側の柵の外で待機し、襲撃と同時に森側に回り込み西側の敵を粉砕することにしよう。


それで他の敵どもが襲ってきたら村人達に挟み撃ちになるように攻撃してもらおうじゃないか。』



ムサシさんの案を聞いてちょっとビビる。


だって囮になるってことでしょ。


しかも西側にきた奴らを殲滅できなきゃ僕が挟み撃ちにあうじゃん。


でもムサシさんに戦いは任せるって決めたし。ムサシさん自信満々だし。


まあやってみよう。





<<ジャニ視点>>


こいつとんでもない提案をしてきやがった。


たしかにこの前攻撃された西側の柵がまだ直しきれてないんだよな。


この前も狙われたし、今回も絶対襲ってくるだろうし。でもやるって言うんだからやらせてみるか。


上手くいったら儲けもんくらいかな。







こりゃ参った。


あいつやっちまったよ。本当に殲滅に成功しやがった。


あんな小さな体でバケモンみたいな長槍を振り回しやがって。


今回ばかりは俺の読みが外れて肝を冷やしちまった。


ブルードッグのやつら正面に陽動を仕掛けた後、主力を西側に回してきやがった。


もしムサシがいなきゃ西側から易々と突破されていただろう。


しかし30頭はいただろうにあっという間に殲滅してしまいやがったな。


飛びかかるブルードックの牙と爪を寸でで躱し、槍の石突で頭を砕き、その返しで別のやつを突き刺す。


そいつを突き刺したまま槍を振り回し、かかってきた数頭を仕留めると槍に刺さっているブルードッグを振り投げやがった。


それが西側の柵を破ろうとしているやつに当たって倒すと、槍の石突を支点にして高く跳び上がり、振り回した長槍で、近くに群がるブルードッグ達をなぎ倒していった。


その後、ひるむブルードッグに対して自ら突っ込んでいき長槍で道を切り開くと、その長槍を手放して一際大きな奴に飛びつき持っていた剣で喉元を掻っ切ってしまった。


恐らくボスだったんだろうな。統率を失ったブルードッグはムサシや俺達の敵じゃねえ。


一気に粉砕して全滅させてやったよ。


しっかしなんて奴なんだ。あれだけの大立ち回りをした後でも息のひとつも切らしてねえ。


全く見かけによらず大した奴だぜ、ムサシってやつはよ。





<<冒険者ギルド ギルドマスター デルファイ視点>>


あのブルードッグの依頼。あまりの難しさにA級の複数討伐指定に変更したはずなのに、受付のファジーのやつ間違えて今日D級になったばかりの新人に行かせやがった。


腕があるとは聞いているが、それでもA級複数指定に挑ませるなんて自殺行為じゃねえか。


すぐに止めに行かせないと。


俺は足の速さに定評のあるチーターをスキーニ村に行かせた。


獣人であるチーターの足だったら途中で追いつくだろうと考えたからだ。




4日後、チーターとムサシは一緒に戻ってきた。


間に合って良かったと思っていたら、ムサシが討伐証明の尻尾を40と村長の手紙を渡してきた。


どうやらA級複数討伐対象をたったひとりでこなしたらしい。


ムサシを労い宿屋を斡旋する。


宿屋の主人には、一週間の宿代を先払いして、丁寧に対応するように伝えた。


もし手紙に書いてある内容が正しければなんとしてもムサシをこの街に縛りつけたいからだ。




5日後、手紙の内容の裏が取れた。


ということはムサシはS級にも匹敵するということだ。


急いでS級の申請を行う。


こんな逸材、絶対ウチで確保してやるさ。


だが、俺のこんな思惑も知らず、ファジーのやつ討伐達成の奨金を支払ってムサシを解放しちまいやがった。


いつもはうっかりしているくせに、今回に限って間の悪いことだ。


慌てて冒険者達をかき集めてムサシを探したが、もう遅かったようだ。


ムサシは世界の果てを探しに行くって言って早朝に出ていったらしい。


バカファジーのやつめ、ダンジョン監視の閑職に回してやる!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る