第-01話 サイバネ化サイコキラーが吹っ切れてやらかすまで
月日の流れは早いもので、その日から4年が経過していた。
私のキャラクターは様々な改良を全身に施し、逆に改造されていない部分の方が僅かになっている。
全身を覆う熱光学迷彩、左腕に仕込まれたフック付きのワイヤーウィンチ、かなりの高所からの落下にも耐え得る高密度な骨格に、足音の鳴り難い脚、スキャニング機能や暗視機能を含めた赤外線センサー入りの眼、果ては思考の高速化を目的として脳の電子化し、神経系の光ファイバーへの置換まで。
少し前から賞金首に対しても現実的に勝率が確保出来てきた私は、対人技能の訓練の為、PvPとしての暗殺依頼も受けるようになっていた。
賞金首や暗殺対象をキルし、その報酬で新しいインプラントを入手し、NPCのストリートギャングを相手に戦術を構築し、時に死に、その経験を活かして私は理想の姿を追い求めて来た。
全ては、愉しい殺人の為に。
しかし、そんな私自身にとっての最高に充実した日々は突然の終わりを迎えた。
ゲームの、サービス終了が決定したのだ。
そもそもこのジャンル自体、人気自体は根強いのだが裾野はそこまで広い訳でもなく、寧ろ狭い。
当初は月額課金制のゲームとして、運営されるに足るユーザー数が確保されていたのが、その頭数は最低限度ギリギリであったらしく、サーバーの維持管理費が嵩む中で徐々にライト層のユーザーが離れる事で、緩慢な死を迎える。
実際にはもう少し複雑だったのだろうが、私自身が情報収集した内容の上ではそのように見えていた。
例えばスポンサーの意向に因る、あくまでも劇的な死であるならば、反発のやり方というものもあったかも知れない。
しかし、利益率の低さとジャンルのニッチさ故の固定プレイヤー数の少なさに因るその緩やかな死は、私を含めたヘビーユーザーにとっても抗う事が難しいものであったのだ。
そして私は、ある事を決めた。
時は少し経ってサービス終了の日。
私はいつもの様にゲームにログインし、ゲーム内での住居であるアパートから完全武装で足を踏み出して、丁度良いところに通りかかった無辜の市民の首を刎ねた。
今日はゲーム内でもサーバークローズに向けての最期の祭りであったが、私にとっての祝祭にしたとしても構うまい。
何時もよりも心なしか明るいネオンサイン、何時もよりも明確に鮮やかな市街地、そして首の無い死体が道を埋め尽くすには少し足りない程度。
狂人には付き合ってられんとばかりに逃げようとしたプレイヤーの脚と首を狩り、やると思ったわと苦笑いする幾人かの知己のプレイヤーを少しの消耗を経て狩り、遂には指名手配された場合に派遣される特殊部隊のNPCをも死力を以って狩り尽くした。
血と、肉と、これでもかという程の退廃に満ち満ちた風景の中で、私は最高に愉しんだ満足感のままにサーバークローズの時間までの余韻に浸り、そして最後の最後に気付いた。
あぁ、私をこのゲームに誘った彼女の首は、終ぞ狩れなかったなぁ。
こうして時は今現在に辿り着いた。
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