習作リハビリ短篇 サイバネ暗殺者装備のサイコキラーが異世界に転移するだけのお話

山際タカネ

習作リハビリ短篇 サイバネ暗殺者装備のサイコキラーが異世界に転移するだけのお話

第-02話 無自覚サイコキラーがサイバネに手を出すまで

人類がその技術の発展に伴い労働を義務ではなく、権利として捉えるようになって半世紀。

具体的には人間の代理としてAI制御された産業用ロボット達が労働する事が主流となり、人類は文化や学術、望んだ者のみが労働にも親しむ。

古代ギリシャに於いての奴隷制の最中の如く、奴隷とされた人々が働き、その主人が文化や学術に親しんだ時代のように、しかして人類はその望まぬ誰かを犠牲とする事無く文明の発展を続けていた。


方針転換当時の権力者に曰く。生産性をその複雑且つ不可解な内面のコンディションに左右され得る人間の生産性よりも、近年の発展著しいAIやロボットの生産性の方が安定性があって為政者視点としてならば余程に望ましいのだそうな。

人の心や精神面を雑に乱数扱いするサイコパスの側面を持ったその権力者はしかし、その方針決定によって救われたそれまで人的資源として扱われて来た人々により、死後になって尚も未だに類を見ない尊ばれ方をしているらしい。




義務から外れた労働の話は置いておいて。

後からでも良いので、人生が変わる瞬間というものを確信した事はあるだろうか。

大きな商談を上手く纏めて昇進が決まった時や、或いは自分にとって一番感じ入る事が出来る音楽を見つけた時など、これまでの人生とは違う今後が現実的な範囲で夢見得るようになった瞬間。


少し前までの私にとってのそれは、知人に勧められて少しだけのつもりで始めた、近未来SFジャンルの新作VRMMOゲームをプレイ中に街の銃砲店の陳列棚に並んだとある装備を見つけた瞬間だった。

腕部インプラント装備『単分子ブレード』と銘打たれたそれは、自分のゲーム内での片腕を改造して装備する武装であった。

自分の身体を好きに弄って遊ぶそのゲームにおいて、初心者であった私は当時全身生身の所謂バニラであったのだが……


一目惚れであった。

ゲーム内という事もあって取り敢えず趣味である銀の長髪に赤眼の美人として作ったキャラクターの、その腕が慣用句表現としてではなく物理的に竹を割ったように割れ、腕の中からブレードが出ているというその人を選ぶ猟奇性と遊び心に満ちたビジュアルに、惚れ込んでしまったのである。


そこからの私は速かったと、今から考えても思う。

所持金が足りなかったのでゲーム内で当時持っていた所持品を軒並み相場前後で売り払い、単分子ブレードを購入して自分の右腕を改造して装備し、その足で試し斬りと称してNPCのストリートギャングを必要以上に叩きのめし、直後に現れたNPC賞金首とそれを狙ってやって来た賞金首狩りプレイヤーの戦闘に巻き込まれ、あえなくリスポーンと相成った。


それまでにもゲーム内での死亡を経験した事はあった。

ゲーム内での生命は軽く、その死の経験の度に苦々しい思いをして来た。

しかし、この時の私は嗤っていたのだ。

私は私自身を祝福し、この単分子ブレードによるヴァーチャルな殺人体験をもっと味わいたいと、そう思った。

思ってしまったのである。

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