第八夜『黒い神社』
こんな夢を見た。
新聞記者みたいな事をしていた。とある村にある神社の噂が気になって訪れたのだが、村の人がその神社について語る時の口は重く、村の酒場で一人酔って管を巻いている大酒飲みの老人でも捕まえて気前良く奢らない限り、外部の者がその詳細を知る事はほぼないと思われるような状況だった。
山の中の薄暗い鎮守の森に建てられた古い神社は村人たちの忌まわしい記憶を封じてあるだけに、村の者であっても下手に見聞きする事はタブーなのだ。
黒い鳥居を持つ特異な風貌の神社がある場所は、村の外れから登山道に至る道をさらに分け入ったところにある。山道に慣れた者でないと見分けられない獣道のような難所を進むと、森林の中にぽっかりと拓けた土地が現われ、かつてそこに小規模な共同体が存在した形跡を見せる。
百世帯以上ある村の共同体には入らず、とある事情で他所の土地から来た者たちが勝手に作った居住空間で、黒い鳥居を潜った境内に四世帯。廃材を掻き集めて建てた粗末な小屋に必要最低限な物資しか持たないその山の生活者たちは、村の人たちからサンカや部落などと呼ばれて蔑視されていた。
村との交流を一切取らずに原始時代さながらの狩猟採集に頼る彼らのような存在は、その素性が分からないゆえに、村にとっては理解し難い野蛮な人種として映ったのか、時に自分たちの生活を脅かす敵対者として認識されていたのだろう。
畑が荒らされたり、村の家屋から金品が盗まれるなど、村に何か不都合な事があれば、まず真っ先に疑われるのはこの集落だった。
それを裏付けるような忌まわしい事件が起こったのは大戦が勃発した明治の頃で、ある日村から一人の幼児が忽然といなくなった事に端を発する。
集落の者による犯行を疑った村の青年団たちが山狩りを開始して黒鳥居の神社を訪れると、無人の集落の境内に簀巻きにされた惨たらしい幼児の死体があった。
それを動かぬ証拠として集落への容疑が確信に変わった青年団たちは、集落の人たちが戻るのを待って集落にある四世帯全てを焼き討ちしようとしたが、四つの世帯は既にこの地を去ったのか、いつまで経っても戻る気配を見せず、幼児を誘拐して殺害した理由や状況などが一切謎のまま事件は闇の中に葬られた。
黒い鳥居の神社には古事記に縁のない祭神が祀られていたらしく、僕はその祭神が事件と何らかの関係があると思ったのだが、ようやくたどり着いた集落の跡地には既に古い神社はなく、黒い鳥居だけがぽつりとそこに建っていた。
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