第四夜『神殿』
こんな夢を見た。
大都会の繁華街にパルテノン神殿に似た建物があった。大理石ではなく花崗岩で出来た巨大な神殿で、神殿の中には左右対称に配置された柱の間があり、柱と柱の間はすべて鏡張りになっている。四方が合わせ鏡になった空間は観光客で賑わっていて、皆が鏡に自分の姿を映して、そこにズラッと居並ぶ自分自身の無限の列に好奇な視線を向けて楽しんでいた。
鏡の中の、そのまた鏡の中の自分、自分、自分……。
無限の奥行きをもった鏡の世界に、整然と一列になった無数の自分がいる。見渡せばその列が縦横に存在している異様な光景だ。
この神殿の神官だろうか?
法衣をまとった厳粛な雰囲気の男がいつの間にか僕の側に静かに佇んでいる。
「この神殿のさらなる神秘をお見せしよう」
そう言って神官は法衣の袖から古びた笛を取り出した。神官がその笛をピューッと吹くと、柱の間に何か不思議な力が張りつめたような空気が漂った。
柱の間にいた観光客たちが一斉に驚きの声を上げる。見ると鏡の中の世界に異変が生じ、鏡の中に映る実存ではない無数の自分たちが、実存である自分の動きと関係なく、自ら意志を持ったかのように不規則に動き出したのだ。
その現象は神官が笛の音を鳴らし続けている間中ずっと起こっていた。神官が笛の音を止めると、鏡の中の実存ではない自分たちの動きも止まる。
「どうです? 驚きましたか? この笛を吹いている時だけ、この柱の間の鏡の中の世界は意志を持つのです」
神官が穏かな笑みを湛えてその場にいた人たちにそう説明した。そしてこれがこの神殿に古くから伝わる謎です、とこの神殿の権威と神秘を誇示した。
これまで何度も高名な学者人たちがこの神殿を調査したらしいが、今もってこの神殿の柱の間の謎は解明していないらしい。
神官がまた笛を吹く。観光客たちは驚きの声を上げ、鏡の世界で起こる神秘的な現象に心底魅せられていた。
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