第1幕 出会いと旅立ち
第1場 古き記憶
最も古い記憶は音だ。
硬い音、心地良い律動、あの音はその後に聞いた大聖堂の鐘の音に似ている。どこまでもいつまでも響き渡る祝福の音。私はあの瞬間、祝福されていたのだろうか。
次に思い出されるのは、暖かな涙だ。
彼女は私を抱きかかえ泣いていた、少し困った様子で声をかける男、彼女は涙を流しながらも微笑み私を男に託す、男は彼女を抱きしめ誓いの言葉を口にする、だが彼女は気がついている、それが彼女を気遣う男の優しい嘘だと言うことに。私は思う、この者たちに私がしてやれる事は多くはない、だが持てうる限りを尽くそうと。
それから私は長い時を旅してきた。
ある時は剣聖と呼ばれる者と共に、魔の者達との死闘に明け暮れ、ある時は荒れ狂う魔獣から村を守った少年と冒険へと旅立ち、ある時は後に大陸の覇者となる者と共に大陸中を放浪した。
私は常に問い掛け、そして力を尽くした。
少なかったが何人かの者は私の思考の一端に気づいたが、殆どの者とは分かり合えなかった。そして人から人、時代から時代へと、いくつもの出会いと別れが通り過ぎて行った。
そして今。
私は静かな眠りに就いている、次なる使い手が現れ、再び旅立つその日まで。
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