第104話一緒に死ぬ事を選ぶだろう

 しかしながら今なら分かる。


 マリー様は当時俺が思っていたような人物とは真逆の、まさに王妃としてこれ以上ない人物であったと。


 そして、マリー様が王妃となるのを壊した要因の一人であると。


 今の俺であれば当時のカイザル殿下へ必死に諭してただろう。


 しかしながらカイザルからマリーを嫌ってしまったきっかけが自分よりも優れていると気付いてしまったからと言っていたので、例え俺が当時に戻ったとしても当時のカイザル殿下が下した婚約破棄を阻止する事はできなかっただろう。


 そうと分かっていてもやはり当時の事を思い出しては悔やんでしまう。


 特に俺に至ってはあの日マリー様に行った暴力行為は死ぬまで後悔し続けるだろう。


 マリー様には何度かその件に関しても謝ったのだが『悔い改めているのならばわたくしはそれで良いですわ。 だってもう同じ過ちはしないでしょう?』というだけで、俺に罰すら与えてくださらないのである。


 勿論、俺自身あの暴力行為に見合った罰を受けて楽になりたいという気持ちが無いと言えば嘘になるのだが、それと同時にマリー様の中でも一生シコリとして残り続けるのではないか? と思ってしまう。


 それはやはり嫌だと俺は思うのだが、それこそが俺が一生かけて背負うべき罪なのだろう。


 だからこそ、俺はマリー様をただ何もせずこのまま死んでいくのを黙って見るだけという選択肢は無かったし、それは恐らくカイザルも同じ気持ちでっただろう。


 何はともあれ希望がないわけではないと知れただけでもかなり喜ばしい事なのだが、それでもマリー様が嫌だと言ったら、その時の俺はマリー様が死んでいくのを見守る事しかできないだろう。


 マリー様を無理矢理竜の国へと連れていくという手段もあるのだが、俺はもうマリー様にそういう行動を取る事だけはしたくないし、その場合はマリー様の判断を尊重して、そしてマリー様は嫌がるだろうが俺も一緒に死ぬ事を選ぶだろう。

 

 ただただ、竜の国へ行くのを嫌だと言わない事を願うだけである。


「でも、こう見えてマリー様は頑固な所があるからなぁ……」

「うん? 何か言いまして? ウィリアム」

「いや、何でも無い。 気にするな」

「……? そう。 それにしても、楽しみですわね」

「そうだな」


 そして馬車は、俺の返事を聞きそこはかとなく嬉しそうな表情をする美しい美姫を運んで行くのであった。




「さぁ、着いたぞマリー様」


 そして行きと同じようにウィリアムがわたくしを抱き抱えて馬車の外に出る。


「まったく、過保護すぎだとわたくしは思うのだけれども?」

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