第102話神秘的な雰囲気



 部屋の外でカイザルと一緒にマリーが起きて来るのをまっていると、側仕えと会話をするマリー様の声が聞こえて来たのでノックをして入る。


 どうやら側仕えとの会話の内容は今日の日帰り旅行のの話であったらしく、自分だけ知らされていない事に少しだけ納得行かないという表情をしているのが分かる。


 昔の俺のマリーに対するイメージは、基本的に無表情というイメージであったのだが、きっとそれはカイザル殿下の婚約者として、未来の妃として表情を表に出すのをグッと堪えていたのだろう。


 特に、負の感情となると他の、カイザル殿下を狙っている有象無象の令嬢達に餌を与える事になる為なおの事、表情を表には出せなかったのだろう。


 それがカイザル殿下から婚約破棄されてからというもの、日に日に様々な表情を見せてくれるようになったマリーを見ると『もっと見てみたい』と思ってしまう。


 それはカイザルも同じなのだろう。


 だから日帰り旅行という案を出したのであろうし、サプライズという形にしたのであろう。


 そしてマリー様の、拗ねていながらもサプライズと言われては満更でもないような表情を見るにサプライズは成功したと言っても良いだろう。


 それと同時にだからこそ、未だに視力も体力も回復していないマリー様の姿を見るのは、やはり辛いものがある。


 そして一旦寝巻きからよそ行きの服へ着替えるという事なので部屋の外に出て、着替え終わったとの事なので再度部屋の中へと入って見ると、そこには光の妖精なのでは? と思えるほど美しいマリー様の姿がそこにあった。


 女性は髪型ひとつ、化粧ひとつで変わるとは言うが、元々が美人であるマリーに側仕えが全力で髪型と化粧を施した結果、俺は言葉を発する事すら出来ず、ただただ、マリー様の視力が戻っていない事を良いことに、この両の目に焼き付ける事しかできなかった。


 その美しさに加えて儚さというのも加わり、神秘的な雰囲気すら感じる程である。


 そんな俺とは違い、自然にマリー様へ声をかけて車椅子へと誘導するカイザルは流石だとしか言いようがない。


 しかしながら、俺も騎士なれば何もしないのはどうかと思うため、馬車へ乗り込む為に立とうとしたマリー様をヒョイっと、ここ最近は車椅子に奪われてしまいやる機会が減ったお姫様抱っこの容量でマリー様を抱き抱える。


 そして俺はマリー様を抱き抱えて思う。


 また少し軽くなったのでは? と。


 そんな事を思い、少しばかり胸を痛めながら俺はマリー様を抱き抱えたまま馬車に乗り込む。

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