第101話みんなの好きにさせよう

 そういうとわたくしは声のした方へ笑顔を向ける。


 聞いてもおしえてくれないならば無理に聞く必要もないし、聞かなければならない事でもないだろう。


 それに、後ほど教えてくれると言うのだ。


 ならばそれまで待てばいいだろう。


 追求したところで空気が悪くなるだけであるし、せっかくの日帰り旅行である。


 ギスギスした感じで過ごしたくないと言うのもある。


 もしかしたらこれが皆んなとの最後の思い出になるのかもしれないのだ。


 最後くらいいい思い出にしたいものである。


 そんなこんなで、当たり障りない会話へと話題を変えて話していると、日帰り旅行の準備ができたみたいである。


 目が見えないので分からないのだが、わたくしの髪の毛も何だかいつもより巻いていて気合が入っている気がする。


 きっと、鏡で見ることができたなら、それは見事なドリルだろう。


 そのドリルを見れないのが残念である。


「さぁ、マリー様。 こちらの車椅子へお乗りください」

「分かりましたわ。 ありがとう、カイザル」


 そしてわたくしは用意された車椅子に乗李、そのまま玄関に着けられているであろう馬車まで車いすを押してもらう。


「馬車につきましたよ、マリー様」

「分かりあましたわ。 一度立ちますので手を貸してくださらないかしら?」

「その必要はない」

「きゃっ!?」


 そして、馬車についたと言うので、乗るために一度立つため手を貸して欲しいと言うと、ウィリアムがわたくしをいつものようにお姫様抱っこをするではないか。


 毎日ウィリアムと一緒に移動する時はほぼ必ずと言っていいほどお姫様抱っこなので慣れてきたと言えば慣れてきたのだが、目が見えない今の状態でいきなりされるのは流石にびっくりしてしまうし、何度されようと恥ずかしいものは恥ずかしいのである。


 その為以前「いい加減お姫様抱っこはやめて欲しい」とウィリアムに直談判した事があるのだが、帰ってきた言葉が「一番簡単な方法だから我慢しろ。 おんぶするのもしゃがんで、マリー様が背中に乗るのを待つという動作が必要になってくるからその分時間の無だだろう。 それに、目が見えなくなっている今ならば尚更、マリー様の動作が少ないお姫様抱っこが一番効率が良いし、安全であろう」と返されてはぐうの音も出なかった。


 いや、ぐうの音くらいは出したかもしれない。


「まったく、あなたは……」


 しかしながらウィリアム本人がそうしたいと言うのならば無理にやめろとは言わない。


 流石に行き過ぎた行動などは別なのだが、常識の範囲内であるのならば最後くらいみんなの好きにさせようと思っている。

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