第92話ショート寸前

「俺をマリーの剣に……いや、マリー・ゴールド様の剣にしていただきたい」

「……ちょっと言っている意味が分からないのですが?」

「大丈夫です。 すでにマリー様のお父様には話を通しており、許可もいただいておりますのでご心配なく。 その代わりに数発殴られてしまいましたが……」

「え? は? ど、どういう事ですの? そもそもカイザル殿下は殿下じゃないってなんですのっ? なぞなぞですの? そしてカイザル殿下はわたくしの剣になりたい? お父様には既に了承は得ている? あと敬語が気持ち悪くて全身鳥肌が立ち、ぞわぞわ致しますわっ!!」


 しかしながら、聞けば聞くほど意味が分からなくなるという状況にわたくしの思考回路はどこぞのアニメのオープニングよろしくショート寸前ですわっ!


 更に言えばカイザル殿下がいきなり敬語を使い始めるのも意味が分からなければ似合ってなさ過ぎて失礼ながら気持ち悪いと感じてしまい、両肩を抱き身震いしてしまう。


 そもそもわたくしの記憶の中のカイザル殿下という人は、それが例え演技であろうとも絶対に他人にたいして頭を下げたり、敬語を使ったりという事はしない人であった。


 それがいきなりどういう事か、と考えた結果、一つの結論へたどり着く。


 真実はいつもひとつですわ。


 この本日から自称名探偵であるマリー様を欺こうとはいい度胸ですわね。


「成程、そういう事でしたのね。 分かりましたわ」

「おぉ。 分かってくれましたかっ!!」

「ここにいいるカイザル殿下と仰っているお方は、カイザル殿下の影武者か誰かですわねっ!! しかしまぁここまで声の似ている者を見つけて来ましたわ。 その点だけは素直に凄いと思います。 なんせこのわたくしが騙されかけたのですから」

「…………」

「…………」


 何故でしょうか? 目が見えないはずであるのに、ウィリアムとカイザル殿下の二人から物凄く可哀そうな者を見るような視線を感じるのですけれど?


「マリー……」

「なんですの? ウィリアム。 わたくしの推理に驚きましたか?」

「ここにいるカイザルは本物だし、殿下ではなくなっている、というか皇族ですらなくなっているのは本当だ」

「……へ?」

「今回カイザルは自分のしでかしてしまった事の重大さに気付き『殿下』という立場と『皇族』という立場を捨てる事と引き換えに現皇帝陛下に謁見の場を設けてもらい、そして今こうしてマリーの元へ訪れているんだ。 俺とカイザルが言っている事が信用できないのならばお父君へ聞いてもらっても構わない」

「ど、どうして……そこまで」

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