第91話もはや意味がわからない
「それで、カイザル殿下がわざわざわたくしの所まで来てどうしましたの? また嫌味の一つでも言いにきたのですか? しかしながらわたくしは今見ての通り目も見えなければ歩くことも侭ならない身体でございます為、できれば直ぐに帰って頂ければありがたいんですけれども。 ほら、このような身体ではせっかく来て下さったカイザル殿下をおもてなしすらする事ができないでしょう?」
そしてわたくしは精一杯の嫌味を込めて、どストレートにぶん投げてみる。
きっとカイザル殿下の事である。
顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、そして思いつく限りの嫌味と悪口をわたくしへ投げかけた後、足怒らせながら帰って行く様が鮮明に思い浮かんでくる。
しかしながら、いくら待てどわたくしが思っていたような罵詈雑言、誹謗中傷の言葉は飛んでこず、むしろ息を呑む音だけが聞こえてくる。
「……? ど、どうしたんですの? 何か、言ってはいけない事を……ま、まさかッ!? この場にはカイザル殿下だけではなく他に、先ほどのわたくしの言動を聞かれては非常に不味いお方がいらしゃるのですねっ!? な、なんでこの事をウィリアムは初めに伝えてくださらなかったのですのっ!? そのようなお方が来ると分かっておりましたらそれなりの対応をいたしましたのにっ!」
そして、この突如訪れた沈黙の理由をわたくしなりに考えた結果、最悪の事態を想定してしまい、わたくしは軽くパニックになってしまうのが自分でもわかると同時に、わたくしの推理は概ね当たっているに違いないとも思う。
いろんな意味でやってしまった。
そう思った時には既に後の祭りであり弁明のしようも無い。
「違う、そうではない」
「カ、カイザル殿下……?」
「それと、俺はもう殿下ではない。 ただのカイザルだ」
そして、一番最初に口を開いたのはカイザル殿下であり、さらにわたくしの推理は違うと言うだけではなく、今はもう『殿下』ですらないというではないか
もはや意味がわからない。
分かるはずがない。
もし、この状況が分かるという人が居るのならば連れてきてほしいくらいである。
「ど、どいう事ですの? そ、それに『殿下』ではないという意味も、分かりませんわ……」
「そうだな、単刀直入に言うと……」
「単刀直入に言うと……?」
そして分からないのならば見栄を張らずに分からないという事を素直に言ったほうが後々面倒臭い事にならずに済むと思っているわたくしは素直にどういう事か聞いてみる事にする。
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