第90話拾って来た
前世で観たテレビ番組では視力が無い人は足音が壁に反響する音を聞いて障害物がどこにあるのかが分かるのうになるのだという。
それでも比較的静かな場所という条件はあるものの、分かるのと分からないのとでは雲泥の差であろう。
しかしながら声音からその人の感情は感じる事はできる為、今の私の姿を見て周りが悲しんでいるという事は理解できた。
特に酷かったのがウィリアムで、その落ち込みようは、この明らかに死にかけなわたくしに向かって「マリー様は、もし俺がマリー様をお慕いしていると申した場合、どのような返事をいたしますか?」と聞いてくる始末である。
恐らく、元々わたくしに対して負い目がある上に、わたくしの騎士という立場故にグリムからわたくしを守ることができなかったのは自分のせいであるとでも思っているのであろう。
これはどう見てもグリムのせいであるし、奇襲に近く、剣士が苦手とする林の中でもあった為、別にあの時グリムに負けたからと言ってウィリアムのせいであるとは思わないし、ウィリアムに責任をとれとは尚更思わない。
なので、剣を捨ててこの死にかけの女性を娶る事で先日の失態(とウィリアムは思っているのだろう)の責任を取ろうとするウィリアムの提示した『IF』はきっぱりと否定する。
それに、もし本当にわたくしの事を好きなのだとしても、やっぱりわたくしはウィリアムからの告白は断っていただろう。
いつ死ぬか分からない女性よりも、もっと良い相手がいるはずである。
わたくしの寿命が尽きて、騎士としての使命を果たした暁には、ウィリアムには良い相手を見つけてほしいものである。
そんな事を思いながら、目の見えない日々を過ごし、少しずつ目の見えない生活に慣れ始めた頃、そのウィリアムがとんでもないモノを拾ってきたのである。
いや、正確には連れて来たが正解なのだが、わたくしからすれば捨てられた犬猫を拾って来たような感覚に感じてしまうのでそう思ってしまうのも致し方ないであろう。
その拾って来たモノというのは何を隠そうカイザル殿下その人であったのだから、そう言われても文句は言えないとわたくしは思う。
もしわたくしの目が見えており、そして立ち上がって歩くことができたのならば箒の一つでも持って振り回しながらこの家から叩き出していたに違いない。
しかしながら今のわたくしの身体では、目も見えず、歩くどころか立ち上がることもできず、車椅子を側支えかウィリアムについてもらってようやっと移動できるという状況ではそれすら叶わないのだから嫌になる。
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