第89話元友としての情け

 そう俺はグリムへ告げるともう片方の腕も切り飛ばす。


「あぁぁぁあああああああっ!!?? 私のっ! 私の腕がぁぁあぅ!?」


 そして両腕を切られたことを理解したグリムが絶望した表情で床に落ちた腕を拾うとするのだが、その床に落ちた腕を拾う腕がなく、一向に拾うことができないでいる。


 腕一本ならば、まだ片腕で魔術を行使して、切り飛ばされた片腕を拾いくっ付ける事はできた為痛みを我慢する表情はすれど、まだ余裕が見れたのだが、残りの腕も切り落とされてしまっては詠唱により紡いだ術式を結び発動させる為の指も無ければその指の代わりとなる杖や魔術陣を描く筆を持てず、実質魔術を使えない事と同義である。


 その事を知っているからこそ、残りの腕まで切り飛ばされたグリムの余裕は一気になくなり、敵の前だというのに背中を向けてうずくまり、狂ったように腕を拾おうとしているのだろう。


 結局、マリー様に対して不敬を働いた俺は近衛兵という道を閉ざされ、カイザルは皇族ではなくなり、そしてグリムは魔術師の道を閉ざされた形となったとは皮肉なものである。


 だが、これでグリムは罰を受けたと判断され情状酌量により極刑を免れ処刑される可能性が無くなる可能性もゼロではなくなっただろう。


 これが、最後の、元友としての情けである。


 あとは、グリム自身の態度によるだろうし、流石にそこまでは面倒を見切れない。

 

 もし、自分の罪に気付く事ができたのならば、リハビリによって義手で日常生活は送れるぐらいには戻る事ができるだろう。


 とは言っても禁固刑が明けてからの話にはなるのだが。


 そして俺たちは、今なお床に落ちている両腕の上で蹲って言葉にならない声を叫んでいるグリムにカイザルが回復魔術で傷口を塞いでから出ていき、衛兵にグリムの存在を教え、この場から去るのであった。






 朝、目が覚めると最初の異変に気づいた。


 わたくし、目が見えなくなっておりますわね。


 その事に多少はびっくりはしたのだが、元々いつかはこうなる事予め覚悟の上であった為感覚的には『ついに来たか』といった感じである。


 元々覚悟していた分、意外とすんなり目が見えないという事実を受け入れる事ができた。


 そもそも、あれ程のダメージをグリムに与えられたのだ。


 この弱々な身体では何かしらの後遺症が残っていてもおかしくはないだろう。


「それは良いのですけれども、やはり目が見えないというのは不便ですわね。 慣れると些細な音を聞き分ける事ができるようになるとは言いますが、今日からそのようになる訳でもありませんし……」

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