第86話それは人属での話

 皇帝陛下がマリーを助ける方法を教えてくれると聞き、死なないという事よりも嬉しさが込み上げてくる自分がいる。


 そして隣にいるウィリアムに至っては感極まって涙まで流しているではないか。


 俺が謹慎されている間にウィリアムは俺よりも早く改心し、マリーの騎士となったと言うが、その間にウィリアムとマリーの間にどれ程の信頼関係や主従関係が構築されたのか分からないし、騎士と名乗っておきながら護るべき主人であるマリーを守るどころか、グリムに負けてマリーに怪我をさせてしまい、その結果死を早めた上に視力まで失ってしまい一日の殆どが寝たきりとなった事を、どれ程悔んでいるのかなんて分からない。


 分からないのだが、他人のために泣けるウィリアムが少しばかり羨ましいと思ってしまう。


 俺にも、もっとちゃんと、真剣にマリーの事を見てあげる事ができたのならば、また違った未来があったのかもしれないと、マリーを救う方法があると知って涙するウィリアムの姿を見て、そんな事を思ってしまう。


 何度そのようなたらればを思っても思い足りないと思うほどには、後悔し、悔んでいる。


 単純に、気付くのが遅すぎたんだ。


「それで、マリーを救う方法なのだが、カイザルではない竜の血を濃く引く直系の者との間に子を宿せばいい」

「そ、それは弟……という事でしょうか?」


 父上の言葉を聞き一気に安堵する。


 弟ならば、このまま婚約を進めればいい話だ。


 しかし、そう問い返した俺の言葉を聞いた皇帝陛下の表情は険しいままである。


「この、魔力欠乏症なる病を治せる人属は、初代皇帝陛下の血を引く直系の、二十代までの長男との間に子供を宿す事しか治せないのだ。 その為、次男である弟や二十代など等の昔に過ぎ去った我ではマリーの病を治すことは残念ながらできない。 それに、マリーの意思もあろう。 今まで冷たい態度を取ってきた上に手ひどく婚約破棄した者の弟や、その父と子を成せというのはいくらなんでも嫌がるだろうし、だからといって無理やり襲うというのも……お主は嫌なのだろう?」

「……は、はい。 マリーにはもう、そのような思いはさせたくありません。 だけど、結局マリーを救う方法は俺以外いないという事になり、弟や父上以上にマリーは嫌がるでしょう……」

「だから、先ほども申したが、それは人属での話である」

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