第85話他にマリーを助ける方法

 正直な話、子供の頃は信じていたのだが、今となっては嘘だと思っていた御伽噺を、今この場で真実であると言われたところで実感が湧かない。


 まるで夢物語を聞いているような感覚になるのだが、この場でそんな話をする訳がない事くらい理解している。


 だからこそ皇帝陛下が話している内容は本当の事であるという事がようやっと理解できる。


「それで、マリーの身体を治す方法なのだが、カイザル、お主の子供を宿すことであった」

「……え?」

「早い話が、代々竜の血を受け継いできた我が皇族、それも直系の血を受け継ぐ子を体内で宿す事によって、マリーの壊れた器が再生される、というわけである。 この事はゴールド家は知らず、そして先祖代々皇族にだけ伝えられている伝承でもある」


 そして、皇帝陛下である父上が語ったマリーの身体を治す方法なのだが、既に婚約破棄も済ましてしまっている俺の子供を宿す事と言うではないか。


 言い換えれば俺がマリーの未来を奪っただけでは無く、命という未来も同時に奪ったのだという事実に愕然としてしまう。


 俺は、なんて馬鹿な男なのだと、今までの自分を見つめ直せば直すほど後悔していくのだが、今回の事に関しての後悔は今まで感じだ後悔の比ではなく、項垂れてしまう。


 マリーの事だ。


 俺が婚約破棄の解消を申し込んだ所で突っぱねられるだろうし、それが自身の病のことに関する事だと知れば余計に首を縦には振らなくなるだろう事が容易に想像ができる。


 ならばいっそ堕ちた身であり、今更もう一つ罪が増えた所であまり痛くもない俺がマリーを襲ってしまうか、とも思うが襲ったところで、一度で必ず妊娠するとも限らない上に、マリーの心を傷つけてしまう事になる。


 そこまでして俺はマリーを襲う事などできないし、何よりもこれ以上マリーを傷つけたくないと思ってしまう。


「他に、他にマリーを助ける方法は無いのですか?」


 そう考えたのはウィリアムも同じであったらしく、掠れた声で皇帝陛下へ縋るように、他にマリーを助ける方法はないのかと問いかける。


「無いわけではない。 だからこそ今日お前達を呼んだのだ。 正直言ってこの話をした上でお前達の表情を見てからマリーを助ける方法を教えようと思っていたのだ」

「で、ではそれを教えてくださいっ!」

「命と引き換えにというのであれば、既にこの命捧げる覚悟はできておりますっ! だから教えて頂きたいっ!!」

「分かった、分かったから落ち着きたまえ。 今の君たちを見て教えないという事もないし代償として命を捧げる必要もない」

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