第78話マリーはきっぱりと告げる


 そうマリー様へ問いかけた瞬間、世界が止まったのかと思う程、マリー様が答えるまでの時間が長く感じた。


「どうしたんですの? いきなりそんな事を言うなんてウィリアムらしくもないですわね。 ですが、きっと今のウィリアムにはその答えがとても大切なのだと言うことは、なんとなくその声音から伝わって来ましたわ。 でも、そうですわね……」


 そしてマリーはそう言うと少し考え始め、そして真剣な声音で話始める。


「やはりウィリアムがわたくしの事を万が一慕ってくれ、その思いをわたくしに告げたとしても、わたくしはきっとその想いを受け止める事はできませんわ。 だって、ウィリアムはわたくしの騎士でありわたくしはその雇い主でもありありますし、そして何よりもウィリアムはわたくしに対して酷い行いをして、そしてわたくしはウィリアムに酷い行いをされた。 その事は憎んではおりませんが、だからといってその事実が消える事もありませんわ。 それに、それがあるからこそ、ウィリアムはわたくしの騎士に懺悔も込みでなったのでしょう? であれば尚のこと、わたくしはその懺悔の気持ちを踏み躙るような行為はできませんもの。 ウィリアムはわたくしにとってとても大切な騎士で、それ以下でも以上でもございませんわ」


 そうマリーはきっぱりと告げる。


「そっか、そうだよな」

「もう、どうしたんですの。 グリムに負けた事が悔しいのはわかりますがここ最近は貴方らしくないですわよ? これでも一応はわたくしの騎士様なのですからしっかりなさいな」

「ああ。 そうだな。 いや、要らぬ心配をかけて申し訳ない。 それで体調はどうだ?」

「ええ、ここ最近は少しだけ良くなって来た気がいたしますわ。 と言っても元からわたくしは人様よりかなり身体が弱いので、良くなったと言えどたかが知れていおりますが」


 そして俺は何事もなかったかのようにマリー様とたわいもない会話をするのだが、やはり今マリー様の目が見えていなくて良かったと思う。


 振られて泣く男の顔を、好きな異性にはやはり見られたくはないものだ。


 それと同時に、決心もついた。


 この後マリーと少しだけ喋って、マリー様が喋るのも辛そうになって来た段階で俺はマリー様へ退室する旨を伝えて部屋をでると、そのままゴールド家を出ようとする。


「では、この後は本当に行くのだな?」


 そんな俺にマリー様のお父上から声をかけられる。

 

 その表情からは俺がこれから向かう場所を知っているようだ。


「ええ、これでも俺はマリー様の騎士ですから」

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