第77話鏡を見なくても分かる
そんな中途半端な俺を、まるで心配するかのようにマリー様が、見えないながらも俺の雰囲気を察したのか声をかけてかけてくれる。
一瞬俺の表情が見えているのかと思ったのだが、しかしながらやはり目が見えなていないのかマリー様は俺がいる場所ではない別の場所へ向いて喋っていた。
その姿をみると、自責の念に押しつぶされそうになる。
俺が中途半端だったからグリムにも負けたのだ。
しかし、だからと言って俺の命はマリー様に捧げた身である以上、勝手にマリー様の側から消える事も、ましてや死んで償う事はあってはならぬ事。
「俺の事はいいですから、ほら、横になっていてください。 今のお身体では座っているだけでもきついのでしょう?」
「あら、そちらでしたの。 申しわけございませんわね。 でも、ウィリアムの事ですからきっと今回わたくしをグリムから守れなかった事で自分を責めているのではないかと思いまして。 あれは奇襲でしたし、剣士であるウィリアムでは力を十全に発揮できない林の中という立地もありましたもの。 草原など剣を自由に振り回す事ができる場所ならばきっとグリムよりもウィリアムの方が強いとわたくしは思っておりますので今回は運が無かったのだと思い、今回の経験は次に生かしてくださいな」
そう言うとマリー様は「ケホケホ、御免なさいね。 喋りすぎたみたいで……少しだけ横になりますわ」と軽く咳き込んだ後横になる。
しかしながら先ほどマリー様が仰った言葉の内容に俺は違和感を覚えるとと共に間違いであってほしいと強く願う。
「次ってどういう意味でしょうか? マリー様の次という意味でしょうか?」
恐らくマリー様の事だ。 自分の身体の事は自分がよく知っている筈である。
そしてこの場合の『次』というのは考えるまでもなく、俺の次の人生、騎士ではなくなった俺の人生についてのことであるという事が分かる。
分かってしまう。
「? 何か言いましたか、ウィリアム」
「いえ、何も」
そして俺は、マリー様へ問いかける。
「マリー様、一つだけお伺いさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「なんでしょう。 わたくしが答えられる事であればなんでも答えてあげますわよ?」
きっと、今の俺の顔は誰にも見せられない程酷い顔をしているのだろうという事が鏡を見なくても分かる。
今この時だけはマリー様の目が見えなくて良かったと、不謹慎ながら思ってしまう程には酷い顔に違いない。
「マリー様は、もし俺がマリー様をお慕いしていると申した場合、どのような返事をいたしますか?」
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