第76話悔やんでも悔やみきれない
そして、学園の許可を事前に取り、裏側から学園へと入ろうとしたその時、学園側の奥の方から戦闘音が聞こえて来るではないか。
一瞬今日は引き返そうかとも思ったのだが、幸い今の俺には幸か不幸か複数人の護衛が俺の監視という名目でいるので、最悪の事態、それこそテロか何かと言うのも想定し、警戒しながら戦闘音がする方向へ向かうとウィリアムとグリムがなぜか戦っているではないか。
そして、視界の端には倒れているマリーに寄り添い介抱するスフィアの姿が目に入ってくる。
一瞬『何をやっているんだあのバカはっ!?』と、グリムに対して怒りの感情が湧いてくるのだが、あのグリムの姿こそが少し前の俺であると思うと怒りの感情は一瞬にして霧散し、そして後悔の念が押し寄せてくる。
そんな事を思いながら、果たしてそんな俺が今マリーの前に出てきても良いものかと悩んでいると、ウィリアムが倒され、マリーがグリムに踏み付けられるではないか。
その時点で俺に迷いは消えていた。
むしろ、ここでマリーを助けに行かなければ一生後悔するとも思った。
そして俺は一秒でも早くマリーを助けるために駆け出すと、そこには血を吐き気を失っているマリーと、そのマリーを見て怖気付いたのか逃げようとするグリムの姿であった。
俺は逃してなるものかと護衛達へグリムを捕らえるように指示を出し、次いでマリーの元へと向かうのであった。
◆
グリムによるマリー様襲撃から約一ヶ月が経った。
マリー様の体調はあの時よりかは回復しているものの、基本的には一日の半分は眠っており、起きている時も視力を失っている為介護なしでは歩く事さえもできなくなっていた。
その姿を見て、俺は拳を強く握り、その拳からは血が床へ滴り落ちているがそんな事はどうだっていい。
俺は浮かれていた事を実感する。
その結果があの惨劇である。
マリー様の騎士となるとほざいておきながら、何を勘違いしたのかマリー様へ恋慕を募らせるなど、俺の騎士としての決意の低さを思い知らされる。
騎士となった者は結婚は勿論、恋人を他に作るなど、できるはずがないにもかかわらずマリー様の『ウィリアムが辞めたくなったらいつでも騎士を辞めてもいい』という言葉を聞き、どこか中途半端な気持ちで接していた事を痛感させられる。
いや、マリー様が言ったからではない。 これは俺の心の弱さが招いた結果である。
悔やんでも悔やみきれない。
「どうしたんですの? ウィリアム。 急に黙ったりして」
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