第75話単なる自己満足
そして、わたくしの吐いた血を見て本当にわたくしの体調が悪い事を知り、そして最早虫の息で横たわる私を見たグリムは、流石に人を殺すだけの覚悟など無かったのか今この現状は自分の所為ではないと言いながら逃げ出そうとする声と足音が聞こえてくる。
ちなみにわたくしの視界は既に見えなくなっている。
ウィリアムもやられている為、グリムを捕まえる事ができる者は、今ここにはいないだろう。
「グリム、一体どこへ行こうというのかね?」
「か、カイザル殿下っ!?」
そう思ったその時、わたくしの耳に聞こえてくるのはカイザル殿下がグリムを呼び止める声であった。
あぁ。 幻聴まで聴こえ始めたのか。 いよいよ、わたくしも限界が来たのかもしれない。
現に今、強い睡魔に襲われており、意識しないとすぐにでも眠ってしまいそうである。
しかし、この身体で良く持った方だろう。
そしてわたくしは意識を手放すのであった。
◆
自らの過ちから逃げてはダメだと思った。
自分が正しいと思う時ほど周りが見えず、そして正義の名で下す権力は心地よく、かなりの中毒性を伴っていたのだと今ならば分かる。
少し考えれば分かる事なのだが、少し前の俺は自分に、そして正義というものに酔っており周りが見えず、思考回路がバカになっていたのだ。
あれ程の事をしておいて退学になるのも今ならば理解できる。
しかしながら、理解できたからこそ俺はマリーへ心から謝罪をしたいと思った。
今更どの面下げて、ということもあるが一度やらかしてしまっている為学園側も俺を学園内へ決して入れようとしないだろう。
そして何も考えず前回のようにバカ正直に真っ正面から向かうのはバカのすることであるし、あの日から何も成長していない行動である事も理解しているし、あんな事をしておいて今更マリーへ会う事など叶わないという事も理解している。
そもそも今更マリーへ謝罪したところでその謝罪を受け取って貰えないであろうし、そもそも俺の顔を見た瞬間にマリーは襲われると思い衛兵を即座に呼ぶかもしれない。
いや、どう考えてもその可能性の方が高いであろう。
だから、もう一度だけマリーの姿を目に焼き付け、そして心の中で謝罪をしたいと思ったのである。
これが単なる自己満足という事も理解している。
しかし、やった事の重大さが分かったからこそ謝らずにはいられないのもまた事実である。
そして俺は父上である皇帝陛下へ直訴してなんとか護衛という名の監視を数名つける事で裏側から学園へ入り遠目からマリーを眺める事の承諾を得ることができた。
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