第74話血を吐くなど造作もない
そして最早わたくしの目では物を見る事が出来なくなっていく。
光だけが何とか認識できる世界でわたくしに近づいて来る足音が一つ。
その雑な足音から間違いなくグリムであろう。
「なに倒れているんですか? いつもの様に仮病を使えば心配して見逃してくれるとでも思っているのですか?」
聞こえて来るグリムの言葉に違うと叫びたいのだがそれすらもできないわたくしの身体が憎らしい。
「もうやめてよグリムっ!! なんでこんな事をするのっ!?」
「なにを言っているんですか? スフィア様。あの憎きマリー・ゴールドですよ。 こいつがいたから全てが狂った。 こいつさえいなければ俺がこのまま弟に家督を譲る事も無く宮廷魔術師長へと昇りつめていた。 こいつがいなければ、今も皆で楽しく暮らせていたんですよっ!! この悪女がいたからっ!!」
そうグリムは叫ぶとわたくしの顔を足で踏みつけてくる。
「どうですか? 今まで散々見下して来た相手に踏みにじられる気持ちは? 因みに私は最高に気持ちが良いですよっ!」
本当、何でこんな事になったのだろうか。
どこで狂ったのだろうか。
こんな展開原作ではなかったはずである。
そもそもカイザル殿下がわたくしに対して婚約破棄した時に謹慎処分を受けた処からわたくしは怪しむべきであった。
いや違う。
ゲームと現実の区別をつけるべきであったのだ。
ゲームでは読者により臨場感を与えるために大げさな描写や実際にはあり得ないパフォーマンス等をされており、それらをそのまま現実であるこの世界で行えばどうなるか少し考えればたどり着くはずである。
ゲームではカイザル殿下が勝手にパーティー会場で婚約破棄をしても許されるのだが、現実では婚約破棄を行うとしても家と家とで話し合ったり、周囲の家々に告知したりと色々行うべき事と順序があるはずである。
特に王族、そして皇族との婚約破棄ともなれば尚の事。
それら全ての元凶はグリムの言う通りわたくしであると言わざるを得ない。
この世界は所詮ゲームの世界だと、偏見の目で見たわたくしのツケが今回って来ているのだろう。
「ケホッ! ケホッケホッ!!」
「また体調が悪いアピールですか。そんな事で私を騙せるとでも思って……っ!?」
「マ、マリー様ッ!? ち、血がっ!!」
そりゃこれ程体力を削られれば血を吐くなど造作もないわよ……我慢してたのだけれども。
「お、俺は何もやっていないっ! 俺は悪くないっ!! そうだっ! 全てマリーのせいだっ!! 悪いのは俺ではないっ!!」
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