第70話年相応の少女
それはまるで傷ついた野生動物のようだ。
そんな彼女の威嚇などこ吹く風と言わんばかりに、わたくしは彼女の隣へと座る。
その時ウィリアムが「せめて下に何か敷いてから座ってくれっ! お転婆なのは良いが怒られるのは俺なんだぞっ!」と、いちいち指摘して来るのでちゃんと下にシートを敷いてから座る。
ここ最近ウィリアムがお母様に似て来たような気がするのだが気のせいだろうか?
「……何を企んでいるのよ」
「……何も企んでなどおりませんわ。 ただ昼食を取ろうとした場所にたまたま貴女がいただけですわ」
「どうせ私を笑いに来たんでしょう? いい気味だって」
「そんな事などしませんわよ」
「噓ばっかり」
「なんで嘘だとお思いで?」
「……だって、私だったらそうするかから。 おかしな話よね。結局私も、私に水をかけたあいつらと同じ人種って事ね。 ホント嫌になる。 あと、今さら謝らないから私」
きっとこれが彼女なりの心のバランスの取り方なのだろう。
その気持ちは少し分かる気がする。
この、他人から見ればちっぽけでくだらないプライドなのかも知れないのだけれども、このちっぽけなプライドがあるからまだ心は折れないでいてくれる。
「別に謝って欲しいだなんて、わたくしは一言も言っておりませんわ」
「何それ? 上から目線で腹が立つ」
「お互い様でしてよ」
「それもそうね」
そこでわたくしたちの会話は止まってしまうのだが、少ししてからスフィアがぽつぽつと喋り始める。
「私ね、男爵家の長女に産まれたのだけれど、両親の浪費癖が酷くてとても裕福な家庭とは言えなかった。 正直一般的な平民よりも貧乏だったとすら思うし、それは今も変わらない」
「……」
「そんな時、私は特待生でこの学園に入学でき、学費も免除な上に寮に入れば三食無料で食事ができる。 まさに理想的な場所だったから私はとても嬉しかったのだけれども、両親は私以上に喜んだわ」
「子供が頑張った成果が出て喜ばない親御さんはいませんわよ?」
そう言うわたくしにスフィアは「違う、そうじゃない」と返す。
「私の両親が喜んだ理由、それはカイザル殿下と同じ学園、しかも同じ学年だと分かったからよ。 実の娘である私のことなんか、自分たちが出世する道具の一つくらいにしか思っていないのよ。 あいつらは。 後はきっと想像通りのありきたりの話ね。 どんな手を使ってでも殿下を射止めてこいと言われたから私はそうした。 今思えば私は両親から『よくやった。 さすが俺の、私の娘だ』と褒められたかったんだと思う」
そう語る彼女は、家庭環境に悩む年相応の少女でしかなかった。
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