第69話感謝しているのですよ?

 そしてウィリアムも渋々といった感じなのだが「お前がそう言うのなら……」と引きさがってくれる。


「しかし、ウィリアムには感謝しているのですよ?」

「そ、そうなのか?」

「そりゃそうですわよ。 だって今こうしてわたくしが、騒音さえ無視すれば穏やかに学園生活を送れているんですもの。 もし今ウィリアムがいなかったらきっとわたくしは今頃貴族令嬢の何人かに呼び出されて直接嫌味を言われたり見下されたり、下手すればいじめだって起きていたかもしれないですもの」


 実際、陰でわたくしのふりをしてスフィアをいじめていた人たちなのだ。


 その矛先が無くなった今、ある意味で間接的にいじめられていたと言われても過言ではない立場にいたわたくしへ間違いなくその矛先を向けられていただろう。


 現に今現在新たないじめの対象を探しているような雰囲気をそこはかとなく感じるのでそろそろ新しいいじめの対象が決まるのかもしれない。


 その新しいいじめの対象が誰になろうが、それこそ再びスフィアが虐められようがわたくしには一切関係のない話──と切り捨てる事が出来たのならばどれ程楽であったか。


 あれから覚える程でもない、前世からすれば小学校高学年レベルの算数程度の授業であった為率先してサボっていたのだが出席日数が危うくなって来たため数学(わたくしからすれば算数)の午前の授業を受けた後、ウィリアムにお昼を持たせていつもサボっている校舎裏へと向かう。


 このまま午後の授業はサボるつもりだ。


 そんな時、目の前でずぶ濡れになり蹲っているスフィアをみて、わたくしは深い溜息を吐く。


 どうやらいじめの対象は変わる事は無く、むしろわたくしの振りをする必要も無く、カイザル殿下の目を気にする必要も無くなった今、更にいじめの内容が酷くなっているようである。


「……………………何です? 見下しに来たのですか? わざわざ私が人気のない場所まで逃げている所の後を追ってまで、今の私を見たかったのですか?」


 そんな彼女へわたくしは、ウィリアムからタオルを受け取り膝を抱えて蹲っている彼女の頭へと被せるように渡す。


 頭にタオルを被せられた事によりスフィアは誰かが目の前にいる事に気付くと胡乱気な目で目線を上げ、ようやっとわたくしの存在に気付いたようで何でわざわざここまで来たのかとつかかってくる。


 わたくしにつっかかって来れるだけまだ彼女は余裕があるのだろうが、いくらわたくしの前だからと気丈に振舞おうとそれでもいつ心が折れてもおかしくないくらいには弱って見える。


 むしろ弱っているからこそ、それを隠すための態度なのかもしれない。

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