第63話ウィリアムは何も悪くない

「いじめられた相手であるウィリアムを騎士にしたことは驚いたが、マリーがウィリアムの事が実は好きだったと言うのであれば辻褄が合うしな。 そうする事により恩を着せることもできるし、変な虫が付かないように見張る事もできる。 だからこそ俺が養子にすると話した時、あんなに必死になって抗議をしたのだろう?兄弟になってしまっては結婚できないからなっ!」


 そしてどや顔でお父様はそう言い終えると「はははははは、若いって良いものだな。 今夜母さんをデートにでも久しぶりに誘ってみようか。もしかしたら新たに弟か妹が出来るかもなっ!」と言う始末。


 いくらわたくしが違うと言っても聞く耳持たず『恥ずかしい年頃』として片づけられ、恋に翻弄されている初々しいくも珍しい愛娘の反応が見れたとご満悦である。


 そしてそうこうしている内に朝食の時間になった事をノックをして入って来たメイドが告げてくれるのだが、その隣には入って来るなりそうするのが当たり前だと言わんばかりにわたくしの座っている席の隣へ移動するウィリアム。


「マリー、話はこれで終わりだ。 大丈夫、この事は父さんと母さんしかまだ知らないから皆には黙っておこう。特にウィリアムにはね」

「……………………ありがとうございますわ」


 お父様はそういうとウィンクして来るのだが、わたくしは最早言い返す気力も打ち返す弾も無く、これ以上おかしな方向に向かわないように肯定する事しかできなかった。





「どうした? せっかくの休日なのに朝から虚ろな表情で空を眺めて」


 朝食を終え、敷地内の庭をウィリアムと一緒になって歩く。


 そこには庭師によっていつみても美しく咲き誇っている季節ごとの花々が咲き乱れいた。


「いえ、何でもございませんわ。 全て身から出た錆びですもの……」


 いっその事『お前のせいだっ!!』と言えればどれ程楽な事か。


 しかしそれは、大小の違いはあれどわたくしがカイザル殿下にされたことと何が違うと言うのか。


 ウィリアムは何も悪くない。


 いや、事を辿れあばウィリアムがわたくしに対していじめ(わたくしはいじめとは思っていないのだが周囲から見ればいじめに見えるらしい)をしていた事が要因なのだが、ウィリアムを騎士にしたのも、養子になる事を断ったのもわたくし自身の意思によるもの。


 それをウィリアムに擦り付けるというのはわたくしの持つ道徳に反しますわ。


 それにしても、とわたくしは心配そうにわたくしをのぞき込んでくるウィリアムをまじまじと観察してみる。

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