第62話わたくしはまだ戦える

「お父様っ!! お父様ぁぁあっ!!」


 そしてわたくしはウィリアムを部屋から押し出した後急いで着替えてお父様の元へと駆けていく。


「どうした? 朝からそんなに慌てて」

「どうしたもこうしたもございませんわっ!! ウィリアムが側仕えメイドと一緒にわたくしの部屋に入って来たんですのよっ!!」


 そして、自室のソファーに座り朝の陽ざしを浴びながら読書をしていたお父様は、読んでいた本を閉じテーブルに置くと『なんだ、そんな事か』と言うような表情をわたくしに向けて来るではないか。


 なんだかわたくし、嫌な予感しかしないのですけれども、この予感は外れますわよね?


「あぁ、その事か。 ウィリアムはマリーの騎士なのだろう?」

「み、認めたくはございませんが、そうですわね……」

「ならば騎士は風呂や睡眠時間以外はご主人である人、この場合はマリーに起きたその時から剣の誓いを立てたマリーを守るために側に居ようとするのは普通ではないのか?」


 思わず納得しかけそうになるのだが、まだ納得できない箇所もあるのでここはぐっと堪えて別の質問をお父様にする。


「そ、それはそうかもしれませんけれどもっ、それでも未婚の女性の部屋に殿方が入ってくること自体おかしいのですわっ!!」

「いや、側仕えメイドであるアンナも一緒だったはずだが?さすがに未婚前の女性の自室に異性と二人っきりというのは駄目だが、メイドと一緒ならば問題はあるまい」

「そっ、そもそもなんでウィリアムがまだゴールド家にいるんですのっ!? 昨日養子にする話が無くなり帰ったはずではっ!?」

「確かに養子になる事は一度白紙になったが、ウィリアム君がこれから我が家で暮らすことは白紙にはなっておらぬぞ」


 隙を一切見せないどころか逆に有利であると思っていたわたくしの方が、話せば話すほど不利になっていく現状に、これが、貴族界で長年もまれて来たお父様の実力かと思わず感心してしまう。


 しかし、ここで納得してしまっては先程のお父様の話ではウィリアムが我が家でこれから過ごして良く事を容認する事となり、何としてでもそれだけは阻止しなければならないと自分を心の中で鼓舞する。


 残弾は無い、機体はボロボロ。


 それでもまだ、わたくしはまだ戦える。


「そもそもマリーがウィリアムの事を好いているとは思ってもいなかったよ」

「……………………はい?」

「養子の件でお父さんはピンと来てね、それでも男性である私の推測である為お母さんに一応相談してみたんだけれども、やはりお母さんも同じ、考えだったよ。 いやーー、今まで厳しく育ててきて恋愛など考える余裕もなかったであろう。 だが幸か不幸かカイザル殿下に婚約破棄をされた今は前以上に自由な時間はあるので、それがマリーにとって良い方向に作用しているのならばお父さんとお母さんはそれでも良いと思っているんだ」

「……………………ちがっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る