第57話私が犯した罪
「確か、ウィリアムは伯爵家の長男だったよね?」
そう微笑むお父様は、今まで一緒に生活してきた記憶の中で一番恐ろしいと思った。
「は、はいっ。 そうですっ! 私はペイジ家の長男でありますっ!!」
そしてウィリアムは今なお恐怖をまき散らしているお父様へ返事をする。
良く声をだせたものだ。
もしあの恐怖をわたくしに向けられたら恐怖で喉が張り付き、まともに喋れなかった事だろう。
「確かペイジ家は次男がいたね。 違うと思うのだけれども今回のカイザル殿下婚約破棄騒動によりその次男がペイジ家を継ぐ事が濃厚となった為、自身のしでかした失敗を帳消しにする為に我が愛娘に近づこうという、まさかそんな愚かな考えなど持ってはおらぬだろうな?」
「私は、今回の件で自分を見つめ直し、そして改めて私が犯した罪が何なのかを痛いほど理解致しました。 代々近衛兵の隊長を務めている我がペイジ家にとって私が犯した行為はペイジ家に泥を塗る行為でもありました。そんな私がペイジ家を継ぐ事など不可能であり、万が一継げたとしても、今回の様な罪を犯した者ではどのみちペイジ家は没落して行くことでしょう。 ですから私はペイジ家を継げない事には異論は無く、そしてマリー様の騎士となったのでございます」
そしてウィリアムはそう言うと、片膝をつき、お父様に向かった片膝をつく。
「今、私の主はマリー様ただお一人。 ペイジ家の長男でもなければペイジ家を継ぐ権利がある者でもございません」
「……………………分かった」
どれ程の沈黙が流れたであろうか?
長い長い沈黙の後、お父様は苦虫を噛み潰したかの様な表情でようやっと一言そう口にする。
その言葉にわたくしはこの地獄のような時間からようやっと解放されたとほっとしたのも束の間、お父様は鬼の様な表情で言葉を続ける。
「貴様が我が愛娘であるマリーの騎士となった事は百歩、いや千歩譲ってそういう事にしておいてやろう。しかしその事と、マリーとまるで恋人であるかのような噂が流れているのは何故だ?」
返答次第では殺す。
お父様の表情はそう雄弁に語っていた。
ハッキリ言っておしっこを漏らしそうな程怖いのだが、わたくしでそれ程怖いのである。
ウィリアムが感じる恐怖はわたくしの比ではないだろう。
「お嬢様はここ最近ウィリアムにお姫様抱っこをされながら移動しておりますのでそれが理由ではないかと」
そんな時、わたくしの側仕えメイドであるアンナがわたくしとウィリアムの噂の原因を横から投下するではないか。
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