第56話精神的なダメージが大きい
◆
今現在、わたくしは今実家の執務室で死を覚悟していた。
わたくし程ではないにしろ顔を真っ青にしてわたくしの隣で立っているウィリアムが見える。
「……………………何か言い訳があるのならば聞こう」
そしてわたくし達二人の目の前にはテーブルをはさんで柔らかそうな椅子に座っているお父様が、わたくし達を睨んでいた。
いつも優しい表情のお父様があんな顔をするなんて、意外だな、などと現実逃避をしようにもお父様から放たれる凄まじいオーラで現実に引き戻されてしまう。
あぁ、激しいストレスと立ちっぱなしというこの状況、前世のわたくしならばいざ知らず、今のわたくしでは冗談抜きで死んでしまいそうだ。
「いえ、何もございません。 お義父様が──」
「──いつ私をお義父様と呼んでいいと許可した?」
「っ、申し訳ございません」
ひぃいいいいっ!! こ、怖いんですけどお父様っ!!
ウィリアムが『お義父様』と言った瞬間、お父様が人を殺さんばかりの殺気を撒き散らし、わたくしは思わず後ずさってしまう。
「それで、何かね? き、君たちは何処まで進んでいるのだね?」
「ど、どこまでと言いますと?」
「だからっ、君と私の大切な宝物である娘は一線を越えてしまったのかと聞いているのだよっ!!!」
いるのだよーー
のだよーー
だよーー
お父様の怒声が執務室にこだまする。
「あのバカ殿下のしでかした事のせいでやらなければならない仕事が膨大に発生して、一か月近く宮廷に缶詰となり仕事をようやっと終わらせて帰ってみれば、聞こえてくるのは貴様と我が愛しき愛娘であり目にいれても痛くないマリーとの逢瀬の噂話ばかりではないかっ!! いったいどうなっているんだと聞いているのだよっ!! 聞けば貴様はカイザル殿下と一緒になってマリーを陥れた一人だと言うではないかっ!! それだけでも腸が煮えくり返る程腹立たしいのだが、そんな貴様がなんでマリーの騎士になっているのだっ!!」
そして、普段は無口なお父様がマシンガンの如く怒鳴りだす。
「そもそも、普段からどのような行為をしていればこれほどまでに『二人は愛し合っている』だの『お似合いのお二人』だの『もう既に一線を越えてしまっているに違いない』などという噂で溢れ返るというのだっ!!」
つまりお父様が言いたいことは『娘をいじめていたウィリアムがどうして今さら娘に近づき、親密な関係になろうとしているのか?』という事なのだろう。
確かに客観的に今のわたくし達の関係を見れば親は怒って当然である。
といいますか、怒鳴られる事よりもお父様の言葉の節々に入って来る親馬鹿なフレーズの方が精神的なダメージが大きいので止めて頂きたいのだが、それを今のお父様に言う勇気は無い。
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