第55話堪能させてもらう

「大丈夫か? マリー」

「ええ、ウィリアムのお陰でこの通りなんともないわ」


 そしてウィリアムは先程のグリムの攻撃によりわたくしに被害が出ていないか確認をしてくる。


 嫌っているであろう相手に対して気遣いを見せるあたり、根が良いというか真面目というか。


 そしてわたくしはウィリアムへウィリアムのお陰で無事である事を告げるのだが、実際は立ち続けたせいで少しだけ眩暈がしてきていたりするのだが、何とか教室までは耐えれそうなので黙っておく。


「そうか。 なら良かった」

「へ? ひゃわわわっ!?」

「お前、実は体力的にもうギリギリだろ?」

「な、なんでそれを……」

「見ればわかる」


 取り敢えず厄介そうなグリムもいなくなり出席を取らなくてはいけない授業が朝からある(主にわたくし)ので教室へ向かおうとしたその時、ウィリアムがいきなりわたくしを、そうするのが当たり前であるかのようにお姫様抱っこをしてくるではないか。


 いきなり抱えられたわたくしはびっくりして抗議もできずただただウィリアムにされるがまま、抱えられた状態で暴れるのはウィリアムにもわたくしにとっても危ないので借りて来た猫の様に固まる事しかできなかった。


 それでも口は動かせるためわたくしをお姫様抱っこしたのか聞いてみたのだが、どうやらわたくしの体力がギリギリであった事はウィリアムに筒抜けであったようである。


 穴があったら入りたいとはこの事か。


 しかしながら、何かある度にこのように抱えられてはわたくしの精神が持たないと言いますか、恥かしくてどうにかなってしまいそうであるし、何よりもウィリアムからいい匂いがするわ、厚い胸板を堪能したくなるわ、太い腕の力強さに雄々しさを感じるわで、何だかんだでそれらを堪能できる為に癖になり始めているそんなわたくしを、ウィリアムにばれてしまわないだろうかと、抱えられていおる間そんな様々な雑念がわたくしの頭の中をぐるぐると駆け巡ってしまう。


「こ、こんな事でわたくしをどうにかできそうだと思わない事ですわっ!!」

「ん? いや、まぁ……思ってないけど、それがどうした?」

「いえ、何でもないです」


 そして、もしかしたらこれこそがウィリアムの狙いかもしれないと思ったわたくしは、そうはいかないとウィリアムへ釘を刺したのだが、当のウィリアム本人はただ純粋にわたくしが辛そうだから抱えているだけであったらしく、ただただわたくしだけが恥ずかしい思いをしてしまったではないか。


 何だか納得いかない、とは思うものの、納得いかなかった分お姫様抱っこを堪能させてもらう事にするのだった。

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