第58話この考えは今も変わらない

「アンナ、詳しく」

「はい、かしこまりました。それでは僭越ながらわたくしアンナが学生に扮して仕入れて来た情報、主に学生の間で広がっているお二人の噂を一つ一つじっくりとご説明させて頂きましょう」


 仲間であると思っていたアンナが裏切った。


 そう判断するのにさほど時間はかからなかったのだが、それと同時にお父様の表情が険しくなるのもそう時間はかからなかった。


 アンナの話を聞くたびに怒りゲージが溜まって行っているのが手に取るように分かる。


「……その話は本当なのか? ウィリアム・ペイジ君。君は未婚の女性を横抱きしながら常に移動しているのかね? そしてその未婚の女性というのは我が愛娘のマリーであり、それはそれはべたべたと未婚の女性であるマリーの肌に触り、どこに行ってもまだ未婚であるマリーの側に忠犬の如く纏わりついて回り、未婚であるマリーの側から片時も離れようとせず、未婚のマリーとはたから見ればマリーを溺愛しているようにしか見えない、と。 この噂の数々は間違いないのかね?」


 そしてアンナの説明を聞いたお父様は淡々とウィリアムへ事実確認をしていくのだが、未婚という言葉が深くわたくしの胸をえぐりに来るので人の事を未婚未婚と連呼するのはやめて頂きたい。


 しかしながら今現在、少しでも触れようものならば爆発しそうなお父様へ苦言を呈する事も出来ず、わたくしは今学園の生徒達にどう思われているのか客観的に見たわたくしたちの関係を聞き、顔を真っ赤にしながら耐えしのぐ事しかできない。


 そんなわたくしとは対照的にウィリアムは、あの般若の様なお父様の目を真っすぐに射貫きながら口を開く。


「間違いございません。むしろゴールド家は何故今までマリー様の体質を大々的に発表なさらなかったのですか? そのせいでマリー様の学園生活はとても大変そうでしたし、だからこそ私は罪滅ぼしの感情が無いと言えばうそになりますが、マリー様の剣となったからには手足として動こうとしたまででございます」


 そしてウィリアムは『自分の行動は、ゴールド家が娘の体質を隠しているからだ』と言うではないか。


 コイツ、ただの死にたがりかただのバカなのだろうか?


「……愛娘であるマリーの体質についてはカイザル殿下と婚姻が結ばれた時に正式に発表しようと考えていた。 そうする事によりマリーは公爵家ではあるものの虚弱体質であり跡取りの為の子どもを産めるかすら怪しいと思わせ権力や欲望と言った者を持つもの達からの恨み嫉みから守る為にだ。 そしてこの考えは今も変わらない」

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