第53話千載一遇のチャンス

 しかしながら、一度かけられた洗脳魔術を解くにはかなり手間がかかり、長期にわたり洗脳魔術を少しづつかけて行った事を考えれば簡単な魔術ではなくかなり緻密かつ強力な洗脳魔術である事が窺える。


 それも皇帝陛下が抱えている宮廷魔術師に悟られず、そして洗脳魔術をかけ終えたあとも気づかれない程である。


 そして未だに宮廷魔術師達が洗脳魔術の解術をしようとしていない事からも、恐らく今現在ウィリアムと皇帝陛下がマリー・ゴールドの洗脳魔術にかかっている事を知っている者はこの帝国で私一人であろう。


 しかしながら、私一人でどうにかできる問題ではない上に、誰が味方でだれが敵かも分からない状況では父上に助けを請うのは危険すぎる。


 むしろ宮廷魔術師筆頭である父上はマリー・ゴールドの洗脳魔術にかかっている確率はかなり高いと思われる為、むしろ逆に私の行動で悟られぬように過ごさなければならないだろう。


 そして、私は決意する。


 私に足りなかった物は自己を犠牲にする勇気と決意であると気付けた為だ。


 あれから幾度も解決策を練るものの、出る答えはマリー・ゴールドの殺害しか出ないのだが、それが逆に私に一歩踏み出す勇気と決意を下す一押しになった。


 そうなれば今もなお洗脳魔術の被害者が増え続けていると考えれば、あとは一刻も早く実行あるのみである。


 それに既に洗脳魔術にかかっている者に関しては早く洗脳魔術を解かなければ、元の思考に戻るまでの時間も長くなるためできるだけ早く解く事に越したことはない。


 そう思い私は強い覚悟と使命感でもって久しぶりに魔術学園へと足を踏み入れた。


 久しぶりに訪れた魔術学園は、まるでカイザル殿下が僻地に幽閉された事にすら気づいていないのではと思ってしまう程、日常がそこにあった。


 既に学園内はマリー・ゴールドにより学生たちは軽い洗脳状態にされている証拠でもあろう。


 これは一刻を争う為早急にマリー・ゴールドを討たなければと思ったその時、視線の先でウィリアムを横に侍らせて登校してくるマリー・ゴールドが目に入ってくるではないか。


 千載一遇のチャンスとはまさにこの事。


 それでも私は理性を持った人間として振舞ったのだが、私の挨拶はものの見事に無視されてしまった。


 こうなっては話し合いも何もできないであろう。


 彼女がそのつもりならば最早私も我慢をする必要などない。


 カイザル殿下の件を知ってからマリー・ゴールドを私の魔術で消したいという衝動を、いや、マリー・ゴールドがスフィア様へ悪態を吐き始めたその時からずっと抑えて来たのだ。

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