第46話落ちる所まで落ちた
そしてマリーとカイザル殿下が話せば話すほど、カイザル殿下が如何に頭の弱いお方であるかが露呈していくのだが、当のカイザル殿下本人はそれに気付いてすらいないみたいであり、なおもマリーと口論をし続けている。
これでは最早人間の言葉を喋れるだけの獣ではないか。
ここまで酷いとは、さすがの俺も思っていなかったのだが、口論をする場所がカイザル殿下にとって最悪であった。
貴族の子息や令嬢が野次馬となり今なお集まり続けている中心でここまで無能ぶりと愚かさ、そして現皇位継承権第一位であるリクリストフェル殿下を貶める発言に、自らを皇位継承権第一位であるという虚偽の発言の数々。
これ程の数の貴族に見られては最早言い逃れなど出来ようはずがない。
いくら皇族と言えどもこれ程大勢の貴族の前で皇位継承権を持っていない者が、自分こそが皇位継承権第一位であるという発言は幽閉、最悪の場合国家転覆の罪をきせられて死刑もあり得るだろう。
その罪の重さをカイザル殿下は分かっているのだろうか?
いないだろうな、と思う。
「話になりませんわね。貴方、人間の言葉を喋れるだけで理解しておりますの?」
「ぐぎぎぎぎっ! 貴様っ!! もう許さないっ!! 貴様を処罰するっ!! そこの衛兵っ!! 突っ立ってないでこの無礼な娘を捕まえろっ!!」
そしてカイザル殿下は明らかに見え透いた挑発に引っかかり、それすら気づかずにマリーにバカにされた事を我慢が出来なかったのか遂に言ってはならぬ言葉を公爵家であるマリーへと発言してしまう。
罪なき者を二度に渡り咎人の如く扱い、権力を振りかざそうとするその姿はまさに皇帝の器は無しと周囲に決定づけた瞬間でもあっただろう。
それを証明するかの如く周囲の視線が皇族を見る目ではなく、醜い何かをを見る様な視線をカイザル殿下へと向けているのが分かる。
「許さないのはわたくしの方ですわ。 今までのわたくしへ発言した無礼な言動、皇位継承権第一位という虚偽の発言を繰り返した事、とても見過ごせるものではございません。 そこの衛兵、この者は最早皇族ではなく咎人であると公爵家であるゴールド家長女、マリー・ゴールドが証明いたしますわ。 そこの無礼極まりない者を捕まえなさい」
「おいっ!! 何をしているっ!! 俺ではなくてあの小娘を捕まえろと言っているのが分からないのかっ!?」
「黙れっ!!」
「ぐぅぅうっ!?」
そして尚も暴れるカイザル殿下を衛兵が鳩尾を殴り黙らせるその姿は、落ちる所まで落ちたのだとここにいる全員が思うのであった。
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